キャリア・教育

2025.06.02 09:00

トランプの大学締め付けで留学生の「米国離れ」も ハーバードに代わる進学先は?

ハーバード大学のジョンストン・ゲート。米東部マサチューセッツ州ケンブリッジ(365 Focus Photography / Shutterstock.com)

英国では、学士号・修士号取得者の卒業後就労ビザの期間を現行の2年から1年半に短縮することが提案されていると、留学生支援団体の英国留学生問題評議会(UKCISA)は説明している。また、英教育誌タイムズ・ハイアー・エデュケーションによると、英政府は2024年、大学院への留学生のほとんどを対象に、英国の学生ビザで扶養家族を連れてくることを禁止した。この措置は、財政的にすでに厳しい状況にある大学セクターで新たな懸念を招いた。

伝統的に留学生を歓迎する姿勢だったカナダも、政府の発表によると2024年から少なくとも2年間、留学生の受け入れ数に上限を設けた。これ以前、カナダでは留学生の数が非常に多く、国際教育市場の情報ウェブサイト「ICEF モニター」によると2023年には人口比で2.5%にのぼった。

オーストラリアでは、議会のデータによると2019年時点で高等教育機関の在籍者全体の27.1%を留学生が占めていた。だが、ICEFによるとオーストラリアも留学生の受け入れ数に上限を設定しており、ロイター通信によれば学生ビザの申請料も引き上げられる方向だ。

一部の国によるこうした純移入者数抑制の取り組みは留学検討者の関心を離れさせかねないが、そこでの混乱は米国で現在起こっている激変に比べれば落ち着いたものだ。それでも、これら伝統的に人気の留学先だった国々がだんだんと留学生の受け入れに慎重になるなかで、外国の学生たちは、最近になって有望な留学先として浮上してきたほかの国々に目を向けるようになるかもしれない。

日韓などアジアの国々は留学生の誘致に力を入れる

世界では、留学生を積極的に誘致する国も増えてきている。背景にあるのは少子化だ。生まれる子どもの数が減れば、高校卒業生も減り、それは大学進学者の減少につながり、ひいては労働力人口の縮小も招く。そこで政府は、国内人口が減少するなかで大学の定員や労働力の不足分を埋める存在として、外国からの留学生に注目しているわけだ。

「18歳人口が30年でほぼ半減した」(教育メディアのヘキンジャー・リポート)日本は、2033年までに留学生を40万人受け入れるという野心的な目標を掲げている。「国民の5人に1人が65歳以上」(米CNN)の韓国も、ICEFによると2027年までに留学生30万人を誘致する計画だ。香港や台湾、マレーシアも同様の目標を発表している。シンガポールは最近、留学生による永住権申請に関するルールを緩和したと、インド紙フィナンシャル・エクスプレスが伝えている。

次ページ > ハーバード留学生の受け入れへいち早く名乗り出た香港の大学

翻訳・編集=江戸伸禎

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2025.05.23 11:00

傑出した人材を集め、全体で成長する。「企業群」という新たな連帯について語ろう

気鋭のプライベートエクイティファンドとして注目を集めるミダスキャピタル。代表パートナー・吉村英毅と4月より社外取締役に就任した大櫃直人の対話を通じ、同社のビジョンである“世界に冠たる企業群”の神髄に迫る。


数多くの実績から「伝説のバンカー」として名高い大櫃直人(写真左。以下、大櫃)が、ミダスキャピタルの社外取締役に就任した。このビッグニュースが業界から驚きと期待をもって受け入れられたのは、今年の4月のことだった。ミダスキャピタルは、いわゆるPE(プライベートエクイティ)ファンド。その主な目的は、未上場企業の株式の過半数を取得して経営に携わり、企業価値を高めることにある。しかし、同社には従来のPEファンドと大きく異なる特徴があると代表パートナーの吉村英毅(写真右。以下、吉村)は語る。

「私たちは外部資本を集めておらず、原則としてミダスキャピタル関係者のみが出資する権利をもっています。これによって期限を縛られることなく、中長期的なリターンの最大化を追求することができます。投資先企業が『群』を形成することで、1社だけでは到達が困難な高みを目指すことが可能となるのです」(吉村)

