真・転生したボクが新エリー都で凡夫になった件。


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作:レトルトところてん
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悪魔、邂逅。


興が乗っちまったぜ。


 

 

 

 ____インターノットにて。

 

 

 

 ユーザー:鳥串に燃える  ♡124

 

【依頼】俺の相方が取り残されてるんだ! 誰か助けてくれ! 金ならある!

:俺の人生の相棒がホロウの中に取り残されちまった! くそっ! なんで俺は相棒を見捨てて治安局の指示に従っちまったんだ! 誰でもいい、俺の家族を助けてくれ!

 

・蒲焼さん太郎

最近こういうやつ多いよなぁ。本当に大事なら命をかけて自分で助けろよ

 

・さしすせ速攻魔法

スレ主のエーテル適正次第。そもそも許可なしにホロウの中に入るのは禁止されてるんだよなぁ

 

・モルフォン亜種

スレ主の言ってるホロウって第八分街に出たやつだろ? 今朝ニュースに載ってたヤツ

 

・きゅぴちゃん

依頼を受けてあげてもいいけど、80万ディ二ーが下限

 

・トムとペペロンチーノ

↑人の心とかないんか?

 

・凡夫

その依頼、ボクが受けてもいいですか? 報酬は後払いで結構です!

 

・歯茎を見せるな舌打ちするな

くそ! 1歩遅かった! これだから俺は零細プロキシなのか……

 

 

 

 ピコン!

 

 

 メッセージアプリに通知が届く。

 

 

《ノックノック:鳥串に燃える 》

 

 

『早速で悪いんだが……いや、後払いでいいのか?』

 

「勿論です。ボクはあなたの真摯な家族愛に応えたい」

 

『……ありがとう。依頼内容を説明する』

『俺はマクロビ。しがない建設業やってるんだが、帰宅途中でホロウ発生に巻き込まれてな。何とか治安局の指示に従ってホロウから脱出できたのはいいが、俺の家にはまだ3歳のにゃあ子がケージに入ったままなんだ……! 治安官に言っても対応してくれないし、今頃お腹を空かせてるはずだ』

『もしかしたら、今まさにエーテリアスに襲われてる可能性だって……! 頼むプロキシさん。安月給で働くダメなおっさんだが、俺にとっちゃ唯一の家族なんだ!』

 

「任せてください! 必ず助け出します。ホロウに呑まれたあなたの元々の住所を教えてください」

 

『ああ! 俺の住所は第十一分街の____』

 

 

 

 

 やり取りを終え、画面に触らずにスマホの画面を検索画面へと変更する。細々な依頼をこなしていくうちに貯まった資金で、ボクは自分に様々なアプリケーションを導入した。色々利便性を向上させてきているのだ。

 

 CPUも積んだりして、今のボクは結構地味に便利なボンプなのである。

 

「ンナ……!(よしっ、がんばろう!)」

 

 依頼人さんもなにも出来ない状況を歯噛みしていることだろう。何とかしてやりたいな。

 

「何を頑張るの」

「ンナ?(この声は……アンビー?)」

 

 ボクは路地裏で、猫のクッキーの隣で座りながらスマホに接続していたのだが、そんなボクに冷涼な呼びかけが届く。

 

 視線をスマホから声の方向に向けると、ニューススタンドから持ち帰ったであろう雑誌を持ったアンビーが相変わらずの涼し気な表情でこちらに歩いてきている。

 

 ボクが開いているスマホの画面をチラリと見て、インターノットの掲示板が示されていることを確認する。すると直ぐに次の言葉を発した。

 

「……そういうこと。キャロットは?」

「ンナ!(もうH.D.Dに演算のお願いを出しといたよ! あと10分しないうちに出力されるかな!)」

「一緒に行くわ」

「ンナ!?(えっ、いいの!? やったぁ! 一緒にお出かけしたかったんだ!)」

「それじゃ、あなたの準備が終わるまで待ってるわ」

 

