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メディアアートとパイオニアと名乗ることの難しさについて

この記事は2022年12月に執筆したものの、非公開にしていた記事を2023年12月の目線で修正し、公開するものである。一部情報が古くなっているところもある旨をご了承いただきたい。

著作権をめぐっての訴訟

2022年の4月、チームラボはアメリカのMuseum of Dream Space(以下MODS)を訴えた。

チームラボはMODSが作品の盗用、そして自社の作品の写真をSNSでの拡散に利用されたとして訴えている。
後者は本当だとすれば論外なので是非法の裁きを受けて欲しいところだが、自分が興味を持ったのは前者、つまり作品の盗用と主張している話題だ。
盗用されたと主張される作品は2つ。
1つは「Crystal Universe」。数珠状にLEDが連なった帯を鏡張りの空間中に垂らした作品だ。

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www.teamlab.artより抜粋

もう1つは「Universe of Water Particles, Transcending Boundaries(憑依する滝、境界を超える)」。床と壁面にプロジェクタ、あるいはLEDディスプレイで花や流れる水のような映像を流す作品である。

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www.teamlab.artより抜粋

どちらもバージョンアップを繰り返しながら継続で発表し、常設もしているチームラボの代表作といえる作品であると思う。

一方のMODSの模倣したとされる作品はどうか。公式サイトには作品のタイトルやWORKSなどがないため、公式インスタグラムから近いであろう作品を抜粋してみた。

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MODS公式インスタグラムから抜粋
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MODS公式インスタグラムより抜粋

そして、この訴訟はすでにMODS側からも答弁書が出ており、すでにお互いの意見が表明された形になっている。チームラボ側は以下のように主張している。

「全体的なコンセプトや印象が実質的に類似している」

美術手帖より抜粋

一方MODS側は以下のように主張している。

「チームラボが複製されたと訴えている作品の要素は、チームラボのオリジナルではないか、保護対象ではない。また、これらの定義は漠然としており、過去ほかの作家のインスタレーション作品に見られるアイデアや素材でもある」

美術手帖より抜粋

また、MODS側は続けてこう主張する。

MODSはまた、色が変化するLEDを吊り下げて使用することについては、草間彌生など「多くのアーティストが用いているアート表現のメディウム」だとしている。

美術手帖より抜粋

この話が気になる理由

実は話題となっているCrystal Universeの主なメディウム(素材・ツール)として使っているようなLEDは実はAlibabaなどで簡単に手に入る。
しかも1つ1ドルから5ドル程度と、1つ1つはそれほど高額ではない。実際クリスマスイルミネーションなどで身近で使われているケースも多いだろう。

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Alibaba.comより抜粋

Alibabaを使った事がない方も多いかもしれないが、使い方さえ判ってしまえばアカウントを登録してチャットで数回やりとりをすれば決済が済み、1週間程度で商品が届き、しかも個人でも利用できる中国のショッピングサイトである。それほどの難易度の高いものではない。

入手性の高さから様々なアーティストや会社がこのタイプのLEDを利用しているため、MODS側は「多くのアーティストが用いているアート表現のメディウム」として著作権を否定しているのであろう。

この方法論は実はもう一つの作品、「Universe of Water Particles, Transcending Boundaries(憑依する滝、境界を超える)」にもある程度当てはまる。こちらではメディウムはプロジェクター(あるいはLEDディスプレイ)となる。「複数台のプロジェクターで部屋前面をプロジェクションすること」は「多くのアーティストが用いているアート表現のメディウム」だ、と主張された場合、それは一定の理解を得られるように思う。それ故MODS側は以下の主張をしていると類推される。

「チームラボが複製されたと訴えている作品の要素は、チームラボのオリジナルではないか、保護対象ではない。また、これらの定義は漠然としており、過去ほかの作家のインスタレーション作品に見られるアイデアや素材でもある」

美術手帖より抜粋

では、チームラボの主張する、

「全体的なコンセプトや印象が実質的に類似している」

美術手帖より抜粋

とはどういうことなのか。メディウムを除いてしまうとチームラボの作品の何が印象を形作るのか。

チームラボの「良さ」をどのように考えるか

みなさんにとってチームラボの作品の印象を形作る主な要素はなんだろうか。自分にとっては規模、つまりスケールである。N数1だとあまり論拠としては強くないかもしれないが、そういう発言はちらほら見るので自分だけの感想というわけでもなさそうである。

