サイエンス

2025.03.20 18:00

絶滅の危機に瀕する世界一大きく臭い花「ラフレシア」、詐欺師のような生態と保護の動き

Mazur Travel / Shutterstock.com

Mazur Travel / Shutterstock.com

「死体花」という別名もある寄生植物、ラフレシア属の既知の全42種は、生息環境である熱帯雨林のとめどのない破壊より、絶滅の危機にある。

東南アジア島嶼部とマレー半島に分布する謎の植物「ラフレシア」は、世界で最も不可解な花の一つだ。

まずは、植物としてあまりに変わっている。一生の大半をつる植物の中に隠れて過ごし、葉、茎、根のいずれも観察できない。葉緑素すらなく、大半の植物が行う光合成ができない。このようなわけだから、ラフレシアは菌類ではなく植物だとどうしていえるのだろうと、当然のことながら筆者は不思議だった。

「葉緑素がない(葉さえ持っていない)植物は多い。その中でラフレシアは、花が咲く植物なら持っているであろう部位(雄しべ、花粉、柱頭など)を、維管束系を除いてすべて備えており、しかも種を含む実を結ぶ」とメールで説明してくれたのは、植物学者のクリス・ソログッド博士だ。ソログッド博士は、副園長と科学責任者を務めるオックスフォード大学附属の植物園・樹木園で、謎の多い寄生植物と食虫植物、特にラフレシア種の種形成と適応放散を研究するかたわら、ライターや植物アーティストとしても活躍している。

「実際ラフレシアは生理学、解剖学、遺伝学のいずれの面でも、菌類にはまったく似ていない。同じような方法で他の植物の内部で育つのは、単なる偶然(=収斂進化)だ」とソログッド博士は続ける。

ラフレシアは、いわば盗みの名手であり、寄生先のつるの中で密かに暮らす「植物版サナダムシ」のようなものだ(本体は、寄主組織内に食い込んだごく微細な糸状の細胞列からなり、ここから直接花を出す)。宿主の植物から、栄養と水を盗むことで生きている。

ラフレシアのつぼみ(Shutterstock.com)
ラフレシアのつぼみ(Shutterstock.com)

驚くことにラフレシアは、DNAまで宿主から盗む。遺伝子の水平伝播と呼ばれる、細菌ではよくあるプロセスだ。ラフレシアは、この「分子レベルの盗癖」を持つという点で有名な植物だ。また、遺伝子の水平伝播が原因で、遺伝的性質と系統発生の研究が極めて難しい。

こうした変わった特徴を聞いても特にこの植物に関心は持てないという人も、ラフレシアが、キャベツのような大きいつぼみをつけて、ゴムのように丈夫で巨大な花を咲かせるとなれば、興味が湧くのではないだろうか。直径が122cmもある見事な花が咲く種もあり、「モンスターフラワー」との俗称がある。

次ページ > ラフレシアの花は、なぜこれほど大きいのだろうか?

翻訳=緒方亮/ガリレオ

タグ:

ForbesBrandVoice

| あなたにおすすめの記事

人気記事

サイエンス

2025.02.21 18:00

世界で最も厳重に保護される木、偶然発見された「生きた化石」ウォレミマツ

ウォレミマツ(JuliaGPhotos / Shutterstock.com)

ウォレミマツ(JuliaGPhotos / Shutterstock.com)

オーストラリア、ニューサウスウェールズ州にあるウォレマイ国立公園の人里離れた渓谷には、途方もなく希少な太古の木々がひっそりと佇む。自生地の正確な場所は重要機密だ。

ウォレミマツ(学名:Wollemia nobilis)は、2億年前から続くナンヨウスギ科の針葉樹の1種で、かつては地球上から姿を消したと考えられていた──1994年に偶然発見されたことによって、植物学の歴史が書き換えられるまでは。

以来、この有史以前からの生き残りは、世界でもほとんど例のない集中的な保全努力の中心に置かれている。野生群生はごくわずかな数の木々からなり、厳重な監視下に置かれ、密採や病気、環境ストレスから保護されている。

