(社説)学術会議法案 ごり押しは許されない

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 日本学術会議特殊法人化する法案の参院での審議が始まった。衆院の審議で、政府の介入への懸念が深まった。学術会議の独立性や学問の自由を脅かしかねない法案のごり押しは、許されない。

 法案の撤回を求めてきた歴代会長6人は衆院通過後、「これは学術会議管理法案だ」などとして、廃案を求める声明を発表した。

 声明は、政府による「科学の手段化」を憂慮。政府の有識者会議が10年前、現制度を変える「積極的な理由は見いだしにくい」と結論づけたのを覆して改組する理由がないと訴える。また、法案の成立は科学者の国際的コミュニティーで否定的評価を受けるであろうことや、新法人発足の際に政府が関与する特別な会員選考が行われ、人的な連続性が切れる問題も指摘する。

 衆院は付帯決議で、独立性・自律性の尊重▽財政面での配慮▽首相が任命する監事や評価委員会の権限が不当に拡大しないことへの留意▽学術会議の政策提言機能の強化――など11項目を求めた。ただ、これで独立性が確保されるか、心もとない。

 衆院審議では、新たな疑念も浮かび上がった。学術会議が会員を解任できる法案の規定について、「特定のイデオロギーや党派的主張を繰り返す会員は解任できる」と担当相が答弁した。言論の自由に反すると学者らは反発する。解任の主体が学術会議であっても、思想の左右を問わず、特定の政治的な意見の排除は危険なことだ。

 学術会議の改組の発端となった任命拒否問題について、政府は理由の説明を拒み続けている。かつて国会答弁で「形式的任命に過ぎない」としていたにもかかわらず、拒否できると法解釈を変えた説明もしていない。

 なぜ解釈が変わったのか、その過程を示す文書の全面開示を国会議員が求めた訴訟の判決で東京地裁は16日、「有用な文書で公益性は極めて大きい」と全面開示を命じた。開示しても意思決定の中立性が損なわれる恐れや国民に混乱を生じさせる恐れがあるとはいえないとも指摘した。

 しかし政府は控訴。参院では、「不当に国民を混乱させる恐れがある」との答弁を繰り返している。

 政府は、法人化で学術会議の独立性が高まると繰り返すが、会員選考や活動の点検・評価に関わる組織が幾重にも埋め込まれ、説得力がない。

 立憲民主党は、参院に提出する修正案を準備中だ。大幅な修正で数々の疑念を払拭(ふっしょく)できないのなら、政府案は廃案にしなければならない。

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    本田由紀
    (東京大学大学院教育学研究科教授)
    2025年5月31日7時18分 投稿
    【視点】

    この記事にまとめられているように、学術会議法案には立法理由もなく、内容としてもナショナルアカデミーとしての基準を破壊する悪法である。 5月29日に行われた以下の国会前行動における諸発言は、戦争への反省からつくられた日本学術会議を破壊すること

    …続きを読む