真・転生したボクが新エリー都で凡夫になった件。


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作:レトルトところてん
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"位相"、"波羅蜜"、"光の柱"__


5834文字だってよ。ノリと勢いで小説は書くもんじゃないですね。


 

 

 

 __凌ぐ。

 

 

 迫り来る灰色の甲殻に覆われた巨腕の一撃を紙一重で躱し、反撃の斬撃を繰り出すも、あまり深く切り込みを入れられない。

 

 姿勢を低くし、次なる得物による連撃を弾き返すがやはり体幹を崩すには私の力が足りていないようだ。

 

 

 __凌ぐ。

 

 

 ソレノイドエンジンを活性化させ、雷鳴を響かせながら脚部に攻撃を集中させる。振るわれる長い武器を弾き、躱し、受け流す。

 

 

 ヴォォォォォぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 

「……ふッ、サンダーッ!」

 

 

 幾ら培ってきた過去の経験があろうと、やはり馬力が違いすぎる。咆哮と共に振るわれる一撃は重く、弾き返すのも限界が近付いてきている。

 

 何度か電流が駆け巡り、感電している様子もあったが焼け石に水のようだ。硬直時に切り込み続けても私一人では火力が足りていない。

 

 

 __凌、

 

 

「っく……」

 

 

 爆発的踏み込みにより刀身ごと吹き飛ばされた。空中を舞いながらくるりと反転し、建物の壁に着地しつつ反撃の一撃を狙う。

 

 徐々にその姿を変えつつあるデッドエンドブッチャー。非活性状態の体内に眠る高密度エーテルが、目覚め始めているようだ。連撃は重く、速く、私の余力を越え始めている。

 

 久しぶりの窮地。ここには私とリクしか居ない。

 

 ビリーとニコ……できれば2人ともいれば何とかできたかもしれないけど、正直ピンチだ。

 

 跳躍し、雷を纏う斬撃を一点に集中させる。だが先程より威力が落ちているようだ。

 

 

 ……エーテル侵食が始まり掛けている。思えばホロウに入って結構な時間が経過した。本来なら依頼のペットを回収し、帰還途中のはずの時間。如何に高いエーテル適正があれど、ここまでの長時間潜り続けていると影響も出てくる。

 

 ここに来てパフォーマンスの低下、か。

 

 だけど、やるしかないわ。私の命はあげられない。ここで私が負けてしまえば、リクは死んでしまう。

 

 何より、私の命はニコのものだから。こんなところで死んでられない。

 

 だから、勝つッ! 深く呼吸し、全身全霊を掛けた一撃を__

 

 

 キィィンッ!

 

 

 まさか、エーテリアスがパリィをするなんて__ッ! 不味い。リクはここから逃げ切ることができただろうか。そうだと、いいな。

 

 緩やかに流れる視界。迫る巨腕に回避もパリィも、もう間に合わない____

 

 

 

「ンナァァァ!?(そんな、アンビーッ!!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンナ……(アンビー1人じゃ無理だよ……! 邪兎屋全員で掛かって漸くダメージを追わせられるかどうかのエーテリアスなんだ……!)」

 

 

 ボクはアンビーに投げ飛ばされ、建物の隅でアンビーとデッドエンドブッチャーの戦いを隠れながら見ていた。

 

 パリィして、回避して、同じ箇所に斬撃を当て続けているアンビーは凄い。凄い、けど……やはり火力が足りていないんだ。エーテル活性を乱して強制的に隙を作れたとしても、殺し切れるほど強力な手札が今のアンビーにはない。

 

 

 金属音が響き続け、雷を纏った白髪の乙女が恐ろしき悪魔の猛攻を凌ぎ続ける。

 

 

 逃げてと言われた。あなたが生き残ってくれれば、私の勝ちだと、そう言われたのだ。

 

 だが、ホロウ内の構造は周期的に変化する。ホロウのマップデータのキャロットが直ぐに使えなくなるのはホロウの構造が変化するせいだ。今のボクが無闇に走り回ったとしても、脱出できるようまでマップデータが溜まるにはかなりの時間を要する。

 

 アンビーもそれはわかっていたはずだ。

 

 ボクを囮にして、経験のあるアンビーが勘でホロウを走る方がまだ可能性がある。ボクはそう考えたけど、それを伝える時間もなかった。

 

 ならせめて、彼女の決意を無駄にしないためにもボクは走るべきなんじゃないのか? どうしてここで、何も出来ずに見ているだけなんだよ。

 

 見ろよ。押されてるじゃないか。アンビーの限界も近付いてきている。そろそろ走らなきゃ、アンビーの次はボクの番だぞ。

 

 なんで動かない? なんでアンビーの思いを無駄にしようとするんだよ、ボクは。

 

 

 空気中を爆ぜる電流が、暴食の悪魔に襲い掛かるが……妙に動きが鈍くなっている。そうか、エーテル侵食! 流石のアンビーもこれだけの長時間ホロウ内に留まれば影響も出てくる!

