メタバース狂騒曲の光と影:Clusterの苦闘とRobloxの飛翔から読む「成功の鍵」
かつてSFの夢物語だった「メタバース」は、2020年代初頭、突如として現実のバズワードへと躍り出ました。
未知なるデジタル大陸への期待に胸を膨らませ、多くの企業がその旗を掲げましたが、熱狂の季節は過ぎ、今やその大地には光と影が交錯しています。
その影を象徴するかのように、日本のメタバースプラットフォームの雄「cluster社」の最新決算は、厳しい現実を突きつけました。ユーザー獲得と収益化の壁は、決して低くないことを物語っています。
しかし、その一方で、暗雲を切り裂くように力強い光を放つ存在がいます。2025年、市場の度肝を抜く成長を叩き出したRoblox社です。彼らはなぜ、この荒波の中でなお飛躍を続けられるのか?
そこで今回は、clusterが直面する試練と、Robloxの圧倒的な成功譚を対比させながら、メタバースプラットフォームの未来を左右する「成功の鍵」を解き明かします。
一時のブームが去った今だからこそ見える、真の勝者の条件とは何か?
その核心に迫ります。
※AI音声でも解説しています。
日本のメタバースプラットフォームが抱える試練:Clusterの現状
まず、国内の状況に目を向けてみましょう。日本最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」を運営するクラスター株式会社は、2024年12月期決算で最終損失19億7200万円と、赤字幅が拡大したことが報じられました。この数字は、メタバース市場の成長期待とは裏腹に、プラットフォーム運営と収益化の難しさを改めて浮き彫りにしています。
同社の貸借対照表(令和6年12月31日現在)を詳しく見ると、この状況がより鮮明になります。当期純損失約19.7億円に加え、利益剰余金はマイナス約38.4億円に達しており、創業以来の赤字が深刻なレベルで積み重なっていることが分かります。これは、事業活動から得られる利益が、継続的な投資や運営コストをカバーできていない状態が長期化していることを示唆しています。
一方で、純資産は約13.3億円を維持しており、自己資本比率は約64.7%と一見すると高い水準です。しかし、この背景には、資本金1億円に対して資本剰余金が約50.7億円と非常に大きいという構造があります。これは、過去に複数回にわたる大規模な増資(外部からの資金調達)によって財務基盤が支えられてきたことを物語っています。つまり、現在の財務的な安定性は、事業そのものの収益力よりも、投資家からの期待と資金供給に大きく依存していると言えるでしょう。
「cluster」は、累計ダウンロード数200万(2024年7月時点)、イベント累計動員数3,500万人を超えるなど、表面的な数字では国内で確固たる地位を築いているように見えます。特に10代、20代の若年層からの支持は厚く、スマートフォンから手軽にアクセスできる点は、ユーザー獲得の初期段階では有利に働いたはずです。
しかし、これらの「累計」の数字の裏側では、アクティブユーザー数の伸び悩みや、新規ユーザーの定着率の低さが深刻な課題として指摘されています。熱心なコアユーザーは存在するものの、その数は限定的であり、プラットフォーム全体の活性化、ひいては収益機会の創出には至っていないとの分析もあります。スマートフォンでの手軽なアクセスは、一方でVRデバイスを通じた深い没入体験を提供しづらく、結果としてユーザーの長期的なエンゲージメント獲得に苦戦しているのかもしれません。
さらに、コミュニティの断片化による「観客の取り合い」が発生し、イベントあたりの参加者数が伸び悩むという現象も、収益化の足かせとなっている可能性があります。メタバース市場全体が黎明期であり、プラットフォーム開発、コンテンツ拡充、マーケティングといった先行投資が不可欠であることは理解できます。しかし、その投資が収益に結びつくまでの道のりは険しく、年間約19.7億円というペースでの損失が継続する場合、現在の流動資産(約18.1億円)も遠からず圧迫される可能性が懸念されます(※実際のキャッシュフローとは異なります)。