過去TeamLabの作品を鑑賞してきて自分も幾度と思ってきたことかもしれない。特に個人で制作をしている場合、やれることに限界を常に感じているので、経済的なハードルや実装上のハードルをクリアし、圧倒的なスケールを実現したこと自体に強いメッセージを感じ取る。この総合的な実装力が、TeamLabの作家性なのかもしれない。

永松歩「批評とTeamLab」より抜粋

LEDを数万個用意し、空間全体に敷き詰める、あるいはプロジェクタを数百台導入して空間中の壁をディスプレイ化する、といったスケーリングの技術やノウハウがチームラボの展示の印象の多くを形作っていると考えている。

これはある種、チームラボの見た目的な印象部分というよりも見えないところのクリエイティビティを称賛していることになる。

具体例を挙げてみよう。チームラボボーダレス(チームラボの美術館)は470台のプロジェクタと520台のPCを使って壁面をディスプレイ化している。

チームラボの作品の殆どは映像はリアルタイムに生成される。つまりコンピュータがその場で計算して映像を作っている。そのため、作り手は映像を直接作るのではなく、「映像を作るプログラム」を作ることになる。

しかも520台のPCが連携して1つの空間を作るため、全てのPCが同期する必要がある。非常に大規模なシステムを組み、その上で安定して動くプログラムを書かなければならない。

大量の予算を投入し、巨大な空間と大量の機材を用意して、それらをまとめ上げる巨大なシステム・プログラムを実装する。これがチームラボの凄さであると思っている。1作家で扱える範囲を超えた、ある種会社だからこそできる、極めて資本主義的なアプローチである。

私見ではあるが一見した限り、MODSがこのレベルに到達できているかは疑わしいように思う。「チームラボみたいなことをやりたい」というラフなコンセプトで構築された空間であり、しかもチームラボほど機材を使いこなしたシステムを構築で来ておらず、表現が整っていないように見受けられる。
LEDは大量にかつ3次元的に配置されているがボリューメトリックな表現ができるシステムを実装しているわけではなく、水のような表現があるが量感が不足している(恐らくPCパワーが不足しているうえにGPUを使ったプログラムも書けていないのではないだろうか)。
大規模なデジタルインスタレーション市場を切り開いてきたチームラボとしては、劣化コピーを出されて市場がシュリンクするような自体になれば非常な損失になると考えるのも当然だろう。

他者の作品を元に自分の作品を作ること

が、気になる点もある。「チームラボみたいなことをやりたい」のような「〇〇みたいなものを作りたい」という欲求はどこまで制限されるべきなのか、という点だ。

漫画やイラストの世界でも模写やトレースについての話題は非常にホットになっている。恐らく検索機能の発展により、元が見つけやすくなったことが要因のうちのひとつではないかと思う。

個人的には先駆者は相応の尊敬や注目を集めるべきだと思うし、多くの人もそこに反論はあまりしないのではないだろうか。一方で、矛盾するようだが、他の人が先駆者に憧れ追い付こうとモノづくりをすることを抑えつけるような状態は好ましくないと思っている。あらゆる創作、仕事の世界でも「モノマネからうまくなれ」というのは一般常識のように言われる。フォロワーが居てこそ文化たりえるし、いないと文化としては衰退してしまう。

そして私個人としてはチームラボは比較的そういった、「他者の作品を元に自分の作品を作ること」に寛容な世界で作品を作ってきたと思っている。

チームラボの有名な作品で「お絵かき水族館」というものがある。子供たちが書いた絵をスキャンすると、データ化され、背景が切り抜かれて映像の中の水槽を回遊する、というコンテンツだ。

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futurepark.teamlab.artより抜粋

「お絵かき水族館」の初出はサイトによると2013年頃だが、同じような仕組みのコンテンツは以前にもあった。自分が知っているのはココノエという会社が作った「撃墜王」という作品だ。2011年にメディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選ばれた「撃墜王」は、書いた絵を机に置くとデータ化され、背景が切り抜かれて映像の中でバトルがはじまる、という作品だった。

