先端技術でチケット不正転売を防止する。マイナンバーカード、NFTチケットを用いた取り組みとは

柴那典音楽ジャーナリスト
入場ゲートでは入場者の顔とチケットのQRコードを読み込み認証した(提供:デジタル庁)

エンターテインメント業界で大きな課題となってきたチケットの不正転売問題に対し、先端技術を用いた取り組みが進んでいる。二つの事例を紹介したい。

■マイナンバーカードと顔認証技術で本人確認を徹底

3月29日、30日に千葉県・幕張メッセ国際展示場で開催されたハロー!プロジェクトのイベント「Hello! Project ひなフェス 2025」では、マイナンバーカードと顔認証を用いた不正転売防止の実証実験が行われた。

イベントではplayground株式会社が運営する電子チケット発券サービス「MOALA」とデジタル庁の「デジタル認証アプリ」を連携し、チケットの一部を抽選申込時にマイナンバーカードによる本人認証と顔情報の登録が必要な電子チケットとして販売。入場ゲートではスタッフがタブレットで入場者の顔とチケットのQRコードを同時に読み込むことで本人確認とチケット確認を実施した。

イベントは2日間、計4公演で約2万2千人が来場。そのうち13%がマイナンバーカード認証を活用した特典付き電子チケットを購入。転売されたチケットでの入場を防止しつつ、スムーズな入場を実現した。一方で従来の形で販売された紙チケットのうち約300枚が不正転売されたことが確認されたという。

アップフロントグループの担当者は「不正転売対策において最も難しいのは大量アカウントの作成を阻止することですが、今回はマイナンバーカードと紐付けることでその部分が大きく改善されたと感じています」と手応えを語る。

長時間の興行では、自分の「推し」が出演する時間帯だけ良い席に座りたいという思いから、会場内でチケットをSNSなどで転売するケースもある。こうした行為を防止するため、入場時だけでなく会場内で正しい席についているかを確認する技術検証も行われた。

デジタル庁にてマイナンバーカードの利活用を推進する鳥山高典企画調整官は「エンターテインメント分野でマイナンバーカードの本人確認を使うことが一般的になるにはまだ時間がかかる」と認証プロセスやUXの課題を挙げつつ「将来的には高速道路のETCのようにスマホに搭載されたマイナンバーカードによる本人確認をスムーズに行い優先的に入場できるような仕組みを提供していけるよう業界関係者と連携して進めていきたい」と展望を語った。

■ブロックチェーン技術とNFTチケットで公式リセールサービスを構築

また、新興チケットサービスの「チケミー」は、ブロックチェーン技術を活用したNFT(非代替性トークン)チケット用いて不正転売問題に挑んでいる。NFTチケットは発行から使用まで全ての過程を追跡できるため、偽造を防ぎ、不正な転売を行っている人物を特定できるのがポイントだ。

「不正転売防止においては、これまで誰が転売をしているのか全く見えなかったことが問題でした。ブロックチェーン上では全ての取引を可視化できる。このデータが蓄積されていくことが、不正転売防止に役立つ最大のポイントです」と、株式会社チケミーCEOの宮下大佑氏は語る。

チケミーにはNFTチケットの公式リセールサービスもあり、やむを得ない事情で参加できなくなった際の対応や、二次流通市場から主催者側が収益を得ることも可能になる。

「単に不正転売に対抗するだけでなく、本当に欲しい人と適正な価格で譲りたい人をつなげる適正な流通を実現することが重要です。主催者に対して適切な還元がある場合は、ダイナミックプライシングのようなシステムで価格変動を許容すべきだと考えています」

技術革新と制度設計の両面から、より健全なチケット市場の構築に向けた取り組みに今後も注目していきたい。

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音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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