__能力値、読み取り完了。
HP25 攻撃力18。
「滅びの星海鎧も、シャイニングセイバーも装着していないのにも関わらず素晴らしい能力値です! 今回の無制限級も大荒れの予感だぁぁぁ!」
「数々の猛者を打ち倒し、突如現れた期待の超新星、シックス・ベルと相対するは、優勝経験のある歴戦の強者イレブン選手です!」
「実況のポンプ愛好家のXさんは、この試合をどうみますか?」
「……やはり、あのリクガンボンプのスキルを攻略しないことには流石のイレブン選手も敗戦濃厚ですね」
「ここでイレブン選手の手持ちの紹介を致します! 中央に陣取るのはショウグンボンプ! 中央に配置することによってHP、攻撃力共に3倍されるイレブン選手のエースボンプですね! 右には味方を倒されると自身の攻撃力の10倍のダメージを与えるジャスティスボンプ、左には敵の攻撃を惹き付けるレスバボンプと、確実な布陣です!」
__スキル《無下限》発動。
「なんとッ! またしても発動する謎のスキル、無下限ッ!!! 味方を失い、装備アイテムの効果を発揮したイレブン選手の覚醒クリムゾンショウグンボンプも襲い掛かりますが、やはり攻撃は届かないッ!!!」
クリムゾンショウグンボンプ、赤い気炎を揺らめかせ、HP600、攻撃力150が襲いかかる。
「ンナッ!?(なん……だと……ッ!?)」
「ンナンナ(君が触れたのは、君とボクの間にある"無限"だよ)」
届かない。
HP25/25。
「勝者、シックス・ベルゥゥゥゥ!!!」
__ウォォォォォォォォォ!!!!!__
「圧倒的無敵ッ! 最強ッ! ここに、史上最速のリーグ・オブ・ボンプ無制限級チャンピオンが誕生しましたぁぁぁぁ!!!!」
「いやぁ、なんと言うか……いいんですか? コレでって感じの戦いでしたね……」
「ええ、ボンプの能力をそのまま読み取る無制限級ならではの仕様が、まさかこんなにも一方的なバトルを生み出してしまうなんて」
興奮冷めやまない観客の熱狂具合が、ステージのボクにも伝わってくる。本当にこれで良かったんだろうか? なんと言うか、ゲームの趣旨に反しているように思える。
「やったね! リク!」
「ンナ……(これでいいのかな? って感じが凄くしますけど……)」
「にしてもそんな凄い力を持ってたんなら、もっと早くに言ってくれれば良かったのに。エリクサー症候群ってやつ?」
「ンナンナ(違うと思う)」
「とりあえず、2つ目の運動能力テストもこれで完了! お疲れ様!」
▽
リーグ・オブ・ボンプ。
昨今の若者の間で熱狂的ファンが多数存在する超有名ゲームらしい。プレイヤーは自分のボンプにアイテムを持たせ、コードを入力して新たな力を手にし、複数のボンプの特性を理解して敵と戦うゲームだ。
ボクは昨日、リンとアキラに2つ目のテストを告げられた。内容はリーグ・オブ・ボンプで何戦かして、運動能力を図るというもの。
早速ボクとリンはアプリをダウンロードし、戦いに挑んでみることにした。
結果はこの通りである。
「ンナンナ(なんか申し訳ない)」
「もー、皆真面目に戦ってるんだよ? 相手のクリムゾンショウグンボンプも今までの敵と比べたらチートも良いとこだったよ! リクは普通にやっただけ! フェアプレイだったよ!」
前向きなリンの励ましに、ボクは気持ちを取り戻すことができた。
「ンナ!(うん! こんなとこでつまづいてられないよね!)」
「そうそう! 次は最終テストだから、楽しみに待っててね」
アプリを終了し、電脳空間から戻ってきた。ボクは時間がまだ余っているので、そこら辺をぶらついてくることにした。
「ンナ〜!(いってきまーす!)」
「ンナンナ!(充電が切れる前に戻ってくるんだよ!)」
ビデオ屋の看板ボンプである18号の見送りを受けて、ボクはホビーショップの辺りにまで歩いてきた。するとベンチに座り込んでいる白髪の姿が。
「ンナナン!(あっ! アンビーさん! こんにちは!)」
「……」
どうやらハンバーガーを食べている最中だったようだ。繊細に、流麗に、一欠片も残すことなく綺麗に食べ切る様子は見てみてとても気分が良い。
「ンナ!(美味しそうですね! ボクも食べてみたいです!)」
「ええ。とても美味しいわ。あなたたちボンプもこの極めて効率的な素晴らしい食べ物を食べるべき」
「ンナァ……(残念ですが、食べる機能が付いていなくて……ですが、いつか絶対食べます! おすすめは何ハンバーガーですか?)」
「そうね。テリヤキも美味しいし、スモーキーチキンも捨て難いけれど……やはり通常の野菜と肉と炭水化物が同時に摂取できる普通のハンバーガーを最初は食べるべきだわ」
「ンナナンナ!(なるほど! やはり何事も基本からいかなければいけませんね! そうだ! これをあげます!)」
ボクはゴソゴソとちっちゃなバッグを漁り、中からチケットを取り出した。
「ンナ!(この前お客さんのジョバートおじいさんから貰ったんです! 油っこいものは受け付けないって)」
差し出されたチケットを無表情でじっと眺めるアンビー。何か不満でもあるのだろうか? ボクはこの身体では食べられないし、美味しく食べてくれる人に食べて欲しいのだけど。
「……ビデオ屋の兄妹には渡さなくていいのかしら」
「ン、ンナァ!(だっ、大丈夫! バレなきゃ犯罪じゃないってお友達も言ってた! それにアンビーはボクのヒーローだからね!)」
やはり感情の読めない表情でこちらを見つめる。やはり彼女は綺麗だな。琥珀の瞳に、薄く感じられる電撃の力……あれ? 何か美味しそう。
「ありがたく頂くわ。うちの家計は火の車だから……何か、して欲しいことはある?」
「……ンナ!(じゃ、近くでボクを持って欲しい!)」
不思議そうに目を細めながら、アンビーはボクを抱き上げてくれた。
うん、やっぱり! アンビーの身体から逬る小さな電気がめちゃくちゃ美味しい。エーテル発電と火力発電で味が異なるように、アンビーからは美味しい電気が垂れ流しにされている。
と言っても充電できるほど膨大な電力が流れているわけじゃない。小腹が空いたときにつまみたいくらいの微弱な電流だ。
「ンナンナ!(ありがとう! アンビーの電気は美味しいよ!)」
「そう、なの? ……ハンバーガーのお礼よ。いつでも食べたくなったら言いなさい」
「ンナ!(うん! じゃ、また〜!)」
「……(不思議なボンプね。いつか、一緒に仕事をする日も来るのかしら)」
充電すると、ボクではないどこかに供給されている気がする。きっと、傷付いた人間のボクの身体が修復されているんだ。ボクは電力がなくても動けるスーパーボンプだからね。
帰り道にアイス・パラダイスが目に入った。
何故かボクは色んな人から100ディ二ーを貰うので、そこそこ溜まっているのである。ハンバーガーのチケットを勝手に渡しちゃったし、アキラとリンにアイスでも買って行ってあげよう。
「ンナンナ!(いらっしゃいませ!)」
「ンナ!(これください!)」
「ナンナンナ!(700ディ二ーだよ!)」
「ンナ!(はい! これ!)」
「ナンナナン(おつりの300ディ二ーだよ!)」
「耳が痛くなりそうだよ、全く……最近の六分街はどうなってるんだか。昔はよかったのにねぇ……」