キャリア・教育

2025.06.02 09:00

トランプの大学締め付けで留学生の「米国離れ」も ハーバードに代わる進学先は?

ハーバード大学のジョンストン・ゲート。米東部マサチューセッツ州ケンブリッジ(365 Focus Photography / Shutterstock.com)

インドはいまや中国を抜いて米国に最も多くの留学生を送り出している国だが、教育メディアのPIEニュースによると2047年までに留学生50万人を自国の大学に受け入れることを目指している。

欧州でも多くの国で高齢化が進んでおり、学生数を補うために留学生を誘致している。ドイツやスペインでは最近、大学の学生に占める留学生の割合が過去最高を記録した。

これらの国々の大学では、英語で授業が行われるプログラムは限られる場合がある半面、授業料ははるかに手ごろな傾向にある。たとえば日本の場合、国立大学の授業料は年53万5800〜64万2960円で、4年間学んで学位を取得しても費用は米国の私立大学の年間授業料の数分の1で済む(編集注:文部科学省の省令改正で、2024年4月から留学生の授業料の上限は撤廃されている)。

留学先選びの新たな判断基準

これまで外国の学生に留学先として選ばれていた国々が政策転換を進める一方で、世界全体で見れば留学先の選択肢は増えている。米国の大学のなかには、海外に分校を開設する動きもある。こうすれば大学側も学生側もビザ問題を回避できる。

トランプによる留学生を狙い撃ちにした新たな措置を受けて、一部の国や地域はグローバル人材を取り込もうと動き出している。たとえば香港の公立大学、香港科技大学は、ハーバード大学からの退学を余儀なくされる外国人学生や、ハーバード大学への入学が決まっていた外国人学生を受け入れると表明した

香港科技大学はウェブサイトでこう述べている。「本学は、希望する学生の皆さんが円滑に移籍できるよう、無条件の受け入れ、簡素化された入学手続き、学術面のサポートを提供します」

これまで留学生を多く受け入れてきた国々が国境管理を厳しくし、留学生に関する政策を見直すなか、グローバルな教育環境はより多様になってきている。学生が留学先を決める際には、伝統に縛られず、価値と安定を見いだせる場所かどうかが重視されるようになりつつある。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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2025.05.14 16:00

「患者さん第一」を原動力に心臓弁膜症治療の未来を拓くエドワーズライフサイエンスの挑戦

心臓弁膜症をはじめとする構造的心疾患の治療において世界100カ国以上で用いられる医療技術を提供するエドワーズライフサイエンス。外資系製薬企業などでの豊富な経験をもとに、患者さん中心の医療イノベーションのさらなる実現に取り組む同社日本法人代表執行役員社長の大櫛美由紀に話を聞いた。


「患者さんへの貢献」を広げる

「心臓弁膜症」は、進行すると心不全に至る可能性がある危険な病気だ。その病気に対して、治療法の革新に挑んでいるのが、エドワーズライフサイエンスだ。同社は、心臓弁膜症を中心に構造的心疾患の治療において世界100カ国以上で用いられる医療技術を創出する世界的な企業である。

創業者のマイルズ・ローウェル・エドワーズは、1960年に、心臓外科医であるアルバート・スター博士との共同開発により、心臓のなかで重要な役割を果たす人工心臓弁の製品化に成功した。以来、エドワーズは患者の人生の質をもっと高めたいと考え続け、改良を重ねてきた。2000年代に入ってからは、開胸せずにカテーテルを用いて心臓弁を留置する「経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)」を実用化し、世界中で多くの方の治療に使用されている。

また、既存の製品に対する技術改良の取り組みに加え、僧帽弁や三尖弁に対する治療技術開発を含む、構造的心疾患および心不全の領域へも拡大し、この分野における役割をさらに高めようと取り組んでいる。 

