脳科学研究センター-脳研究の最前線

「脳を知る」「脳を守る」「脳を創る」「脳を育む」の異なる分野を統合しながら目標達成型の研究を統合的に進め、脳科学への理解を進行。

精神疾患から脳を探る-参考文献

E.フラー・トーリー著/南光進一郎、中井和代訳「統合失調症がよくわかる本」日本評論社 2007

G.ウォーレンシュタイン著/候刀浩訳「ストレスと心の健康-新しいうつ病の研究」培風館 2005

加藤忠史「こころだって、からだです」日本評論社 2006

加藤忠史編「精神の脳科学東大出版会

遺伝子の関与

統合失調症はいわゆる遺伝病ではないか、遺伝子配列が完全に同じ一卵性双生児では、およそ50パーセントの確率で二人とも発症する。この率は、遺伝子を半分しか共有していない二卵性双生児きょうだい(10パーセント程度)に比べてはるかに高いことから、統合失調症の発症に遺伝子が関与していることは間違いない。その遺伝子を探る試みは1980年代から盛んに行われてきた。

一つの方法は、染色体の中の沢山のキーポイントとなる遺伝子配列を指標として、統合失調症に関係する遺伝子の在処を探る、遺伝子連鎖解析である。

もう一つの方法は、統合失調症の原因に関係ありそうな分子を調べる。候補遺伝子の解析である。真っ先にその候補にあがったのが、抗精神病薬が結合する、ドーパミンD2受容体で、これに関連した遺伝子が統合失調症の原因遺伝子としてもっとも有力視された。1993年、糸川らが、ドーパミンD2受容体の中の311番目のアミノ酸が、セリンからシステンに変わっている人(Cys311)がいることを発見した。この受容体は細胞膜を貫通しているが、このアミノ酸は、細胞の中に存在している。翌1994年、同じ研究グループの有波は、このCys311を持つ人は、健常者にも存在するが、これを持つ人は、統合失調症患者の中に統計学的に有意に多いことを「ランセット」誌に報告した。その後糸川は、このアミノ酸の変化によって何が起きるかを詳しく調べた。このアミノ酸システインに変化した人(Cys311)の場合、ドーパミンが結合した後、ドーパミンD2受容体が不活性化されにくくなることを1996年に報告した。これは、同じ量のドーパミンがやってきても、Cys311を持つ人ではドーパミンの働きが強すぎて、効果が強く出やすく、統合失調症の陽性症状が現れるという、ドーパミン仮説に一致するものであった。Cys311を有する患者は、持たない患者に比べて、陰性症状が軽度で、相対的に陽性症状が優位であるという特徴があったことから、統合失調症の中でも、ドーパミン過剰症候群とも言うべき、特別の症状を持つ患者群である可能性も考えられた。この研究は、精神疾患もいよいよ分子レベルで語られるようになったことを高らかに告げる、記念碑的に研究となった。

 

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統合失調症とは

2005年の厚生労働省の「患者調査」では、日本全国で146万人の入院患者がいるが、そのうちのおよそ20万人が統合失調症の患者であることは、あまり知られていないであろう。また東京の都心部では精神科病院が不足していて、精神医療過疎地と言っていいくらいで、多くの精神科病院は、郊外である。多数の統合失調症患者がいるにもかかわらず、その存在は十分知られていないということだろう。実際は、統合失調症の生涯罹患率は、およそ0.8パーセントといわれており、100人に一人くらいの数の患者がいるのである。

幻聴、被害妄想、滅裂な会話など、世間の人たちが思っている精神病のイメージは、恐らくほとんどがこの病気に関してのことだろう。しかし、こうした派手な症状は現在では薬でコントロールできるようになっている、思春期に発症して、こうした精神病症状の再発を繰り返しながら、次第に人格水準が低下していき、人格荒廃状態にいたるという、古い教科書に書かれていたこの病気のイメージは、完全に過去のものとなりつつある。

実際、精神科病院の入院患者の平均年齢はおよそ60歳となっている。これは昔入院した人が退院しにくくなっているためで、新たに入院する人は多くないことを示している。今や統合失調症は、長期に入院しなければならないような病気ではなくなった。なるべく早く治療を開始し、投薬により幻聴、妄想をコントロールし、再発を予防することで、激しい症状はかなりコントロールできる。

しかし、こうした患者で、実際に生活の上で問題になるのは、陰性症状と呼ばれる症状である。これは思考貧困、感情鈍麻、自発性低下などと言われるが、生活の中で見ると、融通が目立たない症状が、実際には患者の社会適応を阻害している。

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統合失調症の原因とD-セリン

最近では、D-セリンは統合失調症の候補薬剤として期待されているだけでなく、実は統合失調症の原因にも関係しているのではないか、と考えられるようになった。西川の検討では、脳内のD-セリン濃度に変化がなかったが、2003年になって、統合失調症患者の血清を調べたところD-セリン濃度が低下していることを千葉大学の橋本らが報告した。統合失調症の(連鎖解析で有力な部位の一つである)13番染色体(13q34)から同定されたG72遺伝子が、Dまアミノ酸酸化酵素活性化因子であることが判明したことと相まって、統合失調症患者のD-セリン代謝そのものに異常ががある可能性が高まってきたのである。

