2025-06-02

氷河期世代友達が死んだ。

特に驚きはなかった。ああ、ついに来たか、という感じだった。

彼とは大学時代に知り合った。同じゼミで、最初はそんなに仲が良かったわけじゃない。けど、就活がうまくいかなくて、お互いにボロボロになっていくうちに、自然と話すようになった。あの頃は、誰もが「なんで俺たちだけこんな目にあうんだ」って思っていた。自分たちが悪いんじゃなくて、時代が悪いんだって、本気で思っていた。

ぼくはどうにかブラック企業内定をもらって、そこに滑り込んだ。辞めたり転職したりはしたけど、結果的にそこで食いつないできた。

彼のほうは、どこにも引っかからなかった。それっきり、実家に引きこもってしまった。

会うたびに「小説家になるんだ」って言ってた。

本は本当にたくさん読んでいたし、語彙も豊富で、文章センスもあった。

ぼくなんかより、ずっと頭がよかったと思う。

彼はブログを始めて、毎日のように長文を書いていた。内容は、いわゆる「社会批評」だった。いや、社会批判と言ったほうが近いかもしれない。流行ものは全部バカにして、テレビ芸能人SNSも見下して、「俺は違う」と繰り返していた。

最初面白かった。よくそんなこと思いつくな、と思ったし、時にはハッとさせられる鋭さもあった。でも、だんだんと、書いてる内容が偏ってきて、冷笑というより、妄執に近いものになっていった。読んでいて、なんとも言えない居心地の悪さを感じるようになった。

SNS流行りはじめると、彼はそこで名前のある書き手リプライを送りまくるようになった。最初ちょっとした感想だったのが、次第に粘着っぽくなり、相手無視しても送り続けるようになっていった。

フォローしていた人たちから「なんか怖い人いるな」と言われてるのを見かけたとき、もう無理だなと思った。

そこからは会わなくなった。誘っても来ないし、連絡しても返ってこない。

小説家になるって話、どうなったんだろうな」って、ふと思い出すことはあったけど、たぶん書いてなかったと思う。

文章自体は書いていた。SNSタイムラインに、誰かに向けて恨みごとのような文章を延々と綴っていた。それが小説かと言われると、違う気がした。

そんな彼と、死ぬ一ヶ月前に、なぜか会った。

今思えば、本当に虫の知らせだったのかもしれない。久しぶりに思い立って、「元気?」とメッセージを送ったら、返事が来た。会って話そうという流れになった。

駅前居酒屋で会った彼は、昔とあまり変わっていなかった。だけど、酒を飲む量が異常だった。話してる途中でふっと意識が飛んで、机に突っ伏して眠ってしまった。

ああ、限界なんだなと思った。

あとから聞いた話では、生活保護を受けていたらしい。アルコール依存症で、糖尿病もあって、病院にも通っていたという。

どこからどう見ても、死に向かって一直線の生活だった。

死んだと連絡が来たとき、驚きはなかった。むしろ、よくここまでもったな、というのが正直なところだった。

ぼくはあのあと、プログラミングを独学で学んで、なんとか今の仕事にありついた。たいして稼げてるわけじゃないけど、家賃を払って、飯を食って、生きてはいける。

彼のことを思い出すたびに、「人生ってなんだろうな」と思う。

あれだけ本を読んで、言葉を大切にして、でも結局、誰にも届かなかった。

もし時代が違っていたら、もう少し生きやすかっただろうか。

それとも、どう転んでも同じだったのだろうか。

考えても、答えは出ない。

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