救護騎士団のアルバム:ミレニアムサイエンススクールの写真(2)
朝顔ハナエ―――――――――――――――――――――
部室についたスズランを迎えたのは、色々なものが乱雑に散らかった部屋
そのどれもが良く分からないもので見たことがないものばかり
色々な機会が並ぶ、街並みとはまた違うそこに
スズランは興味深そうに、その部屋の中を見渡している
「ここが部室だよ。」
雷ちゃんが動きを止めて、体制を低くすると
スズランはぴょんと飛び降りる、
そして雷ちゃんの頭(?)を撫でて「あがとねー」と声をかけていた。
「ヒビキ、先生が来てくれたよ。」
ウタハさんが機械の下に潜って作業をしている人に声をかける。
それに気づいたようにそこから這い出てきて
そのゴーグルを外したのは犬のような耳の生徒さん。
先生の顔を見て、ちょっと目が輝いたように見えたが
私達にも気付いたようではあるものの、どうしようか、と悩み顔
「先生、そろそろだとは思ってた。
…予想外の人たちもいるみたいだけど。」
「紹介しましょう!こちらトリニティ総合学園の救護騎士団のお二人です!
朝顔ハナエさんと、その娘さん、スズランさんだそうですよ!」
「…娘?」
私の顔とスズランの顔に目をやって事情が掴めない様子のヒビキさん。
しかし、そんなヒビキさんの様子を追い打ちをかけるように
スズランはヒビキさんの頭の上のその耳をみつけたようで
隣に立っている先生のズボンを引っ張って、その耳を指さしている
「ぱぱ!おみみ!わんわのおみみ!」
「パパ…?」
"まあ色々あってね、パパって呼ばれてるんだ。"
「その色々が知りたいんだけど…あの…」
困惑顔のヒビキのもとへと先生を引き連れて駆け寄るスズラン
だっこだっこと先生に抱き上げてもらい
先生の腕の中からヒビキさんの耳へと手を伸ばす。
「え、あのちょっと…」
スズランの手がヒビキさんの頭を撫でて
ご満悦顔のスズランはニコニコと
ヒビキさんはどうしようか悩んで困惑顔。
"スズラン、おままごとセットはヒビキが作ってくれたんだよ"
「ほんと!?」
ヒビキさんの頭、というよりも耳を撫でていた手が止まる
驚きを示すかのように、頬に手をあてて
ヒビキさんに向けられたキラキラとした目に
ちょっと眩しそうなヒビキさんは目を逸らす。
「うん、そうだよ。そっか…君のために作ったんだね。」
「えとね、すごいね、とってもね。あのね!
たのしいでね、うれしいでね、いっぱい!」
一生懸命に自分の気持ちを伝えようとして
なんとか自分の知っている限りの幸せを示す言葉を探すスズラン
そんな言葉を向けられて、ヒビキさんは頬をかいて
ふふ、とほほ笑みを漏らしていた。
「スゥちゃん、とっても気に入ってるんですよ。
暇さえあればおままごとセットを広げて…」
「そっか、…まあでも私一人で作ったわけじゃないしね。」
逸らした視線をウタハさんとコトリさんにも向けると
ウタハさんはほほ笑んで、コトリさんはVサイン
先生の腕から飛び降りて、先生のもとへと集まった二人
並んだ三人へと勢いよく、深々と頭を下げる
「ありがとまーす!」
あまりに勢いよく下げるもので、前に転びそうになるスズランへ
3人がそれぞれ手を差し伸べて支えると
スズランはちょっと驚いた顔をしながらも
自分の翼をがさごそと、そこから3枚の羽根を抜き取る。
「これね、あのね…」
それを胸の前でもじもじと。
チラチラと3人の方へと目をやって差し出すスズラン
ウタハさんがその意味を察したのか、スズランに目線をあわせ
