救護騎士団のアルバム:ストーブの写真

救護騎士団のアルバム:ストーブの写真

救護騎士団のアルバムにあった写真。

救護騎士団の部室、そこには石油ストーブが置かれている。

それを不思議そうな顔で覗き込むスズラン。

どうやら、寒くなってきたのでストーブを部室に出したようだ。

二枚目の写真にはストーブの周りで羽を大きく広げるスズランとミネ。

おや、スズランの羽根の先から少し煙が出ているような…

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さすがに寒さがこたえる季節になって、ミネ団長が倉庫からストーブを持ってきた。

その後ろを追いかけるように、ポリタンクを抱えたハナエが部室に入ってきた。

対流式、その塔のような大型の石油ストーブを部室の中心にミネ団長を置く。


「さすがに、これを運ぶのは堪えますね…」


スズランはそれがなんだか分からない様子で、その周りをぐるぐると回る。

興味深々な目で、点いていれば火が見えるはずの小窓を覗いてみたり燃料計をじーっと眺めて見たり。

それでもスズランの記憶にないそれは、やっぱり正体不明なようで首を傾げた。


「ふふ、スズラン、これはストーブです。」


「すとーぶ。」


「きっと、スズランも大好きになると思いますよ」


私がふきんでストーブの外観を拭き上げる。

きっと倉庫の中でカバーをさえれていたそれは、あまり埃も被ってはいないようだ。

一度防護網を外して、その中を拭き上げる私の真似をして

スズランは干してあったふきんで一緒に拭き上げる。


倉庫の中で少しだけ煤けていたそれが輝きを取り戻し、私が防護網をつけると

ハナエが燃料タンクを横に置いて、燃料のキャップを空けた。


「うぇー、くちゃい」


「独特な臭いがしますよね。スズランちゃんは苦手ですか。」


「やだー…」


自分の方に来る臭いを翼でで払うスズランを横目に、私はストーブへと燃料を移す。

燃料ポンプをしゅぽしゅぽと、その管を伝っていく燃料がタンクへと移ってゆく。

コン、コン、コポン、と子気味のいい音とともに燃料計の針が上がってゆき

満タンを指し示したのを見て、燃料を止める


「スズランちゃん、こっちに来てみて。」


マッチに火を点けると、スズランはゆらゆらと昇る火に目を奪われる。

その火をストーブの中に移すと、それが中に移り、大きな炎に変わってゆく。


小窓を閉めて、スズランを火の小窓の前に座る私の膝へ。

窓の中ではまだ炎は安定しないようで、ゆらゆらふらふら、不安定に揺れる。

だんだんと温度が上がるにつれて、中の金具が赤熱してゆく。炎が赤から青へと変わる。

ほんのりと感じる暖かさに、スズランはそれを受け止めようと、大きく羽を広げた。


「あったか!」


「そうです、あったかのやつです。

でも危ないので触っちゃだめですよ。あちちしちゃいますからね。」


「あい!」


「そして乾燥も、美容と健康の大敵ですからね。」


私達の目の前、ストーブの上にやかんを置くミネ団長。

しばらく寒い部室の中、

こんこん、かんかん、ストーブが上げる音を楽しむように耳を傾けるスズランと私達は

唯一の暖かい場所、ストーブの周りでお話をしていた。


今日はけが人も、体調不良者も訪ねてこないし、緊急の連絡もない。

穏やかなその日に、私達はのんびりと過ごしていた。


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しばらくすると、やかんが湯気を上げ、部屋の中もすっかりと暖かくなる。

ただ雑談を楽しんでいた私達をよそに、スズランは窓を眺めている。

やかんの上げる水蒸気に、すっかり曇ってしまったその窓ガラスは

寒い空気を遮って、外の陽気を乱反射して、きらきらと輝かせていた。


「おそとないなった…」


「あら、窓ガラスが曇ってしまってますね、」


スズランが窓ガラスの方を指さすので、私はスズランを抱えたまま窓ガラスへと近づく。

隣をついてきていたハナエがその窓ガラスへと指を滑らせた


「えへへ、窓ガラスが曇ったら…こうするんですよ。」


きゅ、きゅきゅ、と音を立てて、窓ガラスは指の軌跡を残す

なんだこれは、とスズランは頬に手を当てて、信じられないものを見る目で見ていた。


「やる!」


私の腕の中、ばたばたと暴れるスズランを窓ガラスのそばの机の上へ。

スズランは自分の靴を足だけで器用に脱いでぽいぽい、と放る。


そして窓ガラスにぺちんとその掌をあてると

そこに残った自分の手の形を見て、机の上で羽をばさばさとはためかせた。

興奮気味に窓に絵を描いてゆく。

スズランの指が滑った後には、人の形のような絵が残る。


「スゥちゃん上手!」


ハナエがその隣にハートマークを書いて、スズランと顔を見合わせる。

ふたりで「にしし」と笑って窓を絵で満たしてゆく。

ミネ団長は見守っているのかと思いきや、ひとつ向こうの窓に指を滑らせていた。

何を描いているのかな、と覗くとウェーブキャットさんの姿を描いてちょっと頬を緩ませる。


「ミネママ、じょうずねぇ!」


「え、あの…違うのです!決して楽しそうだと思ったわけでは…」


慌てて掌を滑らせるとその絵は水滴になって消える。

それを見て残念そうなハナエとスズランは言う


「もいっかい!」


「そうです、ミネ団長、消して逃げるなんてだめですよ!」


その言葉にミネ団長はスズランの絵の隣にウェーブキャットさんの顔を描く。

負けじとスズランも、羽を持った人影を描いた。これはミネ団長だろうか。

ハナエがその隣に私と思わしき絵を描いたので、私も窓ガラスにハナエの絵を描く。


いっぱいになったら隣の窓へ、そのまた隣へ。

全部の窓ガラスに絵を描き終えるころには

すっかり私達の指先と窓ガラスにからの冷気に体は冷え切っていた。


「ちめたいねえ。」


「きゃ、ほんとだ冷たい!お返しです!」


わたしのほっぺたにてのひらを当てるスズラン。

おかえしに私の手をスズランのほっぺたに当てると

きゃっきゃと笑って、ストーブの方を指さした。


いつの間にか、ストーブの周りにプレイマットを敷き詰めてくれていたミネ団長

自分は既にそこに座って、私達に手招きをしている。

スズランは絵を描くために乗っていたベッドを飛び降りる。

ミネ団長の隣に駆け寄ると、座ってストーブへと冷たくなった手をかざした


ミネ団長もスズランも、あたたさに蕩けながらその羽根を大きく広げて暖を取る。

血のつながった親子みたいにそっくりの姿。私はそれを写真に収める。


「ん?なんだか焦げ臭くないですか?」


「ほんとうですね…何が焦げちゃっているんでしょう…」


部室の中の火元といえばストーブくらいなもので

スマートフォンのカメラから目を離し、肉眼でそちらを見ると

スズランの羽根の先が、ストーブの先に触れて、ぷすぷすと小さく煙を上げていた


「ミネ団長!スズランちゃんの羽が焦げてます!」


「スゥちゃんを、スウちゃんをストーブから離してください!」


慌ててスズランを抱きかかえ、ストーブから飛びのくミネ団長。

スズランはその焦げた羽先をじっと見つめると、自分の鼻先に近づけてくんくん


「うぇ~くちゃいね~」


それからミネ団長が大慌てでストーブ周りに置く柵を買いに行き

小窓の炎が見えにくくなったスズランがちょっと不機嫌な顔をして

その危なさを懇々と説くミネ団長に、ぶー!と文句を言っていた。


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