サイエンス

2025.02.21 18:00

世界で最も厳重に保護される木、偶然発見された「生きた化石」ウォレミマツ

ウォレミマツ(JuliaGPhotos / Shutterstock.com)

ウォレミマツの若木は、生物多様性の親善大使となり、地球上で最も古い種のなかに、まだ保護を必要としているものがあることを私たちに訴え続けている。

野生群生を超えたウォレミマツの未来

2005年、ウォレミマツの一般販売が開始され、この先史時代の驚異を個人や組織で所有し育てることが可能になった。その目的は単純だ。自然保護関係者たちは、ウォレミマツを一般家庭の裏庭や植物園に普及させることにより、違法な密採のリスクを下げつつ、脆弱な野生生息地の外で、種が将来にわたって存続できるようにしたのだ。

商業パートナーシップは、公式には2010年に終了したが、世界ではいまも多くの若木が栽培されている。いまやウォレミマツを育てることは、単なるレア物の所有を超えた、小さくとも意義深い自然保護の営みだ。

英国・デボン州で新たに植えられた若いウォレミマツ(Shutterstock.com)

英国・デボン州で新たに植えられた若いウォレミマツ(Shutterstock.com)

一方、野生生息地では、ウォレミマツは依然として厳重な保護下にある。2021年の時点で、野生群生にはわずか46本の成木しかなく、ほかには数十本の若木があるのみだ。

自然保護関係者は、群生の綿密なモニタリングを実施している。そして、バイオセキュリティ手順を徹底して、木々を病気や気候変動、山火事から守っている(2019年から2020年にかけて発生したオーストラリアの山火事では、数本のウォレミマツが焼失した)。これらはどれも、ウォレミマツにとって慢性的な脅威だ。

深い谷の奥に隠されていた木の発見から始まったウォレミマツの物語は、いまや、現代における最も驚異的な自然保護のサクセスストーリーの1つへと発展した。この種は、いまも野生では絶滅寸前だが、保全努力により、野生生息地の外での存続は確かなものとなった。

ウォレミマツは現在、世界各地の庭園や研究施設、保全区域で生育している。野生での生存はいまも綱渡りの状態だが、かつて恐竜と共存した木としては、上々の復活劇と言えるだろう。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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2025.02.05 12:30

世界最大、被覆面積2万平方メートルの樹冠をもつ樹「ティマンマ・マリマヌ」

南インドのアーンドラ・プラデーシュ州にある「ティマンマ・マリマヌ」(Getty Images)

南インドのアーンドラ・プラデーシュ州にある「ティマンマ・マリマヌ」(Getty Images)

南インドのアーンドラ・プラデーシュ州アナンタプル近郊にある辺ぴなカディリ村には、私たちの合理的な理解力を超越した樹が立っている。

世界最大のベンガルボダイジュ(別名バンヤンツリー)である「ティマンマ・マリマヌ」は、植物学における驚異であるとともに、文化的・精神的・生態学的にも意義深い存在だ。

世界最大の樹冠面積をもつ1本の樹として、1989年にギネス世界記録に認定されたティマンマ・マリマヌは、この種の並外れた生命力を証明している。この種は、特異な成長様式を通じて、広大な土地を覆いつくす能力があるのだ。

比類のない樹冠面積

ティマンマ・マリマヌの真のスケールを実感するために、どこまでも広がるその樹冠の下を歩くところを想像してみよう。被覆面積は約2万平方メートルに及ぶ。これは、アメリカンフットボールのフィールド4面分を合わせた広さにほぼ匹敵する。

比較のためにいうと、カリフォルニアに自生する世界最大の1本の幹からなる巨木である「シャーマン将軍の木」でも、樹冠の被覆面積は1487平方メートルにすぎない。シャーマン将軍の木は約84mの樹高で見る者を圧倒するが、ティマンマ・マリマヌの強みは水平方向への成長であり、これはベンガルボダイジュに固有の特徴だ。

