大学2年で起業、きっかけは一冊の本 悩める子どもたちへ「学校に通いやすくなる仕組みを」開発

2023/10/24

立命館大学産業社会学部3年の森本陽加里(ひかり)さんは、小学生の時に不登校になった経験から、不登校や発達障害の子どもたちを支援するアプリを開発し、これを事業にする一般社団法人をつくりました。起業までの経緯や、大学側の起業支援などを聞きました。(写真=本人提供)

不登校の経験がきっかけ

森本さんは、大学2年だった2022年12月に一般社団法人Focus onを設立しました。それは森本さん自身の体験が深く関係しています。

「小学生の時に、ある出来事をきっかけに不登校になりました。いじめられていた友人を助けたのですが、その後、いじめの標的が自分に移りました。先生に相談すると、『自分の身は自分で守りなさい』と言われました。その先生は日頃、『いじめられている子がいたら助けなさい』と指導していたので、助けてくれると思ったのですが、『言うことが違う』と混乱したことをきっかけに、学校に行けなくなってしまいました」

心療内科を受診すると、広汎性発達障害の診断を受けました。家族のサポートもあり、小学5年で学校に戻れるようになりました。

組織に属すよりも、社長のほうが向いているかも?

しかし、発達障害の特性によって、小学校、中学校の半分以上は学校に行けませんでした。こうした背景から、高校受験を前に将来の仕事を考えた時、組織の人間として毎日、時間通りに同じ場所に通うのは難しそうだと感じるようになりました。

「その頃、出会った本が、家入一真さんの『15歳から、社長になれる。 ぼくらの時代の起業入門』でした。不登校や引きこもりを経験し、起業した著者の話を読んで、私もこうしたスタイルが合っているのではないかと思うようになりました」

進学した私立高校は探究学習に力を入れており、森本さんは特別支援教育や発達障害児への支援をテーマに課題に取り組みました。そして「探究の成果を校内で発表するだけでは、実際の支援にはつながらない」と感じ、支援アプリの開発や起業に関心が向いていきました。

アプリを使えば、全国の悩める子どもたちを支援できる

「当初の私の構想は不登校や発達障害の人たちが行きたいと思える学校をつくることでした。でも考えていくうちに、実現したとしても、学校に入学できる限られた人数しか幸せにできないのでは? アプリなら多くの悩める子どもたちが学校に通いやすくなる仕組みができるのではないかと思いました

発達障害の特徴の一つに、「自分を客観視できにくい」ことが挙げられます。例えば「何かを始めると、睡眠時間を削って作業をすること」などがあります。

「気づかないうちに無理をしすぎてしまい、その結果、不登校になる発達障害の方も少なくないのです。そこでアプリでは利用者が質問に答えることによって、『今日はこのくらい疲れているよ』と日々の体調を可視化できる仕組みを考えました」

Focus onは子どもの困りごとや複雑な感情を記入できるアプリで、子どもの特性や疲れている状況、支えてほしいことなどを、保護者や支援者と共有できるようになっています。

興味ある分野の研究者を探して、総合型選抜で合格

このアイデアで森本さんは「第7回高校生ビジネスプラン・グランプリ」の審査員特別賞を受賞し、アプリは高校在学中に試作版としてリリースしました。大学では、アプリのさらなる進化と起業を目指すことにし、総合型選抜で立命館大学産業社会学部に合格しました。

「立命館大学を志望したのは、学びたい研究者がいたから。『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮社)の著者である宮口幸治教授(現・総合心理学部)や、特別支援教育が専門の青山芳文教授(当時)です。受験先を決める前に、先生方の本や論文を読み、実際にどのようなことが学べるのかを知りたくて、大学に依頼して直接、連絡をとったこともありました。興味のある分野の研究者を探し、論文を読んでいくと、自分が学びたいことがはっきりして、大学・学部選びがしやすくなると思います」

また、立命館大学では学生の起業支援が充実していることを入学後に知りました。起業を目指す人のためのプログラムやベンチャーコンテスト、起業の際には登記などのサポートの仕組みが整っていました。

起業家コンテストで得た賞金を資金に起業

大学入学後は、学校法人立命館の社会起業家支援プラットフォームRIMIXの起業家プログラムに参加し、アプリの開発も同時に続けていきました。

ビジネスプランを「第18回立命館大学学生ベンチャーコンテスト2021」に出して「きたしん未来賞」を受賞。その後、「第24回CVG大阪大会」で最優秀賞を受賞して大阪代表となり、全国大会では「日刊工業新聞社賞」を獲得しました。

こうして獲得した資金などをもとに起業。現在、経営は1人で行っていますが、手が足りないところは友人たちがサポートしてくれます。オフィスはRIMIXの支援を受け、キャンパス内の施設を使わせてもらっています。

「現在は学部の教授にも協力を仰ぎながら、機能をさらに広げる方向で計画を進めており、アプリを通じて発達障害に悩む人たちへ持続可能な支援をしていきたいです」

起業家プログラムの経験は就職先でも必ず生きる

RIMIX事務局の仲西正さんは、次のように話します。

「RIMIXが提供するプログラムへの参加者は年々、増えており、学生の起業も増えているのは間違いないでしょう。ただし、私たちは起業家を増やすことだけにこだわっているわけではなく、さまざまな経験や挑戦を通して社会的な課題の解決に貢献したい、社会にインパクトを与えたいと思うマインドや力量を持った人材を育成することを第一に掲げています。起業家教育やプログラムを受けた経験はどのような就職先でも必ず生きますし、社会人経験を経てから起業をするという将来の選択肢の広がりにもつながります。RIMIXでの経験をきっかけに起業家精神を生涯にわたって磨き続けてほしいですね

RIMIXのプログラムの一つとして、毎月1回開催されているイノベーション促進/交流イベント「OIC CONNÉCT」。企業や投資家など多様な人たちと学生が出会える場(写真=立命館大学提供)

(文=狩生聖子)

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