アメリカのトランプ政権はハーバード大学に対し、キャンパス内で暴力や反ユダヤ主義を助長したなどの理由で留学生を受け入れるための認定を取り消し、在学中の留学生についても、ほかの大学に転出しなければアメリカの滞在資格を失うとしています。
ハーバード大で学生が抗議デモ 日本でも不安と困惑広がる
アメリカのハーバード大学では、トランプ政権による留学生の受け入れ認定の取り消し措置などに抗議してアメリカ人学生らがデモを行い、声をあげると悪影響があるのではないかと恐れる留学生に代わって措置の撤回を訴えました。
ハーバード大学をめぐり、今なにが起きているのか。
日本でも、不安と困惑が広がっています。
【詳しくはこちら】トランプ政権 留学生ビザの面接 新規受け付け一時停止を指示
これを受けてハーバード大学では27日、大学の学生団体の呼びかけでデモが行われ、アメリカ人の学生らが「留学生のいないハーバードはハーバードではない」などと措置の撤回を訴えました。
ハーバード大学にはおよそ6800人の留学生が在籍していますが、デモに参加すると滞在資格などに悪影響があるのではないかと恐れる留学生が多いということで、会場では「秋から大学に戻れるのか不安だ」といった留学生の訴えが代読されました。
また、トランプ政権がアメリカ国内の大学への留学を希望する人たちの学生ビザについて審査のための面接の新規受け付けを一時停止するよう指示したことについて、スピーチをした学生は「トランプ氏は、ビザ申請者のSNSを調べ、政権に同調しない学生を排除しようとしている」と非難しました。
卒業を目前に控え、留学生で唯一、スピーチしたスウェーデンからの学生は「大学には政権の要求に屈したらさらなる要求が来るので、決して屈してはならないと伝えていきたい」と話していました。
《日本国内では》
海外留学支援の進学塾にも不安の声が
海外留学を支援する専門の進学塾では、学生や保護者たちから不安の声が寄せられています。
この進学塾では、先週、トランプ政権がハーバード大学の留学生の受け入れ機関としての認定を取り消すと発表して以降、28日にかけて、学生や保護者から「ハーバード大学以外にも影響があるのか」とか「アメリカ以外の国への留学を検討したほうがよいか」といった相談や不安の声が数件、寄せられているということです。
これを受けて、この進学塾では生徒に向けて「出願準備はこれまでどおり進めてほしい」などとするメッセージを発表し、アメリカ以外の留学先も提案しながら個別の相談に応じているほか、トランプ政権が検討しているとされるSNSの審査強化への対策としてアメリカを批判する投稿などにコメントや反応をしないよう呼びかけているということです。
代表の松田悠介さんは「アメリカのイノベーションや発明は留学生に支えられてきたという実態があるので、受け入れ停止が未来永劫続くとは考えにくい。トランプ政権は大学の出方を見て最終的な落としどころを見つけると思うので、諦めずにしっかりと留学の準備をしていくことが大事だと思う」と話していました。
また、中には移民政策への関心から、あえてトランプ政権下のアメリカに留学したいという生徒もいるということで、松田さんは、「社会に大きなうねりがあるときこそ、学生同士の議論が深まっていくと思う。生徒がどんな環境で学ぶことが 成長につながるか、対話を通して明確にしていきながら、アメリカを進学先として選ぶ場合は引き続き全力でサポートしていきたい」と話していました。
- 注目
大阪大学 最大100人程度の博士研究員 受け入れる方針
大阪大学はハーバード大学を含むアメリカの大学に在籍し、学ぶことなどが困難になった留学生と研究者を受け入れる方針を決めました。
大阪大学によりますと、学生の学費の免除のほか、渡航に必要な手続きや、研究などを維持するための必要なサポートなどの支援策を検討していて、「医学系研究科」では、6億円以上の財源を準備し、国籍を問わず、最大で100人程度の博士研究員を受け入れるということです。
大阪大学は「すばらしい研究が継続されないことは人類全体の損失で、安心して最先端研究に取り組める環境を提供する」としています。
東大 京大など各大学の対応は
アメリカで学ぶ留学生への影響が懸念される中、国内の大学ではこうした留学生の受け入れを検討する動きが広がっています。
【東京大学】
東京大学はアメリカの情勢をふまえ、留学を継続できなくなる学生が出た際には一時的に受け入れる方向で調整を進めていて、一部の授業の受講を認めるほか、将来的に復学した場合に授業の単位が認定されるように履修証明書を発行する予定だということです。
【京都大学】
京都大学では、27日文部科学省が全国の大学に対してアメリカの大学に在籍する留学生の受け入れなど支援を検討するよう要請したことを受けて、留学生の受け入れに向けて具体的な検討を始めているということです。あわせて若手研究者についても受け入れを行う準備を進めているとしています。