 

 勝ち筋は更に消えつつある。

 

 

 冷静に考えろ。ボクが生き残る可能性が残っているのは、アンビーが時間を稼いでくれているからなんだぞ。無駄にするなよ、モタモタするなよ。迷う時間なんてないんだ。ボクが迷っている時間は彼女が命懸けで稼いでくれてる命の時間なんだよ……!

 

 動け、動いてよ。なんで動かないんだよッ!!?? あんなにもアンビーが頑張ってるのにッ! なんでボクは動けないんだ……ッ!

 

 

 汗が滲んだ真剣な表情で、ナタを振るうアンビー。しかし、ガードした刀身ごと跳ね飛ばされ、空中で受け身を取り反撃に出ている。

 

 一瞬悲鳴が出かけるが、必死に我慢する。

 

 

 ……落ち着け、落ち着けよ、ボク。冷静になれ、状況を整理しろ。ボクは彼女に死んで欲しくない。どうにか無事に二人帰れるルートを導き出せ!

 

 

 電池の残量は27%。ホロウ内で様々なアプリケーションを起動していたせいで、かなり残量が減っている。

 

 無下限を起動すると、最低でも5%は持っていかれる。使えて4……いや、切り詰めて5回。

 

 アキラやリンにその力は秘密にしろって言われてるけど、ボクは邪兎屋の皆になら知られても構わない。

 

 デッドエンドホロウの簡易的キャロットを作り出すにもマップデータを収集し、ボクの中のCPUに演算させる必要がある。必要最低限の機能を作動させたとして、消費する電力は少なく見積っても15%は確実。

 

 アキラやリンがボクたちの異変に気付いて連絡を取ってくれることを期待したいが、ホロウ内でハプニングは珍しくない。どれだけ早くても、あと数時間は連絡はないだろう。

 

 

 ほぼ詰み__いや、待て。ボクには奥の手があるじゃないか。

 

 己に眠る人間のボクを使えば、何とか……なん、とか……。

 

 ボンプの状態のボクがどうにかキャロットを作れなければ、最悪侵食によりアンビーが異化する。

 

 人間の状態のボクがデッドエンドブッチャーをどうにかしなければ、最悪アンビーが死ぬ。

 

 

 どうにかできるのか?

 

 

 迷いがボクを縛り付けているが、時間は無慈悲に流れ続ける。限界を迎えたアンビーは遂にそのナタによる攻撃を弾き返され__

 

 

「ンナァァァ!?(そんな、アンビー!!!!)」

 

 

 その小さな身体を、ピンボールのように殴り飛ばされた。

 

 直撃だ。線路を粉々に破壊するような膂力を持った化け物による殴打。間違いなくアンビーは致命傷に近いダメージを負っているはず。

 

 

 ボクが潜んでいるビルの壁に叩き付けられ、そのまま為す術も無くずるりと落下する。不味い、今の彼女に受け身なんて取れるはずもない。

 

 無意識に脳内に膨らんだ算盤に突き動かされ、ボクは無我夢中で落ちる彼女を無限で柔らかく受け止めた。

 

 残電力22%。

 

 もう、後に引けない。

 

「……ッ!」

 

 

 ねじ曲がった左足に、折れた右手の親指。ああ__

 

 

「……かはっ……り、く……ごめ、__ぁ、なんで、ここに」

「……ンナ(ごめん……ごめん! ボク、逃げられなかった。アンビーを見捨てて逃げるなんてできなかった……! 無駄にしてごめんなさい……!)」

 

 

 苦痛に歪んだ表情に、薄く開かれた琥珀の瞳がボクを見つめる。今頃ホロウ内を逃げているはずのボクに驚いている。

 

 ごめん。

 

 

「……少しだけ、安心したわ。最期はひとりじゃないって、そう思うとね」

 

「__ンナ(__違う。ここに最期なんてない)」

 

 

 らしくもなく、柔らかく微笑むアンビー。血を吐きながら薄汚れた顔だ。まるで悲劇の映画のワンシーン。

 