 圧縮言語でも使ってるんじゃないかと思われるくらい簡潔に話が進んでいるが、アンビーは結構こういうところがある。

 

 ボクが依頼を受けていることを察し、依頼を始めるにホロウのマップデータであるキャロットがなければならないので、キャロットの有無を聞く。そしてボクが行こうとしている依頼に手を貸してくれると言ってくれたのだ。

 

 初めは戸惑ったが、案外やりやすい。

 

「ンナ?(でもいいの? 今日は連日の依頼があるってニコが言ってたような……)」

「……おバカな依頼人は今頃毟り取られてるころかしら。ニコ、敵とわかったら容赦ないから」

「ンナ……(あー……また騙されそうになったんだね、ニコ……)」

 

 ニコは売れっ子万事屋の社長ではあるが、何故か舐められがちなので平気で騙そうとする阿呆も後を絶たない。この間はボロい塗装のフィギュアを100年もののアンティークと騙されて購入してたし……邪兎屋の家計を握るアンビーの心労は計り知れない。

 

 頭の回転も凄く早いし、そういう戦略的視点や駆け引きなんかも大得意なんだけど……ニコ、結構簡単に人の事信じちゃうからなぁ。

 

 

「ビリーも今回は怒ってるみたい。"玉手箱"に傷が付いちゃったから」

「ンナンナ(ビリーの愛車に傷を付けるなんて、なんてことをしてくれたのか! ボクも塗装手伝ったりしたのに)」

「……そういうわけだから、私は暇」

「ンナ(ありがとアンビー! アンビーが入れば百人力だ!)」

 

 

 今はトラビスさんの所にアキラもリンも仕入れに行ってるはずだし、連絡を入れてから行けば丁度キャロットも出力されるかな。

 

 

「ンナナン!(じゃ、ついてきてアンビー! 切符購入アプリまで入れたボクは新エリー都を自由に動けるんだよ!)」

「あなたが順調に成長できてるみたいで、嬉しいわ」

「ンナ!(ふふ! 任せてね!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ__ッ!」

 

 雷鳴が轟き、刀身に埋め込まれている活性化したソレノイドエンジンから膨大な蒼白い刹那の雷光が溢れ出す。雷を纏い、全身でエーテリアスを屠っていくその体術は凄まじい。

 

 右に左に後方に、襲いかかられたとしても背中に目が付いているかのように攻撃が避けられ、反撃の斬撃を繰り出される。

 

 これが邪兎屋最強(諸説あり)の実力か……! やっぱアンビーは凄いな!

 

「……ふぅ、怪我はないかしら」

「ンナ!(大丈夫! アンビーはやっぱりカッコイイ!)」

 

 最後のエーテリアスを切り捨て、こちらに振り返る様子は美しくも迫力がある。

 

「次は右でいい?」

「ンナンナ(うん! 右に進んでから、空間の裂け目に入ってそのまま直進すると目的地のはずだよ!)」

「そう」

 

 すたすたとボクに近付き、持ち上げてくれるアンビー。

 

「ンナ?(どうしたの?)」

「……怪我、して欲しくないわ」

 

 やはり無表情だ。嬉しいことを言ってくれるものである。ボクもアンビーに怪我して欲しくないので、むしろこの距離感は大歓迎だ。遠隔で無限を作り出すには少しだけタイムラグが発生するからね。

 

「ンナンナ(ボクもアンビーに怪我して欲しくない。だから守りは任せて)」

「ええ。辛かったら言って」

 

 行くわ。と一言告げ、ボンプとは比べ物にならないほど速く移動を始めた。流れる景色が気持ちいい。

 

 ボンプの身体には慣れたっちゃ慣れたけど、やっぱりたまには人間の身体も恋しくなる。アンビーと一緒にハンバーガーも食べられないしね。

 

「……ンナンナ(……ふふ、"フルスピードで駆け抜けるのがボクの人生だった")」

「……! "だから、私とあなたは姉弟だった"」

「ンナンナ(あははははは! やっぱアンビーは最高だ!)」

 

