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“冤(えん)罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜

初回放送日:2025年1月4日

冤罪を生んだ警視庁公安部の捜査を検証して反響を呼んだNスペの第3弾。4年前、軍事転用可能な機器を不正輸出したとして大川原化工機の社長ら3人が逮捕された事件。今回、取材班が新たに入手したのは、警視庁公安部内の会議内容が録音された音声記録。そこには、独自の法令解釈で事件化を押し進める幹部らと、そこに戸惑い抗う部下たちの生々しい肉声が記録されていた。新入手の音声記録と独自取材によって闇の原点に肉薄する。

放送内容

目次
  • ■まとめ記事

■まとめ記事

(2025年1月4日の放送内容を基にしています)

<冤罪の深層・闇の原点>

警視庁公安部による異例の冤罪、大川原化工機事件。
今回、私たちは、前代未聞の音声記録を入手した。

当時の捜査班内部で録音された音声。今回、初めて明らかになる記録である。
事の発端は5年前の2020年3月。横浜市の中小企業の社長ら3人が、公安部に逮捕された。軍事転用可能な機械を、中国や韓国に不正に輸出したという容疑だった。
容疑を否認した3人を待っていたのは、一年近い長期勾留。うち1人は、勾留中に見つかった病が原因で亡くなった。相嶋静夫さん。末期の癌だったが、最期まで保釈は許されなかった。

事件が「冤罪」だと明らかになったのは、その死の5か月後。

相嶋さんの妻「なんでこんなことするんだろうって。もう、かわいそうでたまらなかったです。頭の中では『なんで、なんで、なんで』って」

新たに入手した内部音声には、冤罪の原点ともいえる、捜査の実態が記録されていた。

捜査員「『そんな話で俺は諦めねえって言ってんだよ』って、ずっとそれを言っているわけだから」

捜査員「『デスクに割り切ってやってもらうしかない』とか、そういうこと言っているので」

相嶋さんの次男「どうしても犯罪行為にしないといけない、みたいな議論ですよね。根っからおかしな話をしていると思うんですけど」

相嶋さんの妻「ただただ立件したくて、警察で右往左往していたんだなって」

事件化を推し進めようとする幹部たち。

捜査幹部「また、雑把(ざっぱ)で乗っかってるよ、また危ねえよと、そういう考えになるかもしれないけど、俺は乗っかるから」

それに抗おうとする部下の捜査員たち。

捜査員「(幹部らは)もうやるつもりです。2人の中ではストーリーができています、今。いろんなこの結果を捉えても」

捜査員「よくそんなふうになれるよな。すごいっすね、逆に」

捜査員「主任官(警部補)はみんな反対ですからねって、課長に言えばいいんだ」

冤罪はなぜ引き起こされたのか。新たなスクープで、迫る。

<スクープ資料が照らす闇>

私たちが音声記録を入手したのは、去年(2024年)の夏。
大川原化工機の社長を務める大川原正明さん、共に逮捕された元役員・島田順司さん。この日、初めて音声の一部を聞いてもらった。

捜査員「暴走する場合、どうしますか?もう我々止められないじゃないですか」

捜査員「(幹部は)恫喝で『そんな話で俺は諦めねえって言ってんだよ』って、ずっとそれを言っているわけだから」

大川原正明さん「よくぞ出してくれた。我々自身もそうだし、家族も含めて生活もめちゃくちゃにされている。そういうことを一切考えないで物事を進めているんですよね」

島田順司さん「事実を世に伝えなきゃいけないと思いがあったんだと思いますよ。ですから、こういう形で出てきたんだと思いますけど。その思いというのは、ほんとに決死の思いで出してくれたんだと思いますよね」

音声記録は、11ファイル、およそ5時間分。
私達は、ノイズの除去や音質の改善作業を行い、内容を解析。同時に、発言者や録音日時の特定など取材を進めた。
公安部が大川原化工機の内偵捜査を開始したのは2017年春。容疑は会社が製造した噴霧乾燥機の不正輸出だった。

