救護騎士団のアルバム:はじめてのシャーレ当番の写真

救護騎士団のアルバム:はじめてのシャーレ当番の写真

鷲見セリナ

ようやくスズランが言葉らしきものを離し始めた頃の写真だ。

シャーレの当番で出会ったユウカさんに抱きかかえられて笑顔のスズラン

ユウカさんは困り顔、だろうか、笑顔と困惑の間の顔をしていた。

先生の執務室の隅につくられた幼児用の遊び場、そこで遊ぶスズランとユウカさん

スズランはすっかりユウカさんに慣れた様子で、ふたりはニコニコと笑いあっている

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もう随分と手が掛からなくなってきたのもあって

私のシャーレの当番と病院のお手伝いが重なりシャーレへと連れていくことになった。

ナギサ様に知らせると、すぐに大ごとになるので内密に。


「先生、お疲れ様です。」


"セリナ、今日は当番よろしく。あれ、スズランも一緒なんだね。"


私がシャーレについて、先生の執務室へと入ると

先生の声に私の背中に背負わていたスズランが少しおねむな目を空ける

「ぁ~」と先生の方へと手を伸ばすと

先生が私の方へと歩み寄り、背中のスズランのほっぺたをつつく。


"スズラン、こんにちは"


「ちゃーぁあ」


頬をつつく指をしっかり握って

なんだか満足げな顔をするスズラン。

先生と並んで歩きながら執務室の中へと進むとそこにいたのはユウカさん。

何やら領収書と帳簿を見比べて、難しい顔でため息をつく彼女は

きっと噂の先生の無駄遣いに悩まされているのだろ


「おはようございます。ユウカさん」


「あ、おはようございます。

すみませんちょっと夢中になってました…」


「とても…大変そうですね…」


帳簿には大量の数字の羅列。

私が見ても何が何やらのその帳票には、右に左に

大量の数字が並んでは、金額ということ以外は私には理解できない。


「よろしければ、何か飲まれますか?」


「ありがとうございます。せっかくですからお茶を頂けますか?」


「はい!先生はコーヒーでいいですよね?」


"ありがとう。お願いするね"


私がお茶汲みへと移ると、先生はユウカさんに呼ばれて帳票のもとへ

お湯を沸かして、コーヒー豆と紅茶の葉を準備して

としている間に何やら先生は怒られている様子


「なんで食糧品がこんなに大量に必要なんですか」

「こんな大容量の使い捨てシムなんて何に使うんですか」

「どんなベビーグッズを買ったらこんな金額になるんですか」

「燃料を2千リットルなんて、街一つ燃やすつもりなんですか」


なんて色々な無駄遣いを問い詰められるているが

きっと、先生のことだから、誰かが必要なものを際限なく買っているのだろう

ちょっと振り返ってみると、先生は怒られながらも笑顔

ユウカさんもそれを理解はしているようで

怒りながらも、責めきれない様子で口をとがらせていた。


そんな様子を眺めながらお茶を煎れ

お盆に乗せて先生たちの所に持って行くころには

ちょうど一段落がついていたようだ。


「はい、お茶とコーヒーです。」


"ありがとう。"


「ありがとうございます。…って紅茶なんですね」


先生にコーヒーを渡し、ユウカさんに紅茶を渡すと

それを受け取ったユウカさんは不思議顔。

お茶と言っていたはずだが、と考えて

ここがトリニティでないことを思い出す


「あ!すみません!