 

 だが違う。違うよ。

 

 

 ここに終わりなんてない。デッドエンドなんてない。

 

 絶体絶命、紛うことなき死の絶望。上等だ。上等だよクソが。

 

 

 ゆっくりと命を脅かす外敵を確認しに来るデッドエンドブッチャー。新たに腕が2本生えている。非活性のエーテルがどんどんと活性化していっているようだ。

 

 やっぱアンビーは凄いよ。命に届き得る存在を相手にするときにしかあの状態にはならない。

 

 

「リ、ク……?」

 

「ンナ("小さな体、大きなトラブル")」

 

「……」

 

「ンナンナ(内容はボンプの身体にボブという人間が入ってしまった物語なんだけど……現実は小説より奇なり、とはよく言 ったものだと思うんだ)」

 

 

 薄く開かれた琥珀が大きく見開かれる。ボクが何を言いたいのか、気が付いたようだ。だが、それも直ぐに伏せられる。

 

 

 近づく巨大な影。膨大なエーテルが光り輝き、その巨体を突き動かしている。新幹線に直撃してもそのまま受け止めて放り投げてしまいそうなほど圧力のある姿だ。

 

 

「そう。そうなの。……ふふ、現実はフィクションとは違う。だけど、あなたに会えて良かった」

「ンナンナ(……ボクが君を助ける。これは絶対だ)」

 

 

 ヴォァァァァァァァアッ!!!!

 

 

 遂に見付かってしまった、死にかけのアンビーに、非力で無力で小さいボンプ。突進する前に取るポーズを取り、そしてそのまま加速する。

 

 

「ンナ(だから見ててよ。僕を、■条■の写し身を)」

 

「……?」

 

 

 飛びかかる影。暴食の悪魔が、宴席の最後のメインディッシュを食い尽くそうとして、

 

 

 そのままその動きを静止させられた。

 

 

「ンナ(無下限)」

 

 

 残電力17%。

 

 

「何、が……?」

 

 

 

 不可思議な光景を目の当たりにし、アンビーは薄れかけた意識を必死に保っている。

 

 

 しかしデッドエンドブッチャーは多少の差異など気にしない。膨大な運動エネルギーを無効化されたことに違和感を覚えつつ、そのまま気にせず四連撃を叩き込む。

 

 

 

 一発目。無効化。

 

 

 

 残電力11%。

 

 

 

 二発目。無効化。

 

 

 

 残電力6%。

 

 

 

 三発目。無効化。

 

 

 

 残電力1%。

 

 

 

 最後の四発目。ギリギリ呪力が足りず、限界まで攻撃の威力は殺したが、それでも攻撃は成立してしまった。

 

 

 ボクは迫る武器の一撃をなけなしの呪力強化で全身を強化し、アンビーを守りきった。

 

 

 バキャッ………。

 

 

 視界が歪む。世界が■識できな■なる。でも、こ■で__

 

 

 

 

 

 

「……ぁ……ごめん、ごめんなさい。私がもっと強ければ、げほっ……私が、もっと……!」

 

 

 アンビーの目の前で、全身を変形させ破壊されたボンプ。頭から股下まで切り裂かれながら凹み、もう修復できそうにない。ボンプに迸るバチバチと光る電光が、プツンと消えた。

 

 

 ここで終わりだ。

 

 

 所詮はポンプ。むしろよく頑張ったと言えるだろう。たかがボンプの分際で、多くの調査員を屠ってきたデッドエンドブッチャーの攻撃を四発も耐えきった。賞賛に値すべきだ。

 

 

 感動的な光景、だが無意味だ。

 

 

 ポンプの命を賭した献身は、白髪の少女の命に僅かな猶予を稼いだだけ。足は捻れ、右の手の指は折れ曲がっているのは変わらない。

 

 戦闘どころか、あと少しで消える命。それをほんの少しだけ、長く保っただけ。

 

 

 特に、何の意味もない。この戦いの顛末に何の影響も及ばさない。

 

 ボンプとホロウレイダーが死ぬ。ただそれだけだ。

 

 

 白髪の少女はゆっくりと目を閉じ、己の運命を受け入れた。己が守ろうとしていた存在は目の前で死に絶え、自身は満身創痍。抵抗できようはずもない。

 

 

 厨房に入った存在にとどめを刺そうと、その大きな得物を振りかぶるデッドエンドブッチャー。

 

 

 その一撃は、突如出現した白い煙によって中断させられた。

 

 

 

 

 PONッ!!!