その手から1本の羽根を抜き取る。
「大切にするよ。」
ウタハさんの後に続いて、コトリさんが一枚
そしてヒビキさんが一枚受け取って、それぞれに羽根を眺める。
興味深げに、その羽根の感触を確かめたり
日に透かしたり、臭いを嗅いでみたりと
プレゼントというよりも、なんだか新しい素材を手に入れたかのようだ。
「ありがとうございます!」
「うん…物を作って、感謝をされるって、なんだかいい気持ちだね」
コトリさんとヒビキさんも羽根を受け取ってなんだか嬉しそうで一安心
トリニティならともかく、ミレニアムの方にも
その意図が通じたみたいでなによりだ。
受け取ってもらえたことが嬉しいようで
ほっぺたに手を当てて、じたばた足踏みをするスズラン
それを見ながら不意にヒビキさんが先生へと訊ねる
「もしかして、先生、例の物もこの子…スズランちゃんのため?」
"うん、そうだよ。"
そういえば先生は、何かを頼んでいる、と言っていた。
そして私達がミレニアムに行きたい、と言い出した時も
やけにすんなりと話が通ったことに合点がいった。
今度は何を作ってもらったのやら
そんな気持ちでみんなを見ていると
ヒビキさんとウタハさんが顔を見合わせて話し合い
「それなら、自爆機能は外した方がいいかもしれない」
「しかし…自爆機能がないロボットなど、ただの…」
いや、そうだね。誤操作でこの子が怪我をしてしまっては忍びない。」
そんな会話を聞いて、コトリさんと先生が目を丸くする
自爆機能、なんてものに驚いていたのかというとそうではないようで
"ウタハが、自爆機能をつけないことに合意するなんて…"
「ええ、驚きです…歴史が変わるかもしれませんね…」
そんなリアクションも素知らぬ顔で
何やら大きな機械の方へと歩いてゆくウタハさんとヒビキさん
ぽかんとした顔の二人の方へと私は歩み寄って尋ねる
「そんなに凄い事なんですか?」
「凄いも何も!ウタハ先輩のロボットといえば自爆機能!
あのいつも隣にいる雷ちゃんですら自爆機能を備えてるんですよ!
自爆機能を備えたせいで納品を断られたものは数知れず…」
「え?」
つい先ほどまでスズランが乗っていたあのロボット
ひとつ間違えば爆発していたのだろ思うと
頭の中に過るのは、ミネ団長とセリナ先輩の顔
周囲を見渡して見ると、様々な機械やロボットが立ち並んでいるが
そのどれにも自爆機能がついているのか、と思うと背筋が凍る
「……爆発、しなくてよかったです」
――――――――――――――
「ヒビキ、ちょっと手が離せない。そこのレンチをとってくれ」
「こっちも手が離せなくて…」
なんだか空を飛びそうな大きな機械。
こんな機械は見たことがないのでなんと呼べばいいのか分からないが
ぱっと見ただけでもマシンガンやらミサイルやら
なんだか不穏な装備が目に入る。
そんな機会を整備する二人の隣でスズランは
機械の中を覗き込みながら作業を興味深そうに見ている
「うたはー、これ?」
「ありがとう、でもそれじゃなくて、
…そう、その隣の…うん、ありがとう。」
スズランがウタハさんに工具を渡して
なにやらあれやこれやと作業をしている
それを私は先生の隣でお茶を飲みながらのんびりと待つ。
「これは…何を作っているんですか?」
"…さぁ?防犯ブザーを作って欲しい、と頼んだんだけど"
お話の流れから察するに、あの空を飛びそうな機械は先生が頼んだもの
なはずなのだが、どうにもその大きさも形も
防犯ブザーには見えないその機械。
「スズラン、ここを押さえておいてもらっていいかい?
