救護騎士団のアルバム:はじめてのチョコ(1)
朝顔ハナエ――――――――――
日課のスズランのお散歩の途中。
セリナ先輩は今日はボランティア。
私とミネ団長でスズランの後ろをついてゆく。
大きく手を振ってご機嫌な鼻歌を歌いながらスズランは歩く。
「スゥちゃんご機嫌ですねー」
「ご機嫌なのは良いのですが、今日はずいぶんと歩きますね。」
確かに、今日はもう学校中の道と言う道を
歩き尽くしたのではないかと思う程、長距離のお散歩。
なのに疲れた様子も見せず、まだまだ行くぞと手を振っていた。
「スズラン、少し休憩にしませんか?」
「そうですよー、ママ達疲れちゃいましたー…」
「えー。」
「お願いですー」
私がスズランにお願いをすると
もう、とちょっと呆れた顔で周囲を見渡すスズラン。
休憩できる場所を探しているのだろう。
そして、近くにあった学内のカフェテリアを指さすスズラン。
「おちゃー、おちゃする?」
「わぁ!それがいいです!ね、ミネ団長!」
「そうですね、体も冷えて来ましたから丁度よいでしょうか。」
「よーし!スゥちゃん、お茶の時間ですよー!」
私がスズランに伝えると
スズランも満足そうに駆け出して
私もそれを追いかけると
ミネ団長はちょっと置いて行かれながらも
「あまり急ぐと転びますよ。」
とちょっと笑いながら私達を見ていた。
私達が一足先についたカフェテリア
時間が時間だけに勉強をする人達や
ただ雑談をする人たちと、混雑をしたその店内。
入り口から覗き込んでいると
スズランは店の中へと駆けていく。
「けーきぶ!」
ちょこちょこぴょこぴょこ
スズランは大きく手を振りながらカフェの中にいた
スイーツ部の皆さんの方へと駆けていく。
「あー、スゥちゃん、だめですよー!」
一直線にスイーツ部の皆さんの方へと駆けていく
並ぶテーブルと人を避け、追いかけて追いついた頃には
スズラン既にナツさんの膝の上に抱え上げられるところだった。。
「やースズラン。おつかいの時ぶりだねぇ」
「一人?救護騎士団の人たちは?
……あ、よかった。居たんだ。」
カズサさんが周囲を見渡すと私を目が合って
「ごめんなさーい」と言う私に
大丈夫、と小さく手を振ってくれていた。
「なに?あんた達もおやつ?」
「はいー、お散歩に疲れて休憩しようとー」
「ふーん。でもいっぱいみたいだけどどうするの?」
ちらりちらりと、6人掛けのテーブルの空席に置いた
自分の荷物をそっと足元に置きなおすヨシミさん。
そんな様子を見て、アイリさんが苦笑い。
「もう、ヨシミちゃん。素直に誘えばいいのに…
ご一緒に、どうですか?って」
「いいんですか?…ミネ団長ももうすぐ来ると思うんですけど…」
「まあ…うん。いいんじゃない?
おやつはみんなで食べた方が美味しいし。」
アイリさんに指摘され、顔を赤くしながらも
つんとしたヨシミさん。
それもきっと、この皆さんの中ではいつもの事なのだろう。
テーブルに頬杖をついたカズサさんが
どうぞ、と空いた手で席を差し
ナツさんは、もうスズランにメニューを見せながら
「どれにする?」なんて聞いていた。
「ごめんね。分かりにくくってさ。」
「いえいえ。助かりますー
あ、ミネ団長ー、こっちですー!
スイーツ部の皆さんが一緒に、って!」
じー、っとメニューの文字を呼んでいるスズラン。
もうすっかり簡単な言葉くらいなら読むこともできるスズラン。
どれにしようかなー、と上からメニューを読み上げて
読めない文字は飛ばして読んで。
そうこうしているうちに、ミネ団長もテーブルの方へとやってきた。
「すみません、ありがとうございます。」
「怪我に病気にいっつもお世話になってるからお互い様ー」
「ナツちゃん!失礼でしょ!
