七十話 カラドリウス パッツォ
大きな公園と療養所や養老院と工場や食堂が交互に並ぶ、といった感じにダリオンの郊外はなっていた。
公園にいる老人に、カラドリウスは今いますか、と聞くと、あっちにいるのがそうじゃよ、と言われた。
体調の悪そうな若者がパンや野菜の屑を与えている、白く発光する小鳥がいた。しばらく餌を食べていた小鳥は若者にじーっとガンをつけて、しばらくしてから去っていった。若者は急に伏せていた身体を起き上がらせ、ぐりんぐりんと肩を回している。どうやらカラドリウスの治療が効いたようだった。
「凄いですね、まさしく神鳥だ」
「獲物を襲う時は病毒で苦しめて、集団で啄む魔物じゃそうがな」
「結構怖い部分もあるんですね。あなたはここに来て長いので?」
「そうじゃな。おかげで九十を超えておる。日々の仕事もこなしておるぞ。今は休憩中じゃ」
「それは凄いですね。カラドリウスのおかげですか」
「そうじゃの。ワシが担ぎ込まれたときは七十じゃったが、おかげでこの年まで健康に生きておる。筋力は衰えたが、明晰さならそこらの若者よりも上のつもりじゃ。おかげで管理職に付いておる」
「お爺さんは特に魔物と戦ったり、修行をした経験は」
「ないな。皆無じゃ。それでもなんとかやれておる。お主も散々検査されただろうが、あの魔物を害する事だけはするでないぞ。わしら総出で殺しに行く」
「はっ、はい。承知しました」
老人の勢いに呑まれてしまった。俺たちも一応治療を受けようと、近くのベンチに座り餌を撒く。事前に聞いていたカラドリウス用の高級な粉末だ。
少しすると白く発光する鳥が数羽やってきて餌を食べる。こうしてみると普通の白鳩なんかと変わりないな。しばらくしていると、じーっと俺たちをガン見したのち、去っていった。
心持ちだが身体が軽くなった気がする。アリシアさんもグーっと背伸びをしていた。筋肉の凝りがとれたらしい。俺も身体の各所が軽くなっているな。
「すごいですね。若い頃のように身体が動きますよ」
「俺も体が軽い感じがしますね。色々溜まっていたのかも」
「わたしも」
「私はそれほどは」
「私もあんまりね」
リアナとマギーはそれほど効果は無かったようであるが、他は効いていた様だった。タルトとナイトメアは何も言わなかった。餌撒いてないもんな。一応タルトやナイトメアの事もカラドリウスは見ていたようだが。
タルトはカラドリウスに対し、前傾姿勢になってお尻を振っていたので、キツめにやめろと言っておいた。まあ本能だから仕方ない部分もあるだろうが。その後は仕方ないにゃ、というように毛づくろいをしていた。
その後、食堂らしきところでメインを張っていた、鶏肉のシナモンソース和えには微妙な気分になったが。まあ美味しかったからいいけども。
そんなこんなでダリオンの視察は終わった。たまに来てもいいかもしれないな。
◆
アラクネには定期的に転移で会いに行っていた。結局伯爵に無理やり押し込められた伯爵家の使用人さんにある程度は頼んでいたが。
カレーが無いと拗ねるんだよな。最近では自主的に貴金属の粉を摂取している。後は繁殖活動に積極的だ。薬も飲むように言いつけてあるので心配はないはずだが。
甘噛みをしてくるのが少々怖い。神経毒もアラクネは持っているようだが、それは使っていなかったが。
しばらく経ったので結構な量の糸が溜まっていた。これをペイルーンに売ったら次は伯爵を通してトラキア王家に渡してもいいかもしれないな。
伯爵に無理やり押し込められた使用人さんに、虫系大丈夫なの?と聞くと、私昔から蜘蛛とか好きなんです、と言っていた。変わった人だ。
まあアラクネは腰までは人間と変わりないし、蜘蛛部分も毛でゴワゴワしているというよりはメタリックボディでロボットみたいだからそんなに気持ち悪くはないが。美人だしな。
たまにトランプやリバーシなんかで使用人と遊んでいるそうだが、あっち向いてホイが気に入ったのか、そっちもたまにやっているそうだった。
後は絵本なんかを読んであげているようだった。言葉を喋るのもそう遠くは無さそうだな。
