東レ新薬の特許を侵害、沢井製薬などへ217億円賠償命令 知財高裁
かゆみ改善薬に関する特許(用途特許)を侵害したとして、東レが後発薬メーカー2社に損害賠償を求めた訴訟で、知財高裁(清水響裁判長)は27日、沢井製薬と扶桑薬品工業に計217億円の支払いを命じた。薬の有効成分の用途に関し、先発薬メーカーが持つ特許の保護範囲を広く認める司法判断となった。
東レによると、賠償額は沢井製薬に対して142億9093万円、扶桑薬品に対して74億7287万円。知財訴訟における賠償額はこれまで30億円規模が最高だったとみられ大幅に上回った。
東レの大矢光雄社長は判決を受け「努力と成果が正当に評価された。医薬・診断薬開発の取り組みを後押しするものと受け止め、新製品の開発にまい進する」と述べた。
製造販売の承認に時間がかかる医薬品は、原則20年の特許期間を最長5年延長できる特例がある。東レは有効成分「ナルフラフィン」をかゆみ改善薬「レミッチ」に使う用途特許の期間が切れる2017年に、延長を特許庁に申請した。
沢井製薬と扶桑薬品は翌18年、同じ有効成分に添加物を加えた後発薬について厚生労働省から承認を得て製造販売を始めた。訴訟では延長を申請した用途特許の保護範囲や、特許侵害の有無が主な争点になった。
東レ側は後発薬が新薬と異なる添加物を使っていても、かゆみ止めの効果は変わらないため特許権を侵害していると主張。2社側は延長された用途特許の保護範囲は狭まり、成分の異なる後発薬は実質的に同じ製剤といえないと反論した。
知財高裁は27日の判決で、東レの主張に沿う形で後発薬メーカー2社による特許侵害を認めた。訴訟当事者が閲覧制限を申し立てたため、詳しい判決理由は明らかになっていない。1審の東京地裁は21年の判決で東レの賠償請求を棄却していた。
知的財産訴訟に詳しいバヒスバラン薫弁護士は「東レの新薬と沢井製薬などの後発薬は有効成分以外の成分に違いがあるに過ぎず、実質的に同一の薬と判断したのだろう」と指摘する。「多額の開発費を投じて新薬を開発した先発薬メーカーの権利を保護する妥当な判決」とみる。
沢井製薬の親会社サワイグループホールディングスは判決を受け「到底容認できない。速やかに上告を含むあらゆる法的手段を講じる」とコメントした。扶桑薬品も「誠に遺憾。最高裁判所へ上告する準備を進める」としている。
先発薬メーカーにとって延長した特許が保護される意義は大きい。医薬品の特許権は原則として出願から20年間だが、臨床試験(治験)といった開発期間が必要で、実際に新薬が市場に投入されるまで一般的に10年から15年程度かかるためだ。
東レが活用した特例により特許期間を最長5年延長できるが、新薬メーカーが独占的に販売できる期間は5〜10年程度とされる。製薬企業はこの期間で開発に投じた費用を回収しつつ、次の新薬の研究開発に振り向けなければならない。
医薬品の特許は①有効成分である新規化合物に関する物質特許②化合物を特定範囲に使う用途特許③特定の医薬品をつくるための製剤特許――の3種類ある。延長後の特許により保護される範囲については法令上、明確に示されていない。
このため実務面では各事例の司法判断が一つの基準になる。延長登録後の保護範囲を巡り、用途特許ではこれまでに判例がなかった。
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