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価値が低く、誰も欲しがらない不動産を「有償で」引き取るサービスが増えている。
売却も活用もできないし、持ち続けるだけで負担になる――。そんな厄介な「負動産」を、引取業者に手数料(所有権の移転登記費用や将来の管理費など)を支払うことで手放せる、というものだ。
引取業者は、新たな所有者としてその不動産を管理をしながら、買い手や活用方法を探っていく。原野商法の被害者や、相続で不動産を取得した人などの「どうにか処分したい」というニーズに応えている。
しかし、一部の引取サービスには「詐欺まがい」の手法もあるとして、「利用は慎重に検討したほうがよい」との声も上がっている。
宅建業免許ない会社が3割
有償引取は、一般的な不動産売買に該当せず、宅地建物取引業法の規制が及ばないケースも多い。
そのため、適正な管理や登記の移転をせずに、金銭だけを受領するようなことができてしまう状態にある。
このような懸念があり、2025年2月、国土交通省の不動産部会は、審議会で引取サービスについて言及。「今後の業界の動向を注視し、注意喚起の必要性を検討していく」と公表した。
国交省の調査によると、引取サービスを提供する会社は、2024年10月時点で少なくとも59社確認できているという。
そのうち、宅建業免許を持たない会社は3割ほどで、約半数の会社は東京を本社所在地としていた。
このような会社が引き取る対象としている不動産は幅広い。
実際にインターネットで「不動産 引取サービス」と検索し、ヒットした会社のホームページをいくつか見てみると、空き家のような物件だけでなく、山林や農地、リゾートマンションの区分所有権(バブル期に多く販売された、いわゆるリゾート会員権)も引き取るとされていた。
「第一印象は最悪」、引取サービスの是非
こうした引取サービスがあること自体、あまり広くは知られていないが、所有者不明・管理不全の不動産の増加が問題視されている中で、今後は認知度を高めていく可能性がある。
「限界ニュータウン」と呼ばれる荒れ果てた投機型分譲地を、全国100カ所以上で調査してきた吉川祐介さんは、数年前の段階で引取サービスの存在を認識していたという。
吉川さん
「新潟県湯沢町のリゾートマンションに、長く管理費などを滞納し、管理組合から訴訟を起こされていた区分所有者がいました。調査を進めるとその区分所有者は法人で、前の所有者(個人)からお金をもらって物件を引き取っていたことが分かったんです」
バブル期に多く開発・分譲されたリゾートマンションの中には、運営会社の破綻などにより、建物だけが廃墟のような状態で残ってしまっているものがある。建物は使用できず、建替えは他の区分所有者と連絡を取る必要があり、現実的でない。買い手もつかない「負動産」の1つだ。
吉川さんによると、その会社は、廃墟となってしまった区分マンションを引き取る代わりに、数年分の固定資産税・管理費という名目で依頼者(前の所有者)から数十万~数百万のお金を受け取っていたという。
「それなのに管理費を1円も支払わずにいたなんて、じゃあそのお金はどこへ行ったんだ、という話ですよね。そんな事例を最初に見てしまったので、引取サービスの第一印象は最悪でした」と振り返った。
ただ、この会社が初めから管理費を払うつもりがなかったかどうかは、立証することが難しいだろう。
そもそも、お金を払ってまで手放したかった不動産の「その後」について関心を持つ人は多くはないだろう。そのため、手放した後の問題が顕在化しにくいという事情もあるのかもしれない。
一方で、限界ニュータウンのような値段の付かない土地をたくさん見てきた吉川さんは、引取サービスを利用する人の気持ちも理解できるという。
売りに出しても値段が付かないような不動産は、仲介会社も扱ってくれない。どうにかして手放そうとする場合、現地調査や各種手続きなどを自分で行う必要がある。
遠方であれば、かかる時間や手間も大きくなり、仮に10万円で売れても割に合わないだろう。
「これを代わりに誰かにやってもらうとなれば、当然その人の手間賃というものが発生します。お金をかけなければ処分できない不動産がすでに存在している以上、処分の手間に見合った料金であれば、有償引取というサービス自体には賛成です」