ミダスキャピタル代表パートナーの吉村英毅
ミダスキャピタル代表パートナーの吉村英毅

「世界に冠たる企業群を創る」というビジョンを掲げ、その規模を広げ続けるミダスキャピタル。今後の事業拡大を見据え、長年にわたり金融業界の最前線で活躍してきた大櫃を社外取締役として迎え入れた。自身もみずほフィナンシャルグループにてスタートアップ支援に尽力してきた大櫃。前職を勇退した際には、多くの企業からオファーが寄せられたという。そのなかから同社の社外取締役という道を選び取った理由は、金融人としての純粋な興味だった。

「一般的な企業においては、社内の多様性が成長を促す側面があります。一方で、ミダスキャピタルは確かな才能をもつメンバーだけで構成されている。優秀な人材を集める仕組みを整えた企業群が、どこまで殻を破って成長していけるのか。それを見届けたいという強い欲求がありました。同時に、新しい企業連携のロールモデルになりうる可能性を感じた。誤解を恐れずにいえば社会実験をするような気持ちでした」(大櫃)

単なる出資を超えた
信頼を築くことが重要

吉村が仲間を集める際に重視しているのは、その人物の「傑出性」だという。ビジネスにおける実績のみならず、人格についてもリスペクトできることが決め手になる。

「大きな目標を達成するためには、ともに信頼し合って長期にわたって歩んでいけるメンバーを集めることが不可欠です。そうした思いから、当社は紹介によってコアメンバーの輪を広げてきました。また、従来のPEファンドには投資銀行やコンサル出身の人材が多いなか、ゼロから事業を立ち上げた経営者やテック系のメンバーが多く参画していることも強みだと考えています」(吉村)

大櫃の目から見ても、傑出した人材や企業が集まり独自の「生態系」を築いている点が同社の優位性であることは明らかだという。同時に、企業群のなかで営まれる「相互扶助」の観点からも高く評価している。

「どんなに優れた企業であっても、壁に直面するタイミングは必ず訪れます。そして、経営者には常に大きな孤独感が付きまとう。そんなとき、同じ立場からアドバイスしてくれる存在が頼りになります。これまでにもミダス企業群が単なる資金上の関係にとどまらず、さらに深い心のつながりを生む様子を目の当たりにしてきました」(大櫃)

ミダスキャピタルの社外取締役に就任した大櫃直人
ミダスキャピタルの社外取締役に就任した大櫃直人

「当社の投資スキームでは、一度企業群へ参画いただいた場合、半永久的にその企業の筆頭株主となり続けるため、コアメンバー同士の結びつきが強くなります。さらに、幅広い業界が交わる企業群内での相互扶助も期待できます」(吉村)

ミダスキャピタルはミダスファンドが筆頭株主の会社を「ミダス企業群」と呼称し、その時価総額の総計を追いかけている。7年前に50億円からスタートした企業群の時価総額総計は、2025年現在4,500億円に達した。さらなる成長に向け、新たにジョインした大櫃は自らの役割をどのようにとらえているのだろうか。

「若いメンバーが多いなか、私が金融業界で積んできた経験を共有することには意義があると感じています。また、現状は自分たちで投資を行っていますが、これから先、数兆円規模の成長を見据えるなかで、資金が不足する可能性は高い。その際に、私のファイナンスノウハウを共有することも重要なミッションになると考えています」(大櫃)

ビジネスと社会貢献を
同じ視座でとらえる

ミダスキャピタルには、事業とは別の確固たる目的がある。ビジネスによって上げた収益を社会貢献活動につなげることだ。吉村は同社の創業と同時に「ミダス財団」を設立。事業の収益の一部を恒久的に財団に投下することで、「世界中の人々が人生の選択を自ら決定できる社会」というビジョンのもと、社会課題の解決に取り組んでいる。東南アジア・南アジアの貧困地域での小学校・孤児院建設および周辺環境の整備や、日本国内における特別養子縁組事業が現在の取り組みの中心だ。

「学生時代からビジネスに携わってきたなかで実感していたのは、『利益の追求』と『社会への貢献』を両立させる難しさです。そこで、事業によって生み出した資金を、純然たる社会貢献活動に投入しようと考えました。最大の特徴は、ミダスキャピタルと同様、案件ごとに自分たちでスタッフを雇用して事業を推進している点です。また、資本を効率的に活用し、限られたリソース内で最大限の社会的インパクトをもたらすことにも尽力しています」(吉村)

