<連載 ネットと中傷 第3部 新型コロナ禍の医師>②訴訟(全4回)
「日本を滅茶苦茶にしたテロリスト」
新型コロナウイルスへの対策を呼び掛けていた埼玉医科大総合医療センターの岡秀昭医師(50)が、Twitter(現在のX)上で東京都内の女性による攻撃的な投稿を見つけたのは2023年4月だった。
自身と妻が写った写真が添えられていた。
◆「プライベートまでさらされた」
「これは家族にも危険が及ぶ」
危機感を強め、プロバイダー責任制限法に基づいて発信者を特定。2024年1月、書き込んだ東京都内の女性を相手に、損害賠償を求めて東京地裁に民事訴訟を起こした。
岡医師は、冷静に振り返る。「とても悲しかった」
「世の中のためにできるだけのことをやってきたつもりが、家族写真を出されてプライベートまでさらされた」
日本でも2020年1月に初めて感染者が確認された新型コロナ。岡医師は直後から感染者を受け入れ、SNSやメディアを通じて医療現場の現状を伝えたり、ワクチン接種の必要性などを訴えたりした。
「感染症の専門医として、その時点での真実や科学的な事実を伝えてきた。それが国の公衆衛生に対しての貢献になると思ったし、社会性のある情報だと思った」と話す。
◆「世の中の人には患者が見えていない」
しかし、コロナ流行当初の2020年から、感染防止策などに反対する人たちからの「攻撃」が始まった。
「コロナは風邪」「コロナは陰謀論」「そのようなウイルスは存在しない」……
これまでに受けた中傷や嫌がらせは5000件を超えるという。
岡医師は実際に感染者を診療し、重症化した患者も多く見てきた。しかし「世の中の人たちにはその患者さんが見えていない」
そして「『自分はコロナにかかっていないのに感染症対策などで規制を受けた』という鬱憤(うっぷん)を晴らす、いわゆる八つ当たりという形で(攻撃が)始まった」と振り返る。
「1時間に30件くらいの暴言が吐かれるんですよ。『ネットリンチ』を受けるのはすごくつらかった」
◆家族写真や住所の暴露、容姿の侮辱…
ワクチンを接種しても岡医師の給与は変わらないのに「ワクチンで金儲け」など虚偽情報に悩まされた。果てには容姿への侮辱に至り、家族写真や自宅住所がさらされたこともあった。
「家族や自分の安全にまで踏み込まれた。これはもう必死に戦うしかない」
岡医師はコロナ禍が落ち着いた後の2023年5月から、特に悪質と判断した投稿約50件に対し、プロバイダー責任制限法に基づいて発信者情報を開示請求。投稿削除や謝罪、慰謝料を求めた。
◆「卑怯だった」反省の手紙も
特定された20件以上のうち半数ほどは、この段階で示談に応じたという。岡医師は、ストレスや鬱憤を晴らすために誹謗(ひぼう)中傷した人たちは、おおむね謝罪するのだと明かす。
反省の手紙も届く。
「コロナやワクチンに関する意見に疑義を唱えるつもりが、軽い気持ちで誹謗中傷となるような投稿をしてしまいました」
「匿名のアカウントを使い、実名の岡先生に傷つけるような言葉を言うのは卑怯(ひきょう)だった」
「二度と相手を傷つけるような投稿をしないと誓います」
◆エスカレートする人も
しかし、発信者を特定して謝罪を求めても、無視したり、逆にエスカレートしたりする場合もある。岡医師によると、「ワクチンで医師が人を殺している」と思い込み、自分が「正義」だと信じている人たちに見られる傾向だという。
岡医師は、こうした発信者に対しては名誉毀損(きそん)に当たるとして民事訴訟を起こし、さらに侮辱を重ねる場合は刑事告訴もしている。
ある男は、Xの複数のアカウントを使い分けて「クズ中のクズ」などと何度も罵...
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