噴霧乾燥機は、液体を粉状に加工するための機械。ビフィズス菌など一部の菌を生きたまま粉にできることから、生物兵器製造に転用できると疑った。
ところが、社長ら逮捕の1年4か月後。検察は、機械が輸出規制の対象ではない可能性があるとして、起訴を取り消した。
事件は冤罪だったのだ。

今回入手した音声の解析で、驚きの事実が判明した。
内偵捜査の段階から、捜査方針を巡る疑問や不満が部内でくすぶっていた実態だ。

捜査員「経産省を要はだまして、うその回答、そういうことやって、令請(令状請求)にいくわけじゃないですか。大変なことですよ」

捜査員「うそみたいな照会文書に書いて、回答をもらうって事はいけないっていうのは」

捜査員「そこに偽証があったらお手上げですよ。裁判も」

捜査員「新聞に載るよ」

捜査員「本当ですよね。新聞に載りますよ」

音声が録音されたのは、会社への強制捜査に踏み切るおよそ半年前、2018年の4日間。

このころ公安部は、輸出規制を所管する経済産業省に、判断を求めていた。大川原の機械は、規制対象に該当するのか、しないのか。
焦点となったのが、省令の一文。

「定置した状態で内部の滅菌または殺菌をすることができるもの」(輸出規制に関する経済産業省令 「定置した状態」とは、分解せずそのままの状態の意)

これは、機械を動かしたあと、内部に残った菌を殺滅できる性能を意味する。生物兵器を作る際、作業員を危険にさらすことがないため、軍事転用可能な条件の1つとされる。
ところが、この『殺菌』という言葉を巡って、公安部と経産省の議論は紛糾したという。

これまでの取材で入手した警察の内部資料によると、当初経産省は、『殺菌』には、その手段などに、明白な定義がないと主張。大川原の機械が、規制に該当するとの判断に、消極的な姿勢を見せていた。

一方、公安部は独自の解釈=『乾熱殺菌』を打ち出した。機械に備わる熱風を出す機能で一種類でも菌を殺滅できれば、規制に該当とすると主張したのだ。

この対立に一応の決着がみられたのが、2018年の2月8日だった。
記録によれば、経産省は、公安部による会社へのガサ(強制捜査)を容認。しかし、肝心の省令の解釈は詰め切っていなかった。公安部長の関与など、警察側が押し切ったと読み取れる記述もあった。

捜査幹部「経産省は、『殺菌は殺菌です』と言い張れるのかね?」

捜査幹部「それは調書で押さえていくしかない。正式文書じゃ出せないんだから」

捜査幹部「そこは支えがないと」

これまで警視庁側は、「殺菌の解釈が恣意的に作り上げられた事実はない」などと、裁判で主張してきた。
本当にそう言えるのか。音声記録をもとに、水面下の動きを探ることにした。


<くすぶり続けた法令解釈>

2018年2月。当時、捜査員らは永田町に居室を構えていた。音声は、その居室内での議論を録音したものだった。
捜査の中核を担ったのは、警視庁公安部外事一課。不正輸出を専門とする、第五係だった。専属の管理官と係長が、捜査を指揮。主任と呼ばれる警部補が班長を務めるなど、およそ20名が捜査にあたっていた。

以下は、経産省の強制捜査・容認直後とみられる音声。
警察独自の法令解釈を経産省は認めているのか。改めて確認する必要があると、警部補らが、係長に訴えていた。

警部補A「警察は法律を定めた人が『(解釈を)分からない』と言っている結果に基づいてガサやったんですね、っていうふうに、世間に言われるのはちょっと問題がある」

第五係長 「そこまで(経産省に)念を押しておいた方が、無難は無難ですけど、それを今度は向こうがビビんないかなと思って」

警部補Y「向こうは警察の書類によって判断しているわけだから、その時点で“乾熱殺菌を認めている”ということで」

第五係長「それ確認する必要あるのかな」

本来、解釈が曖昧なままでは、法に基づいた捜査はできないはずである。しかし・・・

警部補A「(経産省の)この回答は『分からない』って回答じゃないんですか」

警部補Y「そういうことなんだよね。(経産省も)ぼかしたいんだよ」

第五係長「『分からない』とは書かないで、『該当の可能性がある』って書いてあるんだから。これは大人の暗黙で」

警部補A「いやでも、向こう(経産省)としては、さんざん『菌の定義は分からないから、これは判断できない、できない、できない』って言ってきて。『警察が判断してくれって言うから、まあどっちとも取れない回答をしました』と。『警察がそれに基づいてガサしたのは、うち(経産省)は知りません』と」