その日本法人をリードするのが、代表執行役員社長の大櫛美由紀だ。現場の声を直接聞き、深堀りを続けることにより、患者中心の医療イノベーションの前進に取り組んでいる。

「オフィスでプレゼンを聞いて学ぶだけでなく、営業やクリニカルスペシャリスト、医師と実際に会うことが重要です。治療を必要としている、より多くの患者さんに私たちの技術を少しでも早くお届けするために何をすれば良いか。その解は、基本的に現場にあると信じています」

大櫛美由紀 エドワーズライフサイエンス 日本法人代表執行役員社長
大櫛美由紀 エドワーズライフサイエンス 日本法人代表執行役員社長

大櫛は、大手コンサルティングファームで製薬業界を担当したことが契機となりキャリアをシフトし、その後は外資系大手製薬企業などで要職を務めてきた。

「高齢者のなかには、息切れや動悸がするようになっても、『年のせいだから』と考えて、医療機関を受診されない方がいらっしゃいます。また、診断されても適切な治療を受けていないために、急に症状が悪化して心不全に至り、最悪の場合亡くなられる方もいらっしゃると聞いています。そのような状況を少しでも減らすために、何らかの症状がある方の循環器専門医への適切なタイミングでの紹介と、その専門医への定期的な受診と治療の検討が大切だと私たちは考えています。健康寿命の延伸のため、治療を必要としている患者さんが治療にアクセスできるように私たちに何ができるか、社内外の関係者と深掘りしてディスカッションを重ね、活動を進めています」

1968年の日本法人設立以来、エドワーズライフサイエンスの製品は、医療現場において多くの日本の患者の治療に活用されてきた。

「部門間のコミュニケーションをさらに強化し、業務の効率化を進めています。製品が開発された後、病院で患者さんの治療に使われるまでには、さまざまなプロセスがあります。これらすべてのプロセスを迅速に、そして正確に行うことで、フィールドの社員は医療従事者の皆さんや患者さんのための時間をより多く確保でき、安全かつ適正に我々の技術が使われることが可能になります。また、より多くの患者さんのニーズに応えるべく、できるだけ早く、患者さんの期待に応える製品を届けるためには、事業部を超えたディスカッションが必要です」

今年1月、全社員が一堂に会し、社員同士がより深く知り合い、つながることを目的とした会議が開催された。顔を合わせた会議を通して、各部門にどんな社員がいて、それぞれがどんな意図や考えをもって働いているかがわかり、社員からは好評だったという。

エドワーズで働くことを誇りに思ってほしい—。大櫛が就任直後から常に社員に向けて伝えていることだ。

「社員は、患者さんのために貢献を続けています。それをすべての社員がもっと肌で感じ取り、誇りに思い、広げていってほしいと願っています。全世界で、エドワーズのイノベーションと社会への貢献をもっと知っていただけるように、私自身も発信していきたいと考えています」 

高齢者の誰もが生き生きと暮らせる社会を

エドワーズライフサイエンスが最も大切にしている全社員共通の行動指針は、「患者さん第一」だ。 

「すべての意思決定が患者さん第一に基づいていることは、入社してすぐに感じました。ある大きなプロジェクトを継続するか否かの議論がありました。一般的な会社であれば合理性をとって撤退を選んだと思われる案件でしたが、アメリカ本社からの問いかけは、『患者さん目線でどうか』で始まりました。患者さんの視点で考えて議論を尽くし、プロジェクト継続を決めたのです」

その考えは世界中のすべての社員に根付いており、常に患者の声を聞く機会を大切にしている。そのひとつが、エドワーズの製品を使っている患者を本社に招き、社員が直接患者から話を聞く会、Patient Experienceだ。

「患者さんご本人から、どのような症状が出て、どのような気持ちで治療を受け、今はどんな人生を生きているかを、社員一同、直接聞かせていただくことは、私にとってもはじめての経験でした。『エドワーズの製品に出会えたからこそ今がある』といった言葉をいただき、当社の製品が患者さんの人生にインパクトを与えていることを改めて実感し、かけがいのない日常を取り戻すお手伝いができることを心から誇らしく思いました」

