救護騎士団のアルバム:はじめてのチョコ(2)

救護騎士団のアルバム:はじめてのチョコ(2)

鷲見セリナ

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私がボランティアから帰ってきてからしばらくすると

部室にスズラン達が戻って来た。

スズランの両手には、お徳用のチョコレートの袋。

それをかかえてホクホクの笑顔でご機嫌のステップ。


「ただまー。せりまま、おかりー」


「はい、おかえりなさい。」


その袋を抱きしめたままで

私の方へと駆け寄って来るスズランちゃん。

そしてその袋の中へ手を突っ込むと

チョコレートをひと握り、私の方へと差し出した。


「せりままー、きいてー。

ちょこね、とってもおいしいのね。」


と、たべてたべてと期待した目。

キャンディーのように包まれたそれを解いて

口の中に入れると、ちょっと冷たいチョコレートが

とけてとろけて、幸せな味で口の中を満たす


「はい、とても美味しいですね。」


「ねー?」


自分も一つ、口の中に入れて

もぐもぐもごもご、嬉しそうに笑うスズラン。

仕方ないものを見るように笑うミネ団長がコート掛けに上着を掛けて

ゆっくりと歩いて、スズランの傍で言う


「スズラン、チョコレートは美味しいですが

あまり食べ過ぎてはいけませんよ。」


「えー…」


「一日3つまでですからね。」


「あーい…」


自分の抱えた袋を名残惜しそうに眺めて

うーん、としばらく悩んだあとに

重い足取りでおやつをしまってある戸棚の方へ。


ちらり名残惜しそうにこちらを見た後

戸棚の中にチョコレートを仕舞って

戸棚を閉じたのだが、もう一度扉を開けて1つだけポケットに仕舞う。


「チョコレート、オッケーにしたんですね。」


「はい、身長と体重から考えると

もう大丈夫な歳と差がありませんでしたから。」


「とってもお気に入りになっちゃいましたねー。」


そんなことを言うミネ団長の視線の先には紅茶の缶。

きっと「もうすぐ紅茶も」なんて考えているのだろう。

いや「スズランが最初に飲む紅茶は何がいいか」だろうか。


そんなミネ団長を見ていると

部室の扉には来訪者

何があったか大怪我のその子の治療をしていると

チョコレートをひとつ差し出したスズランなのだった。


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翌日、部室にはスズランのお友達が遊びに来ていた。


お買い物に出たスズランが

しきりに周りを気にしているので

何かを探しているのだろうかと思っていると

お友達の手を引いて戻って来た。


「おうちであそぶのー。」


なんて言うので、部室にお招きをしたのだ。

スズランお気に入りのおままごとセットで一緒に遊ぶ二人。

どこで覚えて来たのやら

昼下がりの主婦のまねごとをしていた・


「うちのぱぱね、おしごとばっかりでねー。」


「あらー、おたくもたいへんねえ」


妙にリアリティのある会話に

笑いそうになるのを堪えながら

もうすぐおやつの時間かな、なんて思っていると

3時の鐘がカランコロン、と鳴り響く。


「おちゃする。」


「おやつのじかんだねー」


パタパタとスズランは、自分のおやつの戸棚へ歩く。

その中から昨日のチョコレートを引っ張り出して

おままごとセットに戻っていくスズラン。


「わ、チョコレートだ!」


「ちょこれーとね、しあわせ。」


「いっぱいだねえ。わたしもたべていいの?」


「いっしょにたべる。」


そんな会話をするスズランとお友達。

なるほど、おうちで遊ぶ理由はこれだったのか

と納得をしながら、二人の飲み物を準備する。


おやつがチョコレートならばココアはやめておこう。

甘いもののお供ならば、やっぱりホットミルクだろうか。

いや、お口直しにはちみつレモンもいいかもしれない。

ちょっとお砂糖が多すぎるかな。


なんて給湯室の方へと歩いていると

スズランがそれを追い越して

先に冷蔵庫の中を覗いていた。


「スズランちゃん、飲み物は何がいいですか?」


「あったかの!あったかのぎゅうにゅ!」


「はい、じゃあホットミルクを作りましょうか。」


牛乳をお鍋に移して温め始めるのだが

待ちきれない様子のスズラン。


「出来たら持って行くので、お友達の所に戻っててください」


と伝えると、嬉しそうにふんふん!と頷き

駆けて戻っていくスズラン。


よほどこの組み合わせが気に入ったようだから

今度はホットチョコでも作ってあげようか。

それともチョコチップクッキーと牛乳のセットにしてあげようか


弱火でゆっくり牛乳を温めながら

しばらく待っている間に

マグカップも二つ用意してお鍋の淵がふつふつと。


そろそろいいかな?

温度を確かめようとしていると

お友達の大きな声が、給湯室まで響いて来る。


「スズランちゃん!だいじょうぶ!?」


あまりの慌てた声に、私は火を止めて

部室の方へと駆けて戻っていく。


すると、こちらに背中を向けて、呆然と立ち尽くすスズラン。

その足元にはぽたぽたと血が落ちる。


転んだのか、何かにぶつけたのか

この流血なら大怪我かもしれない。


慌ててスズランの正面に回り込んだ私の目には

鼻から血がぽたぽたと

両手を血で真っ赤に染めて

びっくりした顔で固まったスズランがいた。


「せりなさん!スズランちゃんが!」


「……鼻血ですね。」


手近にあったティッシュで鼻を拭ってみても

まだまだ出てくるその血に

スズランをゆっくり椅子に座らせて鼻を押さえて状況確認。


「スズランちゃん、転んだりしました?」


「ころんでないです!」


「んーんー」


鼻を押さえる手に伝わるスズランの否定。

だとしたら何が、と新しいティッシュに変えようと

無意識に置いたティッシュ箱の方を見ると

そこにはたくさんのチョコレートの食べ殻。


二人で分けたとしても、ずいぶんと多いその食べ殻に

私が気づいたのを見てスズランはちょっと逃げ腰になる。


「スズランちゃん?」


「あい。」


「チョコレートは…一日何個まで、ってお約束ですか?」


「しゃん。」


「何個食べましたか?」


血まみれの手を指折り数え

ひとつふたつ、みっつめで数えるのをやめたスズラン。

ちらり、とこちらを確認する目に笑顔で返すと

四つ目の指が折られて、またちらり。


「スズランちゃん?」


「……いっぱい。」


数え終わる頃には、両手の指をすっかり全部折り畳み

自分の数えられる量の限界を超えた様子。


この子には怒る必要がない。

自分のやったことを認識させれば

しっかり反省できる子だ。


笑顔をちょっと強調すると

スズランの翼がしょぼんと縮む。

ほらちゃんと反省できている。


「ごべちゃあい…」


鼻を摘ままれ、鼻声のままで謝るスズラン。

心配そうなお友達が右往左往としているので

私はため息交じりに伝える


「大丈夫ですよ、ただのチョコレートの食べ過ぎです。

あなたは、大丈夫ですか?」


「はい。いっぱいたべてません…」


「そうですか。」


私の笑顔から目を逸らすお友達。

ちょっと不自然なその動きに

おや、と私が首を傾げると、目を逸らしたまま

気弱に小さく、言葉を紡ぐ


「ごめんなさい、わたしもいっぱいたべました…」




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