理研BSIの吉川のチームの検討では、明らかな関連はなかったが、澤らのグループの藤井らの検討でな、セリンラセマーゼと相互作用する遺伝子、PICKが統合失調症と関連すると報告しており、D-セリンと統合失調症の関連については、まさにホットになりつつある研究領域である。

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ネプリライシン:孤発性アルツハイマー原因解明に向けて

私たちの研究室では、それまで誰も行わなかった新しい実験方法をもってこの問題にチャレンジしました。まず、ラジオアイソトープで標的したAβ1‐42ペプチドを合成・精製しました。ペプチドの化学合成は、カルボキシ末端側から一残基ずつ付加することによって伸ばしてゆきます。一残基あたり10時間を要しました。放射線物質を取り扱う上に、一つでも失敗したら台無しですから、緊張感が張りつめっぱなしでした。同僚の岩田修博士と津吹聡博士と私では、毎日侃侃諤諤の議論をしたものです。合成と同じくらい苦労したのが精製でした。結局、共同で作業を進めていた米国のある企業の不誠実な対応(脱落)が原因が遅れたため、計画を立てて、精製が終了するまで約一年を要しました。これだけ長い標識ペプチドを合成したのは私たちがはじめてでした。次にペプチドをラットの脳内に投与して、経時的に分解パターンを分析しました。生理的分解過程をとらえることが目的でしたから、麻酔下の生きたラットを用いました。その結果、中性エンドぺプチターゼ(中性pHでペプチドを内側から分解する酵素)様のプロテアーゼが脳内における分解過程の律速を担う主要な酵素であることを発見しました。
さらにAβ分解酵素の実体がネプリライシンであることを同定しました。最終的な証明はネプリライシン遺伝子ノックアウトマウスを用いて行いましたが、最も重要な発見は酵素活性が50パーセントに低下したノックアウトマウスでもAβ1‐40とAβ1‐42双方の定常量が1・5倍に上昇していることでした。このことは、ネプリライシン活性が半分に減少しただけで家族性アルツハイマー病原因遺伝子変異と同程度の効果があることを意味しています。
では、実際に脳内のネプリライシンは加齢に伴って変化するのてしょうか。マウスの脳内では加齢に伴ってネプリライシンの活性化や発現が低下しますが、同様の現象がヒト脳でも観測されることが複数回報告されました。さらに、病理学的にアルツハイマー病の前段階にある脳において、ネプリライシンの遺伝子発症が50パーセントほど低下していることが示されました。以上のことから、孤発性アルツハイマー病におけるAβ蓄積の原因は、加齢に伴う脳内ネプリライシンの活性低下である可能性が強く示唆されました。
また、疾患研究において原因を特定することは根本治療への道を開きます。言い換えれば、ネプリライシンが新たな治療標的として浮上してきたわけです。アルツハイマー病モデルマウスにネプリライシンを遺伝子治療によって導入すると、Aβ蓄積を抑制することがわかりました。
ネプリライシンを過剰発現するトランスジェニックマウスを用いた実験でも、同様の結果が得られています。いずれもマウスには目立った異常はありませんでしたから、副作用は少ないと予想されます。さらに、ネプリライシン過剰発現はアルツハイマー病モデルマウスの認知能力低下を回復させることもわかりました。神経病理と認知障害の両面において正にの作用を有することになります。

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Aβ分解系による挑戦‐研究が遅れている分解系 2

Aβの分解は神経組織において細胞質の外側で進むと考えられています。このような方法では脳内の複雑な立体的構造において進行する代謝課程を再現できるわけではないので、可能性のある候捕が次々に浮上するだけでした。

 

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Aβ分解系による挑戦‐研究が遅れている分解系

分解系は合成系と対をなしてAβの存在量を規定します。速度論的には、分解系全体の活性半分が半分に減るだけで、合成系が二倍に上昇するのと同程度の効果があります。家族性アルツハイマー病の原因として最も典型的なプレセニリン1の変異は、Aβ1‐42の畜産力を約1.5倍上昇させるだけで、若年におけるAβ畜産を引き起こします。つまり、分解系が数十年にわたってわずかずつ低下していっても、十分にアルツハイマー病理の原因になりうるということです。たとえば、生まれてから一年ごとに1パーセントずつ低下しても50年では50パーセント低下するということになりますから、その30年以上後の80代以降に発症することを上手く説明できます。また、一般的に代謝過程は加齢に伴って低下することも矛盾しません。このような理由から、分解系の重要性は認識されていました。しかし、分子細胞生物学的手法によってめざましく進展した合成系の研究に比較して、分解機構については単純な解析の対象とならないために全くとよいほど不明でした。かつての研究方法は、合成ペプチドを任意のプロテアーゼや培養細胞や培養上澄み、神経組織破砕抽出液に曝すことによって、分解されるかどうかを調べる程度の検討しかなされてきませんでした。これがいかに不合理なアプローチであるかは、以下の「ライオンとペンギンのたとえ」によって明白だと思います。檻の中にいる腹ペコのライオンにペンギンを与えたところ、ペンギンを食べてしまったとします。この観察をもとに「ライオンは自然界におけるペンギンの捕食者である」という結論を導くことはできません。
真の捕食者を知るためには、ペンギンが棲息する場所において現場をおさえるしかありません。

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