「本当にやるのか?」
「逆にやらない選択肢が何処にあるよ?アルゴノゥト達が頑張ってくれたとはいえ、世界が終焉を迎える可能性は幾らでもあるんだぞ」
うぅむ、と眉間に深い皺を刻むウラノスに俺は現実を突きつける。
「地上を救う最後の英雄候補が現れるのは1000年程先だ。それに、ダイダロスだって似たような事をやるってのは前に説明しただろ」
原作約1000年前で古代編が終わり神々がやっと地上に降りだした時期に転生した所で、どう立ち回ればいいんだよって感じだし。
そもそもこの世界が原作と同じ世界線なのかも不明だし、原作時期までちゃんと世界が持つかわからんし、原作がきちんと始まるのかさえ予想出来んから可能性は多い方がいい。
「いまの地上なら神が少ないから誤魔化せる。神々の言う下界の子供達の魂を改造するのはルール違反になるだろうが、俺は元々別次元の人間だぞ?この世界由来の魂じゃない俺の魂を弄る程度なら何とかなるだろ」
原作には魂そのものを認識出来る
将来的に問題にされても「下界が滅びるかどうかって時に静観しといて、今更遊びに来ただけの
「ウラノス、この世界が俺が知っている通りになる保証なんてないんだ。結末までは知らないが俺の記憶にある物語ではあの忌々しい大穴の上には立派な都市が出来、世界は……まぁ、ある程度は安定していた」
「ゼウスとヘラが作り育て上げたファミリアが陸の王と海の王を討伐した。だが、それまでだった」
「空の王に、黒竜に敗走した。それでも、世界は……人々は変わらなかった」
「当たり前に明日がある事を信じていた。家族が、隣人が、友人が当たり前に明日も生きていると信じていた」
「沼の王、漆黒の蠍、天上の炎。世界が滅びる要因に事欠かないというのに、だ」
「ヘルメス辺りは割と本気で救世を考えてはいたみたいだが、アレはダメだ。どうしても神としての遊びが混ざってヒーローメイカーを気取ってた。そんな余裕なぞ、ないというのにな」
「何が「このヘルメスが見届けた!」だ。救世を望むなら自分の都合の良い脚本なんぞ書いてる暇なんてないだろうに。だからアイツは嫌いなんだよ」
「だいたい、恩恵ありきの養殖英雄だけでは黒竜を殺せないってのはゼウスとヘラの眷属が壊滅した段階で気付きそうなのに、なんでまた養殖英雄で再チャレンジしようとするかね」
「別に養殖された英雄が悪いとは思わない。多分、俺も転生したら神の眷属にはなると思うからな。だけど、何事にも
おいおい、そんな困ったような顔をするなよ。
「それでも、お前が世界の為に縛られる必要も、犠牲になる必要もない」
「縛られる?犠牲?馬鹿を言うな」
ウラノスの勘違いを鼻で笑ってやる。
「俺はやりたいことをやりたいようにやるだけだ。それは、これまでも…………そして、これからも変わらんよ」
具体的には言うなら、平和な世界で可愛い嫁を作ってイチャコラして過ごしたい。
こちとら前世でも今世でも色々とひぃひぃ必死に生きるしかなんだ、ゆっくりと穏やかな生活をさせろ。
チートハーレム?ならチートをとりあえず寄越せ。ハーレムは正直どっちでもいいからチートを寄越せ。
これらはモンスターが蔓延るこの時代に生まれたから絶対無理な願いだ、ならそれを叶えるまでは無理くらいしよう。
多分、俺は死んでも次がある。次を否応にも迎えさせられる。
なら、此処からでもやれることをやっとくしかない。
「まぁ、とりあえず何時かまた会いに行くからその時は頼むわ…………
「今、受け継ごう。歴々の『英雄』の力と記憶を」
ある時、ワシはドワーフの老人だった。
年齢的に既に全盛期から離れ、妻には先立たれ、息子や娘も成長し離れた土地で家庭を築いている。
そんなある日、物置を整理していた時に出て来たある物を手にした。
なるほど、子供の頃から
それは、ある種の妄執。
だが、だからこそ面白い。
年老いたワシの身体では成せることは最早少ない。