自生地への訪問を許可された人々は、汚染除去のプロセスを経なければならない。ジュラ紀からの生き残りであるこの木々が、現代の脅威にさらされないようにするためだ。

1994年のウォレミマツの発見は、純然たる偶然だった

1994年9月、ニューサウスウェールズ州国立公園・野生動物局のレンジャーだったデビッド・ノーブルは、ウォレマイ国立公園の深く狭い峡谷をトレッキングしていた。経験豊富な探検登山家のノーブルは、この急峻な土地を以前にも歩いたことがあったが、このとき何かが彼の目に止まった。

うっそうとした植生を見下ろしてそそり立つ1本の木は、彼がそれまでに見たどんな木にも似ていなかった。暗色で節くれ立った樹皮は、まるで煮立ったチョコレートのようで、シダのような葉は、本で見たことのある化石に奇妙なほど似ていた。彼は興味を引かれ、種同定のためにいくつかサンプルを採取し、持ち帰った。

その後に起こったことは、20世紀最大級の驚異と言える植物学的発見だった。専門家は、この木が新種であるだけでなく、まったく新しい属(Wollemiaと命名)であり、しかもイチョウ(学名:Gingko biloba)のような「生きた化石」の希少な例であることを裏づけた。近縁種が生きていたのはジュラ紀であり、ウォレミマツは大量絶滅を乗り越え、人里離れた渓谷で孤立したまま、撹乱を受けずに生き延びてきたのだ。
次ページ > 生き残っていた「小さな恐竜」が発見されたようなもの

翻訳=的場知之/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

| あなたにおすすめの記事

人気記事

サイエンス

2025.03.19 18:00

人類は衰退し、絶滅する運命にある 科学誌『ネイチャー』編集者が新著

Shutterstock.com

Shutterstock.com

現生人類が東アフリカのサバンナに出現してからおよそ30万年、二足歩行をするヒト科のホモ・サピエンスは、いまや地球上から消滅する瀬戸際にある──。英国の権威ある科学誌ネイチャーの上級編集者が、こんな主張を展開する新著を刊行した。ただし、その理由は私たちがぱっと思いつくものとは少し異なっている。

もちろん、世界規模の核戦争が起こる恐れや、巨大な小惑星か彗星の衝突により地球が破壊される脅威は、いつだって存在する。だが、今月刊行された書籍『The Decline and Fall of the Human Empire: Why Our Species is on the Edge of Extinction(人類帝国の衰退と滅亡──なぜヒトは絶滅の危機に瀕しているのか)』の中で著者のヘンリー・ジーは、すべての生物種と同様に、私たち人間も地球上から姿を消す運命にあると論じている。

それが自然の摂理なのだ、と。

この難局を解決する唯一の策は、おそらく地球外への人類大移住だとジーは説く。そして、問題はその決断を私たちが生きているうちに、もしくは少なくとも今後数世紀以内に下さなければならないことだと断言する。

人類の宇宙進出の現状を考えると、このような宣告は安心できるものではない。地球低軌道やその先への進出が騒がれる時代になったとはいえ、人類史上初の月面着陸を成し遂げた米航空宇宙局(NASA)のアポロ計画とともに育った筆者の世代にしてみれば、有人宇宙飛行の進歩は突如、足踏み状態に陥ってしまったようにしかみえない。

『人類帝国の衰退と滅亡(仮訳)』では、東アフリカで人類の祖先の個体数が急激に減少する「ボトルネック現象」が起こったことをきっかけにホモ・サピエンスが台頭してきた経緯を巧みにまとめつつ、進化の段階で生じたいくつかの偶然のおかげで、ヒトには感染症の猛威に対処する能力が本質的に備わっていないと指摘する。

ジーによれば、ホモ・サピエンスは、その歴史のほとんどすべてにわたって極めて稀な存在であり続けてきた。地球の表面に薄く散らばった小集団が、かろうじて飢えから一食、絶滅から二食をしのぐ自給自足の生活を送っているのだ、と彼は記している。

次ページ > ヒトは今後1万年以内に絶滅する?

