前回のあらすじ
十四分街に発生したホロウの鎮圧に向かう星見 鄙ら戦闘救難室3課の面々。課長のカルロス達とは別行動をとっていた鄙は順調にエーテリアスを斬り伏せていたが、突如として後ろから不意打ちを受けてしまう。
幸い、すんでのところで受け止めることができたのだが…相手は鄙のよく知る意外な人物だった―――
アンビー「ごめんなさい藤木先生…治安官かと思ったから誤って攻撃してしまったわ…相手を確認しなかった私の不注意のせい…」
銀髪のショートボブにオレンジ色の瞳、少々露出気味な薄緑と黒を基調とした衣服、そして装着しているヘッドホンが特徴的でクールな彼女の名は『アンビー・デマラ』
色々な意味で有名な何でも屋『邪兎屋』の従業員であり、得物に電磁ナタを扱う彼女の戦闘技能には目を見張るほどの実力の持ち主である。
鄙「いや、アンビー達の職業柄―エーテリアスよりも治安官や調査員に遭遇することがまずいからな。幸い怪我はしてないから気にしないでくれ(あの時はビックリしたな…死んだかと思った…)」
自分を責めるアンビーにそう声を掛けるが……本音を言うとかなり肝を冷やした。
彼女に剣技を教えている師の身としてはその成長に嬉しく感じるが、あと少し反応が遅れていたらと思うと冷汗が止まらない…
鄙「…ところで、アンビーはどうしてここに?ニコとビリーとは一緒じゃないのか?」
刀を鞘に収めながら、彼女の他に二人居る邪兎屋の面々の消息をアンビーに尋ねる。
アンビー「二人ならあそこに―」
「おぉ!!黒い狐耳に黒い刀、もしかして藤木の兄貴か!?」
「ちょっと静かになさい!治安官と調査員にバレたらどうするの!」
すると、先程物音が鳴った電車の影から二人の人影が現れる。
鋼鉄のボディーに上から赤いジャケットを羽織り、常に陽気そうな知能機械人『ビリー・キッド』
アンビーと共に戦闘を担当しており、愛用している2丁の中折れ式リボルバーの腕前で右に出る者は居ない。
もう1人の、桃色でツーサイドアップの髪型に布地がかなり少ない露出気味の衣服を着ている女性『ニコ・デマラ』
彼女は邪兎屋の社長であり、日々お金稼ぎに勤しんでいるものの収入バランスがあまり良くなく、そのおかげで会社は常に金欠状態である。
彼女達と初めて出会った時は、調査員とホロウレイダーの関係であり敵同士だった。しかし今では、ホロウ関連の情報を交換したり日常で役立つ雑談を交わしたりしている個人的な協力者であり友人でもある。
ビリー「助かったぜ藤木の兄貴!!依頼品の金庫を探し出すどころかプロキシとの連絡が途絶えて一時はどうなるかと思ったぜ!!」
ニコ「ちょっとビリー!なにしれっと勝手に依頼内容を話しているのよ!?」
鄙「まぁまぁ。話の内容から推測するに、ホロウから脱出するためにキャロットが必要なんだろう?その前にここに至るまでの経緯を教えてくれないか?」
依頼品の金庫とは何か?ニコが抱えているその古い型のボンプがプロキシなのか?