しかもいつもお世話になってばかりで全然お互い様じゃないし!」
「私達は救護騎士団。当然の事をしているだけですよ。
それにしても…ふふ、相変わらず楽しい方達ですね。」
「ただうるさいだけで…。すみません…。」
ミネ団長が椅子に座ると
テーブル越しにカズサさんがメニューを渡す
私もそれに肩を寄せて、メニューを覗き込むと
季節の紅茶に、季節のお菓子。
久しぶりに来たせいか、目移りしてしまう。
「今日はどれにしましょうかねー
スゥちゃんは何がいいですか?」
「えとねー、あったかの!」
あったかの、ということはホットミルクだろう。
私とミネ団長が飲み物を決めて注文をすると
ほどなく、みんなの飲み物が揃って
楽しいお茶会が始まった。
テーブルには、注文した飲み物と
ナツさんが袋から空けたお菓子が転がる。
学内のカフェテリアだけに、持ち込み自由なその店内。
ミネ団長が相席のお礼にと注文したケーキスタンドが運ばれてきたときは
みんな物珍しそうに「おー!」と声を上げていた。
「今日は皆さんは、部活動ですか?
確か……スイーツ部、でしたか。」
「もうすぐバレンタインのお店が出るから
その特集見て、どこに行こうか相談中…です。」
ヨシミさんが手にしている雑誌
たくさんの付箋紙が着いたそのページには
キラキラと宝石のようなチョコレートケーキ。
思わずよだれが出そうになるのを我慢して
ほんのり苦い紅茶で口の中を胡麻化した。
「なるほどー、バレンタイン…季節が過ぎるのははやいですねー。」
「だいぶ季節には早いですけど、この時期から始めるお店も多いんですよ」
アイリさんが今度は手帳を見せてくれる。
そこには雑誌の小さな切り抜きがたくさん並んでいて
チョコミント味のチョコレートがずらり。
「さすがスイーツ部ですねぇ…リサーチが本気です…」
「本当に…、アイリさんはチョコミントがお好きなのですね。」
「はい!でもバレンタインにはあんまりなくて…」
私達がそんな会話をしていると
ナツさんの膝の上にすっかりと馴染んだスズランは
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「ばらちゃーん?」
「ん?バレンタイン。チョコレートを食べる日だよー」
「食べる日、っていうか、あげる日だけどね。
まあ…うん、結局食べるんだけど…」
「ちょこ。」
「そうそうチョコ、これのこと。」
ナツさんがテーブルの上に手を伸ばし、ひとつ。
キャンディーのように包装されたチョコレートを開いて
口の中へと放り込む。
「ちゃいろの、ちょこねー」
「そっか、スゥちゃんはチョコレート食べたことないですよね。」
「そうですね…とはいえココアももう飲めますし
チョコレートもそろそろ大丈夫でしょうか。」
ミネ団長と私がそんな話をしていると
スズランはテーブルの上のチョコレートをツンツンつつく。
きっと食べた事のないその味がどんなものかを想像しているのだろう。
「気になるー?」
ちらり、ミネ団長の方を見るナツさん。
それを追いかけ、ミネ団長の方へと視線が集まり
ミネ団長はカバンの中から子育て手帳と、子育ての本を取り出して
うーん、と少し悩んだあとに、決心したように頷いた。
「スズラン、食べてみますか?」
「みる。」
「よーし、じゃあ初めてのチョコ、いってみよー」
ナツさんがチョコレートをひとつ取り
スズランの両手に、包装の両側を摘まませる。
その手を引っ張り、クルクルと回ったチョコレート。
さっきのナツさんの真似をして、スズランがそれを口に放り込む。
噛めばいいのか、舐めていていいのか
どうしたものかと真剣な顔をするスズランに
ミネ団長と私、スイーツ部の皆さんが視線を集める。
しばらくのモグモグの後、スズランは首を傾げる。
傾げてまたもぐもぐ、もう一度首を傾げてもぐもぐ。
首を傾げるたびに見開いて、キラキラとしていくその瞳。
もっともぐもぐすると
きっと口の中のチョコレートがなくなって
ようやくスズランは興奮気味に口を開いた。
「ちょこ、おいしーねー!」