サイエンス

2025.02.21 18:00

世界で最も厳重に保護される木、偶然発見された「生きた化石」ウォレミマツ

ウォレミマツ(JuliaGPhotos / Shutterstock.com)

生き残っていた「小さな恐竜」が発見されたようなもの

ノーブルは、シドニーのロイヤル植物園にサンプルを持ち込んだ。詳しい調査にあたった植物学者ウィン・ジョーンズとジャン・アレンは、自分たちが観察しているものの重要性に気がついた。彼らは、当時ロイヤル植物園の園長だったキャリック・チャンバースに知らせ、こうしてチャンバースがウォレミマツの発見を宣言した。「植物学にとって、地球上にまだ生き延びていた小さな恐竜を見つけたようなもの」だと、彼は例えた

恐竜時代の木が、元気に生きた姿で発見されることはそうそうない。ウォレミマツは、地球のはるかな過去と直接つながっており、植物の進化と強靭さについて、貴重な洞察をもたらしてくれる。

ウォレミマツの野生群生は、わずか100本の木からなることがわかった。何よりもまず、生存を確実にするための方策がとられた。自然保護官はすぐさま、群生地への立ち入りを制限し、木々が撹乱を受けないように手を打った。群生地の正確な位置は機密として守られ、ひと握りの研究者だけが訪問を許可された。

病原体の持ち込みを防ぐため、厳格なバイオセキュリティ手順が導入された。特に警戒されたのは、疫病菌の1種(学名:Phytophthora cinnamomi)だった。土壌由来のこの致命的な病気が侵入すれば、はかない群生は一掃されかねなかった。訪問を許可された者は例外なく、感染リスクを最小化するための汚染除去プロセスを経ることを義務づけられた。

ウォレミマツ(Shutterstock.com)

ウォレミマツ(Shutterstock.com)

現在のウォレミマツ。厳重機密から、自然保護の成功例へ

脆弱な状態ながら、ウォレミマツは生き延び、自然保護の象徴として世界に知られるようになった。自然保護関係者は、この種の未来を確かなものにするため、世界各地の植物園や私有コレクションで、若木の育成を奨励した。いまでは、最初に発見された隔絶された渓谷だけでなく、はるかに多くの場所で、この木を見ることができる。

「外交上の贈り物」となったウォレミマツ

年月とともに、ウォレミマツは強靭さ、長寿、自然保護の重要性のシンボルとして、外交の世界で新たな役割を担うこととなった。シドニーのロイヤル植物園、ロンドンのキュー王立植物園などの有名な研究拠点をはじめ、世界各地の保全区域に苗木が植えられた。
次ページ > 野生での生存はいまも綱渡りの状態だが、かつて恐竜と共存した木としては、上々の復活劇

翻訳=的場知之/ガリレオ

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2025.02.05 12:30

世界最大、被覆面積2万平方メートルの樹冠をもつ樹「ティマンマ・マリマヌ」

南インドのアーンドラ・プラデーシュ州にある「ティマンマ・マリマヌ」(Getty Images)

南インドのアーンドラ・プラデーシュ州にある「ティマンマ・マリマヌ」(Getty Images)

南インドのアーンドラ・プラデーシュ州アナンタプル近郊にある辺ぴなカディリ村には、私たちの合理的な理解力を超越した樹が立っている。

世界最大のベンガルボダイジュ(別名バンヤンツリー)である「ティマンマ・マリマヌ」は、植物学における驚異であるとともに、文化的・精神的・生態学的にも意義深い存在だ。

世界最大の樹冠面積をもつ1本の樹として、1989年にギネス世界記録に認定されたティマンマ・マリマヌは、この種の並外れた生命力を証明している。この種は、特異な成長様式を通じて、広大な土地を覆いつくす能力があるのだ。

比類のない樹冠面積

ティマンマ・マリマヌの真のスケールを実感するために、どこまでも広がるその樹冠の下を歩くところを想像してみよう。被覆面積は約2万平方メートルに及ぶ。これは、アメリカンフットボールのフィールド4面分を合わせた広さにほぼ匹敵する。