あ、羽を挟まないように…うん。そう。」
「あい。」
「上手だね。うん…うん。はい、もう大丈夫だよ。ありがとう。」
なんだか一人前にお手伝いをしている様子のスズラン
ウタハさんに呼ばれて物を取ったり
ヒビキさんに呼ばれてウタハさんから物を届けたり。
「危ないからちょっと避けてましょうね」とコトリさんに抱き上げられたり
お洋服が汚れるのも気にせず、あっちにこっちに忙しそうだ
「ウタハ先輩、ヒビキ、リモコン側の設定も完了しましたー!」
「うん、こっちも駆動系に注油さえすれば終わりかな
スズラン、そこの油を…そうだ、やってみるかい?」
スズランを抱き上げて、何やら油を差しているスズラン
真剣そのものな顔をして、ウタハさんの指さす先に油をぽとり。
それが終わると、ヒビキさんから手招きされる
「スズランちゃん、こっちにも油をさして。」
今度はヒビキさんの指さす先に油を差して
うん。と私達の方へと戻って来るウタハさんへと合流する。
「先生、ハナエさん、作業終了だよ。お待たせしてしまったね。」
「じょうずできた!」
私の方へと駆け寄って来るスズランは
頬も洋服も手も、そして自慢の羽根もほこりまみれで油まみれだ。
それでも自慢げな顔をしているのは
きっと二人がいっぱい褒めてくれたからだろう
「スゥちゃん、よかったですね。
皆さんも、スゥちゃんにお手伝いさせてくださってありがとうございます!」
「とってもいい助手だったよ。
この子はとっても覚えがいい。」
ウタハさんの言葉に、うんと頷いて肯定するヒビキさん
少し疲れたように地面に座り込みながら、コトリさんから飲み物を受け取る
その隣に座るウタハさんも、なんだか達成感のある表情
「ほら、スゥちゃんきれいきれいしましょうねー」
「あー」
その隣でウェットでスズランの頬と手を拭ってあげると
ちょっとスッキリとしたのか、ほんのり朗顔
ひとしきり拭い終わったところでウェットティッシュを私から受け取って
ウタハさん達の方へと駆け寄ってゆく。
「ん?なんだい?」
「きれいきれい!」
ウタハさんの頬にもついていた油をごしごし。
じゃれつくようなその動きに、ウタハさんが目を細める。
そして次はその様子を見ていたヒビキさんの方へ行き、顔をごしごし
「いや、あの……私は自分でできるから。」
「ヒビキも、子供相手には形無しだね。」
「ウタハ先輩、からかわないでくださいよ…」
そんなひと息をついたあと
ウタハさんの「じゃあ、試運転といこうか」の一言で
ついさっきまで作っていた機械を外へと押し出す。
台車の上に乗せられていたその機会を、大きな扉から押し出して空の下へ。
広場の真ん中へと
なにやら機械の横についたボタンをポチポチと押す。
「全ステータスオールグリーンです!
初期キャリブレーション完了、はい、いつでも飛び立てます!」
「よし、じゃあ…起動!」
最後のボタンを押して、ボタンがある場所の蓋を閉めると
キューンと言う音が響いて、機械が空へと飛んで行く。
プロペラも翼もないように見えるのだが、大きな風を巻き起こし
一瞬で空高く、もう見えないところまで飛び立ってゆく。
「…起動は成功、だね、あとは実戦テストかな。ウタハ先輩」
「コトリ、戦闘用ドローンを起動してくれ。」
「承知しました!」
コトリさんへと指示を出して、私達の方へと歩み寄る。
そして、小さな防犯ブザーのようなそれをスズランへと手渡す。
「スズラン、敵が来たら、あぶないと思ったらこのボタンを押してくれ。
もしくはこれを強く引っ張ってもいい。」
「あい!」
スズランのポーチにキーホルダーのように下げられた防犯ブザー。
スズランがそれをぎゅっと握って
準備万端、となったところで、倉庫の中からロボットたちがぞろぞろと。
5体、10体、20体どんどんと数を増やして迫ってくる
何やら不穏な雰囲気で、銃を構えたそのロボットたちは私達を狙っているようだ。
さすがにこの数は、ミネ団長とセリナ先輩と一緒ならともかく、私だけでは対処できない。
慌てて私は銃を構えて弾を装填する。
エンジニア部の皆さんは、と確認をしてみるが
ヒビキさんも、コトリさんもなんだか涼し気な顔で
空を見ていたり、パソコンの画面を見ていたり。
そして、ウタハさんがスズランへと指示する。
「さ、今だスズラン。ボタンを押して。」
「ん!」
スズランと先生を後ろに庇ったところで
私の後ろのスズランから「ピロピロピロ!」と大きな音が鳴り始める、
防犯ブザーらしい音なのだがどうにもその音量は少し物足りない。
ちょっと失敗しちゃったのかな?なんて私が引き金に指をかけると
空の彼方、どこからかも分からないそこから
文字通り、銃弾の雨と、ミサイルの嵐が降り注いて、ロボットたちを薙ぎ払い
さっきまで不穏な雰囲気を醸し出していたロボットたちはただの鉄塊へと変わっていた。
「あのー…もしかしてこれ…」
呆気にとられる私に、ウタハさんが満足げな顔で頷く。
「防衛ブザー、まもるくん、完成だ。
ずっと上空からスズランを守ってくれるはずだよ
あとでブザーを鳴らしたときに君のスマートフォンにも通知がいくようにしておく。」
「先生!?こんなものをお願いしてたんですか!?」
"いや…私もここまでのものを頼んだつもりはなかったんだけど…"