■わが国の煉瓦構法の変遷
建築の近代化への動きは、明治初期（１８７１）の不燃化対策の一環として、欧米の様式や建築技術・外国人技術者より教育を吸収・学習と試行錯誤を経て、耐火性や地震性向上を目指した新しい時代の建築構法という時代経過をたどる。
大正１２年(1923)の関東大震災を契機として、構造材料としての煉瓦の活用は大幅に制限を余儀なくされ、この後、３０数年間の空白時期が出来た。
昭和３０年代始め(1955)から、ＲＣ造・Ｓ造に煉瓦組積造から非構造の煉瓦積み工法と修正し、高度成長期・第一次オイルショック後の安定成長期を迎えると、耐久性・美匠性という社会ストックの視点に移行すると、煉瓦本来の素材感・付加価値が見直され、事務所建築を始め博物館・美術館・図書館といった公共建築物の外装材としての展開していった。
昭和５０年代(1975)には、現場では生産・施工の乾式化の要求が増した、そして、外装の仕上材の傾向は陶磁器質タイルによる「現場先付工法」の全盛期であったが長くは続かなかった。その間、煉瓦はパネル化・ＲＭ構法と展開していったが普及するまでには至らなかった。そして煉瓦積み工法は、現場・添積み工法から中空積み工法と変わってきた。
現在、煉瓦中空積み工法は、この２０年間、煉瓦・モルタル・補強金物の単体・組積体試験、耐震(静的・動的)実験がいくつか行なわれ、阪神・淡路大震災においても煉瓦積みの施工物件があったが地震による煉瓦壁の損傷が皆無であり、安全性は確立されてきたと言えるが、まだ多くの研究・検証の余地が残っています。
明治：無補強煉瓦造⇒鉄帯補強・補強式鉄骨煉瓦造⇒耐震煉瓦構法の工夫⇒帳壁式煉瓦造への模索
大正：煉瓦造からコンクリート造への移行⇒煉瓦造建築の終焉
昭和・平成：構造材から仕上げ材へ(煉瓦添え積み式の普及)⇒補強セラミックブロック造・パネル構法(ＰＣ化)・パネル型枠打込み構法の研究⇒煉瓦添え積みから中空積み構法へ⇒免震構造・耐力壁よる煉瓦建築の再生

■年代 建築名称：設計者(敬称略)/煉瓦造形式●備考
1857 安政4   韮山反射炉：江川坦庵/耐火煉瓦・一部鉄帯補強
1861 文久1   長崎製鉄所：ハルデス-1857安政4起工
1868 明治1 　観音崎燈台
　　　　　　　　　 長崎・小菅ドッグ
1871 明治4   大阪造幣局：ウォートルス
1872 明治5   銀座煉瓦街：ウォートルス*1923大正12関東大震災で焼失
　　　　　　　　   旧富岡製糸工場：バスチャン
1875 明治8   　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　    　　　 　　　 ●我が国初のポルトランドセメントの焼成
1877 明治10  工部大学校講堂：ボアンヴィル　　　　　  　　　 　　　　 ●第一回内国博覧会（煉瓦・石）
1880 明治13　開拓使物産売捌所：Ｊ．コンドル*1923大正12関東大震災で焼失
1883 明治16  鹿鳴館：コンドル*第二次大戦で解体
1884 明治17  帝国大学法文学部校舎：コンドル
1885 明治18  理科大学本館：山口半六
1888 明治21  北海道庁舎：平井晴二郎
　　　　　　　　　  渋沢邸：辰野金吾
1889 明治22　第五高等学校本館(現熊本大学)：山口半六　　　　　　●エッフェル塔完成(パリ万国博覧会)
1890 明治23  浅草十二階/凌雲閣：バルトン*1923大正12関東大震災で大破
1891 明治24  ニコライ聖堂：Ｊ．コンドル*1923大正12関東大震災で焼失　　　　　　　　　　　　　●濃尾大地震
1882 明治25  東京郵便電信局：片山東熊