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9ye.jpより抜粋

映像のテーマ部分が飛行機か水族館か、という違いはあるが「自分で書いた絵が映像の中で自由に動き回る」というコアになる体験やユーザのフローは同じである(ちなみにココノエは2012年に「らくがき水族館」という作品も作っている。仕組みは撃墜王と同様の仕組みだ)。

作品を参考に作品を作る場合、それが肯定的に捉えられるか否定的に捉えられるかは元の作品があっても成立すること、つまり元の作品を少なくともどこか1点ではアップデートした作品であることだと思う。参考にした作品があることを隠さないと成立しないような作品は「パクリ」と呼ばれる。

「お絵かき水族館」は「撃墜王」のシステムをコピーした、というものではないだろうし、かと言って「存在を知らなかった」が通るような状況でも(少なくとも当時は)なかったように思う。

この記事を読んでいる方が撃墜王をご存知かどうかは知らないが、もし知っていたならチームラボのお絵かき水族館をどう思っただろうか。上の件と同様にチームラボのほうを「パクりだ!」と感じ、もし撃墜王を作ったココノエがチームラボを告訴したらそれを当然だと思っただろうか。

「たまたまじゃない?」と思う方もいらっしゃるかもしれない。ただ、私はチームラボが当時「様々な作品を元に作品を作り、発表していた」ことを知っている。これ以外にも具体的な例がいくつもある。

ただ、私はチームラボを「パクリだ」と弾劾したい訳ではない。私は美術的知識は乏しいがチームラボの扱う「規模の技術」についてはそれなりの知識があり、彼らのそこの仕事ぶりに関しては非常に尊敬を持っている。ただ、この状況が個人的に私を悩ませる問題になっている。

歴史が修正されてしまうと言う懸念

その問題とは「他者の作品を元に作品を作ったもの」が「その道のパイオニア」として歴史の教科書に書かれてしまうのではないか、という問題だ。

先ほど例に出した「撃墜王」は継続して展示・開発されることもあまりなく、ミュージアムに所蔵されることもなかった。

一方、「お絵かき水族館」はメンテナンスされ、各地のショッピングモールなど様々な場所で継続的に展示、あるいは常設で展示されている。チームラボの成功によって認知も上がってきている。

10年以上前に数度だけ展示された作品と10年以上継続的に展示、開発されている作品では認知度の差が非常に大きい。そのため、「撃墜王」や「お絵かき水族館」のコアにある「絵で描いたものが動き回る楽しさ」を発明したのはチームラボだ、と思っている人も多いのではないだろうか、という懸念を持っている。平たくいうと「撃墜王」というパイオニアがなかったことにされるのではないか、という懸念だ。

本来であればミュージアムがアーカイブしたりして歴史を編纂してパイオニアへの敬意を維持していくのだろうが、遠巻きに見る限り、このようなメディアアートに関して言うと保存の難しさや専門とするミュージアムの少なさも相まってか、そういった流れは望み薄だと感じている。

もしそうなってしまっていたらあまりにも「撃墜王」を作った会社は可哀想ではないだろうか。

メディアアート界隈の矜持の話

通常のアート以上にメディアアート作品ではメディウムや手法と作品自体の切り離しが難しい(実質不可能に近い)。

ただ、この界隈をここ10年ほど見てきた限り、撃墜王の件や、そもそものMODSの訴訟に対するコメントのように「何処がパイオニアか」は細かく追求せず、「誰かの作品にインスピレーションを受けて作品を作る場合、その作品を超える」と言う矜持で動いている業界のように思う。

今回の訴訟におけるチームラボのスタンスが自身がパイオニアであると主張するためのものでないことを望んでいる。





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技術相談役。 テクニカルディレクターズアソシエーション(TDA)代表。 『BASSDRUM』メンバー。 大阪芸術大学・京都芸術大学非常勤講師。 博士後期課程満期退学の工学修士。 目の研究→メーカで研究開発→クリエイティブ系の会社→プロトタイプ開発のスタートアップ→今ここ
メディアアートとパイオニアと名乗ることの難しさについて|Toyoshi Morioka
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