スズランの思い出:初めてのてっぽう選び
三峰スズラン私がもうそろそろ中等部に入る頃、ミネママが言い始めた。
「スズランも自分の銃を持つ頃かもしれませんね。」
セリママとハナママが揃ったその日だったので言い出したのだろう。
そんなこんなで、私達は銃砲店へと向かうのだった。
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お店に入る前、いやもっとずっと前から私は決めていた。
テレビのCMを見ながら、カタログを見ながら
色々と選びに選んでいたものがあった。
学校支給のこのハンドガンも悪くはないが
なんといってもパワーが足りない。
遠くで撃てば打つほど当たっても意味がないので
どうせ近づいて撃つのだ。それならミネママと同じのがいい
私はそのとても重いドアを開け、お店に入る。
「らっしゃい。…おう、ミネちゃんにセリナちゃん、ハナエちゃんも…
どうしたどうしたみんな揃って!珍しいね!弾切れかい?メンテナンスかい?」
ブルドッグの店長さんがカウンター越しに身を乗り出す。
みんな忙しくって、みんな揃うのは最近はめっきり減った
前はほどんと毎日だったのに、今は週に1度だけ。
そして最近ママも銃を使うことがとっても減った。
治安、というのだろうか
大騒ぎなことは減ることもないが、今の生徒会の人たちが
そして今の正義実現委員会の人たちが制圧してしまう。
ミネママは、今の自治に任せる事が大切だから
だから、もうあんまり使う事はないのだそうだ。
それとあわせて、セリママも、ハナママも銃を使う事はない。
私達の戦場は、患者さんのいる所なのだと言っていた。
「いいえ、この子の銃選びです。」
「そっか、もうそんな歳かね。」
「ええ、もうそんな歳です。」
店長さんとお話をするミネママはおいておいて
私はショーケースの中から"救護の証明"を探す。
迷わずショットガンのガラスケースの前を歩く私は見慣れたそれを探している
「……ない。」
「ない?なにがですか?」
「救護の証明。」
「それは、まあ…救護の証明は私の物ですからね。」
「違う。同じやつがない。」
私は棚の端から端を見渡しても、どこにも見当たらないその形。
レバーアクション式、単発式のショットガン。
ショットガンといえばポンプアクションばっかりだ。
これは両手じゃないと撃てない。
「ああ、そういうことかね…もう随分前に製造終了しちまったからなぁ…
今となっちゃあ、…といってもミネの嬢ちゃんの時からだったが
アンティークばっかりで動くものも多くはねぇな。」
店長さんはミネママの腰に提げた救護の証明に目をやる。
今は使う事はほとんどないとはいえ
ミネママと大ゲンカするときは火を噴くそれは
まだまだ元気に役割を果たしていた。
「そうですね、もう替えの部品一つでも、随分なお値段になっていますし…」
大切そうにその銃身をさするミネママ
私を見る時と同じ目をするミネママに
じゃあそれをちょうだい、とは言えるわけがない
そんなしんみりした空気を壊すようにハナママが言う
「じゃあ、私達とお揃いにしませんか?」
「そうですね、私達のと同じものなら、新型もまだありますから」
棚に掛けられたそれを指さして言うのだが
私はあんまり好きじゃない。
前に使わせてもらったことはあるが
いっぱい打つと暴れてしまって当たらないのだ。
「やだ、暴れん坊だし…」
「あ~」
「…あの時は、お片付けが大変でしたね…」
私が前に撃った時のことを思い出したようで
ハナママが唸り、セリママが頭を抱える。
あれは初等部に入ったばかりの頃
もう自分の銃を買ってもらった同級生が羨ましくて
こっそりハナママが置きっぱなしにしていた"ハッピースマイリー"を撃ってみた
引き金を引くと、ズダダダダ、と銃身が大暴れをして窓の外
なんにもない方に撃ったというのに部屋の中が大惨事。
とても、とってもママたちに怒られたものだ
もう自分の銃は決めていただけに
棚のどの子もあんまり魅力的に感じない。
「お嬢ちゃんはどんなのがいいんだい?」
「うーん…、とても強いやつ…一発で救護できるような?…です。」
「一発で、ねぇ…」
店長さんがカウンターから出て来て
私が見ていた棚と違う棚のガラスを空ける。
同じ姿の子達が並ぶその棚から、その値札を見て
一つ一つ薬室を空けてうん、と出してきたその子
「うちにあるので、一番威力が強いと言えば、これではあるんだが…」
それは狙撃銃。一緒に出してくれた弾薬は
見慣れたセリママとハナママが使う弾薬よりも一回り大きい
ミネママの使う散弾銃の弾薬よりも長い。
以前に見た、マシロが使っているものよりはだいぶ小さいが
それでも、大きいのはとてもよいことだ。
とっても強いことだ。と大きなはしゅも言っていた。
でも狙撃銃というのは、マシロみたいに遠くから狙って
よーく狙って慎重に打つものだ
一発で戦況を大きく変えるからこそ、慎重に狙うのだと言っていた。
「…スズラン、こちらにしませんか?」
「なんで?」
「……あなたはとっても目と耳が良いですからね。
遠くから狙うというのは、とても得意ではないでしょうか…」
ミネママが理由を探すように目を逸らす。
きっと嘘をついているわけではないが、隠し事の時の目だ。
つい買ってきた、ウェーブキャットさんのぬいぐるみの理由を言うとときの目
「ひとりぼっちでかわいそうだったので」
「この子だけ耳が潰れてしまっていたので」
「この子がワゴンセールにいるのが切なくて…」
誰も責めはしないのに、いろんな理由を並べて、買ってきたときの目。
ハナママとセリママに目をやると
セリママはなんだかミネママの思っていることを分かったかのように同じ目をする。
セリママはいつもそう、ミネママの思ってる事がすぐ分かる。
対してハナママは、よくわかっていない顔をする。
「そうですね、スズランちゃんは得意かもしれません
マシロさんなんて、スズランちゃんが狙撃手だったら最強
なんて言っていたくらいですからね」
確かに昔言っていた。それは記憶にある。
でもミネママもセリママも、なんだかごまかそうとしている。
2対1不利だ。困った
そんな中、分からないハナママが助け船
「でもスゥちゃんは散弾銃がいいんですよね?」
「うん、それがいい。」
「そうか、じゃあこっちなんて…」
狙撃銃をカウンターへと置いて
ショットガンのガラス棚を空けようとする店長さんの手をミネママが抑える
「いいえ、これにしましょう。ね、スズラン?