1884 明治27  東京府庁：妻木頼黄/碇聯鉄構法　　　　    　　　　　　                 ●東京地震
1894 明治27  三菱一号館：コンドル・曽禰達蔵*1968解体
1895 明治28  司法省：エンデ＆ベックマン
　　　　　　　　　　三菱二号館：曽根達蔵*1930大正5解体
　　　　　　　　　　～1911明治44 三菱十三号館
　　　　　　　　　　帝国京都博物館：片山東熊
1902 明治35  旧三井銀行本店：横河民輔/鉄骨煉瓦帳壁*1926大正15解体
1903 明治36  東京商船大学天文台：三橋四朗　　　　　　　　　　 ●東京帝大で鉄骨構造学開講：横河民輔
　　　　　　　　　　牛久シャトー：岡田時太郎・森山松之助
1905 明治38　横浜銀行集会所：遠藤於莵
1906 明治39　日本銀行京都支店：辰野金吾・長野宇平治
1908 明治41  日比谷図書館書庫：三橋四郎/鉄骨煉瓦
1909 明治42　丸善書店：佐野利紀/カーテンウォール式鉄骨煉瓦
1910 明治43  東京国立近代美術工芸館：田村鎮
1911 明治44  帝国劇場：横河民輔/鉄骨煉瓦帳壁
　　　　　　　　　　横浜三井物産ビル：遠藤於莵・酒井祐之助/我が国最初の鉄筋コンクリート造
　　　　　　　　　　岩手銀行中の橋支店：辰野金吾・葛西萬司　　　   　　●全国窯業品共進会(化粧煉瓦出品)
1912 明治45  慶應義塾大学記念図書館：曽禰達蔵・中條精一郎
　　　　　　　　　　旧大同生命福岡支社：田中実
1912 大正1   日本赤十字社病院：妻木頼奇黄/碇聯鉄構法
1913 大正2   三井倶楽部：コンドル
1914 大正3   東京駅：辰野金吾・葛西萬司/鉄骨煉瓦
　　　　　　　　   新橋駅：辰野金吾・葛西萬司/鉄骨煉瓦
1915 大正4   慶應義塾大学講堂
1916 大正5   明治学院大学付属礼拝堂：Ｗ．Ｍ．ヴォーリズ
　　　　　　　　   東京銀行集会所：松井貫太郎＋横河工務所
1917 大正6   旧島津邸・清泉女子大学：コンドル
　　　　　　　　   横浜市開港記念会館：山田七五郎
1918 大正7   大阪市中央公会堂：辰野金吾・片岡安＋岡田信一郎/鉄骨煉瓦
　　　　　　　　   立教大学本部：マーフィー＆ダナ
　　　　　　　　   東京海上ビル：曽禰達蔵・中條精一郎/帳壁
1919 大正8　　如水会館：曽根達蔵・中村順平*1930昭和5解体
1921 大正10  第一生命保険相互会社：辰野金吾・葛西萬司/鉄骨煉瓦
　　　　　　　　　　神戸中央教会堂：曽根達蔵・中條精一郎
1922 大正11  三菱銀行本店：桜井小太郎/鉄骨煉瓦
1923 大正12  旧帝国ホテル：Ｆ．Ｌ．ライト/現場積み型枠打ち込
　　　　　　　　　  倉敷教会堂：西村伊作　　　　　　　　　   　　　　　　　　               ●関東大震災
　　　◆
1933 昭和8　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　   　　　　　　　　               ●三陸地震
1934 昭和9   金森誠之邸：金森誠之/鉄筋煉瓦
1956 昭和31  浦邸：吉阪隆正/帳壁
1958 昭和33  碌山美術館/今井兼次
1963 昭和38  林原(旧岡山)美術館：前川國男/添え積み
1965 昭和40  新発田カトリック教会：Ａ．レーモンド/木骨煉瓦
　　　　　　　　　  北海道営公営住宅：道住宅都市部他/補強セラミックＢ
1966 昭和41  パレスサイドビル：日建設計・林昌二/添え積み
1967 昭和42  ニッカウイスキー宮城：久米設計/補強セラミックＢ