「また、診断から治療後の生活までを描いたドキュメンタリー形式の動画の制作も、世界各地の拠点で行われています。ミーティングの終わりなどに社員全員で視聴することで、製品のその先にいらっしゃる患者さんをより身近に感じ、さらなる技術の向上に寄与することを再確認する機会となっています」

大櫛が思い描くのは、高齢者が生き生きと暮らせる社会だ。

「心臓弁膜症は高齢の方に多く見られる疾患ですが、息切れなどにより活動量が低下しがちです。自分らしい生活を続けるための治療という選択肢があることを、理解していただけるように情報を発信し続けることが大切です。医療従事者の皆様、政府や行政関係者の方々、そしてヘルスケア業界で患者さんへのミッションを共有している他医療機器メーカーや製薬会社の仲間とも連携して、高齢者の誰もが生き生きと暮らせる社会をつくっていきたい。本当に社会に役立つための活動を考えて、実行していきたいです」

エドワーズライフサイエンス
https://www.edwards.com/jp


おおぐし・みゆき◎エドワーズライフサイエンス代表執行役員社長。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて製薬・ヘルスケア企業へのコンサルティング業務に従事した後、バクスターで事業部長など戦略に携わるポジションを歴任。2019年からはヤンセンファーマにて、ニューロサイエンス事業本部本部長、マーケットアクセス部門長、コマーシャル・アフェアーズ部門長を兼務し、21年からは台湾にてヤンセンファーマの法人代表を務めた。24年5月より現職。

Promoted by エドワーズライフサイエンス / text by Fumihiko Ohashi /photographs by Masahiro Miki / edited by Akio Takashiro

ライフスタイル

2025.05.30 12:30

国外に移住する米国人が増加、「学生ビザ」で夢を実現する中高年層も

フランスの首都パリにあるソルボンヌ大学(Alexandre Rotenberg / Shutterstock.com)

フランスの首都パリにあるソルボンヌ大学(Alexandre Rotenberg / Shutterstock.com)

米国人は海外移住を夢見るだけでなく、実現している。最近の調査によると、米国人の17%が向こう5年以内に外国に移住することを考えており、5%は移住に向けて積極的に動いていることが明らかになった。海外に移住するには、投資によって居住権を得るゴールデンビザ(査証)制度から、祖先をたどって市民権を得る制度まで、さまざまな方法がある。しかし、なかには「学生になる」という、外国移住の足がかりとなる賢い方法を見つけた人もいる。

イタリアを拠点に、外国人向けの移住コンサルティングを手がけるファインディング・ラドルチェビータは、主に学生ビザで欧州に留学する若者の家族を支援している。ところが昨年、ある中年の顧客が別の要望で同社を訪れた。それは、海外留学を望む顧客本人のために、学生ビザの取得を代行してほしいというものだった。筆者の取材に応じた同社の設立者キム・エングルハートは、「最初は、これは1回限りのことだと思っていた。ところがその後、同じような問い合わせが相次いでいる」と語った。

居住権取得への道としての留学

近年、海外で学ぶ米国人留学生の数は増加している。留学推進団体の米国際教育研究所(IIE)が2024年11月に公表した報告書によると、米国人留学生の数は22~23年にかけて前年比49%増加した。エングルハートによれば、学生ビザを希望する40代以上の顧客の数が特に急増しているという。

その理由はさまざまだ。異なる文化に浸りたい場合もあれば、生涯学習の認知効果に関する報道を見て留学を思い立ったという人もいる。しかし、多くの人にとっての究極の目標は、留学を足がかりとして長期的な居住権を得たり、場合によっては第二のパスポート(旅券)、つまり市民権を取得したりすることにある。

筆者の取材に応じた移住コンサルタントのアマンダ・クレコウスキも同様の傾向が見られると証言した。「欧州の大学院への出願に対する関心が高まっている。顧客が本気で出願していることも、私は理解している。顧客は、自分に適性があり、興味をそそられるようなコースに応募しているからだ」。クレコウスキによると、多くの顧客は以前から「いつかは」大学院に進学したいと考えていたが、最近の社会情勢により、行動を早めるようになっているようだ。