色々と気になることがあるため、まずはニコ達にここまでのいきさつを尋ねよう。
◇ ◇ ◇ 説明中… ◇ ◇ ◇
ニコ「―で、今に至るわけよ」
鄙「なるほどな…」
話の内容を簡単に要約すると―
・とある人物から、暴力団"赤牙組"に盗まれた金庫の奪還を依頼された邪兎屋。
・無事金庫を回収したは良いものの、治安局の攻撃によって赤牙組のボスと共にこのホロウへ落ちてしまった。
・そして、エーテリアスへと異化してしまった赤牙組のボスによって金庫の回収が難しくなり、そこでよく知るプロキシの助けを受けながら金庫を探していた。
・だが突然、プロキシのボンプが停止してしまい、ルートが分からず道に迷ってしまった。
…もう色々とありすぎて、どこから突っ込んて良いか分からない。
鄙「(しかし、邪兎屋御用達のプロキシがまさかあの"パエトーン"だったとはな…)」
パエトーン
そのずば抜けた手腕から難易度の高い数々の依頼を成功させており、インターノットでは知らない者は居らずそれどころか、なのです口調パエトーンガチ勢を中心に熱狂的なファンが居るほどの超有名人である。
さて、そんな人物(ボンプ)が今目の前に居るのだが、先程から石像のように微動だにせず、ンナンナと一言も喋らない。
鄙「すいません、自分の声が聞こえていますか?」
パエトーン『………』
…返事がない、ただの屍のようだ。
ニコ「早く正気に戻ってちょうだいプロキシ!このままだと私達から永遠に借金を回収できなくなるわよ!」
スッとパエトーンを持ち上げて必死に訴えかけるニコだが、相変わらずびくともしない。
ビリー「…ニコの親分、いったん金庫の事は諦めてホロウを脱出しようぜ。幸い藤木の兄貴が調査員でキャロットを持っているから、治安官や他の調査員にバレることなくここを出られる」
アンビー「ビリーの言う通り、ここは一度ホロウを出たほうが良い。既に4回もホロウ内安全活動推奨時間が過ぎているから、いつ私達に侵食症状が表れてもおかしくない。プロキシ先生の復旧を待つより、ホロウを出て一度態勢を整えるべきよ」
変わらぬ状況に耐えかねたビリーとアンビーの二人がホロウからの脱出をニコに提言する。
ニコ「で、でも金庫まであと少しなのよ…!ここまで来て諦めるわけにはいかないわ!!」
鄙「ニコ、気持ちはよく分かる。だが今は依頼より君達の身の安全が最優先だ」
日々の生活に困るほど資金不足が顕著な邪兎屋にとって、今回の依頼は必ず成功させなければならないのだろう。一会社の社長であるニコとしては、従業員達にもう迷惑をかけたくない心境なのだろうが、ホロウの中で倒れては元も子もない。
生きてさえいれば何度でも依頼を受けることができるのだから、今はとにかくホロウを出ることが先決だ。
鄙「自分が先頭を行くから、皆は後から着いてき―」
『Graaaaaaaaaa!!!!』
ビリー「な、なんだ!?」
突如として辺りに響き渡る甲高い咆哮―
周りを見渡してみると、どうやらエーテリアスの大群に包囲されてしまっているようだ。殆どは雑魚ばかりだが何体かの上級エーテリアスも混じっている。
ビリー「こいつらどこから湧いてきやがったんだ!?」
アンビー「ッ…完全に包囲されている」
ニコ「あぁもう!!次から次へと!!」
即座に戦闘態勢へと移る3人。
敵の数は十倍以上…ニコ達だけであれば、かなり苦戦を強いられていただろう。
だが今回はエーテリアスの運が無かった。なぜなら、ここには新エリー都随一の武家である星見家の剣士―星見 鄙が居るのだから。
鄙「ここは任せてくれ。1分以内に片付ける」
そうニコ達に告げると前に歩み出し、腰に据えてある骸狩りをゆっくりと鞘から抜刀する。
鄙「(抜山蓋世、己の力を以て冥途からの使者を送り返さん。)いざ、尋常に勝負!!」
一呼吸置くと、エーテリアスの集団に向かって突き走る。
『Graaaaaaaaa!!!!』
突進してくる獲物に、エーテリアスはエーテル合金をも切断するその鋭利な武器を振りかざすが、身体を捻るようにしてそれを難なく避ける。
そして下から突き上げるようにして刀を振り上げ、集団の内の1体を斬り捨てる。その様子を見た他のエーテリアスが仲間の仇討ちのためか、狂ったように叫びながら群れで襲い掛かってくる。
鄙「(集団で掛かってきたか…だが通用しない)」
刀を一度鞘に戻すと極限まで感覚を研ぎ澄まし、全てのエーテリアスが射程圏内に入った直後、目にも止まらぬ速さで抜刀しそのまま弧を描くように大きく薙ぐ。
近距離のエーテリアスは胴体を一瞬で両断され、離れていたエーテリアスも刀から発する赤黒い高温の炎がまとわり付き、断末魔のような叫び声を上げながらその身を焼かれて消滅していく。