だが、年老いたからこそ成せる事もある。
これまで家族の為に磨いていた鍛冶師としての腕を、未来の為に最期まで磨き続けよう。
きっと、それがいつか役に立つはずだから。
「今、受け継ごう。歴々の『英雄』の力と記憶を」
ある時、私はハーフエルフの少女だった。
私が生まれ育ったこの森は、ハーフである私には少し冷たくて、それが辛かった。
それを誤魔化すように部屋に閉じこもり、本ばかり読んでいた。
そんなある日、ふと目に付き手に取ってみたら……文字通り私の世界は変わった。
怖い。恐い。こんなのは嫌だ。
でも、こんな私でも……こんな何者にもなれない私でも出来ることはある。
内気で、家に閉じこもって本ばかり読んでいた私だが、やらねばならない事を知ったのだ。
ハーフとはいえ
なら、魔力を感じ、魔法を使う感覚を研ぎ澄まさなくては。
きっと、それがいつか役に立つはずだから。
「今、受け継ごう。歴々の『英雄』の力と記憶を」
ある時、僕は小人族の少年だった。
日々、生きるだけで精一杯な小さな村で生まれ育った僕。
世界から蔑まれ、見下され続けた小人族である自分に出来ることは少ない。
停滞と諦めだけが続く村の少年である僕にとって、この出会いは劇物過ぎた。
弱い小人族である僕が、何者かになれるはずなんてない。
それでも、その弱さこそ必要なのだと思ってくれるなら。
弱くてずる賢く生きていくしかない小人族である自分にも出来ることがあるなら。
弱くてもいい、知識を得よう。
誰にも負けないくらい知識を得て、戦おう。
弱者の戦いを、強者達に見せつけよう。
きっと、それがいつか役に立つはずだから。
「今、受け継ごう。歴々の『英雄』の力と記憶を」
ある時、俺は猫人族の男だった。
俺は故郷を飛び出し、都市オラリオで冒険者をしていた。
一攫千金を夢見て都市に来てもう何年経っただろうか。
未だにLv.2にも上がれずに、腐りかけていたある日、俺はコレと出会った。
何故、今になってこんな希望を俺に見せたんだ。
何者にも成れない、その他大勢の冒険者であったはずの俺に。
何故、今更こんな物を押し付けた。
俺には不釣り合いに過ぎるこんな物を。
だが……あぁ、いいさ利用してやる。
俺は『英雄』なんてガラではない。俺はその他大勢の冒険者でいい。
それでも、冒険者として底辺の生活から抜け出せるなら構わない。
俺は俺が良い生活を送る為にコレを利用しよう。
きっと、それがいつか役に立つはずだから。
「今、受け継ごう。歴々の『英雄』の力と記憶を」
ある時、自分は神によって下界に送られた精霊だった。
世界を救い英雄を助ける。そんな役割を与えられた
その役割を拒絶はしない。それが精霊としての存在意義だから。
大穴には向かわず、世界を巡り細々と怪物に抗い生きる人々の助けになれるように過ごしてきた。
そうして長い時間を過ごす中で……気付けば同族たちは随分減ってしまった。
自身が選んだ英雄と共に散っていった同族たちが少しだけ羨ましかった。
何故なら、散っていった同族たちはこんな虚しさを感じなかっただろうから。
この時代まで生き残ってしまった罪滅ぼしという訳ではないが。
これまで紡ぎ、重ねてきた者たちの1人に自分も加わろう。
きっと、それがいつか役に立つはずだから。
「今、受け継ごう。歴々の『英雄』の力と記憶を」
ある時、私は人間の女だった。
とある小さな王国の第三王女、それが私の身分。
ラキア王国やテルスキュラなどの神を祀り、神を利用し利用される国家系のファミリアが多く点在する中で、代々神に頼らず人の力のみで国を治めて来た小さな王国、それが私が生まれた国だった。
上に兄が2人、姉が2人いるので王位継承権も低く……王族としては割と自由に育てられていた。
そんな私は、いま炎に舐められ崩れ灰となっていく城下を城から眺めている。
手に持った剣を血で汚れ、着ているドレスも斑に赤く染まっている。