比較のためにいうと、カリフォルニアに自生する世界最大の1本の幹からなる巨木である「シャーマン将軍の木」でも、樹冠の被覆面積は1487平方メートルにすぎない。シャーマン将軍の木は約84mの樹高で見る者を圧倒するが、ティマンマ・マリマヌの強みは水平方向への成長であり、これはベンガルボダイジュに固有の特徴だ。

シャーマン将軍の木 Simon Dannhauer / Shutterstock

シャーマン将軍の木(Simon Dannhauer / Shutterstock.com)

というのも、ティマンマ・マリマヌは、1本の幹だけをもつ樹ではない。これは、ユタ州にあるアメリカヤマナラシ(Populus tremuloides)の43ヘクタールに及ぶ群落「パンド(Pando)」のようなものなのだ。

ただし、パンドと違うのは、この巨大な樹は、絡みあう気根のネットワークを利用して拡大することだ。枝から垂れ下がった気根は、地面に根を下ろすと新たな幹を形成する。これらはすべて同じ個体の一部なのだ。

これらの気根が足場として機能し、樹は安定を保ったまま水平方向に広がる。こうした驚異的な適応により、この樹は過酷な気候条件の下で生き延び、繁栄してきた。

この樹は、並外れた巨大さのおかげで、インド文化において、忍耐と相互関係の象徴となった。しかしそこには、伝説とタブーに彩られた不穏な側面もある。
次ページ > ベンガルボダイジュが「生きた棺」である理由

翻訳=的場知之/ガリレオ

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2025.02.15 17:00

ペンギンも「離婚」する、その生物学的理由と人類が学べること

頻繁に離婚を繰り返すコガタペンギン(Dzung Vu / Shutterstock.com)

頻繁に離婚を繰り返すコガタペンギン(Dzung Vu / Shutterstock.com)

ペンギンは昔から、永遠の愛の象徴と称えられてきた。人気を集めたドキュメンタリー調の映画にもなった、氷原を行進するコウテイペンギンたちの献身から、愛情の印として小石をプレゼントするジェンツーペンギンまで、この飛べない鳥たちは一夫一妻の模範のように見える。

しかし、研究者たちがペンギンの生活の裏側まで踏み込んで調べるにつれ、複雑な実態が明らかになった。ペンギンも、時には「離婚」するのだ。

注目すべき新発見が報告されたのはオーストラリアのフィリップ島で、ここにはコガタペンギン(学名:Eudyptula minor)たちの世界最大のコロニーがある。コガタペンギンは、青みがかった羽をもつ、体長40cm程度のかわいらしい海鳥だが、最近になって、人間の結婚生活セラピストも呆れるほどの頻度でパートナーに見切りをつけていることが判明した。

離婚したペンギンのなかには、その後の暮らしをエンジョイしている個体もいるようだが、こうした行動はコロニー全体の健全性に影響を与える。

コガタペンギン(Shutterstock.com)

コガタペンギン(Shutterstock.com)

愛だけでは足りないこともある

フィリップ島に生息する約1000組のコガタペンギンのつがいを13年にわたって追跡調査した研究結果が、最近になって報告された。これによると、実に250組が離婚を経験していた。離婚率は年によってばらつきがあり、5%という控えめな年もあれば、36%という驚きの年もあった。離婚率に最も影響を与えていたのは、環境条件と繁殖の成功率だった。

豪モナシュ大学の研究チームは、繁殖成功率が低調に終わったシーズンのあとには、これが引き金となって破局が頻発することを明らかにした。

「調子がいい時期の彼らは、おおむねパートナーに忠実です。隠れて多少の火遊びをしていることはよくありますが」と、研究チームを率いたリチャード・レイナ博士は、大学のプレスリリースで述べている。「しかし、成果に乏しい繁殖期を経験したあとには、子孫繁栄を求めて、新しいパートナー探しに乗り出すのです」

この行動は興味深く、また現実的な生存戦略として理にかなっている。

多くの動物と同じように、ペンギンもまた繁殖成功を重視する。今の配偶相手との間で子を残せなかった場合、片方または両方の個体が「損切り」を選び、新しいパートナーとの再出発を試みることがあるのだ。ペンギンにとって離婚とは、「より質の高い」配偶相手を探し、自身の長期的な繁殖成功を高めるチャンスでもある。
次ページ > 離婚した個体は幸せになれても、コロニーはそうはいかない

翻訳=的場知之/ガリレオ

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