「慈善活動において『資本効率を追求している』と話す人は珍しいですよね。しかし、同じ資金を投じるのであれば、より多くの人に貢献したいというのは経営者として非常に自然な考え方です。企業経営と社会貢献の両方に同じ熱量で取り組んでいる吉村さんのピュアさが、こうした財団の方針に表れていると感じています」(大櫃)

投資する企業群の時価総額総計を、短期的に1兆円、中期的に10兆円、長期的には100兆円にするのが同社の今後のロードマップだ。最後に、目標に向けて必要な要素を両者に尋ねた。

「ミダス企業群の規模が拡大していく過程において、各達成地点からしか見えない景色があると考えています。今は引き続き『傑出した人材を集める』というコアコンピタンスを徹底的に強化するとともに、グローバル化やAI活用を推進することで段階的に目標を達成していきたいと思います」(吉村)

「ミダスキャピタルの事業モデルは、日本経済を活性化するひとつの勝ち筋を示しているように思います。それを社会全体に伝えていくことは、多くの企業とかかわりをもつ金融機関の役割になるでしょう。『企業群』という新しい価値観が浸透することで、先駆者であるミダスキャピタルの事業はさらなる発展を遂げると考えています」(大櫃)

ミダスキャピタル
https://midascapital.jp/


おおひつ・なおと◎1964年、東京都生まれ。88年にみずほ銀行に入行し、M&A業務や法人新規取引獲得を推進。2018年より執行役員就任。25年にミダスキャピタル社外取締役就任。

よしむら・ひでき◎1982年、大阪府生まれ。東大在学中の2007年にエアトリを共同創業し、代表取締役社長に就任(現在は退任)。17年にミダスキャピタルを創業し、代表パートナーを務める。

Promoted by ミダスキャピタル text by Shunsuke Kamigaito | photographs by Shuji Goto | edited by Mao Takeda

ライフスタイル

2025.05.30 12:30

国外に移住する米国人が増加、「学生ビザ」で夢を実現する中高年層も

フランスの首都パリにあるソルボンヌ大学(Alexandre Rotenberg / Shutterstock.com)

フランスの首都パリにあるソルボンヌ大学(Alexandre Rotenberg / Shutterstock.com)

米国人は海外移住を夢見るだけでなく、実現している。最近の調査によると、米国人の17%が向こう5年以内に外国に移住することを考えており、5%は移住に向けて積極的に動いていることが明らかになった。海外に移住するには、投資によって居住権を得るゴールデンビザ(査証)制度から、祖先をたどって市民権を得る制度まで、さまざまな方法がある。しかし、なかには「学生になる」という、外国移住の足がかりとなる賢い方法を見つけた人もいる。

イタリアを拠点に、外国人向けの移住コンサルティングを手がけるファインディング・ラドルチェビータは、主に学生ビザで欧州に留学する若者の家族を支援している。ところが昨年、ある中年の顧客が別の要望で同社を訪れた。それは、海外留学を望む顧客本人のために、学生ビザの取得を代行してほしいというものだった。筆者の取材に応じた同社の設立者キム・エングルハートは、「最初は、これは1回限りのことだと思っていた。ところがその後、同じような問い合わせが相次いでいる」と語った。

居住権取得への道としての留学

近年、海外で学ぶ米国人留学生の数は増加している。留学推進団体の米国際教育研究所(IIE)が2024年11月に公表した報告書によると、米国人留学生の数は22~23年にかけて前年比49%増加した。エングルハートによれば、学生ビザを希望する40代以上の顧客の数が特に急増しているという。

その理由はさまざまだ。異なる文化に浸りたい場合もあれば、生涯学習の認知効果に関する報道を見て留学を思い立ったという人もいる。しかし、多くの人にとっての究極の目標は、留学を足がかりとして長期的な居住権を得たり、場合によっては第二のパスポート(旅券)、つまり市民権を取得したりすることにある。

