外資が狙う閉山した金鉱山 過疎地を救う宝の山か、環境汚染の危機か
閉山した日本の金鉱山が注目されている。金の価格が高騰している上、採掘技術も進歩し、外資系企業が再発掘に乗り出しているのだ。
舞台のひとつが、かつて金資源に恵まれていた北海道。ただ、地元では賛否両論があり、あつれきも生じている。
町を訪ねてきた豪州企業
「まだ魅力あるの?」
2023年7月、駅弁「かにめし」で有名な北海道長万部町。木幡正志町長(77)は役場で、来訪者たちに尋ねた。
「調査したら、結構な金が山に残っているはずです。戦前とは技術が異なるので、まだまだ期待できますよ」
通訳を通じて、豪州の鉱山会社「Kin-Gin Exploration」の日本法人「JapeX」のグレッグ・フォウリス上級取締役らが答えた。
話し合いの対象になっているのは、長万部町と黒松内町にまたがる、旧静狩金山だ。すでに閉山しているこの鉱山の金を採掘したいと、同社は国に試掘権を申請し、町に説明にやって来た。
静狩金山は戦前から採掘が始まり、産出量の低下に伴い、1962年に閉山になった。42年間でとれた金の総量は約6242キロ。戦前の静狩地区は朝鮮人労働者を含めて約7千人が住む「都市」だった。学校や娯楽施設もあり、当時の新聞は「金湧く静狩」と形容した。町の人口は、ピーク時に1万5千人を超えた。
「金湧く静狩」の復活を期待
いまの人口は約4700人。木幡町長は朝日新聞の取材に「人口が減り続けている。企業に来てほしい。地元にとって経済が動けば、会社もできて人口増につながる」と期待を寄せる。「試掘はあくまで金があるかどうかを調べるだけ。多くの町民も金がとれるのどうか知りたがっている。表だって反対する町民はいない。町議会で議論されたこともない」と言い切る。
国は24年2月までに、農地や河川・海水の汚染への配慮などの条件付きで、同社の試掘を許可した。
北海道は「東洋のトランスバール」
こうした事例は、北海道のほかの地域でも起きている。北海道は江戸時代には、松前藩の財政は砂金採掘で潤い、戦前には複数の金山で採掘され、かつて「東洋のトランスバール(南アフリカの金の大産地)」とも呼ばれていた金の産地だ。
再試掘を狙う外資系企業の動きに対し、住民たちからは懸念の声が聞こえてきます。金の再試掘を狙う背景と、地元の動きを紹介します。
朝日新聞が情報公開請求で2019年度以降の北海道内の出願状況を調べたところ、Japan Gold(カナダ)▽アービングリソースジャパン合同会社(同)▽Kazan Resources(同)▽JapeX(豪州)の外資系企業4社が試掘権を取得していた。
長万部、黒松内の両町をはじめ、紋別、北見、士別の各市、佐呂間、上川、雄武、湧別、愛別、仁木、遠軽の各町、赤井川村の13市町村を数え、試掘場所は広範囲に及んでいる。
静狩地区で事業を進めるJapeXの場合、日本国内6地域で試掘権を申請している。進捗(しんちょく)状況を尋ねたところ、「鉱区の申請状況は探鉱会社にとって最重要な機密事項」として詳細な回答は得られなかった。だが「現在は試掘権許可となった静狩地区を最優先として準備を進めている」という。
金の試掘に乗り出す外資系企業が増えているのは、世界的な政情・景気の不安定さへの恐れから、安全資産とされる金の値上がりが続くと見込んでいるからだ。
地金商大手・田中貴金属工業によると、1グラムあたりの店頭平均小売価格(税抜き)は1万4996円(今年4月)と、史上最高値圏で推移。10年前(4658円)の3倍超の水準だ。
外資だけではない。国内で唯一、金を商業採掘している住友金属鉱山(東京)の菱刈(ひしかり)鉱山(鹿児島県)も、業績は好調という。
観光客誘致に成功した町の反対
北海道での再発掘の動きに、旧静狩金山がある黒松内町から反対の声が上がった。
町内には、国指定天然記念物である92ヘクタールの自生北限のブナ林があり、「環境破壊に通じる」と反対している。
ブナ林はかつて、零戦のプロペラ材にする計画や村の財政補塡(ほてん)に充てる構想で2度、伐採の危機になったことがある。それでも、住民らの嘆願で保存された「町の象徴」だ。
現在は自然保護だけでなく、壁や屋根の色、携帯電話用通信アンテナの高さなどを規制する条例をつくり、景観も守る。最近は天然のアユが生息する朱太川の生態系保護に、米アウトドア用品のパタゴニアと提携して取り組む。こうした環境戦略が奏功し、町を訪れる観光客はコロナ禍前は年間36万人にのぼった。
いま町の人口は約2400人。桜井淳一・企画環境課長は「人口が減るなかで町が生き残るため、やらなければならないのは、守ってきた自然環境をどう輝かせていくかだ」と話す。町議会は金山の試掘の中止を求める請願を採択し、外資側への要望書も可決した。
許可の前に住民が参加できる仕組みを
後押ししたのは、637人の署名とともに試掘の中止を求めた町民の請願だ。
試掘予定地にあるグラッドニー牧場の森塚千絵代表は運動を担ったひとり。「試掘で金が見つかれば、必ず採掘に移行する。地下水脈が乱されて、放牧している牛が飲む地下水が汚される可能性がある」と警戒する。昨年7月、業者が開いた説明会では反対派からたくさんの質問が出たが、業者から回答はない。
鉱業法では試掘権を得た業者は最大6年間、ボーリング調査で地中の岩石などを調べられるが、環境アセスメントの実施は義務づけられていない。森塚さんは「試掘権の許可の前段階で住民が参加できる仕組みが必要だ」と訴える。
日本魚類学会も今年4月25日、町内を流れる朱太川は「生物多様性の観点から重要度が高い」とし、鉱山試掘により「生態系はもとより人の健康にも悪影響を及ぼす事態が発生する可能性が想定される」として、事業中止を求める要望書を経済産業、環境両省と北海道に出した。
北海道紋別市の旧鴻之舞金山でも、JapeXを含む複数の外資が試掘権を申請・取得しており、地元では懸念の声があがった。市議会は昨年末、「水を中心とする環境汚染は住民の健康や生態系に深刻な影響を及ぼすとともに、ホタテなどの水産物への計り知れない被害となる」と試掘・採掘に反対する決議を可決した。
なぜ外資が採掘可能か
北海道以外でも、複数の外資が九州や北陸で試掘に向けて活動している。なぜ外資が、日本の金山の採掘をすることができるのか。
金や石灰石などの鉱物を掘るには、国から「試掘権」を得る手続きが必要になる。埋蔵量や品質、開発できるかどうかを調べる第1段階だ。
鉱業法は、試掘権の出願の条件として日本国籍や日本国内に登記がある個人・法人であること▽公共の福祉に反しないこと▽技術的・資金的な能力があること――などを義務づけるほか、産出した鉱物は日本国内で加工・使用するよう求めている。これらの条件を満たせば、「事業主体が外資であっても、申請を拒むことはできない」(北海道経産局)という。
開発事業者の最初の試掘権は2年間。申請すれば、最大で4年間延長できる。ビジネスとして成り立つと考えれば、第2段階の「採掘権」を得る手続きに入る。本格的に掘り進む権利で、取得できれば、期限はない。業者が鉱物を掘り尽くした後も、鉱毒が出ないよう半永久的に処理をすることが求められるためで、明治時代の足尾銅山事件などの反省が背景にあるとされる。
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