「2023年7月26日水曜日、僕はLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて、約2000人のファンの前で、ゲイであることをカミングアウトする」
與真司郎さんの最新フォトエッセイ『 人生そんなもん 』の冒頭「はじめに」は、この一文から始まる。
男女5人組ユニット『AAA(トリプル・エー)』のメンバーで、ソロアーティストとしても活躍中の與さんのキャリアは、14歳のときに『エイベックス男募集!オーディション』に約2万人の応募者の中から合格したことから始まる。2005年のデビュー後から快進撃を続け、6大ドームツアーを達成。ブランドプロデューサーなどと活躍の幅を広げてきた。人気絶頂のアーティストが、大勢のファンの前でカミングアウトしたことは大きな話題を呼び、現在ハリウッドでドキュメンタリーが制作されている。
このカミングアウトのための「手紙」は何ヵ月もかけ、書いては消してを繰り返して書き上げたのだという。「たった一言のニュアンスの違いで誤って伝わってしまう。その後悔だけはしたくない」と完成させた手紙にはどんな言葉が綴られているのか。
『 人生そんなもん 』の「はじめに」に収録された「手紙」部分を特別全文公開する。
今やっと、打ち明ける決意ができました
これから僕が話すことは、皆さんが期待して、望んでいる内容ではないかもしれません。中には理解するのに時間がかかる方もいると思います。でも、これから僕が話すことがきっかけで、少しでもこのことについて理解が深まり、世界が変わってくれることを願っています。
今日、たくさんのファンの皆さんがここに参加することを希望していたのに、席に限りがあり、来られなかった方も出てしまったと、スタッフさんから聞きました。これから話すことを、SNSやプレスリリースを通して発表するという選択肢も正直ありました。でも、今日はどうしても皆さんの顔を見ながら直接伝えるべきだと思い、このような形をとらせてもらいました。
僕自身、長い間この不安と闘ってきました。本当に何年もの間、自分の一部を受け入れることができませんでした。それでも、さまざまな葛藤を乗り越え、今やっと、皆さんにこのことを打ち明ける決意ができました。
それは僕がゲイであるということです。
みんな多分すごく驚いていると思う。でも、最後まで聞いてください。カミングアウトを決意するまでにすごく時間がかかりました。自分ですら、自分のセクシュアリティを受け入れることができませんでした。もし自分がゲイだということを認めてしまったら、今度は世の中が自分のことをアーティストとして認めてくれないのではないかと、恐怖を感じることもありました。でも、悩みに悩んだ結果、ファンの皆さんをはじめ、僕が大切にしているすべての人たち、そして僕自身のためにも、本当のことを受け入れ、それをしっかりと皆さんに伝えることが僕なりの誠意だと思いました。そして、僕と同じ境遇に置かれている方々にも、勇気を持つきっかけにしてもらいたかった。「自分はひとりではない」ということをわかってほしかったんです。
たくさん考えてたどり着いた「3つ目の選択肢」
カミングアウトを決意する前は2つの道だけしかないと思っていました。ひとつ目は、本来の自分を受け入れることなく、エンターテインメントの世界に居続けること。もうひとつは、エンターテインメントの世界から退いて、世間から隠れてひっそりと暮らすことでした。 でも、たくさんたくさん考えて、3つ目の選択肢にたどり着きました。それはゲイということを公表した上で、エンターテインメントの活動を続けるということです。ありのままの自分で生きていくことで、大好きなエンターテインメントの活動を諦めたくなかったんです。僕はこれを機に、まったく違う人間になってしまうわけではありません。むしろ、このことを打ち明けたことによって、本来の自分をわかってもらい、ファンの皆さんとの距離が縮まることを本当に願っています。
自分がゲイであることを明確に理解するまでには時間がかかりましたが、今振り返れば、昔からその認識はあったような気がします。僕が子どもの頃、テレビではLGBTQ+のことをおもしろおかしく扱っている時代でした。もちろん、その頃は今みたいにインターネットが普及していなかったので、自分のセクシュアリティについて疑問を持ったとしても、そのことについて知る機会はほとんどありませんでした。だからその頃は、自分が間違っているんだ、自分はおかしいんだと思っていました。誰かにこのことを相談することもなく、自分の感情を押し殺していました。そんな中、14歳でエンターテインメントの世界に入り、毎日仕事が忙しく、気づいたら自分の疑問や悩みは多忙な日々に紛れていました。その頃から、本当にたくさんの方々に支えてもらっていましたが、それでもどこかで、自分はひとりぼっちのような感覚でした。