ただ、それが適正な価格で提供されているかは依頼者が見極めなければならない。引取サービスの引取料には、仲介手数料のような基準がない。吉川さんは、引取料の設定には引取業者の恣意的な判断が入りやすいとして、「ブラックボックスだ」と指摘する。
国交省の調査でも、事例によって15万~500万円の引取料が受領されていたようだ。その不動産を引き取るコストとして適正な金額はどれほどなのか、判断できる依頼者は決して多くはないだろう。
リゾートマンションのイメージ(PHOTO:PIXTA)
また、これまでに複数の引取業者から話を聞いた経験から、引き取った不動産の「出口」についても疑念を抱いているという。
「そもそも買い手が見つからないような不動産を引き取って、最終的にどうするのか? この問いに明確な答えを持っている会社さんを見たことがないんです。ここが曖昧だと、最初からきちんと管理せずに引取料で儲けることが目的なのでは…とちょっと不信感を持ってしまいます」
引き取ること自体は、依頼者が不動産を持ち続けるリスク(固定資産税の負担、不動産で事故が発生した際の所有者としての責任、など)を引き受けることに繋がる。
しかし、所有権が引取業者に移転したからといって、そうしたリスクがある状態を直ちに解決できるわけではない。
引取業者が独自のルートで売却先を見つけたり、周辺の土地も買い取って開発したり、と新たな利活用に繋げられれば理想的だろう。
それが容易ではない以上、引取業者の倒産や廃業などで、将来的に所有者不明・管理不全の不動産の増加に繋がらないか、国交省の資料でも懸念が示されている。
高齢者からの依頼が多数
実際に引取サービスを行っている会社は、このような「出口がない」という指摘をどのように受け止めているのか。
3年ほど前から引取サービスを始め、これまで100以上の不動産を引き取ったという「合同会社新翔」の亀田さん(仮名)に聞いた。
「これまで3~4件ほどは売却に至りました。当社が持つルートでも買い手が見つからない物件は、依頼者にいただいた管理費をもとに当社で持ち続ける予定です。出口がないと言われればそれまでですが、その方(所有者)が不安を抱えたままよりはずっと良いのではないかと思います」
ちなみに、新翔での料金形態は以下の通り。所有権移転登記を済ませた後に、後払いで受領しているという。
固定資産税額が1万1000円以下:33万円
固定資産税額が1万1000円超:固定資産税額×20~30年分
※倒れそうな擁壁があるなど、状態が悪ければ追加料金がかかることもある
新翔のこれまでの実績の中では、引取料が100万円を超える事例も珍しくないという。それでも手放したいという依頼者と、そんなに高額なら…と取りやめる依頼者と、それぞれの反応があるそうだ。
一方、1件15万円など、より安い価格で引き受ける会社もあるという。「とにかく手放せればいい」という依頼者には、こうした安い会社が選ばれやすい。
亀田さんは「引き取った不動産を適正に管理しようとすると、本来はこのような(1件15万円などの)料金で受けることは難しいはず」と話す。
なお、新翔への依頼者は8割ほどが高齢者。主に財産整理の目的で、「自分が若い頃に手にした不動産を、下の代に迷惑かける前に処分したい」といった動機が多いようだ。
中には「20代の頃に購入したきり、50年間も現地に訪れることなく持っていた」という事例もあったという。
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また、悪質な同業者については「実際に詐欺まがいのことをしている会社もある」と話す。亀田さんによると、かつて「原野商法」の被害に遭った人を対象に不動産の引き取りを持ちかけ、最終的に新たな物件を売りつけるといった会社を見たことがあるそうだ。
こうした会社を減らすには、新たな法整備を検討するほか、国が不動産を引き取るというような、引取サービスに頼らなくていい体制を整えることも1つの方法だろう。
現在も「相続土地国庫帰属制度」はあるが、相続を受けた人に対象者が限られる点や、承認の条件が多い点、審査に時間がかかる点などから、利用できる場面が限定的だ。
国による管理にも税金が投下されているため、「受け皿」を広げるのもハードルが高いと思われるが、何かしらの方策が取られないと、引取サービスの懸念は払拭できないだろう。
弁護士が警鐘、引取サービスの問題点
悪質な会社も一部存在するとされている、引取サービス業界。そのような会社の手法にはどんなものがあるのか?
