私は龍である。名前はミラボレアス。
人間が設立したハンターズギルドや龍歴院からは古龍というモノに分類され、龍であって竜ではない。
たまに間違える人間がいるが、龍と竜は全く違う生き物なので気を付けて欲しい。
同じ名前の龍に黒かったり紅に染まったヤツもいるが、私は真っ白で祖龍とも呼ばれている。
私たちミラボレアスは本気を出すと1つの文明くらい軽く滅ぼせる超絶理不尽な力を持つ龍で、人間たちに『禁忌』とうたわれている伝説的な扱いを受ける存在だ。
黒いのとか滅ぼした文明の廃墟となった城をわざわざ縄張りにしてたりするから、人間たちが私たちミラボレアスを『禁忌』と呼ぶのも納得である。
まぁ、その件は竜だけでなく龍も怒らせる文明を築いた人間が悪い。
あと、永く生きている私は人間の姿に変化出来ちゃうすごい龍なので、ちょいちょい人間社会にお邪魔している。
人間の姿になった私は肌も髪も真っ白な美少女なので人間社会ではかなり目立つ容姿なのだが、まぁそんな事を気にしない人間も多いので普通に観光をしている。
たまに気に入った人間を見かけたら試練という名の無茶振りをして、その人間が懸命に頑張る姿を眺めたりするが、頑張る人間の姿というのが好きなのだ。
趣味というヤツだ、許して欲しい。
あぁ、ちゃんと試練を与えた人間が頑張れたら報酬を渡しているよ?
頑張った人間はきちんと褒める。依頼にはきちんと報酬を出す、契約には誠実に対応する事は大事だし常識である。
それが私、祖龍ミラボレアスと呼ばれる存在…………らしい。
何故に「らしい」と曖昧な感じにしているかというと、私は実は元人間で所謂転生者と呼ばれる存在であり、私自身は祖龍としての
なんせ、仕事から帰って来て飯食って風呂入ってモンスターハンターワイルズを適当に数時間プレイして寝たら死んでいたのだからね。
たぶん、死因は急性心筋梗塞だと思われるが……実際は不明だし。
自分が死んだ事にすら気付いてなかったのに、自分の前に現れた神を名乗る不審者に「スマン、やらかした。色々特典付きで転生させるわ」と言われ「テンプレだけど!もう少し丁寧に説明しろ!!」と叫び返した私は悪くないと思う。
そして、私は気付いたら祖龍ミラボレアスとしてこの世界に存在していた。
あまりの事態に呆然としつつも色々と自分の身体の性能や『特典』というのを確認したりしたが……祖龍となった私は頭がおかしいくらいチートだった。
ただでさえ祖龍という禁忌の龍は存在自体がチートなのに、それに加えて幾つかの権能とも呼べる能力が追加されていたのだから当たり前ではある。
ちなみに、転生する前は人間の男だったので、私はジャンル的にTS転生で人外転生というモノにあたる。
誰得だよと思わなくもないが、まぁ私を転生させた神を名乗る不審者の趣味なのだろう。
あと、私が転生させられた世界はモンスターハンターの世界ではなかった。
何年か人の姿になって世界を放浪しながら情報を集めたので、これは間違いない。
世界を滅ぼせる『こくりゅう』と呼ばれるドラゴンがいると聞いてちらっと見に行ったけど、見知った黒龍じゃなくて怒っても紅くはなりそうにない黒色をした竜だったし。
他にも、この世界はモンスターハンターの世界では有り得ない様々な要素があり……集めた情報から推測するに『ダンまち』と呼ばれる物語の世界だと思う。
正式名称は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』だったか。というか、ダンまち世界に祖龍をぶち込むな神を名乗る不審者め、バランスブレイカーにも程があるだろう。
まぁ、もしモンスターハンターの世界に転生してたらしてたで、身体は祖龍で魂は人間なんて他の禁忌からブチ切れられて殺されそうだからよかったのかも知れないけど。
ハンターにひと狩り行こうぜ!されるのも嫌だしね。
ちなみに、この世界の黒竜とか私なら普通に勝てる。まぁ、あちらから喧嘩を売られない限り戦う気などないが。
この世界のことはこの世界に生まれ育った存在が対応すべきで、イレギュラーな存在である私は懸命に頑張る人間大好きな美少女禁忌祖龍ちゃんらしく、適度に人々と関わりつつ過ごすのがベストだろう。
元人間としては人間に力を貸したいという気持ちがなくもないが、今の私は人間ではなく龍なのでこの世界が滅びない程度に最低限しか肩入れしない予定だ。
その最低限の肩入れとして、迷宮都市オラリオのご近所にダンジョンを創造した。
ゼウスとヘラの眷属が黒竜に負けたのは、この世界の冒険者は
だから、その経験を得られる場所さえあれば黒竜にも勝てるはずである。
祖龍は人が死力を尽くして頑張る姿が好きなのであって、死力を尽くし過ぎた挙句に滅んで欲しい訳ではない。
滅んでしまったら頑張る姿も見れないからね。だから世界の滅びの要因となる黒竜は退治して欲しいし、その光景を私は特等席でコーラとポップコーンを持って眺めていたい。
