視聴回数を稼ぐことを目的とした迷惑動画の配信が後を絶たない。2025年大阪・関西万博の開幕直後には大阪市内の繁華街で男性がマシンガン型のエアガンを持ち歩く様子をライブで流し、警察官が出動する騒ぎになった。炎上しても収益につながる構造的な問題が背景にある。
万博開幕から2日後の4月15日午後3時ごろ、大勢の人が行き交う大阪ミナミの商店街。男性は戦闘ゲームでよく見かけるような主観的な映像で、両手でエアガンを持って移動する様子をスマートフォンで配信した。
通行人はむき出しのエアガンに驚き、不安そうに男性を避ける。配信の視聴者からコメントで警告されても、当人は「悪いことしてないもん」と意に介さなかった。
通報を受けて駆けつけた大阪府警の警察官が男性を職務質問して停止を求め、エアガンの威力などを確認する事態に。ある府警幹部は「万博開催に伴いテロ対策を強化する中で、おふざけが過ぎる」と苦言を呈する。
エアガンの業界団体も「誤解を恐れず率直に申し上げれば『他者への影響を考えずに自分の楽しみだけを求める者はこの趣味に触れないでほしい』とも思います」と、男性の行動を非難する声明を出した。
当時の中継は2500人以上が視聴。男性は後日配信した別の動画で「日本は銃社会ではないから、おもちゃだと分かる」と釈明しつつ、「(配信による)収益が約22万円だった」と明かした。
男性が配信に利用した交流サイト(SNS)は「Kick(キック)」。視聴無料で、配信者へのカンパのような形で視聴者がサイト側に支払う「投げ銭」により配信者は収入を得られる仕組みだ。
令和5年9月にミナミの飲食店で大音量の音楽を流すといった迷惑動画を配信し、威力業務妨害罪で罰金刑を受けた「迷惑系」ネット配信者の米国籍の男も、キックを利用していた。
ITジャーナリストの三上洋氏によると、キックには配信者から好まれる特徴がある。一般的に「投げ銭」は全額が配信者の手元に届くわけではなく、運営側と分け合う形となるが「キックは配信者への還元率が高く、95%を受け取ることができる。ユーチューブでも配信者の手元に入る収益は6割ほどなので、非常に利益を得やすい」と解説する。
キックはガイドラインで「配信する場所の法律を順守し、公共の秩序を著しく乱すことを避けること」を求め、違反した場合はコンテンツの削除やアカウント凍結などの措置を取るとしている。エアガンの映像は現在はもう閲覧できなくなっているが、配信後しばらくは視聴が可能だった。ガイドラインに基づく運用が徹底されているとはいえず、三上氏は「配信内容に関わらず『視聴者数が増えれば金になる』というのが現状だ」と問題視する。
もちろん迷惑配信はキックのみで起きているわけではない。別のプラットフォームでも4月下旬~5月上旬、別の男性が名古屋市のコンビニでエアガンを取り出し、強盗をほのめかすライブ配信を行ったほか、ある女性は大阪メトロ御堂筋線の車内で、スピーカーで大音量の音楽を流して駅員から注意を受けるまでの一部始終を別のSNSに投稿している。
三上氏は「法律に触れないことはもちろん、公衆に迷惑をかけない配信を心掛けるべきだ」と呼びかけた。