第五係長「すべての責任を警察に投げるとか、そんなんあるかな。そしたら警視庁もメンツが潰れる。経産省もなにやってるの、この法律論が何なのって言われちゃう。うち(警視庁)も攻撃するしね、経産省がそこまでやるなら」

係長は、法令解釈を突き詰めることで経産省が再び慎重な姿勢に転じるのを恐れていたという。当時の内実を知る関係者の証言。

「“大人の暗黙”とは、お互いの利益のために、グレーなところは見てみないふりをする。第五係長、特有のやり方だ。警部補の一部は、この時点から『いずれ国賠(国家賠償請求訴訟)になる』と言っていた」(匿名警察関係者の証言・取材メモより)

法令解釈が曖昧なまま、捜査を進めることができるのか。
この頃着任した外事一課長の発言が記録されていた。第五係の捜査員が、捜査の状況を報告したときのものだ。

外事一課長「乾熱殺菌の定義というのは?」

警部補Y「乾熱殺菌の定義はないです」

外事一課長「経産省は、『殺菌は殺菌です』と言い張れるのかね?支えが厳しいね。殺菌の方の支えが厳しい」

元々、噴霧乾燥機の規制は、日本も参加する国際的な枠組み(AG・オーストラリアグループ)で合意されたものだ。そこでの合意文言「disinfected」を、経産省は「殺菌」と訳し省令にした。しかし、専門家の間では、「消毒」と訳すのが、一般的とされている。

その消毒機能がついた特殊な噴霧乾燥機は、化学薬品などを使って、機械内部の菌を殺滅できる。経産省の一部は、こうした機械が規制に該当すると考えていたという。

警部補Y「“殺菌”という言葉はあいまいじゃないですか。“消毒”というのは一般的な概念なんですけど」

外事一課長「英文を訳すと“消毒”になる。AG(オーストラリアグループ)がそうだと厳しい。“消毒”はどういう概念なの?」

警部補A「温水と薬液(を使って菌を殺すこと)です」

外事一課長「なるほど、そうすると“乾熱”って出てこない。“乾熱殺菌”はないんだね。“乾熱殺菌”がないってどういうことだよ。厳しいね。“殺菌”という言葉使ったら危ないぞ」

外事一課長「経産省はそういう考えで“殺菌”を使ったっていうふうに・・・」

警部補Y「いえ我々聞いた話では、それはちょっと・・・。経産省からは出てきていないです」

外事一課長「そこはそういう感じで“殺菌”という言葉を使ったっていう話にしてもらわないと、つらくなる」

警部補Y「“殺菌”って定義があるわけじゃないですから、“殺菌”って何かっていったら決まってない」

外事一課長「もちろんそうなんだけど、“滅菌”という(厳密な)概念よりも下がって、“殺菌”というものを使って規制かけましたっていう話を、経産省にちゃんと説明してもらわないと、そこが弱くなってしまう」

警部補Y「経産省は言えないと思う」

外事一課長「それでは何でその言葉を使ったのかっていう話になっちゃう。法律を制定する時にね。そういう調書を取っておかないと支えがなくなっちゃう」

第五係長「それは調書で押さえていくしかない。(経産省は)正式文書じゃ出せないんだから」

外事一課長「そこは支えがないと」

殺菌概念の曖昧さを説明された外事一課長。それでも捜査継続を指示していた。

「課長の言っている『調書を取れ』は、『本当にこれでいいのか、経産省に確認しろ』というのとは違うはず。警察の都合がいいように調書を作って、のませるということだろう。後で経産省の考えが変わらないように」(匿名警察関係者の証言・取材メモより)

