救護騎士団のアルバム:イチカとスズラン
仲正イチカまだまだ小さなころのスズランの写真だ。
ようやくフルーツを食べられるようになった頃だっただろうか。
正義実現委員の生徒達に囲まれるスズラン。
救護騎士団の方たちがいないあたり、スズランが預けられた時の写真だろう。
救護騎士団の方がお忙しいときは正義実現委員で預かることも少なくはなかった。
スズランをを抱っこするマシロと、後ろで腕組みをしている私。
ほんとうになんの時の写真だったかな、とページをめくると
上着を脱いで、下着も肩紐をずらし、真っ赤な顔をした私の写真。
そして、その下にはなんの動画なのかメモリーカードが挟まれている。
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「なんで毎回私がスズランちゃんのお世話係なんっすか!?
他にもやりたそうな子がいるじゃないっすか!!」
ハスミ先輩からスズランを受け取りながら文句を言う
確かに、あまり前線に出る方ではないがだからといって
初めてスズランちゃんを預かった時のアレを期待されていそうで
なんだか気が進みはしないのはその通りなのだ。
「そうはいっても、あなたが一番適任なのです、イチカ。」
その目線はツルギ先輩に向いている。
目がギラギラと開かれていて、なんだか瞳孔も開いているような。
そしてその隣ではなんだかそれに気圧されている委員の生徒達
なるほど確かに、これに預けるわけにはいかない。
「……大丈夫だ、私が護衛を…
…今日のために、…準備は…万全だ」
「ツルギ、残念ながら今日はあなたには仕事があります」
「…なん…だと?」
自分の予定がすっかり飛んでしまっていた様子のツルギ先輩
なんだかんだ、私に任されたとてきっと見守るつもりだったのだろう。
しかしながら手帳の予定を見せられて、絶望した顔をしているその人と
はぁ、と深いため息をついているハスミさん。
「イチカ。任せましたよ。
困った時には手帳を見れば分かる、とのことですから。」
「…あ゛あ゛あ゛あ゛」
「ほら、ツルギ!…随伴予定の子たちも、ほら行きますよ。」
半ば引きずられるような姿勢でツルギ先輩がつれて行かれる
そして部屋に残っていた大半の委員の生徒達も部屋を出る。
最終的に部屋に残されたのは、マシロと私、そして数人の生徒だけ。
「…マシロ、これは私にどうしろっていうんすかね」
「さぁ?」
ミネ団長が置いていったベビーベッド
そしてそこに山と積まれた子育て用品を広げる委員の生徒達。
マットや玩具、そしておむつのケースまで
どこにどう詰め込んでいたのか聞きたくなるその用品たち。
「普通にかわいがってあげればいいんじゃないですか?」
「普通が分かれば苦労はしてないっすよ…」
ため息ひとつ、胸の中でニコニコしているスズランに目をやって
やるしかないか、と私は覚悟を決める。
スズランを抱きかかえたままソファへと座り
私の周りでスズランを興味深々で見ている生徒へスズランを向けてやると
わらわらと寄って来る委員の生徒達
撫でたりくすぐったり、思い思いに遊んであげる生徒達
その後ろでは、私物なのかなんなのか
割と本格派なビデオカメラで動画を取っている子もいた。
「ほんと、みんな飽きないっすね。」
「だってこんな人懐こい子は滅多にいませんよ!」
スズランのお腹をくすぐっっていた生徒がその手を離すと
小さな手でその指をぎゅっと握っているスズラン
その笑顔に蕩けた様子で頬を緩ませるその子に、私は一つため息。
「そういえば最近ははいずりもできるようになったらしいです。」
「はいずり?はいはいじゃなくって?」
「はいはいの少し前なんだそうですよ。
匍匐前進みたいに、お腹をすって動くらしいです。」
「へー、かわいいんでしょうねー」
口々に話す委員の生徒達。
その子場に床に目を落とすが
出入りの多いこの部屋はどうにも少し埃っぽく
床はあまり綺麗とはいいがたい。
「…スズランちゃんがはいはいの練習できるようにお掃除をしましょう!