父も、母も、兄も、姉も、死んでしまった。私自身も、受け継いだこの力がなければ死んでいたであろう。
暇つぶしに地上に降りて来た神の遊戯に巻き込まれた結果がこれだ。
その神も眷属と共に先程斬って捨てたが、ここまでに失った物が多すぎる。
だが、幸いにも私には受け継いだ力と知識がある。
ならば、王族としての責務を果たそう。
民をまとめ、国を復興させ、何時かに備え積み重ねていこう。
きっと、それがいつか役に立つはずだから。
「魂が奮い立つような、この力」
「次々に蘇る、歴戦の記憶」
「これは、託してくれた人達の……!!」
「今、受け継ごう」
「歴々の『英雄』の力と記憶を!!」
言葉が無意識に口から零れる。
それは終わりの言葉。最後の継承が成された時に響くよう設定しておいた始りの宣誓。
予想はしていた。たぶん、積み重ねていく何時かの何処かで、俺が継承するであろうという予想だけはしていた。
それでも……。
「まさか、最後の最後で生まれ変わった俺が継承するとは思ってなかったぞ」
手にとるのはひび割れ、崩れていく冠だった物。
前前世でやったゲームを元に、前世でウラノスの協力を得て創ったチートの元。
「確かに、俺の魂を削って作ったから転生したら俺の所に来てもおかしくはなかったけどさぁ」
まさか、俺が再度転生するまでに1000年近くかかるとは思ってなかった。
天界に昇った魂が再度地上に巡ってくるのってこんな時間がかかるのか。それとも、神が地上に降りて来た影響が出てるのか?
わからん、まぁ考えても仕方がないことだから別にいいか。
「黒竜討伐に失敗したのが3年前。だいたい原作12年前で俺がいま7歳か」
頭が熱く痛みが出て来た、歴代の所有者たちの記憶の統合が進んでいく。
真っ先に統合されたのは前世と前前世の記憶だったのは、同じ魂だからか馴染むのが早いからなのだろう。
ふと思う。今世が生まれつき体が弱く病気がちだったのは、魂が削られてた弊害なのだろうか?
なら、その削られていた魂がこうして戻ったのだ、今後は身体は丈夫になっていくはずだ。
「まず何をするにも、体力を付けてからか」
痛む頭にふらふらしながら寝台に横になり目を閉じる。
胸を通り過ぎていくのは、希望に絶望、期待に諦観。
「――――――――すまない。ありがとう」
歴代の所有者たちが後任となる者に託した感情と記憶が溢れていく。
最期の最期まで諦めなかった者がいた。
全てを諦めながらも積み重ね続けてくれた者がいた。
俺の我が儘に巻き込んだ人々の記憶が頭に響いていく。
善人がいて、悪人がいた。
冒険者が、農民が、王族がいた。
男も、女も、それ以外も……いや、それ以外ってなんだよ。
は?精霊??なんでヒト以外にも冠が適応されてんだよ。
そんな設定した覚えがないぞ。
「―――――これも下界の未知か。なあ、ウラノス」
たぶん、違う。
「滅べ、オラリオ……我等こそが『絶対悪』!!」
その日、正義は陥落した。
三大冒険者依頼のうち二つを成し遂げ、最強と最恐の派閥として地上に君臨したゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアのかつての英雄が悪に堕ち、都市オラリオに絶対悪を名乗る邪神と共に凱旋した。
最強と最恐の後継として存在していたロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアの眷属たちは過去の英雄によって下され、破壊と殺戮を是とした邪神の眷属はその欲望をまき散らした。
――そこに、1000年かけてチート拵えたとびきりの馬鹿がいなければの話しだが。
「うぜぇ、はしゃぐなゴミクズ共が」
剣を振る。業物でもなく、なんならその辺に転がっていた死体から拾って来た鈍らのような剣で民衆に楽しそうに叫びを上げながら襲い掛かろうとした邪神の眷属である闇派閥の構成員を