これで20…いや、30体は斬っただろう。
鄙「よし、これであらかた片付い―」
ビリー「後ろだ藤木の兄貴!!」
鄙「何っ…!?」
一息つこうとしたその時、遠方の瓦礫から黒い影が高速で飛び掛かってくる。
鄙「(ッ…!ハティか…少々厄介だな)」
犬とトカゲを足して2で割ったような姿をした汎用個体エーテリアス "ハティ"
高い俊敏性と肉を深く抉る鋭利な鉤爪が脅威だが、幸い守りはそれほど固くないため攻撃を当てさえすれば簡単に倒せる。
それは自分を切り裂かんと鉤爪を振りかざすが、冷静に刀で受け止め相手の攻撃を封じ込む。
鄙「ハァッ!!」
『Graaaa!?』
攻撃を防がれ無防備な姿を晒すハティに向かって躊躇なく刀を振り下ろし、その斬撃は胴体を真っ二つに両断した。
鄙「ふぅ…流石にこれで最後だろう」
少し乱れた呼吸を整えると刀を鞘に収め、今度こそ一息つく。
ビリー「おぉ!!あんなに居たエーテリアスを時間通り1分で倒しちまったぜ!!」
アンビー「さすが藤木先生。その剣技で右に出る者は居ないでしょう」
鄙「いや自分なんて弱い方さ。新エリー都にはもっと強い人達が大勢いるだろうしな…」
雅に匹敵するとはいかないまでも、それなりに高い剣術を身につけていると自覚こそしているが、それでも自身の腕には未だに自信を持てない…
これほどまでに武の才能が無いとは…期待外れだったな』
『小刀すらまともに扱えないなんて、星見家の恥ね』
『妹と比べ、お前は出来損ないだ』
自分は生まれつき武術の才能には恵まれなかった。
当時の星見家はいわゆる実力主義的な家系―だが父親と母親、そして妹の雅はそんな自分を快く受け入れてくれた。
しかし、雅と違い武才ではなかった自分は親族に"落ち零れ者"と蔑まれ、冷たい目で見られていた。
何度泣いたか…何度自分に絶望したか…何度死にたいと思ったか…
あの頃はとても生きづらい日々だった…
ニコ「ちょっと?聞こえてる?どうしたの、さっきから表情が暗いわよ?」
鄙「ん…あぁ…すまない。少し昔のことを思い出していた。先の戦闘で他のエーテリアスが集まってくるだろう。先を急ご―」
パエトーン『ちょっと待ったー!!』
鄙「!?」
何者かの声に鄙は歩を止める。
その声はニコ達3人のものではなく、周囲には他人の姿はない。だとすれば声の主は1匹に限られる。
ニコ「ぷ、プロキシ!?本当にあんたなの!?」
パエトーン『やっほー!ごめんね心配かけちゃって。こっちでちょっとした難しいトラブルが起きちゃって…だけどもう問題は解決したし、私が来たからにはもう安心だよ!』
ビリー「おぉ!やっぱりパエトーンが居ると凄く頼もしいぜ!!」
ビリーは相変わらずのオーバーリアクションだな。
というか、翻訳機を介さずそのまま人語を話すボンプって珍しいな。それに…その慣れ親しんだような喋り方、どこかで聞き覚えあるような…?
パエトーン『さてさて長話は後にするとして、依頼の金庫探しを再開しよっか。今回は藤木さんが居ることだし道中は安心だね!』
鄙「ちょ、ちょっと待て。いつから俺が金庫探索に参加することになっているんだ?それに今は任務中だ。持ち場を離れて勝手に行動していると仲間や他の調査員に怪しまれ、君達との関係がバレてしまう可能性がある。だから悪いが協力はできない」
新エリー都の公務員がホロウレイダー等の犯罪者と繋がることは重罪である。もしニコ達との関係性がバレてしまうと最悪、懲戒免職等の厳罰を科せられてしまう。
長い時間と労力を掛けて、ようやく零号ホロウに近づけそうなのをわざわざ水泡に帰させるほど自分は馬鹿ではない。しかし…
ニコ「お願い藤木!あんたの力が必要なの!もし私達と協力してくれれば、お礼として最高級のメロンを奢ってあげるわ!これは一生のお願い!!」
鄙「……はぁ仕方ないな…分かった。回収作業に同行しよう」
そこまで必死に懇願されると、断る訳にはいかないな。それに、ニコ達が再度危険な目に遭わないか友人として少々心配だ。
…決して、メロンを食べたいからでは断じてない。
鄙「ただし、少しでも身に何かあれば即座にこのホロウから離脱させる。これだけは約束してくれ」
ニコ「分かってるわよ!そうと決まれば金庫探しの再開よ〜!道案内頼むわプロキシ!!」
パエトーン『おっけー!金庫まで最短ルートで行くから着いてきて!』
パエトーンが小さい足で駆け出すとニコ達はその後を追いかける。
鄙「(やれやれ…先走り気味なところは雅と同じだな。さて、自分も後を着いていくとするか)」
高級メロンのため……ではなくニコ達が無事に依頼を完了するのを見届けるために、この星見 鄙が全力で護って進ぜよう。
to be Continued…