次ページ > 学費の安い欧州に留学する米国人が増加

翻訳・編集=安藤清香

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北米

2025.05.29 12:30

年間1.4兆円の経済損失か、トランプのNIHとNSF予算削減で成長が危機に

Ascannio / Shutterstock.com

Ascannio / Shutterstock.com

米国の長期的な経済成長が脅かされている。議会では2026会計年度(FY2026)の基礎科学向け予算を大幅に削減する案が検討されており、その中には米国立衛生研究所(NIH)からの約180億ドル(約2兆6000億円)削減と、米国立科学財団(NSF)からの約50億ドル(約7200億円)削減が含まれている。

このNSFの解体にも等しい提案は、こうした大幅な削減が本当に財政上の節約になるのか、それとも将来的により大きな負担を生むだけなのかという差し迫った疑問を突きつけている。答えは明白である。これらの削減は経済全体に数十億ドル(数千億円)規模の損失をもたらす。

根拠は何か。新たなマクロ実証研究によれば、国防目的を除く公的研究開発(R&D)に1ドル(約144円)投じるごとに1.40~2.10ドル(約202円〜約302円)の経済効果が生まれる。第二次世界大戦以降、政府のR&D予算が米国の生産性の約20%を支え続けてきたことも示されている。

本稿では、公的な研究投資が重要な理由、どのような証拠に基づいているのか、そして米国にはさらなる研究投資を拡充しにくい、どのような政治的要因があるのかを検証する。

結論として、NIHとNSFの削減だけでも、最終的に米国の生産高を毎年少なくとも100億ドル(約1兆4400億円)を奪うことになる。

政府が基礎研究に資金を投じる理由

政府が基礎科学研究に資金を投じるのは、民間だけでは十分な投資が行われないからである。原因は「市場での失敗」にある。基礎研究によって生まれる知識は拡散しやすく、元の企業を越えて競合他社にも利益をもたらす。こうした「知識のスピルオーバー(知識が元の開発者から他者に波及する現象)」は経済全体には好ましいが、研究費の回収をめざす個別企業には不利である。製品のように特許化や販売が容易なわけではなく、基礎的な科学知識は広く共有されやすいため、民間部門は投資を控える傾向にある。

経済学者たちはこの問題を早くから指摘していた。1959年、ランド研究所(RAND)の経済学者ディック・ネルソンは、企業が基礎科学に十分投資しないのは、成果の多くが社会全体に広がり、自社だけの利益を取りこめないからだと理論づけた。こうした社会的リターンこそ、公的研究開発が高い価値を持ちながら、民間任せでは供給不足になる所以でもある。

公共科学資金を理解するには、研究がどのように分類されるかを理解することが役立つ。NSFは研究開発を3つのカテゴリーに分けている:

基礎研究:特定の実用目的を念頭に置かず、知識そのものを進展させる

応用研究:定義された問題を解決したり、製品を開発したりすることを目指す

実験的開発:得られたアイデアを商業的なツールやプロセスへ転換する

投資のパターンは明確で、まさに私たちが想像するとおりだ。民間企業は圧倒的に開発に焦点を当て、研究開発費1ドル(約144円)のうちわずか6セント(約9円)しか基礎研究に振り向けていない。対照的に、非国防公共研究開発は1ドルのうち34セント(約49円)を、上流のイノベーションパイプラインを維持する基礎研究に割り当てている。この上流基礎研究に、民間部門は依存しているものの自ら資金を提供することはしていない。

民間部門は基礎研究における役割を強化してきたが、市場インセンティブは依然として、企業が即座の商業的見返りのないアイデアにどれだけ投資するかの足かせになっている。公共資金は長い間、科学的発見の初期段階を支えてきた。そして何十年もの間、基礎研究への資金の多くはNIHとNSFを通じて流されてきた。

次ページ > 科学研究のマクロ経済学

翻訳=酒匂寛

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