「あれ……?ぼくの上履きが無い……」
朝、学校に来ると自分の上履きが下駄履から姿を消していた………
持って帰った記憶も無い……
「どうしよう……」
考え込むカズ……
「カズ…教室いくよ。」
エレンに声をかけられる
もう少しでホームルームの時間だし………
これ以上またせるわけにも…………
「わかった…今行くよ……」
ぼくは上履きを履かず靴下の状態で彼女のもとに向かう
「カズ…上履きは…?」
「いやぁ…家に置いてきちゃったみたい…」
「家に持って帰ってた?」
「持ち帰ってたよ。多分エレンが見てないだけ……」
「そう…?ならいいけどさ……。」
次の日………
「ぼくの筆箱は……?」
「ボケて来ちゃったのかな………」
「カズ、帰るよ。」
「うん……」
翌週………
「まただ……またぼくの筆箱がゴミ箱に捨てられてる……」
「…ッ……机に落書きされてる………」
1ヶ月後………
「ゔぅぅ………」
「うわっw少しボコしただけなのに呻いてやんのw」
「キモすぎw早くいこーぜこんなの放っといて」
立ち去る2人組の男子……
「いたい………」
ぼくは痛みでうずくまる……
全身がいたくて……動けない………
全身…制服もボロボロ……
「おじいちゃんが…遺した…お金で買った……大切な制服なのに……」
じいちゃんが最後にぼくの学校の為に遺してくれてた大切なお金で買った大切な制服なのに…………
こんなにボロボロにしちゃって………
ぼくは情けなくて……涙がでそうになる………
「ごめんね…じいちゃん………」
「はやく…帰らなきゃ…エレンに…バレちゃう……」
ぼくは立ち上がろうとするが……
「ゔぅ…」
まださっきの痛みがあるみたい……
ぼくはフラフラとしながら家に帰った…………
ぼくは洗面台の前に立ち………
「……ッ………!」
途端、洗面器がぼくの鮮血で赤く染まる………
「あぁ……」
腕から血が出てる……
痛みを感じる………
つらいのに…なんか…落ち着く………
「はぁ……また…傷増えちゃった……」
カズは腕についた傷を眺め呟く
「ぼくが耐えれば…ぼくが耐えれば……なんとかなるんだ………」
「ぼくが全部耐えれば………全て丸く収まるんだ……」
「だから…傷増えても仕方がないんだ………」
「スーッ…フーッ……エレンが帰ってくる前に片付けないと………」
エレンを心配させちゃだめだ………
ぼくが耐えないと…………
……
ぼくはいつもの通りエレンの腕の中で目覚める……
ここが1番安心する場所………
大切な人が近くにいるって実感出来る……
「そろそろ起きないと……」
時刻は朝の5時20分
もちろんエレンはぐっすりと夢の中
ぼくは少し早いけど学校の支度を始める為にベッドから抜け出す………
「…ッ……」
この前殴られたところがいたい……
体が鉛の様に重い………
ぼくは悲鳴をあげる体にムチを打って支度を進める…
「よし……エレンのお弁当は完成……」
「支度も終わったし……置き手紙書いてから学校行こう………」
身支度を終え、お弁当と置き手紙をリビングに置き、先に学校に向かう……
あぁ…憂鬱だ………
いつからこんなに学校行くのが怖くなっちゃったんだろ………
「はぁ……」
ぼくはため息をつきながら駅の改札を通る…
ガタンゴトン、ガタンゴトンと電車が一駅ずつ学校の最寄りまで向かって行く…………
こわい……行きたくない………………
嫌なことを思い出してしまう…………
そう考えている内に電車は学校の最寄りについてしまった……
ぼくは電車を降りて改札を出る……
駅から学校までの通学路………
時間はまだ7時になったばかり
まだ早いみたいで人通りも少ない……
ぼくは学校でやることがあるから少し急ぐ
校門をくぐり…昇降口に向かう……
「よかった…今日は隠されてない……」
自分の下駄箱を見て安堵する……
今日は予備の上履きを使わなくて済みそうだ……
ぼくが靴を履き替え、上履きを履こうとしたときだった……
「…ッ!!!!」
画鋲だ………
どうやら靴の中に画鋲が入っていたみたいだ………
いたい……
足の裏がとても痛い……
ぼくは刺さった画鋲を抜き捨てる……
上履きに画鋲が無いか確認した後、もう1度履き教室に向かった………
まだ教室には誰もきてないみたいだ…………
そっちのほうが都合が良い……
ぼくは廊下の水道で自分のハンカチを濡らし…絞る……
そして教室に戻り……………
罵詈雑言で落書きされたぼくが使う机を拭く……
”親無し” ”親の遺産を食い潰すカス” ”エーテリアスにコロされろ” ……
机に書かれた言葉のナイフがぼくの心を切り裂いて行く………
「………」
苦しい……なんで………なんで…?
心がどんどんボロボロと壊れていく……
けど………耐えないと……
ぼくが耐えないと………………
でも……いつまで耐えれば………………?
