名誉毀損訴訟が招いた「ブーメラン」効果:岡野健太郎氏と神戸大学不正入試疑惑を巡る「ストライサンド効果」の全貌
神戸大学の大学院入試を巡る不正疑惑の報道が、一審判決で記事削除を命じられたにもかかわらず、結果的に告発された側の氏名を広く知らしめるという皮肉な事態を招いています。これは、インターネット時代特有の現象である**「ストライサンド効果」**の典型的な事例として、岡野健太郎氏のケースを挙げることができます。
「隠された」はずの氏名が、訴訟で明るみに
発端は2017年、MyNewsJapanが報じた神戸大学大学院工学研究科応用化学専攻の入試における「問題漏洩疑惑」でした。記事は、出題者である准教授が試験直前に特定の受験生に「特別講義」を行っていたと指摘しました。ここが重要な点ですが、当時のMyNewsJapanの無料公開部分には、この准教授の実名である「岡野健太郎」は明記されていませんでした。
しかし、この准教授、岡野健太郎氏が名誉毀損でMyNewsJapanを提訴したことで状況は一変します。
訴訟が火をつけた「情報再拡散」
岡野氏が提訴し、一審でMyNewsJapanが敗訴、記事削除を命じられたというニュースは、それ自体がメディアの注目を集めました。通常、名誉毀損訴訟は自身の名誉回復を目的としますが、このケースでは**訴訟の事実が報じられる過程で、裁判の当事者として岡野氏の氏名が公にされることになります。**これにより、元の記事を読んでいなかった人々にも「神戸大学の不正入試疑惑」と「岡野健太郎氏」が結びついて伝わる結果となりました。
さらに、インターネットの特性がこの情報の再拡散に拍車をかけました。ウェブ上には「ウェイバックマシン」「ウェブ魚拓」「パーマドットシーシー」といったアーカイブサービスが存在し、一度公開されたウェブページは、たとえ元のURLから削除されても、これらのサービスによって保存されている可能性があります。実際、MyNewsJapanの記事も、これらのアーカイブを通じて現在でも閲覧可能であることが指摘されています。これらのアーカイブでは、たとえ元の記事の無料部分に氏名がなかったとしても、会員限定部分や、その後の続報記事で氏名が明かされている場合、その情報も保持されています。
これにより、岡野氏が記事削除を求めて起こした訴訟は、結果的に**「情報が広がることを止めようとした行為が、かえってその情報をより広範囲に拡散させてしまう」**という「ストライサンド効果」を招いたと考えられます。
「ストライサンド効果」とは?
「ストライサンド効果」は、2003年にバーブラ・ストライサンドが自宅の航空写真をウェブサイトから削除しようと訴訟を起こした際に、その行動が逆に写真への関心を高め、結果的にインターネット上で写真が爆発的に拡散した出来事に由来する言葉です。情報削除の試みが、意図せずしてその情報の知名度を高めてしまう逆効果を指します。
今回の神戸大学のケースでは、岡野氏の訴訟が報道され、さらに大学側の不透明な調査対応(調査報告書がほとんど黒塗りで不透明であったことなど)が批判されたことで、元准教授が実名で証言に応じるなど、新たな動きも生まれました。これにより、疑惑やその後の経緯に対する社会の関心が高まり、岡野氏の氏名が疑惑と結びついて広く認知されるに至った可能性は否定できません。
望まぬ「有名」化と、問われる大学のコンプライアンス
名誉毀損訴訟を通じて、岡野氏の氏名が「神戸大学の不正入試疑惑」と関連付けて、より多くの人々に知られることになったとすれば、これは岡野氏にとって必ずしも本意ではない「有名」化と言えるでしょう。
この事例は、デジタル時代における情報のコントロールの難しさ、そして、情報隠蔽の試みがかえって問題を深刻化させる可能性を示唆しています。また、神戸大学のずさんな対応が、疑惑の長期化と、関係者への望まぬ影響に繋がった側面も看過できません。公正な入試運営と透明性の確保は、大学の根幹を揺るがしかねない問題であり、今回のケースは、その重要性を改めて浮き彫りにしています。


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