翻訳・編集=荻原藤緒

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

| あなたにおすすめの記事

人気記事

サイエンス

2025.01.09 10:30

恐竜よりも古い「生きた化石」原爆にも耐えた長寿の古代樹「イチョウ」

Irina Boldina / Shutterstock

Irina Boldina / Shutterstock

広島上空で原子爆弾「リトルボーイ」が爆発してから約0.2秒後、火球の表面温度は摂氏7700度に達した。0.2秒から3秒までの間に放出された熱線により、爆心地周辺の地表面の温度は約3900度まで上昇。爆心地から半径3.2kmの範囲が灼熱に飲み込まれた。

比較のために言うと、火山噴火で噴出した溶岩は摂氏約1300度だ。宇宙船が地球の大気圏に再突入する時の温度は摂氏約2200度前後。太陽の表面温度(黒点部分)でさえ約3300度でしかない。

半径約1.2km以内にいた人々は一瞬にして亡くなり、建物は溶け、市街地の大部分が、爆炎により灰燼に帰した。しかし、爆心地から約1.1kmから2kmの場所に立っていた6本のイチョウの木にとって、原爆投下は、これまでも乗り越えてきた厄介事の一つでしかなかった。

爆発により葉をすべて失い、炭化するほど焼け焦げたが、これらの木々は絶望的な状況をものともせず、数カ月後には新芽を芽吹かせた。

この出来事は、イチョウ(学名:Ginkgo biloba)という驚異的な叙事詩にとっては、1つの章でしかない。イチョウは、核の惨禍を生き延びただけでなく、氷河期や生物の大量絶滅といった、無数の環境激変を乗り越えてきた。

イチョウは、ただの古代樹ではない。回復力、進化、生存能力の生き証人なのだ。

恐竜がいた時代からほとんど変わらない木

イチョウがしばしば「生きた化石」と呼ばれるのには、もっともな理由がある。イチョウを含む系統の起源は、2億9000万年以上前のペルム紀にさかのぼり、恐竜よりも古い。特徴的な扇形の葉と頑丈な構造を備えたイチョウは、数億年にわたりほとんど姿を変えずに生き延びてきた。

ジュラ紀の葉の化石は、現代のイチョウとほとんど見分けがつかない。このことは、イチョウの進化的安定性を裏づけている。数億年の間、イチョウは北の超大陸ローラシアの全域で繁栄していた。だが、約6600万年前に起きた「白亜紀/古第三紀間の大量絶滅」により、状況は一変した。

この大量絶滅では、恐竜が一掃され、その他多くの動植物も消滅した。しかし、地球上の動植物のうち4分の3の種が絶滅したとされるなかで、イチョウは生き延びた。だが、それから数千万年の間に、イチョウの覇権は衰えていった。寒冷化が始まっただけでなく、新興勢力の被子植物が多様化し、リソースや空間を奪ったのだ。

1万1000年前に最終氷期が終わったとき、イチョウは中国に孤立した群落が残るのみとなっていた。だが、絶滅の瀬戸際に追い詰められながら、イチョウはまたしても命をつないだ。生まれながらの回復力と、意外な味方のおかげだ。その意外な味方とはヒトのことだ。

ヒトが古代樹を生きながらえさせた

現代のイチョウの多くは、正真正銘の古老でもある。中国陝西省西安市の終南山にほど近い古観音禅寺には、樹齢1400年のイチョウの木がそびえ立ち、毎年秋になると黄金の葉のじゅうたんを広げる。

この木はその生涯のうちに、人類史における最大級の転換点の数々を見守ってきた。唐王朝の興隆と滅亡、シルクロード貿易の確立、産業革命が引き起こした世界的動乱など、数えていけばきりがない。
次ページ > 千年以上の樹齢を可能にするイチョウの遺伝子

翻訳=的場知之/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事