このほか九州大学や北海道大学もアメリカで学ぶ留学生を受け入れる方向で検討を進めるなど、国内の大学で支援の動きが広がっています。
東京大学の学生からは不安の声
航空宇宙工学を専攻する修士課程の学生
「留学を選択肢の1つとして考えていたが、ハードルが高くなると、留学を検討することさえもためらってしまう。アメリカには、技術や研究で世界をリードする分野が多く、貴重な学習の機会が奪われることは日本にとっても大きな損失だと思う」
ドイツに半年の留学経験がある修士課程の学生
「アメリカの有名大学は特に私立が多く、留学にあたっては奨学金の獲得などが必要な手続きが多い。そうしたなかで、そもそもビザの取得さえも難しいとなると、留学を考える学生にとってかなり苦しい」
人文社会学を専攻する博士課程の学生
「周りにもアメリカへの留学を考える人は多く、なかには入学の審査を終えたにも関わらず、政権の動向を受けて、大学側から「受け入れが難しい」と伝えられた知人も実際にいる。政府の意向で、人生が左右されてしまうこの情勢のなかでは、先行きへの不安からアメリカを選択肢から外さざるを得なくなる」
【詳しくはこちら】米ハーバード大の措置で文科相 “国内大学で受け入れ検討を”
ノーベル賞受賞 野依良治氏 “日本はこの状況を利用すべき”
ハーバード大学に研究者として1年余り在籍した経験があり、2001年にノーベル化学賞を受賞した名古屋大学の野依良治特別教授は一連のトランプ政権による政策で、これまでアメリカを支えてきた優秀な人材が流出するおそれを指摘した上で、逆に日本は国家としてこの状況を利用すべきだと訴えました。
トランプ政権の政策による影響について「アメリカは優秀な人材を獲得できなくなるだけでなく、頭脳の流出をむしろ恐れているが、ヨーロッパはこれを絶好の機会としてとらえている。日本もこの状況を利用して国際化の促進をやってほしい」と指摘しました。
さらに「近年、国家の成功はいかに若い優秀な人材を世界中から留学生として集められるかにかかっている」と話した上で「日本は戦後長く、アメリカに追従してきた感じがあると思っているが、このトランプ政策による危機を新たな機会として捉えて国際競争力と国際協調力を育むべきだ」と訴え、日本もより積極的に留学生の受け入れを進める必要性を強調しました。
林官房長官 “支援策 情報の公表など行う方針”
林官房長官は28日午後の記者会見で「東京大学など複数の大学がアメリカの大学に在籍する留学生の受け入れを検討すると表明しており、支援策の詳細を検討中だと聞いている。こうした取り組みは学生の不安の軽減に資するもので、文部科学省が日本学生支援機構とともに各大学による支援策について情報収集を行い、関連情報の公表などを行う方針だ」と述べました。
《中国でも懸念の声》
アメリカへの留学生数 世界2番目 中国でも懸念の声
アメリカの教育研究機関の最新の統計では、2023年度の中国本土からアメリカへの留学生の数は27万7000人余りとインドに次いで世界で2番目に多くなっています。
アメリカへの留学ビザの申請手続きを年間1000件ほど仲介しているという上海の旅行代理店では、このところ、留学希望者の保護者から毎日、数件の問い合わせが寄せられているということです。
トランプ政権が学生ビザの取得に向けた面接の新規受け付けの一時停止を指示したと報じられたことを受けて、28日も午前中から問い合わせがあり「ニュースを見たが、影響は出るのか」とか「措置はさらに広がるのか」などと懸念する声が聞かれたということです。
これまでのところ、上海にあるアメリカ総領事館から通知などはなく「まだわからない」などと返答するしかない状況だということです。
この旅行代理店では、今後、中国の学生の間で留学先をアメリカ以外に変更する動きが出る可能性もあるとみています。
また、影響が拡大すれば、現地を訪れる保護者などへの旅行の手配も含め、業績が悪化すると懸念しています。
担当者の男性は「問い合わせをしてきた人たちは焦っている印象があったので落ち着かせようとしていますが、精神的なダメージはあると思います。この措置が今後、どうなるか行方を見守っています」と話していました。
中国外務省 毛寧報道官「留学生の権利と利益 適切に保障を」
中国外務省の毛寧報道官は28日の記者会見で動向を注視しているとした上で「中国は一貫して、通常の教育分野の協力や学術交流が妨げられるべきではないと考えている。アメリカには、中国を含む各国の留学生の正当な権利と利益を適切に保障するよう求める」と述べました。
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