そんな訳で、強者が集う迷宮都市オラリオのご近所に与えられた権能を使いモンスターハンターの世界の環境に酷似したダンジョンを創造した後、この世界のハンター的存在である冒険者があっさりぽっくり死なないよう、ダンジョン内のモンスターの強さや環境などのバランス調整をしながら過ごすこと1年。
「なのに……ダンジョンを創ってから1年も経ったのに、全然人が増えてくれない」
私の思惑とは裏腹に、ダンジョンを訪れる冒険者は増えない。
やたらテンションが高い紅い髪をした少女とその仲間たちなんかは「今日も美味しいお肉を狩りに行くわよ!!」って感じでちょいちょい来てくれるのに、新規の冒険者が全然増えないのは何故なのか。
あの紅い髪の娘は「あのカエルみたいなモンスターも美味しいのかしらね?」って呟いて仲間にちょっと引かれていたが、ついこの間テツカブラを頑張って狩猟してくれたというのに……。
「最高到達階層が未だに3階層ってどういうことなのさぁ」
せっかく4階層からはモンスターハンターの醍醐味である大型モンスターが登場するというのに、頑張って調整したのに誰もそこまでたどり着いてくれない。
前にオラリオに遊びに行った時に聞いたけど、うちのダンジョンによく来てくれる娘さんたちLv.2とかって聞いたぞ。
あの娘たちより強い冒険者はオラリオにはたくさんいるのに、どうしてうちのダンジョンには来てくれないのだろうか。
「…………本当に、どうしたものか」
当初の予定では半年くらいで4階層に冒険者たちが到達する予定だったのに、どうしてこうなった。
うちのダンジョンには冒険者が潜りたくなる旨味がないのだろうか?
たしかに、オラリオのダンジョンのモンスターからは魔石が取れ、モンスターのドロップアイテムや採取物は冒険者の主な収入源となっている。
うちのダンジョンは魔石こそ取れないが、倒したモンスターの死体はまるまる素材になるし、食材となる物から薬草やキノコ類に蟲素材など調合に使える物が沢山採取出来るから見劣りしてないと思うの………………あぁ!?
そうだよ!なんで今までこんな単純なことに気付かなかったんだ!!
「
いままでの生活の中で自然と積み重なって来た知恵もなければ、未知の素材を研究する為の基礎知識すらないのに有効的に使うとか無理に決まってる。
特に現在のオラリオは暗黒期とかいう都市全体に余裕のない時期だし、悠長に基礎研究からスタートなんてやってられるはずがない。
うわぁ……………これは、完全に私がやらかしてましたわ。
ど、どうしよ?
その日、緊急で開かれた神会にもたらされた衝撃は計り知れないモノであった。
ゼウスとヘラがいなくなってから日々悪くなる都市の治安、バカンスしに地上降りてきたはずなのに何故わざわざストレスを溜めなきゃならないと、面白おかしく過ごすことを規制されイライラを募らせる神々。
「このクソ忙しい中くだらんことで呼んだんじゃねーよな?あぁん」と、無い胸を反りチンピラのような目つきで神々に緊急の招集をかけた豊かな双丘を持つアストレアを睨み付ける
まぁ、そんな劣悪な雰囲気も招集をかけたアストレアが話し出した途端に一瞬で吹き飛んだが。
悠久にも等しい永い時間を生き、娯楽と未知を求めて地上に降りて来た神々にとってもとびっきりの未知。
1年前にオラリオ近郊に突如現れた謎の祠のダンジョン。
数多の神々ですらその出現を予見出来ず、オラリオがこんな状況でなければ眷属に連れて行って欲しいと常々思っている神は、実は少なくない。
なんせ、あの祠のダンジョンはオラリオの地下に存在しているダンジョンと違い、
そして、そのダンジョンから意思疎通が可能な住人?を連れて来たというだ。
こんなびっくり仰天な事態に騒がなければ神ではない。
ギャースカギャーと叫ぶ神々の声から連れて来たダンジョンの住人の耳を塞いで庇い、ようやっと静かになった場面でアストレアは声をかける。
「うるさくてごめんなさいね。みんなの前で自己紹介をしてもらっていいかしら?」
「にゃ!」
アストレアの声に元気に頷き、そのままアストレアに抱えられ不作法ではあるが集まった神々に見えるようにテーブルの上に立たせて貰う。
なんせ小人族より背が小さいのだ、その場に立っても耳の端しか見えないのだからテーブルに乗るのは仕方ない。
見た目は、少しばかりデカい猫。毛並みは茶・黒・白のオーソドックスな三毛である。
そんな何処にでもいるような見た目をしておきながら、真っ直ぐ二本足でテーブルの上に立っている。
そして、そのまま丁寧にお辞儀をした。
「はじめましてにゃ!」
「ボクはラル、アイルーという獣人種にゃ」
「よろしくお願いしますにゃ!!」
もう一度ぺこり丁寧にお辞儀をした姿を見た後、神々は部屋の窓ガラスが割れるほどに叫びを上げた。