きっとあなたはすごい狙撃手にれると思います
救護騎士団は治療がお仕事、最前線で戦うなんて…」
「そうですよ、私とハナエもバックアップが主なお仕事で…」
この人達は、自分がやっていたことをさておいて何を口走っているのだろうか。
ミネママは最前線、その真後ろにはセリママ。
何度その光景をハナママに抱かれて目にした事か。
なんならトリニティに飾られる肖像画の一つにもそれが描かれている。
ちゃんと後衛に徹していたのなんて、ハナママくらいなものだ。
じっと二人の方を見ると
ミネママの心臓がびくりと跳ねたのが聞こえる。
やっぱり、何かを隠しているので間違いなさそうだ
「前線は、ほら、とても危ないですから…」
「そうですよ、盾を持つのは嫌、って言ってたじゃないですか」
「なるほど!スゥちゃん狙撃銃にしましょう!
怪我したらたいへんですから!」
確かに、一度盾を持ってみたが、重いのでやめた。
二人で盾で突撃すれば最強、なんて思っていたが
盾が重くて飛ぶのも大変だし、走る時もとっても邪魔だった。
それをやっていたミネママのすごさに感心したことがある。
「うーん」と悩む私に店長さんがため息一つ。
「なあ、ミネちゃん達よ…立派なママをするのはいいんだが
自分の相棒くらい、自分で選ばせてやったらどうだね。」
その言葉に、ママたちがしょんぼりとする
「そうですね」としょんぼり顔で顔を伏せる。
顔を伏せたままちらりちらりとお互いの顔を見て、もっとしゅんとする。
もっと言ってやれ、しゅっしゅと拳を突き出して店長さんを応援すると
ニカッとと笑って見てくれる
「ひとしきり出してやろう、自分で撃って決めるといい。」
親指を上げて、ちょいちょいと指さす先にはシューティングレンジ。
店長さんがいろんな銃を出してくれて弾を込めてくれる
私は一日まるまるかけて、自分の「相棒」選びに勤しんだ。
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私はぴかぴかの狙撃銃を背に背負う。
私が気に入ったのはすべすべなデザインの狙撃銃。
おんなじ形をした中でも、一番大きな弾をつかう狙撃銃。
試しに撃たせてもらった"救護の証明"よりも
どっかんとはじける花火のような感触に、私は心奪われていた。
とっても強くて、なんでも貫くのだそうだ。
店長さんが準備してくれた、ミネママの盾と同じ素材の板を軽々と貫いた。
ミネママは、それを見てちょっとむっとしていたが。
名前もつけた。"救護の意思"それがこの子の名前だ。
おまけにとぴかぴかのスコープもつけてくれた
お祝いに、と着けてくれた。
来週には色を塗ろう、再来週には色々飾ろう。
しかし、その数日後、私は知ることになる。
狙撃銃で殴っちゃダメ。スコープが割れる。
地面に突き刺そうとしちゃダメ。銃身が曲がる。
いっぱい撃とうとしちゃだめ、すぐに弾が切れる。
残段数は把握しておかなくちゃだめ、気づくと弾が切れている。
いいこともあった。ミネママ以外は一発で倒れる。
しかし、いっぱい撃つと
とっても弾が高いのですぐにお小遣いがなくなる。
なんと、セリママとハナママの5倍、ミネママの10倍。
しかもミネママは卑怯。自分で詰めればもっと安いのです、とリサイクル。
私も真似して道具を借りてやってみたが、まっすぐ飛ばなかった。
しちゃダメなことがとっても多い銃だと知り
「やっぱり散弾銃買って!」とママたちにねだるのはもう少し先のことだった。
そしてミネママに
「あなたは"救護の意思"を捨てるのですか?」
と聞かれなんにも言えなくなってしまうのも、もう少し先の事だった。