 

 

 

 

 充満する白い煙。

 

 

 

 

「っふぅ〜……なんか、久しぶりに開放感を味わったかな」

「……けほっ、……あなたは……!」

 

 

 アンビーの目の前には、白髪に蒼く輝く美しい瞳を持った少年が現れていた。

 

 

「__反転術式。こうしてやるのか。くそ難しいけど……まぁ、僕じゃないボクならできるわけね。なるほど」

 

 

 少年から溢れ出る淡く光る反転した呪力が、アンビーの身体を包み込んでいく。瞬く間に癒されていく彼女の肉体。折れた足が治る。折れた手指が戻る。

 

 

「……これは」

 

 

 明らかに調子が戻ったアンビー。正の呪力はエーテル侵食すらも押し戻す。すると突如白い煙は切り裂かれ、ビルの壁ごと横に無理やり切断する攻撃がアンビーに迫り__静止。

 

 デッドエンドブッチャーの動きにより煙が晴れた。

 

 

「僕は今穏やかじゃなくてね。言っとくが手加減なんてしてやらねぇからな、呪霊モドキが」

 

 

 __術式反転、赫。

 

 

 呪力によって生み出される反発する無限。赫く輝くその中心が、巨躯のデッドエンドブッチャーのその身体を数百メートル吹き飛ばす。

 

 

 ボゴォォォォォンッ!!!

 

 

 吹き飛んだ先のビルの壁すらぶち抜き続け、ようやくその勢いを止めることになった。直線上に空いた穴がその膨大な威力を物語っている。

 

 

 我ながら恐ろしい威力だ。さすが特級の一撃。

 

 

 己の放った一撃に感心していると、隣で立ち上がる音がする。

 

 

「アンビー! 身体の方は大丈夫!?」

「ええ。……リク、ってことでいい?」

 

 

 琥珀の瞳がボクを貫く。どうにも違和感がある。

 

 僕は■条悟。ボクは……

 

 

「今のボクは、サトルって呼んで欲しい」

「わかった、サトル」

 

 

 ヴォォォォォォォオオオオオ!!!!

 

 

 雄叫びと共に、遙か遠方に吹き飛んだはずのデッドエンドブッチャーが前方から突進してくる。凄まじい耐久力だ。

 

 術式反転の練度が甘かったか、まぁいい。

 

 

 呪力強化、最大。

 

 

「術式順転、蒼」

 

 

 走るデッドエンドブッチャーの目の前に蒼による瞬間移動を行い、振りかぶる腕の後ろに赫の反発を生み出す。

 

 そして再度蒼による吸い込みでの更なる加速。

 

 

 ドゴォォォォンッ!!!!

 

 

 デッドエンドブッチャーの身体の一部が消し飛び、そのまま後ろによろめく。

 

 即席蒼赫パンチだが、どうにも反動が凄い。呪力による強化と反転回してなかったら腕折れるなこれ。

 

 

 そしてよろめいたデッドエンドブッチャーの後ろに、いつの間にか回っていたアンビーが電気の斬撃をこれでもかと叩き込む。迸る蒼白い電流、どうやら全身に電気が通り、さらに感電したらしい。

 

 

 離れたアンビーと目と目が合う。

 

 

 何かを期待している目だ。そういうこと。なら、今ボクが出せる最大火力をくれてやる。

 

 

「"位相"」

 

「"波羅蜜"」

 

「"光の柱"」

 

「___術式反転、"赫"ッ!」

 

 

 極まった赫い光の奔流が、デッドエンドブッチャーを呑み込んだ。

 

 

 ボッゴォォォォォォォォォオオンンンンッ!!!!

 

 

 ホロウ内を悉く破壊し、直線上に吹き飛んだ痕跡が何百mも続いている。あっ、そういえばホロウ内の建物とか破壊すると、構造が不安定化するんじゃ……!?

 

 

「アンビー!」

「……やったわn」

 

 急いでアンビーの近くに駆け寄り、抱きしめる。

 

「……っ、?」

「ごめん!」

 

 

 ぐにゃりと曲がる視界。やはり起こったな! 空間転移現象! 蒼と赫によって引き寄せられた空間が前のホロウと繋がったのか? まぁいい。

 

 

 僕たちは、ようやく元の共生ホロウに戻ってきていた。

 

 

 

 

 




五条先生やっぱり基本ぶっ壊れなんだよなぁ。
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