「……やっと消せた……………」
ぼくは今日もちゃんと落書きを消せた事に安堵する…
「はぁ……」
大きなため息をつく……
ぼくはここ数カ月……いじめにあっている………
原因は……よくわからない…………
多分……学校の人気者のエレンと仲が良いって理由で嫉妬を買ったんだと思う……
最初は靴隠されたり…筆箱捨てられたりとか………
わりと軽め嫌がらせだった………
けど……どんどんエスカレートして………………
上履きに画鋲入れられたり……机に落書きされたり……
階段から突き落とされたり事もあった………
そして今…ぼくはサンドバッグになっている………
毎日…毎日……鬱憤を晴らすが如く…ぼくを痛めつけてくる…………
徹底的に……………
流石に命の危険を感じたぼくは何回か学校に相談しだけど…………
『勘違いじゃないの?』
『自意識過剰。まずあの子たちがやるわけないじゃんw』
『仮にいじめられたとしても原因は君にあると思うよ?』
『君みたいな親無しの戯言を聴いてるほど先生は暇じゃないから用がないなら出ていって。』
全然取り合ってくれなかった………
それもそうだ……
親……保護者の後ろ盾が無い生徒なんて相手にする価値もないんだ…………
胸がきゅーって締め付けられる……
もしも…家族が生きてればこんな事にならなかったのかな……………
だけど…不幸中の幸いなのが…これがまだエレンにバレて無いって事…………
こんな事知られたらエレンに迷惑が掛かっちゃう……
だから……
「ぼくが耐えないと……」
そもそも学校の人気者のエレンとぼくが釣り合う訳ないんだ…………
ぼくが悪い………………
全部ぼくが悪い………………
だから……耐えないと……………
ぼくは息を殺すようにホームルームがはじまるまで机に伏せる……………
はやくこの地獄から………解放されたい……………
「エレンさん!俺と付き合って下さい!」
アタシは放課後、学年の男子に呼び出され告白されていた。
正直めんどくさい。話を聞くのも断るのも…
この後バイトあるし………
すでに答えは決まってるし……
「あー。えっと……ごめん。アタシそいうのはさ?」
はぁ…めんどくさい………
アタシはカズ以外と付き合うつもりはないし…
だけど男子はねばってくる…
「なんで…なんでだ?俺は君を幸せにすることができる!」
「ハハ…」
めんどくさい。ホントに…
「アタシ…そういうのはちょっとね?」
うまく濁せないかな……
はぁ………
男子は俯く……
「やっぱり…あの沖田に……あの沖田カズに何か弱みを握られてるんですか……?」
「え……?」
危うく口に入れてたキャンディーを落としそうになる
「だから…あんな冴えない奴の側にいるんですね………」
「でも……もう安心して下さい。エレンさん。あの沖田なら今ごろ校舎裏でリンチにあってますから!」
「は……?」
理解が出来ない……
カズがリンチ………?
気づいたらアタシは校舎裏に向かって走り出していた
階段を飛び降り、廊下を走る………
「カズ……ッ!」
カズ…無事でいて……
現実は残酷だ…………
「ッ…!!カズ…!!!」
アタシは急いで彼に駆け寄る
「カズッ!カズッ!しっかりしてッ!」
カズは身体中傷まみれ…………
まるで……ボロ雑巾の様になっている…………
生きてる心地がしない……
頭が真っ白になる………
カズの手が冷たくなってきてる様に感じる……
嘘だ…嘘だ………!
「やだ…ッ!カズ……!」
アタシの大切なモノが……………
やめて…とらないで………
「ぇ、れん…?」
「カズ…ッ!!!」
アタシは意識を取り戻した彼を抱きしめる………
「エレン…?ぼくの血で汚れちゃうよ……?」
カズが少し抵抗してくるけど知らない
アタシは彼を抱きしめ続ける
良かった…生きてる………
確かな温もりが彼が生きてると教えてくれる……
「ごめんね…エレン……心配かけて…………」
「不甲斐なくて……ほんとにごめん………」
カズはアタシの胸で涙を流す………
ひとしきり泣いたのだろう……カズはアタシの胸で気絶するように眠りについた……………
ボロボロのカズ……よく見ると他にも傷があったり……
「自傷のあと……?」
カズの腕には明らかに自分で付けたであろう切り傷……
あぁ…
カズ……そこまで追い詰められてたんだ…………
「アハハ……アタシ全然ダメじゃん………」
「カズの一番側にいたのに………」
「なにも気づいてあげられなかった…………」
どす黒い感情が渦巻く………
憎い……
カズをここまで苦しめた奴らが………
「なにも気づかなかった自分が憎い……」
アタシはカズを抱きしめる……
アタシより小さいカズ………
今は更に小さく感じる………
「手当てしないと………」
アタシがカズを連れ帰ろうとしたときだった
電話が鳴る……
そうだ…今日バイトだった………
もうだいぶシフトの時間から過ぎてるし……
ピッ
電話にでる…
『エレン、だいぶ時間が過ぎていますが大丈夫ですか?』
ボスだ……
「あーボス…ごめん…。今日行けそうに無い……」
『そういうのは早くッ「ボス……ヴィクトリア家政に依頼して良い…?」…何かあったのですね……』
「うん…」
『社員割引はありませんよ?』
「わかってる…。」
「アタシの大切なモノを傷つけた奴らの情報を集めて欲しい。」
〜〜〜〜
電話を切る…
早く帰ってカズを手当てしないと……
アタシはカズを抱きあげる…
「軽い……」
アタシが守らないとまともに過ごせないカズ……
カズはアタシが……守らないと………
アタシが…離したら………
だからもう二度とこの様な事にさせない
カズの……カズの平穏はアタシが守る
何があっても…何があっても………
エレンはカズを抱き家路についたのだった……
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「エレンが依頼ですか……」
「沖田カズ……今回の件で上手く此方に引き込めるかもしれません………」
「さて仕事に取り掛かりましょうか…」
ライカンは夜空を見上げ呟いた……