◆
パッツォの首都まではベタンクールを南東に向かった方がいいとの事だったので、しばらく南東へ進む。南東の国境を越え、パッツォに入る。もちろん入念な検査を受けてからだ。
チャラい感じの犬系の半獣人に検査をされて国境を超える。美人連れで毎日飛ばしてんのかお兄さん、とかそんな感じだ。一応女性騎士なんかもいるようだったので安心できたが。
近郊のカブールという街に到着し、一旦団欒する。
老舗の果汁なんかを凍らせたジェラート屋の向かいに、新興らしきアイスクリーム屋があってしのぎを削っていたのは面白かった。
ジェラート屋も乳製品を取り入れたようで、アイスクリームというよりはソフトクリームのようなものを作ったりと工夫していた。地味に高度だな。
新しい菓子はベタンクールでもたまに見かけたな。首都とその近くで。味もトラキアと比較して悪くなかった。なんとなく上品な味わいだったな。
その時はマギーが食べすぎてお腹を壊していたが。沢山食べられるのはいいが、妖精形態の時ほど胃袋が持たないらしい。胃もたれもするようだ。妖精形態では自分のサイズの倍の菓子をかっくらっていたけどな。謎である。
パッツォの首都ベニアにはわりとすぐ着いた。観光を楽しみながらだが。
パッツォは多種多様の獣人が多く、象の獣人なんかもいた。ケモミミ尻尾だけの半獣人も多かった。
パスタなんかを出している店のケモミミウェイトレスに目を奪われていたら、リアナに頬っぺたをつつかれたが。だってしょうがないじゃないか。常時ケモミミ尻尾喫茶状態だもん。
トラキアの大聖堂でおひねりを貰っていた狐耳の女性にも少し目を奪われた事を思い出す。ウェイトレスも狐耳尻尾だったからだ。
シーラはやっぱり猫耳フード、とつぶやき、マギーは何故かドヤ顔していた。妖精で白羽族で猫耳フードで属性が過多なんだが本人は気にしていない様子だった。まあなんか可愛いから構わなかったが。
バッツォはイタリア、ギリシャ、スペインを足して割ったような感じだ。全て行ったことは無いのでただの当てずっぽうだが。
美味しいトマト料理やピザやパスタ、リゾット、後は無駄に入り組んだ市街地なんかが特徴的だった。
建物も歴史を感じさせる風情のあるものが多々あった。なんかやたら彫刻されていたり。
ベタンクールとトラキアはよくわからない。トラキアは食文化がドイツっぽく、ベタンクールはフランスっぽかったが。パッツォでもワインはよく飲まれているな。トラキアはビールや蒸留酒がメインだが。
ペイルーンは中東やエジプトっぽかったな。ふとひよこ豆の、香辛料の効いた球形コロッケを思い出す。酒のつまみにもってこいのやつ。ファラフェルとかいう名前だったな。
後はケバブ。俺はケバブには目がないので、たまに買いにいったりしていた。ケバブ屋だけで十箇所以上は網羅したかもしれない。
飲食店を出ると、スリだー!という声が上がった。ふと見るとネズミのような小男が駆けている。さっと転移して重力魔法をかけると、小男は動けなくなった。
「ぐ、ぎぎぎぎ」
「できれば真っ当に生きろよ。事情があるのかもしれんが」
やってきた犬顔の騎士に小男を引き渡す。騎士は小男に、運が悪かったな今度は上手くやれよ、とか言っていた。それでいいのか。一応罰金の上しばらく強制労働のようだが。善悪の魔道具で黒ならまた話は別らしい。
なんか周りもアイツはツイてないな、とかそんな反応だった。スられたらしき相手には感謝されたが。
話を聞くとスリぐらいなら多少許される風潮があるらしい。後はスられる前提でダミー用の財布を用意したり、色々駆け引きもあるとか。今回は本命の財布だったらしく困ったようだったが。
身なりの悪いものや老人なんかの弱者にはしてはいけない、風潮というかローカルルールみたいなものもあるそうだった。
スられた相手もそこそこ身なりがいい、兎顔の男性だった。なんか不思議の国に行きそうな感じだ。懐中時計とか似合いそうだな。
しばらく観光をして、ベニアの王城に向かった。