「海外では、旧姓はニックネーム扱いだ」。口座停止寸前、アポ場所に入れない…引きずる不都合 選択的夫婦別姓が実現し、日本人が世界で自由に活躍できる時代はまだ?
外務省は今年初旬に実施した政党ヒアリングで、旧姓併記のパスポートを巡り、2021年4月以降に入国管理でトラブルがあったという報告は上がってきていないと説明した。だが大山さんはこの認識に疑問を呈する。「旧姓で仕事をする女性たちがさまざまな場面で必死に説明しトラブルを乗り越えた後、いちいち領事館に駆け込んだり通報したりするでしょうか」。女性たち、妻の姓に変えた男性たちは、これまで時間と労力をかけて自力でこうした問題を解決してきた。だが今後も当事者の自助努力に任せるだけでいいのだろうか。 大山さんによると、夫婦別姓の議論の盛り上がりを後押ししたのは2024年4~9月に放送されたNHKの連続テレビ小説「虎に翼」だった。ドラマの一場面で選択的夫婦別姓が取り上げられ、主人公の寅子が別姓反対の人に問いかける。「息子さんが結婚して妻の氏を名乗ることにされたら、息子さんの先生への愛情は消えるのですか?」
男性経営者が「虎に翼」について家族と話すことで、結婚時に姓を変えた配偶者が葛藤を抱えていたと初めて知る、ということもあった。大山さんは強調する。「人権や人口減少、国際競争力の視点からも、日本の企業がサステナブルに成長するためにも、多様な〝人財〟が活躍する社会基盤を整える必要があります」。こうした認識は日本企業でも急速に広がりつつあるという。 今年4月、立憲民主党は選択的夫婦別姓導入に向けた民法改正案を衆院に提出した。自民党は独自法案の今国会提出を見送り、野党も対応が一致しないため、今国会成立は厳しいとの見方がある。 この原稿を書きながら1996年に法制審の答申を記事にした記者の気持ちを想像した。約30年後の2025年、アメリカの片隅で後輩記者がこんな記事を書いているとは思わなかっただろう。さらに30年後、誰かが同じような記事を書くことになりませんように。日本国内外で、多くの人が一日も早い選択的夫婦別姓制度の実現を願っている。
× × × 比嘉杏里(ひが・あんり) 2005年入社。名古屋編集部、政治部、那覇支局などを経て23年8月からワシントン特派員。どんな食事環境でも生きていけるが、故郷沖縄のクーブイリチー(昆布炒め)だけは恋しい。