 

 駆け抜けながら、ふっと笑うアンビー。そのままボクに視線を向け、何か思うところがあるような顔をする。

 

「……リクが人間だったら……いいえ。何でもないわ」

「ンナ!(……アンビー、今度ボクと一緒に映画を見てよ!)」

「いいけれど、何を?」

「ンナンナ("小さな体、大きなトラブル"さ)」

「知らない映画ね。いいわ」

 

 実はボクはまだ、人間だったことを周りに伝えていない。というのもボンプとして受け入れられたのに、実は人間でしたー! なんて言うのが怖かったからだ。万が一非難されたことを考えると、どうしても言えなかった。

 

 でも、そろそろ前に踏み出すときが来たのかもしれない。未だにその未来は怖いけど、でもアンビーなら特に何事もなく受け入れてくれる気もする。

 

 依頼が終わったら、映画でも見ながら真実を伝えてみよう。

 

 

 

 

 

「あれね」

「ンナ!(うん!)」

 

 見えた空間の裂け目。相変わらず妙にぶよぶよしている。まるで水中の泡が集まったかのような見た目だ。

 

 そしてボクたちは裂け目に入ろうとして__

 

 

「ッ! リク、大丈夫?」

「ンナ……(うー、大丈夫)」

 

 

 入る直前で何処かにテレポートした。えっ、ええええ?

 

 

「……空間転移。こんな小規模な共生ホロウで起こるなんて。……考えていても仕方ない、か。リク、キャロットにここのデータはある?」

「ン、ンナァ(……な、ないよ! 今までのホロウじゃないみたい)」

 

 

 空間転移現象。空間の裂け目を通さない転移だが、それは不安定なホロウの構造の時に現れる。物体を壊したりするとホロウの構造が不安定化して空間転移現象が起こることもあるらしいけど……

 

 自分の言った言葉が信じられない。そんなことが有り得るのか? 呑み込まれた空間はホロウの中で出鱈目に継ぎ接ぎされるのはわかってるけど、でもそれは元々の空間を使ってそうなっているはずだ。

 

 辺りを見回すと、どうやらここは線路のようだ。断じてボクたちが入ったホロウにこんな場所は存在していない。

 

「そう。つまり、大ピンチってことね」

「ンナ(待って。この光景……見覚えが、そうか! ここはボクが生まれた場所なんだ! この場所がわかったよ!)」

「……この路線……それに遠くに見えるのは、」

 

「ンナンナ!(ここはデッドエンドホロウだ!)」

 

 

「ヴォァァァァァァァア!!!!」

 

 

 響く音の爆発。

 

 

「__上!」

「ンナッ!?」

 

 

 わけも分からぬまま、ボクは何かに気付いた様子のアンビーに掴まれる。振り回されつつ、何が起こったのか確認すると、目の前に爆発が起こった。

 

 

 ドゴォォォォン!!!

 

 

 否、これは爆発ではない。

 

 舞い上がった土煙が、その巨大な両腕に振り払われる。現れたのは甲殻に覆われ、4mはありそうな巨躯のエーテリアス……デッドエンドブッチャーだッ!

 

 

 先程の爆発は、デッドエンドブッチャーの持つ膨大な質量の落下だったのか!

 

 

「……不味いわね」

「ンナァ!?(何で距離的にも離れてるはずのホロウとできたばかりのホロウが繋がるの!?)」

 

 

 デッドエンドホロウが何故デッドエンドと名前を付けられたのか。それはその強大なエーテリアス、デッドエンドブッチャーの存在が由来となる。

 

 "禁断の厨房"に入った存在を、デッドエンドブッチャーは絶対に逃がさない。

 

 

 

 

[このホロウは複雑だが、ひとつシンプルなことは…「ヤツ」が現れたら、その道は「デッドエンド」だってことだ]

 __ホロウ調査協会、「デッドエンドホロウ」に関する調査記録17号。

 

 

 

 暴食の悪魔が、こちらを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 






果たしてどうなることやら。
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