課長退席後の話し合い。捜査を指揮する管理官と係長の発言が記録されていた。

管理官「経産省は言えないでしょ、現実的に。『いやいや、実はもう不勉強で(省令に)“殺菌”使いました』なんて」

第五係長「(経産省に)『殺菌どうですか?』って、単純にお願いしたときに、『こうであるというのをできますか?』って。『とんでもない。できない』って話ですよね。ただ調書で、その趣旨は、意図はこういうこと、と(経産省に)言わせる。たったそれだけのこと。いろんな障害はあるけども、それを踏まえた上で事件に出来る積極論という、この性格は、これは自分で。まあ、これに乗っかっていくしかないから。『係長また雜把(ざっぱ)で乗っかってるよ、また危ねえよ』と、そういう考えになるかもしれないけど、俺は乗っかるから」

当時の外事一課長は、その後、警視正に昇任。5年前、警視長で退職した。
本人に、取材を申し込み、面会することになった。
曖昧な法令解釈。それでも、なぜ捜査を継続させたのか。取材と交渉は、2時間半にわたった。しかし交渉の結果は、「コメントできない」、だった。

<事件の背景に何が>

冤罪が明らかになったあと、会社側が国や東京都を訴えた裁判。
一昨年(2023年)12月、一審の東京地裁は、偽計を用いた取り調べなど、一部捜査を違法とし、国と都に賠償を命じた。

大河原化工機・大河原正明さん「警視庁、検察庁には、しっかりと検証していただいて、できることなら謝罪をいただきたい」

しかし、国と都は、捜査は適正だったと控訴。会社側も、公安部が法令解釈をねじ曲げたと認めるよう求め、控訴。審理は東京高裁に移されている。
第五係が事件化にこだわり続けた理由はなんだったのか。その謎に応える法廷での証言がある。現職の捜査員が指摘した、幹部らの「組織内評価への焦り」である。

警部補X「輸出自体は問題ないので、あとは捜査員の個人的な欲というか、動機がそうなったんではないかと私は考えます。年齢があって、定年も視野に入ってくると、自分がどこまで上に上がれるのかと、そういったことを意識されたんではないかなと思います」
(2023年6月・証人調書より)

事件は、警察内部でどう評価されたのか。
起訴が取り消される前に、外事一課がまとめた「総括」文書を入手した。冒頭に掲げられていたのは、警察庁長官賞、警視総監賞の2枚の賞状。事件摘発は、警察内部で高く評価されていた。

背景として語られていたのは、国の経済安全保障にも関係する、中国の情勢変化だ。

近年の中国は、(略)世界の製造強国への転換を目指す「中国製造2025」をはじめ(略)、国家発展戦略を強力 に推進している。(略)我が国においても(中略)日本企業関係者等に接近、働きかけを行うといった動向も見受けられるなど、中国国家戦略の脅威にさらされているのも事実である。

第五係は、内偵捜査の段階から、大川原の合弁先や輸出先と、中国の軍事産業とのつながりを探っていた。総括にある年表からは、経産省との交渉の途中から、事件の重要度が増していった事が分かる。

2017年11月以降、第五係は公安部長や警察庁に事件を報告。強制捜査の直前には、相次いで重要事件に指定され、警視総監にも着手が報告されていた。

組織の期待が集まった今回の事件。「総括」には、こう記されている。

本事件検挙は、マスコミでも大きく報道されるなど社会的反響も大きく、我が国の先端技術保有企業等にも注意喚起を促す等の効果が得られた。

しかし、その後の捜査で大川原の機械が軍事転用された事実は見つかっていない。
捜査の内実を知る関係者は、中国の軍事組織との関係は、確たる証拠のない、後付けだったと語る。

「第五係にとっては、本当に外国の軍事組織とつながっているかではなく、“それらしい絵を作ること”が重要。それが上や経産省を口説くのに役に立つ」(匿名警察関係者の証言・取材メモより)