「負動産」に関する社会問題に詳しい荒井達也弁護士によれば、大きく4つのパターンに分けられるという。
1.引取料だけ受領して所有権移転登記をしないケース
不動産の所有権が依頼者にあるまま、金銭だけが引取業者に渡るケースは、単なる詐欺だ。荒井弁護士も、かつて「原野商法」の被害に遭った人からもう一度金銭を騙し取ろうとする悪質な会社を見たことがあるという。
2.売却可能な不動産であるのに、高額な引取料を受領するケース
引取業者のもとに依頼がある不動産は、必ずしも買い手がつかない「負動産」ばかりではない。荒井弁護士が見てきた中でも、高値では売れなくとも、通常の売買取引が成立しそうな物件は多かったという。
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不動産の知識がない依頼者は、その点に気付いていない場合がある。一部の引取業者は、そうした情報の非対称性を利用し、引取料と転売益の双方を得ようとすることがあるそうだ。
荒井弁護士は「個人的には、どんな不動産も引取サービスを使わずに手放せるとと思っています。それが二束三文だったとしても。売買取引ができることを言わずに大きな利益を得ようとするのは、市場を歪めているように感じます」と語った。
3.名義変更のみを行い、管理せずに放置するケース
所有権を移転させると、当然ながら不動産の管理は引き取った会社の責任となる。しかし、この管理が適正に行われているケースがどれほどあるのかは未知数だ。
依頼者が支払った引取料は「将来の管理費」という名目になっていることも多い。引取業者がこの管理を放棄していた場合、依頼者は何のために支払ったのか、というトラブルにもなりかねない。
インターネットで見つかる引取業者のホームページには「全国のどんな不動産も引き取る」と謳っているものもあるが、このような会社に対し荒井弁護士は疑念を抱いているという。
「引取業者は、個人の会社や小規模な会社も多いです。仮に東京の会社だとして、鹿児島の山の中にある土地を引き取って管理できるのでしょうか? 全国に支店がある会社であれば別ですが、本当にその会社が適正な管理をしてくれるかは依頼者も考えるべきと言えます」
結局は、将来の管理不全の不動産を増やしてしまうことに繋がりかねないため、不動産を手放す側もそうならない会社選びが必要になってくる。
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4.会社の採算が悪くなり、倒産させるケース
荒井弁護士は、引取サービスについて「持続性のないビジネス」と評価している。出口の見つからない、管理コストのかかる不動産を永続的に持ち続けるには、それなりの費用がいる。「いずれ引取料では賄えなくなる」として、事業そのものへの懸念を示した。
「事業資金が足りず倒産したり、儲けるだけ儲けてお金だけ抜いてトンズラしたり…ということが容易に想像できます。そうなると、結局は所有者不明の管理不全の土地が増えてしまいます」
より大きな社会問題に発展する可能性があるとして、その片棒をかつぐことにならないように「引取サービスの利用は慎重に検討してほしい」と呼びかけた。
司法書士・税理士からの紹介で利用する人も
引取サービスが利用されるようになった背景には、人口減少・少子高齢化が進む中での相続案件の増加、土地の所有意識の希薄化などがあるとされている。それとは別に、荒井弁護士は引取サービスの利用を加速させた「ある要因」を指摘する。
それが「司法書士・税理士などによる紹介」だ。
引取サービスの利用にあたっては、基本的に所有権の移転が伴う。書類の作成などを請け負う司法書士と相性がいい。税理士に関しても、相続であまり価値の高くない不動産を手にしてしまったという人に出会いやすく、親和性が高い。引取業者から紹介料を受け取るケースもあるという。
そのような専門家から紹介されれば、あまり調べずとも信用してしまう人も多いだろう。依頼者自身で深く検討せずに利用を決めてしまう可能性があるため、荒井弁護士はこのような仕組みも問題視している。
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一方、実際に引取サービスに対する規制が行われるかについては、「なかなか難しい」という。そもそも、何法で規制するべきかも明らかでない状態なのだ。
一般的な不動産の売買取引であれば「宅地建物取引業法」の規定をもとに、宅建業者は重要事項の説明義務や契約不適合責任などを負う。
しかし引取サービスを利用した際の取引は、「(建物の敷地となる予定がない山林・原野などの)宅地ではない」ケースや、「(贈与に当たるため)売買ではない」ケースもあり、宅建業法の範囲外となることも多い。
そのような事例を包括的に規制できる法律として、明確に該当するものが現時点ではないというのが実情だ。
また、今はまだ「実害が発生していない」という点も、法整備の動きを取りにくい一因だと荒井弁護士は指摘する。
「大きな災害が起きた際、引取業者が関わった管理不全の土地で甚大な被害があったとか、1万筆も土地を引き取っていた会社が倒産したとか、大きく注目を集めるような問題が発生しないと、規制は具体化しないと思います。ただ、実害が起きた時には手遅れになっている可能性が高いでしょう」
潜在的な問題というだけで実害が明確でない現状では、どうしても政府も動きづらい側面があるのだろう、と説明する。
◇
取材の中で、新翔の亀田さんも荒井弁護士も、引取サービスを提供する会社数は国交省が公表している59社どころではない、との認識を示した。
悪質な引取サービス業者が増えていけば、取引の安全性や適正価格での取引機会が損なわれ、管理不全の不動産の増加にもつながる。
このようなサービスの存在と課題を認識し、利用にあたっては慎重な判断をすることが求められるだろう。
(楽待新聞編集部)