トリニティだとお茶は紅茶を指すもので…淹れなおして来ますね」


「いえいえ、大丈夫です。

紅茶も好きですから。せっかくだし頂きますね」


ふうふうと湯気を上げる紅茶を冷ましながら飲み始めるユウカさん

一口飲んで、きっと私に感想を告げようとしたのだろう

ちらり、とこちらを見た瞬間に、私の背中にいるスズランに気付いた様子。


「すみません…その子は、誰ですか?」


「そうですよね、初めましてですよね…」


私が背中のおんぶ紐を解き、ようやく目が覚め始めた様子のスズランを胸に抱く。

普段こんな小さな子供に接することなんて、きっとあまりないのだろう

どうしてよいか分からない顔のユウカさんに

スズランの手を持って振ると、スズランの代わりに挨拶をする


「こんにちは、救護騎士団で育てられているスズランです、なんて…」


「うぁー」


スズランのご挨拶になんだかユウカさんの顔がキラキラする。

ちょっと興奮気味にこちらを見ているユウカさん

きっとトリニティでもミレニアムでも同じ

この顔をしている女の子は抱っこをしてみたい人


「だっこしてみますか?」


「え…あの私子供を抱っこしたことなくて…」


「この子はおとなしいので多分大丈夫だと思います。

…スズランもだっこされたがってるみたいですし。」


両手をユウカさんの方に伸ばすスズランに

そっとその腕を伸ばすユウカさん

私が手を添えながらスズランを渡すと

「わぁ!」なんて声を上げながら一生懸命にだっこの仕方を探っていた。


「こんにちは、スズランちゃん、ユウカですよー」


「ゅあー」


「これ、私の事を呼んだんですかね?」


腕の中のスズランに呼びかけたそのお返事に

その意味を求めて私に質問。

育児の本によるとその言葉に意味なんてないし、ただ聞こえた音の真似

なんだそうだけれども、お返事に聞こえてしまうのが親の性


「はい、きっとユウカさんのことを呼んでるのかと。」


「そうですよね!やっぱり!とっても賢いでしゅね~!」


すりすり、と頬を擦り付けるユウカさんに

くすぐったい顔で彼女の頬に手を添えたスズラン

ユウカさんはそれにびっくりしながらも、嬉しそうに目を細めた


「スズランちゃんはもうハイハイとかはできるんですか?」


「もうつかまり立ちもできますよ。すぐ転んじゃうんですけどね。」


「へー、こんな小さいのにもう自分で動けちゃうんだ」


「すごいですよね…って私達もこんな時期があったはずなんですよね。」


「ふふふ、そうですね全然記憶にないですけど…」


そんな雑談をしながらユウカさんからスズランが返され

スズランが床を指さすので降ろしてあげるとはいはいを始める。

お洋服が汚れて大変なんだけどな、なんて思うものの

初めての場所に興味津々のスズランは、どうしても探検したい様子


その横を私はついて歩く。ユウカさんもそれを見守る。

当番の業務なんてそっちのけで、スズランのお世話になってしまうのを

先生も優しい笑顔で見守ってくれていた。


冒険するスズランの目の前にはソファ

それを手掛かりに立ち上がるのの失敗をして後ろへとごろん。


「あーやー…」


「あらあら、失敗ちゃいましたね…」


頭を打たないようにと私が手を添えた後ろでは

ユウカさんが手を差し伸べた形で止まっていた。


「…怪我しなくてよかったです。」


「心配してくださってありがとうございます。」


このままスズランのを自由に遊ばせてあげたいが

きっとそれを見守るユウカさんの心労も

時折書類を運んでくるドローンが積み重ねていく段ボール箱の書類も

放置してしまうのはよろしくはないだろう。


「ほら、スズランちゃん。私の背中でおとなしくしててね」


「ゃぁあ」


おんぶ紐に通すと、まだまだ冒険したい、と手をじたばたするスズラン

その顔はちょっと不満げで、背中に担いでみても、まだまだ遊びたいのだ

と私の方をぽすぽす叩いて抗議の姿勢を崩さない


「あの、まだ遊びたいみたいですけど…」


「…やんちゃな子ですみません

大丈夫ですよ、きっとじたばたするうちに寝ちゃうと思うので」


「…そうなんですか」


そう言うユウカさんの表情もちょっと不満げ。

まだスズランと遊びたかったのだろうか。

だとすれば、当番の休憩時間にでも、また遊んでもらおうかな。

なんて考えていると、スマートフォンを触り始めるユウカさん。


その数時間後、トリニティのドローンにより

大量のベビーマットと大きなベビーサークル。

子供用の玩具が運び込まれて、思わず先生の方を見たのだが

先生は"私じゃないよ"と首を横に振る。

ともすれば、とユウカさんの方を見ると


「子供を遊ばせてあげるためなので、これは必要経費ですから。」


とちょっと頬を紅くして、先生から目を逸らしていた。






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