シャーマン将軍の木 Simon Dannhauer / Shutterstock

シャーマン将軍の木(Simon Dannhauer / Shutterstock.com)

というのも、ティマンマ・マリマヌは、1本の幹だけをもつ樹ではない。これは、ユタ州にあるアメリカヤマナラシ(Populus tremuloides)の43ヘクタールに及ぶ群落「パンド(Pando)」のようなものなのだ。

ただし、パンドと違うのは、この巨大な樹は、絡みあう気根のネットワークを利用して拡大することだ。枝から垂れ下がった気根は、地面に根を下ろすと新たな幹を形成する。これらはすべて同じ個体の一部なのだ。

これらの気根が足場として機能し、樹は安定を保ったまま水平方向に広がる。こうした驚異的な適応により、この樹は過酷な気候条件の下で生き延び、繁栄してきた。

この樹は、並外れた巨大さのおかげで、インド文化において、忍耐と相互関係の象徴となった。しかしそこには、伝説とタブーに彩られた不穏な側面もある。
次ページ > ベンガルボダイジュが「生きた棺」である理由

翻訳=的場知之/ガリレオ

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2025.02.15 17:00

ペンギンも「離婚」する、その生物学的理由と人類が学べること

頻繁に離婚を繰り返すコガタペンギン(Dzung Vu / Shutterstock.com)

頻繁に離婚を繰り返すコガタペンギン(Dzung Vu / Shutterstock.com)

ペンギンは昔から、永遠の愛の象徴と称えられてきた。人気を集めたドキュメンタリー調の映画にもなった、氷原を行進するコウテイペンギンたちの献身から、愛情の印として小石をプレゼントするジェンツーペンギンまで、この飛べない鳥たちは一夫一妻の模範のように見える。

しかし、研究者たちがペンギンの生活の裏側まで踏み込んで調べるにつれ、複雑な実態が明らかになった。ペンギンも、時には「離婚」するのだ。

注目すべき新発見が報告されたのはオーストラリアのフィリップ島で、ここにはコガタペンギン(学名:Eudyptula minor)たちの世界最大のコロニーがある。コガタペンギンは、青みがかった羽をもつ、体長40cm程度のかわいらしい海鳥だが、最近になって、人間の結婚生活セラピストも呆れるほどの頻度でパートナーに見切りをつけていることが判明した。

離婚したペンギンのなかには、その後の暮らしをエンジョイしている個体もいるようだが、こうした行動はコロニー全体の健全性に影響を与える。

コガタペンギン(Shutterstock.com)

コガタペンギン(Shutterstock.com)

愛だけでは足りないこともある

フィリップ島に生息する約1000組のコガタペンギンのつがいを13年にわたって追跡調査した研究結果が、最近になって報告された。これによると、実に250組が離婚を経験していた。離婚率は年によってばらつきがあり、5%という控えめな年もあれば、36%という驚きの年もあった。離婚率に最も影響を与えていたのは、環境条件と繁殖の成功率だった。

豪モナシュ大学の研究チームは、繁殖成功率が低調に終わったシーズンのあとには、これが引き金となって破局が頻発することを明らかにした。

「調子がいい時期の彼らは、おおむねパートナーに忠実です。隠れて多少の火遊びをしていることはよくありますが」と、研究チームを率いたリチャード・レイナ博士は、大学のプレスリリースで述べている。「しかし、成果に乏しい繁殖期を経験したあとには、子孫繁栄を求めて、新しいパートナー探しに乗り出すのです」

この行動は興味深く、また現実的な生存戦略として理にかなっている。

多くの動物と同じように、ペンギンもまた繁殖成功を重視する。今の配偶相手との間で子を残せなかった場合、片方または両方の個体が「損切り」を選び、新しいパートナーとの再出発を試みることがあるのだ。ペンギンにとって離婚とは、「より質の高い」配偶相手を探し、自身の長期的な繁殖成功を高めるチャンスでもある。
次ページ > 離婚した個体は幸せになれても、コロニーはそうはいかない

翻訳=的場知之/ガリレオ

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