「ったくよ……しばらく前から「闇派閥が大規模な攻勢に出て来る可能性が高いので、一般市民は都市外に避難した方がいい」って勧告が何度も出てんのに、何でこんなにヒトが残ってんだよ。オラリオの
ぶつぶつと愚痴を吐き出しながら剣を振っていく。
剣を振る度に響く悲鳴に怒声、ついでに途中で怒りで顔を真っ赤にして斬りかかってきた
「なぁにが「失望した」だ。1000年間無駄に時間を浪費しただけの神と世界に今更失望したとか頭沸いてんのかボケ共が」
キャッキャッと悦に浸りながらヒトを解体していた
キャッキャウフフと
あと、7年後くらいに「私は彼女に選ばれたのだ!」とかってはしゃぐ予定の変な白いのも通りすがりに斬っておいた。
全員カサカサと這い回る台所の黒い悪魔みたいに逃げて行ったが、生き汚そうだからあれぐらいじゃ死なないだろうし、数日したら元気になってまた出て来そう。
「それで、さっきから鬱陶しいが何の用だ自称正義の味方共?」
足に力を込めるとミシっと金髪エルフの頭蓋骨が軋む音とうめき声聞こえきた。
「『
俺の声に答えたのは和風腹黒副団長。険しい眼ですこと。
「コレを放すのは別に構わないが、躾くらいはちゃんとしてくれ。手加減するのも面倒なんだ」
頭から足を退け、腹を蹴り飛ばしてお仲間の方へ送ってやる。
骨が折れた感触がしたけど、ちょっとエルフさん正義を名乗るには脆すぎでは?
あと、何やら俺を睨む視線が厳しくなった。鬱陶しいな本当に。
今日は君等の友達を助けてやったというのに。感謝の言葉も態度もなかったし。
「それで、どういうつもりだ?何故、民衆の避難を待たない!!」
「散々ギルドから避難指示が出されたのに未だに都市に残ってる奴らの命を逆に何故に気にしなきゃならんのさ?」
バカなのこいつら?いや、バカじゃなかったらこんなこと言わないか。
「いったい暗黒期が何年続いてると思ってんだよ。これまで散々「闇派閥が暴れるから命の危険に晒される可能性があります」って警告されてんのに、それでも都市に残ってる愚か者の事なんぞ気にせず、とっとと闇派閥を壊滅させた方が最終的な被害が少なくなるからに決まってんだろう」
「というか、お前ら自称正義の味方が俺を非難出来る立場かよ。治安が悪い都市の外延部やダイダロス通りで虐げられる連中を見ないフリして、比較的安全な場所をくるくる回って、自分達より弱い小悪党を捕まえて自己満足に浸るだけの自慰行為で満足してる無能共が」
本当にバカらしい。こいつらもそうだが、ロキとフレイヤの眷属共も下界の残り時間ってのを理解してんのか?闇派閥なんぞに関わって時間を無駄にしてる暇なんてないというのに。
「正義の眷属を名乗りたいなら最低でも『誰も見捨てない、切り捨てない』って理想を抱いて貫くか、『大を救う為に小を犠牲する』って現実を飲み込むか、どちらかを選んでからにしろ」
理想がないから某赤い弓兵に「理想を抱いて溺死しろ」とすら言われない存在が正義を名乗ってるって本当に意味不明だわ。
「全てが中途半端なんだよお前らは。民衆の安全確保の都市巡回ならガネーシャの連中でも十分だし、高レベルの犯罪者が出た場合には捕まえるには力不足。本当に何がしたいの?力も足りなきゃ理想も固まってない、ただ掲げるに都合の良いお題目があったからそれに縋ってるだけ。アルテミスの連中みたいに都市外で人を救う為に動くでもない」
「正直、闇派閥より悪質だよお前ら。民衆に希望を与えるだけで、その希望を維持出来ずに奪われるだけの弱者が、とっとと暗黒期を終わらせる為に行動してる俺の邪魔をするな」
本当にさぁ、何でこんな中途半端な存在に未来を託す気になったんだよエレボスは。
物語の中であれば綺麗な連中だったけど、現実として見たらかなり醜悪だぞ。
あー、こんな世界なのに本当に黒竜討伐かダンジョン攻略出来るまで行けるのかよ。
ベルくん来るまで待たなきゃダメかな……面倒くせぇな。