<潰された“反乱”計画>

2月以降、第五係は経産省から、規制に該当するという正式回答をもらおうと捜査を進めていた。

しかしこの頃、ある重大事態が起きていたことが、音声記録から判明した。

警部補B「暴走する場合どうしますか?もう我々止められないじゃないですか」

警部補Y「そしたら持ってけないと言うことで、係長名でやってもらうということで」

警部補B「なるほど、サボタージュするしかない。我々はね」

警部補らによる、捜査幹部への“反乱計画”。一体、何があったのか。

第五係が大川原の機械を規制対象と見なしたのは、機械内部の菌を、熱風で殺滅できると考えたためだ。

その証明のため注目していたのが、排気口とよばれる箇所だ。排気口は、機械内部を通った熱風の出口。ここが機械全体の「最低温度箇所」と考えていた。ここで一部の菌が死滅する110度を測定すれば、機械内部は、それ以上の高温となる。よって、殺菌が可能という理屈である。

しかし、落とし穴があった。
第五係が機械に詳しい企業に確認したところ、最低温度箇所は他にもあるというのだ。
熱風は機械内で均一に広がらない。特に「バグフィルター下」と呼ばれる部分などは、温度が上がりにくい可能性が浮上した。

この捜査を担当したのが警部補Zだった。Zは偽計を用いた取り調べなど、一審で捜査の違法性を指摘された人物だ。

「(最低温度箇所に関する)新たな指摘で、捜査の土台が崩れることになった。Zは『聞かなきゃよかった』と言っていた。Zは外一(外事一課)に来たのは初めて。でも階級は警部補。“できるぞ”というのを、上にも周りにも見せなければいけない立場だった」(匿名警察関係者の証言・取材メモより)

第五係は、大川原の機械を所有する企業の協力を得て、3月から4月にかけ、2回、実験をおこなった。
しかし、バグフィルター下の温度は2回とも110度に達しなかった。これでは、第五係のいう乾熱殺菌の証明はできないことになる。
2回目の実験が失敗に終わった日。警部補らが集まり、密かに話し合いがもたれた。

警部補Y「●●です。●●さんに応接室に来るように、小さな声で伝えてもらえますでしょうか」

警部補Y「今日の結果ですけど、95度なんですよ。また嫌な匂いがしてきちゃって。事前に言ってたんですよ、『100度いかないんだったら、それは諦めるしかないな』というのは言っていたんですね、管理官。少なくともRL-5・●●は諦めるということで言っていたので」

警部補C「なんか温度が出ないのは、上席(幹部ら)はすごくがっかりしてましたけど」

警部補Y「それで(経産省への)照会文書を出す、もらうって言うことが、普通に考えればおかしいのかなという。今日もいっぱいいっぱい運転したと思うんですよね」

この日の実験では、焦げたような異臭が発生。警部補らは、これ以上、出力をあげれば機械が壊れてしまうと考えたという。
しかし、幹部らは諦めなかった。実験の失敗を経産省には伝えず、強制捜査の準備を進めようとしたというのだ。

警部補B「係長が言っているのは、『バグフィルター下が、コールドスポット(最低温度箇所)なんて分からないだろう」と。『コールドスポットも排風口だ』と。あれ(バグフィルター下)は、なかったことにしたいような感じ」

