救護騎士団のアルバム:ミカさんとのお散歩
鷲見セリナ普段のお散歩のときの写真だっただろうか。
ミカさんが指を指す方向に駆けだすスズランと
捕まえて来たネズミをミカさんへと差し出すスズラン。
その日の写真ではとっても楽しそうに見えるのだが
別の日の写真ではなんだかげっそりとしたミカさんが
スズランからネズミが入った袋を受け取っていた。
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スズランの「狩り」が始まったころ。
私達は校内のお散歩が少し不安定な気持ちでした。
スズランが「ん!」と手を差し出す
私がビニール袋を右手にかけてあげると
今度は左手にも、と差し出される。
(今回は二匹か…)
と両手に袋を被せると、スズランは周囲を見渡して
狙いを定めたようにじっと一角を見つめて、ふいと姿を消す。
「…とった!」
曲がり角の向こうからスズランの声がする。
もう今日だけで5匹
いや、きっとその両手に捕まえたネズミを合わせると7匹だろうか。
きっと、ナギサ様も"喜んで"くれるに違いない。
はぁ、と深いため息をついていると
私の顔を覗き込むように、ひょこりと姿を現したのはミカさん。
「どったの?憂鬱そうな顔してるけど。」
「こんにちは、ミカさん
…ちょっと憂鬱なことがありまして…」
私がなんて説明をしたものか、と悩んでいると
それを説明し終える前に、スズランがこちらに向けて駆けてくる。
右手に1匹、左手に2匹、計3匹を捕まえたその両手を前に
とてとて、パタパタ、どう考えてもネズミなんて捕まえられない足取りで
私達のもとへと駆けてくる。
「みかふえた!」
「こんちはスズランちゃん…なにそれ?」
両手に握っているネズミをしげしげと
なんだろう、と顔を近づけるミカさんを
その肩を押し止めようとしたものの
ミカさんのリアクションは私が思っていたものとは違っていた。
「うわ~、ネズミさんか~」
スズランの手にかけられたビニール袋の意図も察したのだろう
その袋を裏返しに、ネズミをビニール袋に封じ込める。
両手とも、合計3匹のネズミを括って平然としていた
ミカさんといえば、お嬢様なイメージが強く
ネズミなんて、と思っていたのだが
なんでこんなに平然としているのかと疑問が口を突いた。。
「あの…ミカさん、ネズミ…大丈夫なんですか?」
「ん?…あ~、最近大丈夫になっちゃった。
今の部屋だとしょっちゅう出るから。いろんなもの齧られて大変なんだ~」
うらめしそうにスズランから受け取ったネズミをゆらゆら揺らす。
既に褒められ待ちのスズランの頭を
ミカさんがわしわしと撫でると、スズランは満足顔をした。
「最近減ったと思ったら、スズランちゃんが捕まえてくれてたんだねー」
「いっぱいねずみさん。
がじがじ、わるいこ」
「そうそう、なんでも齧って壊しちゃうんだよね。
ほんと、わるいこだよね」
ピン、と袋の中で暴れるネズミに指を弾くミカさん。
きゅう、と最後の一声を上げて気絶するネズミを見ながら
深いため息をついているようだった。
そういえば、最近はネズミに服に穴を空けられることも
ハナエがネズミに隠していたおやつを食べられて悲しむことも
医療品の棚に穴とネズミの足跡を見つけて
高価で貴重な医療品の棚を全部入れ替える羽目になることもずいぶんと減った。
そう考えると、このスズランの狩りというのは
学校自体には良い効果を出しているのだろうか。
「私達には悩みの種、なんですけどね。
お散歩のたびにネズミを捕まえてこられるので。」
「あはは、セリナちゃんネズミ、ダメなんだね。」
「得意な人の方が少ないんじゃないでしょうか…」
私の困り顔に、ミカさんが笑う。
しかし、そんな私の気持ちも露知らず、スズランは私のスカートを引っ張って
また両手を差し出しているあたり、ネズミの気配を察したのだろう。
袋を両手にかけると、ふんふん、と鼻息荒く
さあ、どこにいった。と周りを見渡すスズラン
「ねえ、私もお散歩一緒に行っていい?」
「みかねも!?」
「はい、それは構いませんが…ずっとこの調子ですよ?」
「うん、おっけーおっけー
