茨城 コメの価格高騰 飼料用米減少で 畜産農家の対応は
人口減少が進む中、国はコメ農家の経営を守るため、主食用だけでなく、飼料用米の生産拡大を後押ししてきました。飼料用米は主食用のコシヒカリなどとは違った品種を使います。主食用より味は落ちるものの、栄養素が多いのが特徴で、畜産での活用が増えていました。
ここを直撃したのが今のコメ不足です。
主食用米の生産を増やす一方、飼料用米を減らす農家が相次いでいるのです。コメに頼ってきた畜産農家はどのように対応しようとしているのか。取材しました。
(水戸放送局 記者 安永龍平)
【コメに頼ってきたブランド豚】
下妻市にある豚肉の生産や販売を手がける会社は柔らかく甘い味わいのオリジナルのブランド豚をてがけ、加工品のベーコンやハムを販売し、都心部からも客が訪れるなど人気を集めています。
このブランド戦略の中核を担うのがエサに使っている飼料用米。会社によりますと、コメには栄養価が多く含まれ、エサに加えるとうまみを引き出すオレイン酸を多く含む豚に育つということです。
エサはとうもろこしや麦を混ぜて作りますが、通常は数パーセント程度のコメの割合を半分ほどにするこだわりの飼育方法に取り組んできました。
(倉持勝社長)
「コメというのは豚肉を作るにあたって、一番おいしい肉ができる原材料で、会社ではこだわって結構な割合でお米を入れます。そうすることで脂肪がものすごく柔らかくなり、本当に滑らかなおいしい豚になります」
しかしいま、コメの価格高騰でエサを調達する環境が大きく変わりました。会社では、例年150トンの飼料用米を調達していますが、ことしはまだ25トンしか手に入る見通しが立っていないのです。知り合いの農家に声をかけてもどこも軒並みコメの提供を断られていると言います。
(倉持勝社長)
「令和6年産のコメはいま会社にあるだけしかなく、令和7年産も同じ契約をしたいのですが、できないということでした。どうにもできないことなので、もうコメに関してはある程度諦めモードです」
【飼料用米 県内では減少の見通し】
国は交付金を支払うなどして飼料用米の生産を促してきました。
全国の飼料用米の作付け面積に関する調査では、2013年には2万ヘクタール程度だったのが2023年には6倍以上の13万ヘクタールに急増。こうした中、倉持さんのように飼料用米を活用する畜産農家も増えていきました。
しかし、ことしは主食用米への転換が進み、8万5000ヘクタールまで減る見通しです。
【背景にはコメの価格高騰 生産者は】
県内でも、飼料用米を減らし主食用米を増やす農家が増えています。
水戸市のコメ農家の大谷広城さん。およそ10ヘクタールの田んぼで主食用と飼料用米を生産しています。
大谷さんによりますと、去年10アール当たりの飼料用米の収入は10万円程度で主食用米の半分程度でした。
畜産農家にコメを提供したいと考える一方、価格差が大きいことや主食用米の供給を安定させるためにも、飼料用米の生産は例年の半分以下に抑えることにしました。
(大谷広城さん)
「今まで飼料用米と騒がれていたので、生産していましたが、今度は主食用米が騒がれているのでやはり転換してやっていかなくてはいけないと思います」
【畜産農家の対応は?結論は出ず】
倉持さんは飼料用米が減る中で、これまでの飼育方法を見直さざるを得ないと考えています。
考えられる手は、豚肉の味に影響が出るかもしれないものの、エサに使う麦の量を増やすこと。または、コストが大きく増えるのを覚悟の上で、エサのコメを確保すること。どちらにしても、経営者としては厳しい判断です。
倉持さんは、同じ農家として主食用米に転換するコメの生産者に理解を示す一方、これまで飼料用米の活用を促してきた行政には畜産農家に配慮した対策も検討してほしいと訴えています。
(倉持勝さん)
「畜産農家としては、飼料用米を残してほしいという思いがありますが、水稲農家も経営の中での判断なので、なんとしても飼料用米作ってほしいとこちらからは言えません。政府にはある程度、飼料用米が流通するような政策を検討していただけるとありがたい」
【茨城 飼料用米作付面積全国2位 ただ減少幅も大】
茨城は全国でも有数の米どころですが、飼料用米も多く生産されてきました。
県内の飼料用米の作付面積は、去年は栃木県に次いで全国で2番目に大きい1万ヘクタール余りでした。
ただ、農林水産省の調査によりますと、ことしの作付け面積は8400ヘクタールと去年より1900ヘクタール減少する見通しとなっています。減少幅も栃木県に次いで全国2番目でした。
【影響広がる懸念も 県の支援策は】
国は飼料用米を活用した畜産物のコンテストを開くなどブランド化を進めてきました。県内でも、養豚や養鶏で活用されています。
ご紹介したブランド豚以外にも、例えば、つくば市では、養鶏業者が飼料用米を多く混ぜたエサを使ってブランドの鳥を生産していますが、飼料用米が減少すればトウモロコシや麦の配合割合を増やすして対応するしかないと懸念を示していました。
私たちが食べるコメについては備蓄米を放出するなど対策の動きもあります。
飼料用米についての支援策について、茨城県は「生産量の見通しが今のところ立っていないため、今後どのくらい影響が出るのかわからず、注視している状況だ」としています。
主食用米の価格高騰対策は必要ですが、飼料用米を活用しようという枠組みの中で努力を続けてきた畜産業者がはしごを外されるといったような事態は避けなければいけないと感じました。