警部補D「(幹部らは)『原宿(署)も押さえる』と言っているので」

警部補A「もう押さえる?」

警部補D「もう押さえると言ってます。(応援に)二課も呼んでって、もう話をしているので」

警部補Y「二課に対して、すごい恥をさらす頃になると思うんですよね」

警部補D「もう2人(管理官と係長)で、話はもうできているみたいなんで」

警部補A「止めましょう」

警部補Y「係員全員で、『それはできません』って言った方が、主任でこうやって言った方が管理官・係長もガクッとくる。今は俺とかを・・・」

警部補A「個別にね、出てくるモグラを潰す感じでしょ」

警部補Y「そうそう、恫喝でさ。『そんな話で俺は諦めねえって言ってんだよ』って。ずっとそれを言っているわけだから」

警部補D「『デスク(警部補Y)に割り切ってやってもらうしかない』とか、そういうこと言っているので」

議論には、ある人物も同調していた。捜査の違法性を指摘された、あの警部補Zである。

警部補Z「そもそも犯罪事実が立たないんだから、経産省を要はだまして、うその回答、そういうことやって、令請(令状請求)にいくわけじゃないですか。令請(令状請求)にいって、今回の結果なんか報告書に入れられないじゃないですか。大変なことですよ。何やっているか分かってないですよ。ガサって犯罪事実が明確に立つから入れるんですよ、いろんな可能性とかある中で。犯罪事実が立たないもの今回もういらねえって。もうむちゃくちゃですよね。もう狂ってますよね」

曖昧な法令解釈、実験の失敗。このまま上司の捜査指揮に、従うべきなのか。

警部補D「(幹部らは)もうやるつもりです。2人の中ではストーリーができてます。今。いろんなこの結果を捉えても」

警部補C「よくそんなふうになれるよな。すごいっすね逆に。“名を上げる”みたいな感じですか」

警部補B「●●さん(係長)は『俺が管理職になるのは、最後のチャンスだ』と」

警部補A「そこじゃない、(重要なのは)大川原さんが犯罪をしているかどうかなんですよ」

警部補A「明日どのタイミングで言うかだよね。朝会かな」

警部補B「もし中座される・・・『課長に報告があるから』とか言われたら、それを引き止めましょう。みんなで」

計画実施、当日。

警部補Y「おはようございます。それではいつもの通り、結果の方からいきたいと思います」

警部補E「結果なんですけれども、バグフィルター内の一番下の部分、最終的には95度までは確認できたものの、それ以上は確認できませんでした」

警部補Y「はい。ありがとうございました。これまでですね、110度行かなかった場合は、100度であっても見直し、100度以下であったら要検討、RL-5については(規制対象の)該当性が疑えなくなってしまうということで、この実験をやってきたわけですが、昨日の結果受けて、今後どういうふうにやっていくのか、意思統一していかなければならないところがあると思いますので。じゃ係長すいません、まず今後の方針等について、よろしいでしょうか」

管理官「それはね、ちょっと班長で集まってやって」

警部補Y「このあとに?」

管理官「時間がない。今ここでは班長から直接意思統一していかないと。早くして、課長待たせてるから。お願いします。班長に話すから早くね」

第五係長「いったんもう終わり。これで終わり」

警部補Y「昨日、事件班の主任全員で集まったんですけれども、まああの、まずちょっと、その方針だけ、経産省に対する照会のスタンスだけ・・・」

管理官「それも聞くから、全部聞くから、ちょっと早く」

警部補Y「分かりました。では急ぎ班長、集合お願います」

集団で抗議する計画は、遮られた。
その後、班長と幹部らの少数の会議では、Zの言動が、前日から一変。捜査継続を主張する幹部らに同調したという。
Zは、警部補から警部に昇任。去年(2024年)11月、取り調べ調書を破棄した容疑などで、書類送検された。私たちは取材を試みたが、「個人としては回答出来ない」と、Zは繰り返した。
今後の捜査をどうするのか。判断は、外事一課長に委ねられたという。
係長が、課長の指示だとして、新たな捜査方針を警部補らに説明する様子が、録音されていた。

第五係長「経産省に対しては、『もう少し詰めたいところがあるので、ちょっとお待ちください』というかたちで、いいんじゃなかろうか、という話にしましょうねと課長(が言った)。あとね、『稼働しているもの等を見てね、本当の力を出して100度以上、3桁以上にならないと、ちょっと勝負にならないから。そういう方向でいけばどうか』という話」

新たな指示は、同じ型の機械による再実験。状態のよい、別の機械を使えば、高温が出るのではという見立てだった。
課長が捜査継続を判断した決め手は何だったのか。係長と管理官のこんな発言が記録されていた。

