救護騎士団のアルバム:ミネとスズラン?
朝顔ハナエもうずいぶんと大きくなった頃のスズランとミネ団長の写真だ。
なんだかもじもじしたスズランと、笑顔でVサインのミネ団長
他の写真とは違うその雰囲気に
写真の隅に映る正義実現委員会の皆さんも
なんだか頬が紅かったり、照れた顔をしていたりしているようだ。
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私達のもとに、新薬の小瓶が送られてきた。
その送り元は「シャーレ」とはなっているものの
シャーレから送られたにしては、ずいぶんと古風なその箱。
それを空けてみると
何やら、栄養剤のような茶色い小瓶には「健忘解消薬」との記載
添えられたその説明書、というにはあまりに短い手紙には
「先生が困ってると聞いて、健忘の解消薬を作ってやったのだ!」
どうにも怪しいその薬を取り上げて、ミネ団長がしげしげと眺める。
成分表もなにも付属しないその薬を
ミネ団長がしげしげと眺め、その隣ではスズランが真似をする。
「これは…本当に健忘を解消できるのであれば、画期的なお薬ですね。」
「でも、シャーレからとはいえ、さすがに怪しいですよ。」
「毒性がないことくらいは確認した方がいいかもしれませんね…」
箱いっぱいにはいったその薬。
先生が私達に託したのであれば、何かしらの依頼ではあるのだろう。
ミネ団長がキャップを空けると、独特な臭いが充満する。
キノコや、土のにおいを思い出させるそれは、漢方の独特の臭いだろうか
試薬へと一滴ずつ、ピペットにとって検査薬と混ぜる。
神経毒系、問題なし、筋弛緩薬の類でもなし、どの試薬とも反応しないその薬
数十に及ぶ毒薬、麻薬、その他有害な成分の試薬のどれにも反応しない
「毒ではないようですね。肌にかぶれも…なし、舌に痺れも…なし」
小皿に分け、自分の肌に乗せて、指から一滴だけ舌に乗せて
と確認を進めるミネ団長のとなり、その瓶を不思議そうな目で
そして興味深そうな目で、スズランにが見ていた。
「漢方の類、ということでしょうか。」
「かんぽ、おくしゅり?」
「はい、漢方はお薬の一種で、生薬という
草や、お花、きのこなどで出来たものです。
普段から健康のために飲む方も、いるのだそうですよ。」
まだ部屋中に霧散するその匂いにくんくんと鼻を効かせるスズラン。
ミネ団長も最近はスズランに対して
薬の知識を教え込もうとしているのか
「ちょっと待ってくださいね」と図鑑を開こうと目を離す。
しかし、それが悪かったのだろう
薬、と聞いてスズランが興味を示さない訳もなく
ミネ団長が小皿に放置したその薬を、自分の指につけ、ぺろりと舐めた。
「…まじゅいねー!」
「こら、スズラン!お薬を勝手に触っては…」
と慌てて切り返したミネ団長の脚がもつれ、スズランの方へと倒れ込む。
倒れる小瓶と、ぶつかるミネ団長とスズラン。
私達が駆け寄る頃には、テーブルの上には瓶が転がり
テーブルの下にはミネ団長とスズランが転がっていた。
セリナ先輩がミネ団長とスズランに駆け寄って
私も慌てて二人のもとへ。
どうやら、転ぶ前にスズランは、と庇ったようで
ミネ団長に抱きかかえられるようにして、転んだスズラン
「大丈夫ですか、ふたりとも…ミネ団長?」
がばっと起き上がり、様子のおかしなミネ団長。
きょろきょろと虚空を見つめたり、自分の手を見つめたり。
私達の顔を見たりと、その顔の向きが忙しく変わる。
そして、ミネ団長に呼びかけたはずなのに、答えたのは"スズラン"
「ぁい、だいじょぶです。…しゅじゅらんにけがは…」
いてて、と額をさするスズラン。
普段はこんなに流暢に話すことなんてあまりないそのスズランが
スカートの裾を押さえて、なんだか乙女かのように起き上がっていた。
私とセリナ先輩はお互いを見て、その不思議な様子に呼びかける。
「スズランちゃん?」
「スゥちゃん…?」
声を掛けられて、答えたのはミネ団長。
まるで自分が呼びかけられたかのようにミネ団長が答える。
「なぁに?」
みんなで目を合わせながら
ぱちくりと状況が分からないのは、きっとみんな同じ様子
どうにもこうにも、何が起きているのか分からない状況に
一番最初に声を上げたのはスズラン。
「どーやら、わたしと、すじゅ…すずらんがいれかわったようですね。」
「ね!」
状況を整理すると、薬の効果なのかなんなのか
ミネ団長とスズランの記憶なのかなんなのか、入れ替わった様子で
頭を抱えるスズランと、羽をパタパタさせているミネ団長
試しに、ミネ団長に鏡を見せてみると
自分の顔をペタペタ触り、自分の髪の毛をひと房握り
自分の羽根を確かめて「ほほぉ!」と声を上げるミネ団長
「みねままになった!」
「ええ、どうやらそのようです。」
ミネ団長、いや、中身のスズランが救護騎士団の備品の姿見の前へかけてゆく。
その前で羽根をパタパタさせてみたり、ふんす、と胸を張って見たり
地面までの距離を見て「わっ!」と驚いたりと不思議を楽しむリアクション
と、思ったのだが、ミネ団長が立てかけておいた盾を手に取って
「にー」とミネ団長がしないであろう笑顔で声を上げた
「きゅうごいく!」
「ちょっと、まちなさい!まちなさいすずらん!」
ふんふん、と大きく手を振り、部室の扉を開けた
というよりも、ドアノブごと捥いだミネ団長
自分の手に握られたドアノブを見て、あれ?と首を傾げている。