そういえば前に柔らかいカーペットを持ってきてましたよね」
「ツルギ委員長、スズランちゃんがお気に入りですもんね。
きっとスズランちゃんのために買ったに違いないです!」
モップを出して、ぞうきんを出して部室をバタバタと掃除して
ツルギ先輩が買ってきたと噂のカーペットを広げる。
柔らかな素材でできたそれは、どう見ても子供用
そして、きっとスズランのために一生懸命選んだのであろう
モモフレンズのキャラクター達が描かれた
とうてい部室に置くためのものではなさそうな図柄
しかしそれが部室に放置されていたのは、きっとそういう事なのだろう
「ほら、スーちゃん、ツルギ先輩が準備してくれたマットっすよー」
そこにスズランを放すと、床をペシペシ、材質を確かめる。
ふむ、とその柔らかさを確かめて、両手を前にずりずりと前進。
隣に伏せて、マシロがスズランを観察する。
「おー、これが例のはいずりですね
子供の成長とは、すごいものですね。」
みんなでスズランをとりかこんで、はいずりをするスズランを眺める
何が楽しいのか、みんなで夢中になって眺めているとベルが鳴る。
『時計台地区で不良生徒が暴れているとのことです、対応をお願いします。』
スピーカーから流れて来たその連絡に
部屋中の生徒達が「えー!」と不満の声を上げる
「えー、じゃないっすよ、ほらお仕事っす!」
パンパンと手を打つと
さっきの掃除の方がテキパキしていた動作で準備をして
準備をして出動をしてゆくマシロと委員の生徒達。
みんなが出払った後に、私は少し後悔する。
誰かにスズランを任せて、私が出動すればよかったのではないだろうか。
スズランはいきなりふたりっきりになってしまった部室に寂しそうに周囲を見渡す。
「ゃー?」
「みんなはお仕事っすよ。なので私と遊ぶっすよー」
スズランの隣に寝ころんで、目線を合わせてみると
「イチカがいるのか、じゃあいいか!」と言うかのように笑ってくれる
きっとこれが救護騎士団をはじめとして
ツルギ先輩、ハスミ先輩、数々の人をダメにしてしまっているのだろう
「やぁ!」
「そうそう、上手っすよー」
はいずりで私に向き合うスズラン
誘導するように後退すると、私をおいかけてはいはいずりずり
それを繰り返してどのくらい経っただろうか
ちょっと元気がなくなってきたスズラン
大丈夫かな、と抱き上げると、ぽんぽんと私の胸を叩く。
その行動の意図が分からなくて、困る私の胸をぽんぽん叩く。
「なんすか…どういうことっすか…」
ぽんぽんぷにぷに、片手から両手できゅうぎゅうと押して
なんだか泣きそうな顔になっている
「ちょっと…泣かないで…え、どうしたらいいんすか…」
「あーあいあー」
私の胸へと頭を押し付けて、ぐいぐいぐりぐり
セーラー服の胸当てへとめがけて顔をこすりつけるスズラン。
「…まさか…まさかと思うんですがおっぱいっすか。おっぱいなんすか…」
赤ちゃんと言えば、なものではあるのだが
残念ながら私から母乳なんて出るわけもなく。
しかし、ぐずり始めたスズランに私はどうしようもなく慌ててしまう。
涙ぐんだ目で私を見据えて、ぽんぽんと叩かれる胸に
私は覚悟を決め、ソファへと座って上着を脱ぐ。
もしかしたら赤ちゃんが吸えば出るのかもしれない。
下着の肩ひもをずらし「あー!」とスズランが声を上げて
覚悟を決めて、下着を捲ろうとした瞬間に部室の扉があいた。
「イチカ、何をしているのですか?」
「……ハスミ先輩」
かたまった私へと目を向けるハスミ先輩
その後ろから覗き込むツルギ先輩と随伴していた生徒達。
相変わらず私の胸をぽんぽんぐいぐい叩いて押しているスズランへと目をやって
なるほど、と理解したハスミ先輩が口を開く
「スズランさんは、お腹が空いても泣かないですからね
お腹が空いたらそうするのだそうですよ。手帳に書いてあったと思うのですが。」