第五係長「(課長は)『もう一度(実験を)やるという気持ちを、捜査員はみんな持っているんでしょ』と。『噴霧乾燥機自体RL-5は、もう絶対95(度)以上はならないよと、みんな思っちゃってんの?』と。『まだやる気はあります』と(私は)言っちゃったから課長に」

管理官「課長が、『(規制対象の)該当機だってみんな思ってるか?』って言ってましたんで、『該当機です。みんな一生懸命頑張ってます』と言ったの、間違いだったかな?大丈夫かな?いいかな?みんなの心の中に(規制対象の)“非該当機”だと思っている人が1人でもいればあれだけど。まあ聞きますし。私はその場で、そういうふうに答えたんでね。(捜査員が)そういう気持ちであれば、みんな頑張ってるなというのは、課長はね、確認した」

「皆やる気あるというのは、明らかなうそ。温度の問題にしても、法令解釈にしても、(上司と)闘うネタはそろっていた。上司に逆らってでも捜査を止めるという責任があったが、その自覚が、このときはまだ甘かった」(匿名警察関係者の証言・取材メモより)

結局、公安部から経産省への照会、問合せは延期され、再実験が必要と説明された。しかし、既に実験を2回行い、温度が出なかった事実は、経産省に報告されなかった。
その後、第五係は同型の機械での実験結果を提出。経産省は、警察の資料を前提とすれば輸出規制の対象に『該当すると思われる』と回答した。
この回答が強制捜査への道を開くことになった。
捜査を主導した係長は警部から警視に昇任し、去年退職した。Zと共に書類送検されている。私たちは本人への取材を試みた。

取材班「今回の冤罪事件全体振り返って、率直に」

元警視庁公安部・外事一課/第五係長「いや、ご意見って。警視庁の方に聞いてくれますか」

取材班「でも、ご自身が主導してやった事件だと思うんですけども」

元警視庁公安部・外事一課/第五係長「組織としてやっただけですので」

係長とともに捜査を指揮した管理官。一昨年(2023年)、警視正で退職した。

取材班「部下方々も事件化に疑問をもつ声があったということで」

元警視庁公安部・外事一課/管理官「それについては、放っておいてくださいよ」

取材班「亡くなられた相嶋さんとか、そちらに言葉はないでしょうか」

元警視庁公安部・外事一課/管理官「今係争中でございましょう」

取材班「係争中ではありますが、そこは個人の言葉は関係ないかと思いますが」


<ある警察関係者の謝罪>

2024年12月、ある警察関係者から、「無実を訴えたまま亡くなった、相嶋静夫さんのご遺族に謝罪をしたい」と申し出があった。

警察関係者「もちろん最悪の結果なわけですから、個人的にも謝まりに行くべきだことだとは思っているので、機会があればなとは思っていました」

取材班「組織の方針と違う事をするのは怖くないですか」

警察関係者「怖くないというのは、うそですね。怖くないと言ったらうそですけれども、重要なのは組織じゃない。もともと組織のために警察官やっているわけじゃないので。大事なところをどっちかというのは取り間違えないようにしたいなという気持ちです」

遺族は、個人の謝罪として受け入れるとし、面会が実現することになった。

相島さんの妻「これが主人の仏壇になっています。小さい仏壇ですけど。私が最初に伝えます。静夫さん、今日は●●さんがお参りに来てくれました。良かったですね。じゃあちょっと代わりますね」

警察関係者「警視庁の●●と申します。今回の件、本当に申し訳ありませんでした」

この日、警察関係者と遺族は、4時間にわたり、語り合った。
警察関係者は、この冤罪は警察による犯罪だという、自らの思いを遺族に伝えた。
相嶋さんの死から、間もなく4年。会社側が望んだ警察組織の謝罪は行われていない。

大川原化工機が、国や都を訴えた裁判。都は、捜査を批判した警部補らの証言には憶測が含まれ、信用できないと主張。一方会社側は、客観的証拠と矛盾がないとしている。
東京高裁の判決は、2025年5月に言い渡される。

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