「トカゲのしっぽ切り」で元白鵬は退職 識者が思う相撲協会の問題点
大相撲の宮城野親方(元横綱白鵬)が日本相撲協会を退職することになった。日本相撲協会の外部委員会で副座長を務めた中島隆信・慶大教授(応用経済学)に話を聞いた。
宮城野親方は現役時代、土俵内外での振る舞いによって、たびたび批判されてきた。悪意はなかったのだろうが、「伝統」を守ることで生き残ってきた日本相撲協会、とくに執行部の逆鱗(げきりん)に触れた。
私は不快に感じなかったが、受け止めは人それぞれだろう。元白鵬にとって不幸だったのは、所属する宮城野部屋が規模の小さな「弱小部屋」だったことだと思う。
15歳で入門し、22歳で横綱になった。だが、師匠(元幕内竹葉山)に育てられたというより、生まれ持った素質と自らの精進で出世した印象だ。相撲界の頂点には立ったが、「世間では若造なんだよ」と、周囲が言い聞かせる必要があった。精神的な成長を支えるという面で、師匠があまりに無力だったと感じる。
今回、宮城野親方は弟子の暴力事件を巡る責任を問われ、その一連の経緯の末に退職する。
これまでも、貴乃花親方や横綱日馬富士ら、角界への貢献が期待された人材が次々に去っていった。いまの協会の構造を考えれば、そうなるのは当然なのかもしれない。
協会として、各相撲部屋を統率していないことに原因があると思う。
協会と相撲部屋は業務委託の関係にある。力士の養成費など一定の補助はあるものの、弟子のスカウトや育成などは基本的に師匠任せ。問題が起これば師匠の責任であり、協会は責任を免れられる立場にある。
そもそも、師匠に部屋を経営する能力があるかどうかを担保するルールがない。
本来、組織は人材を確保するにあたり、「この人はこういう分野が得意だから、将来貢献してくれそうだ。その分野で育成していこう」と考える。しかし協会は、土俵上で実績を残し、年寄名跡を取得できた者だけを親方として残す。名跡は本来協会が管理して引退する力士に与えることになってはいるが、高額の金銭でやりとりもされている。資金力の有無に左右され、指導や経営についての能力や適性は反映されない。
協会のガバナンスの弱さ、今も変わっていない
相撲協会が公益財団法人化を検討していた2011年、私たち「ガバナンスの整備に関する独立委員会」は協会のガバナンス力の弱さを指摘した。結局、今も変わっていない。
相撲部屋という個人商店の集まりが協会で、そのトップは組合長にあたる理事長。ある店で問題が起きれば、その店をつぶせばいい。トカゲのしっぽを切れば、協会として責任を取らなくていいと考えているのではないだろうか。
委員として協会内を見た当時、親方衆は理事を「名誉職」としか思っていないのだと、私は感じた。すでに決められたことを決められた通りにこなすだけ。理事になって何をしたいかではなく、そのポジションに就くことがゴールになっているようだった。そんな組織は機能しない。
力士の数がどんどん減っていく時代だ。今後は海外の人材にもっと入ってもらう必要が出てくるかもしれない。
これまで協会理事には日本出身者しかなったことがないが、私は海外出身者がなっても問題はないと思う。大事なのは国籍ではなく、その人の能力が組織にどう貢献するかを考えていくことだ。
宮城野親方は現役時代から少年相撲の国際大会を主宰してきた。いまの協会にない発想があったのではないか。角界はその能力を生かそうとは考えなかったのか。
おそらく協会は、何も考えていないのだろう。
なかじま・たかのぶ 日本相撲協会の「ガバナンスの整備に関する独立委員会」で副座長、日本高校野球連盟の「投手の障害予防に関する有識者会議」で座長を務めた。著書に「大相撲の経済学」など。
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験