この状況は、クラスター社が持続的な成長モデルを確立し、早期に収益化への道筋を明確に示さなければ、追加の資金調達が不可避となる可能性を示唆しています。これは、日本のメタバースプラットフォームが直面する共通の課題とも言えるかもしれませんが、特に多額の資金を調達してきたクラスター社にとっては、投資家からの期待に応えるプレッシャーも大きいと言えるでしょう。
転換期を迎えるクラスター社:書籍出版に込めた「熱量」への活路
メタバースプラットフォーム「cluster」を運営するクラスター株式会社は、財務的な課題に直面する一方で、その活路を「熱量の高いファンコミュニティの構築」に見出そうとしています。その決意と戦略を具体的に示したのが、2025年4月25日にプレジデント社から出版された新刊「熱量ドリブン ファンマーケティング新戦略」です。本書は、同社が10年にわたるプラットフォーム運営で培ってきた知見と、メタバースとファンエンゲージメントを結びつける革新的なアプローチを提示しています。
書籍に込められたクラスター社の現状認識と問題提起
本書の根底には、クラスター社自身のプラットフォーム運営における課題意識が色濃く反映されていると推察されます。前述の通り、同社は累計ユーザー数では一定の成果を上げているものの、アクティブユーザーの定着や収益化の面で苦戦を強いられています。このような状況下で、本書は以下のようなクラスター社のスタンスと見解を示していると考えられます。
一方的な情報発信の限界と「熱量」の重要性:SNSの普及により個人の発信力が増大した現代において、企業からの一方的な情報発信の効果は薄れていると指摘。真に企業やブランドを支えるのは、強い愛着と能動的な行動意欲を持つ「熱量の高いユーザー」であり、その創出と維持こそが最重要課題であるという認識です。これは、まさに「cluster」が直面する、ユーザーのエンゲージメント深化という課題と直結します。
「累計」から「アクティブな熱狂」へ:単に多くのユーザーを集めるだけでなく、いかにして彼らを熱心なファンへと転換させ、自律的に活動するコミュニティを育むか。本書が「たった1人の雑談から始まる、自走するファンコミュニティ」をテーマに掲げるのは、まさにこの点への強い問題意識の表れでしょう。これは、プラットフォームの継続的な活性化と、ユーザー主導のコンテンツ生成を促すことで、運営側の負担を軽減しつつ魅力を高める狙いも透けて見えます。
メタバースの「本質的な価値」の再定義:一時のブームが落ち着きを見せる中で、メタバースが提供できる本質的な価値は何かを問い直しています。本書では、それを「場所・時間・身体の制約から解放された新たな交流の場」であり、「熱量の可視化」が容易な空間と位置づけています。これは、単なる技術的な新奇性ではなく、より人間的な繋がりやコミュニティ形成の場としてのメタバースの可能性を追求する姿勢を示しています。
本書の意義とクラスター社の戦略的意図
本書の独自性は、単なるファンマーケティング論やメタバース活用術に留まらず、「熱量」という人間的な要素を軸に据え、その熱量をいかにして醸成し、持続させ、そしてビジネス成果に繋げるかという具体的な戦略を提示している点にあります。「雑談」や「心理的安全性」といったキーワードは、従来のマーケティング論では見過ごされがちだった、コミュニティの本質的なダイナミクスに光を当てています。
クラスター株式会社が、メタバースプラットフォーム「cluster」の運営を通じて得た成功体験だけでなく、おそらくは直面してきたであろう困難や試行錯誤の経験をもとに執筆された本書は、理論と実践が高度に融合した内容と言えるでしょう。
この書籍出版は、クラスター社にとって単なる知見の共有に留まらず、以下のような戦略的な意図も含まれていると考えられます。
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購入者のコメント
2非常によくまとめられていました。感謝です。
嬉しいお言葉ありがとうございます!かなり長文になってしまいましたが読んで頂き感謝です🙏