まあいいか、とドアノブを床にそっと置いて少し撫で。
その留め具のなくなったドアを押し開け、校内へと歩き出す
それを追いかけるスズランの姿に、私達は呆気にとられ
追いかけるのに少し、出遅れてしまった。
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るんるん、と歩くミネ団長。
大きく手を振って盾を振って、その右手にはスズランが不安そうな顔で手を繋ぐ
そんな不思議な光景にありながらも
スズランに手を振って、それを返してくれないスズランに違和感があったのか
駆け寄ってきた生徒が一人
「大丈夫?」
「…だいじょぶ…です…」
「わー、丁寧な言葉覚えてる!偉いですね!」
スズランを撫でる生徒を見ながら
隣でミネ団長ことスズランは
自分が撫でられているのが気分がいいのかなんなのか
ご機嫌のキラキラ、ニコニコ笑顔でそれを見ているようだ。
ミネ団長に違和感を覚える生徒。
そんな事もお構いなしのミネ団長inスズランは
その子の頭をよしよし、と撫でる。
「あの…ミネ団長…」
「ありがとうねー」
先ほどのドアノブの件で、力加減を覚えていなかったら
と思うと少し恐ろしいものの、ちょっと嬉しそうにして
顔を少し赤らめながら駆けて逃げ出す女子生徒
「あー、いっちゃったねー」
「…せりな、はなえ、わたしはどうすべきだったのでしょうか…」
真っ赤な顔したスズランに、私はここぞとばかりに写真を撮る
普段、大抵の失敗くらいなら恥ずかしがらないスズランの
こんな表情を見る事なんてどれだけ珍しい事だろうか。
きっと入れ替わってしまった本人としては
たまったものではないのだろうけれど
私もセリナ先輩も、ミネ団長の問いよりも
スズランらしからぬ表情に一心不乱にカメラを向けていた。
はぁ、とため息をつくスズランinミネ団長だったが
ふと周りを見渡し始めて、いつものスズランのように
右を見て、左を見て、どこの何を見ているのか
首をかしげて、はるか遠くの目標を見つけた様子。
「…すずらんのからだは、すごいですね…
こうもんに、はしゅみさんたち、けがしています」
遠く遠く目を凝らせば、黒い制服の人たちが
何やらボロボロの様子でこちらへと向かってくる。
私はそのままカメラを向けて、指ですすっと拡大すると
ハスミさんがツルギ委員長に肩を借り、歩いてきている様子だ。
「ようきゅうご、はっけん!」
「ちょっと、ま…」
ミネ団長が駆けだそうと構えると
大理石の床にぴしりとヒビが走る。
そして駆けだすミネ団長、そしてその腕の先で揺られるスズラン
慌てて私達も駆けだすと二人は既にハスミさんの目の前で
ミネ団長はポーチの中をガサゴソと、なにかを探しているようだった。
普段なら、すぐに治療を始めるミネ団長なのだが
なにせ中身がスズランなので、治療に手間取る様子に
ハスミさんもおかしいと思ったようで疑問を口にしていた
「ミネ団長?…今日は一段と様子がおかしくありませんか?」
「わたしです、わたしがみねなのです…」
「?」とハテナを返すミネ団長
その隣からスズランが自分がミネ団長だと名乗り出る。
きっと今しがた戦闘を繰り広げてきた彼女たちには何がなんだか分からないだろう。
しかし、ミネ団長にとっては自分の姿がスズランであろうと
目の前の怪我人の方が大切なのだろう
真剣な目でハスミさんの足を確認し、私達へと指示を出す。
「とりあえず、おうきゅーしょちをしましょう、べんちへ。
せりな、はなえ、らいすそちのじゅんびを。」
スズランの口からその言葉が発せられ
ツルギさんは、ハスミさんをそっとベンチへと降ろす。
じっと、スズランへと熱視線を向けていたツルギさんは
ミネ団長が、スズランへと包帯を渡し
足をくじいた様子のハスミさんの治療を始めると
先ほどの私達と同じように、状況を呑み込めない顔で
ミネ団長とスズランの顔を行き来する視線。
そんなハスミさんの足首が、スズランによって固定されてゆく中
ミネ団長が、ツルギさんの頭を撫でて一言
「つるぎ、えらいね。はしゅきゅうごして、えらいこね。」
どうやら、それで理解の限界を超えたようで
ぷしゅ、と頭から煙を上げてそのままのポーズで地面に転がった。
「あら」とそれを見送るミネ団長
そして、ポーチからウェットティッシュを出して
土埃に塗れた正義実現委員会の生徒達の顔を拭ってゆく。
普段、私達が治療をする間、スズランがやっている事ではあるのだが
ミネ団長の姿でそれをされては、たじたじになる生徒も少なくはない。
ようやく主要な怪我人の治療が終わるころ
ミネ団長姿のスズランも一頻り、みんなの汚れを拭い終わったようで
私達のもとへと駆けてくる。
「はしゅ、いたいのいたい、いいこね」
「あの…ミネ団長…いやスズランさん…それはちょっと…」
「すじゅらん!いまは、いまだけは…」
最後に、ハスミさんの頭を撫で
それを見たスズランと撫でられたハスミさん二人の顔が紅くなる。
因縁浅からぬこの二人だ、何か思う事があったのだろう。
それでも容赦なくハスミさんの頭を撫でるミネ団長
周囲はそんな姿を見て、事情を把握してかせずかで色めき立つ。
私はそんな姿も記念かな、ともう一枚シャッターを切ると
ミネ団長はカメラへとVサインを向けた。
それと共に、カメラを構える私達のモモトークに
”送られた薬は危険物だから、触れずにシャーレに送り返して”
と時すでに遅いチャットが飛んできたのが見えた。