筆者の取材に応じた移住コンサルタントのアマンダ・クレコウスキも同様の傾向が見られると証言した。「欧州の大学院への出願に対する関心が高まっている。顧客が本気で出願していることも、私は理解している。顧客は、自分に適性があり、興味をそそられるようなコースに応募しているからだ」。クレコウスキによると、多くの顧客は以前から「いつかは」大学院に進学したいと考えていたが、最近の社会情勢により、行動を早めるようになっているようだ。

次ページ > 学費の安い欧州に留学する米国人が増加

翻訳・編集=安藤清香

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北米

2025.05.29 12:30

年間1.4兆円の経済損失か、トランプのNIHとNSF予算削減で成長が危機に

Ascannio / Shutterstock.com

Ascannio / Shutterstock.com

米国の長期的な経済成長が脅かされている。議会では2026会計年度(FY2026)の基礎科学向け予算を大幅に削減する案が検討されており、その中には米国立衛生研究所(NIH)からの約180億ドル(約2兆6000億円)削減と、米国立科学財団(NSF)からの約50億ドル(約7200億円)削減が含まれている。

このNSFの解体にも等しい提案は、こうした大幅な削減が本当に財政上の節約になるのか、それとも将来的により大きな負担を生むだけなのかという差し迫った疑問を突きつけている。答えは明白である。これらの削減は経済全体に数十億ドル(数千億円)規模の損失をもたらす。

根拠は何か。新たなマクロ実証研究によれば、国防目的を除く公的研究開発(R&D)に1ドル(約144円)投じるごとに1.40~2.10ドル(約202円〜約302円)の経済効果が生まれる。第二次世界大戦以降、政府のR&D予算が米国の生産性の約20%を支え続けてきたことも示されている。

本稿では、公的な研究投資が重要な理由、どのような証拠に基づいているのか、そして米国にはさらなる研究投資を拡充しにくい、どのような政治的要因があるのかを検証する。

結論として、NIHとNSFの削減だけでも、最終的に米国の生産高を毎年少なくとも100億ドル(約1兆4400億円)を奪うことになる。

政府が基礎研究に資金を投じる理由

政府が基礎科学研究に資金を投じるのは、民間だけでは十分な投資が行われないからである。原因は「市場での失敗」にある。基礎研究によって生まれる知識は拡散しやすく、元の企業を越えて競合他社にも利益をもたらす。こうした「知識のスピルオーバー(知識が元の開発者から他者に波及する現象)」は経済全体には好ましいが、研究費の回収をめざす個別企業には不利である。製品のように特許化や販売が容易なわけではなく、基礎的な科学知識は広く共有されやすいため、民間部門は投資を控える傾向にある。

経済学者たちはこの問題を早くから指摘していた。1959年、ランド研究所(RAND)の経済学者ディック・ネルソンは、企業が基礎科学に十分投資しないのは、成果の多くが社会全体に広がり、自社だけの利益を取りこめないからだと理論づけた。こうした社会的リターンこそ、公的研究開発が高い価値を持ちながら、民間任せでは供給不足になる所以でもある。

公共科学資金を理解するには、研究がどのように分類されるかを理解することが役立つ。NSFは研究開発を3つのカテゴリーに分けている:

基礎研究:特定の実用目的を念頭に置かず、知識そのものを進展させる

応用研究:定義された問題を解決したり、製品を開発したりすることを目指す

実験的開発:得られたアイデアを商業的なツールやプロセスへ転換する

投資のパターンは明確で、まさに私たちが想像するとおりだ。民間企業は圧倒的に開発に焦点を当て、研究開発費1ドル(約144円)のうちわずか6セント(約9円)しか基礎研究に振り向けていない。対照的に、非国防公共研究開発は1ドルのうち34セント(約49円)を、上流のイノベーションパイプラインを維持する基礎研究に割り当てている。この上流基礎研究に、民間部門は依存しているものの自ら資金を提供することはしていない。

民間部門は基礎研究における役割を強化してきたが、市場インセンティブは依然として、企業が即座の商業的見返りのないアイデアにどれだけ投資するかの足かせになっている。公共資金は長い間、科学的発見の初期段階を支えてきた。そして何十年もの間、基礎研究への資金の多くはNIHとNSFを通じて流されてきた。

次ページ > 科学研究のマクロ経済学

翻訳=酒匂寛

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