よーし、スズランちゃん、学校じゅうのネズミを狩り尽くそ!」
にっ、と笑うミカさんと、笑い返すスズラン。
いつもならゴミ袋1袋も集めれば多い方なのだが
その日は合計5袋にも及ぶことになったのだった
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「ナッギちゃーん!」
「なっぎー!」
ネズミでいっぱいの袋をもって生徒会室の扉を開くミカさんとスズラン
いつも以上の大量に、意気揚々のスズランと
ナギサさんがネズミが苦手だと伝えると
イタズラを思いついた子供のような顔をしたミカさん。
きっとスズランは、いっぱい捕まえたから
いつもよりも褒められる、と思っているのだろうが
執務をしていたナギサさんの顔は、思ったより引き攣っていた。
「…ミカさん、なぜスズランさんと一緒に」
「一緒にネズミ狩りしてたんだ~
ティーパーティーで処理してる、って聞いたから持って来てあげたよ!」
「……ありがとう…ございます。」
自席を立って、嫌々な足取りでこちらに来たナギサさんの目の前に
ネズミがいっぱい詰まった袋をどすん、と落とすミカさん。
それに青ざめるナギサさんに、まってました
と、スズランにちらりと目線をやると
つい今さっき捕まえた、まだまだ元気なネズミの袋を
スズランがナギサさんの方へと私に駆ける。
「なぎー、あげるー」
「…ありがとうございます。
スズランさんのおかげで、学園がより綺麗に……」
「ナギちゃんあげるー」
スズランからなんとか引き攣った笑顔でネズミの袋を受け取るナギサさんに
追い打ちをかけるようにミカさんが目の前にネズミの袋を差し出す。
「きゃっ!?」
そんな恥じらう乙女のような声を上げたナギサさん
ずいぶんとかわいい驚きの表情だったのだが
そんなかわいらしい表情が、だんだんと険しくなってゆく
じわりじわりと立ってゆく額の青筋。
脈を取らなくてもわかる、みるみるうちに血圧が上がってゆく。
「……ありがとうございます。ミカさん。
そうですね、お礼にお茶会でもいかがでしょうか。
スズランさん、手を洗ってきてください。おやつにしましょうね」
ちらりと生徒会のメンバーへと目線を送ると
何かを恐れた様子でバタバタと動き始める。
スズランは慣れた様子で生徒会室の給湯室へ。
きっと手を洗う予定なのだろう。
「わーい、今日どんなお菓子があるの?」
スズランのあとをおいかけて
自分もと手を洗いにいくミカさんの道を阻むナギサさん。
「ミカさん、そういえば今日は朝食を抜いていたとか。
…例の物を。早く。」
厳しい口調に、生徒会のひとりが、白い箱を持って駆け寄る。
ナギサさんの隣に、慣れた様子で差し出されたその箱からは
カットも何もされていないロールケーキが取り出される。
「ちょっと、ナギちゃん…ほんの冗談、冗談だって…」
「ごはんを抜くのはよくないですよ!」
ナギサさんにより、直接ミカさんの口へと突っ込まれたロールケーキ。
慌てて手を使おうとするミカさんの手首を掴んだナギサさん。
「あら、ネズミを触った手ですからね
食べ物に触れてしまっては、何がついているかわかりませんよ。」
「ね?」とこちらに同調を求めるナギサさん。
その言葉にはっとしたように、手を使おうとするのをやめて
ロールケーキを崩さないように上を向き
なんとかかんとか、給湯室に向かおうとするミカさんへ
ナギサさんは追い打ちをするように話しかける。
「そうですね、…今後1週間のミカさんの奉仕活動の内容を変えましょう。
寮に出没するネズミの捕獲と退治。
嫌と言うなら、断ってくれても構いませんが…」
「んーんー!?」
「…どういたしましょうか、嫌なら嫌とはっきり言ってくださいね。」
「んー!」
「はい、嫌と言わないので、決定しました。」
成功した仕返しに、ニコニコ笑顔のナギサさん
その笑顔にはまだ怒りは残っていそうだが、だいぶスッキリもしたのだろう。
まだまだ口に入ったロールケーキをモグモグと
なんとかそれを落とさずに給湯室に向かおうとするミカさんを
一足先に、生徒会の方の手を借りて手を洗ってきたであろうスズランが
「またか」と言わんばかりの目で見ていた。