1968 昭和43　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　 　　　　　　●十勝沖地震
1970 昭和45  北海道開拓記念館：佐藤武夫/添え積み
1971 昭和46  日本プレスセンター：日建設計・林昌二/ＰＣ打込み 
1973 昭和48  日本薬学会長井記念館：小林美夫・アトリエＫ/添え積み
　　　　　　　　　  日野市立図書館：鬼頭梓/添え積み
1974 昭和49  乃村工藝社東京社屋：清家清/帳壁
　　　　　　　　　  ノア・ビル：白井晟一/添え積み
1975 昭和50  住友スリーエム本社ビル：日建設計/添え積み
　　　　　　　　　　ＳＯＮＹ会館：古橋建築/添え積み
1077 昭和52  ローズガーデン：安藤忠雄/添え積み
1978 昭和53  山口美術館：鬼頭梓/添え積み　　　　　　　　　　　　　　                       ●宮城沖地震　　　　　　　　　　　
1980 昭和55  筑波研究学園洞峰公園小体育館：大高正人/現場積み型枠打込み
1981 昭和56　竹馬共同住宅：坂倉建築研究所/帳壁
　　　　　　　　　  倉敷ターミナルホテル：浦辺設計/パネル型枠打込み
1982 昭和57  警視庁数寄屋橋交番：山下和正/パネル帳壁
　　　　　　　　　　札幌の家：上遠野徹/添え積み
　　　　　　　　　　国際基督教大学湯浅八郎記念館：前川建築設計/中空積み
1983 昭和58　川越市立図書館：土屋巌/中空積み
1984 昭和59　沖縄海洋博記念公園・熱帯ドリームセンター：日本設計/添え積み
　　　　　　　　　　ガールスカウト会館日本連盟：日本設計/添え積み
　　　　　　　　　　長谷川町子美術館：鹿島建設/添え積み
　　　　　　　　　　野尻湖プリンスホテル：清家清・デザインシステム
1985 昭和60　国際科学技術博覧会Ｇブロック外国館：黒川紀章/パネル帳壁
1987 昭和62　町田市立国際版画美術館：大宇根・江平建築設計/中空積み
　　　　　　　　　　あかつき特別養護老人ホーム別館：石井修・美建設計/添え積み            　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　●ＪＩＳ Ａ 5213建築れんが制定
1988 昭和63　白百合女子大学聖堂：山下設計/添え積み
　　　　　　　　　　テラアシオス青山：東京建物・西松建設/添え積み
1989 平成1 　 サントリー野辺地：安井建築設計/補強セラミックＢ
　　　　　　　　　　静岡県立大学：アトリエＫ＋日総建/添え積み
　　　　　　　　　　山梨県立文学館：大宇根・江平建築設計/中空積み
　　　　　　　　　　グロリアチャペル品川教会：鬼頭梓/添え積み
1991 平成3 　ホテル川久：永田・北野建築研究所/中空積み
　　　　　　　　　　富山県立山博物館：磯崎新/添え積み
　　　　　　　　　　江別市道営受託集会所：高岡建築設計/ＲＭ構法
　　　　　　　　　　大分市佐野植物公園：日本設計/添え積み
1992 平成4　　滋賀県湖東町立図書館：鬼頭梓/中空積み
　　　　　　　　　　ハウステンボス：日本設計＋清水・鹿島・日本国土開発/添え積み
1993 平成5 　ＲＭ早稲田：学建築研究所/ＲＭ構法　　　　　　　　　　　              ●釧路沖・道南西沖地震　
　　　　　　　　　　富山市庁舎：日本設計/添え積み
1994 平成6 　 (トヨタグループ)産業技術記念館:竹中工務店 ＊再生
　　　　　　　　　　赤倉のロッジ：ラウムアソシェイツ/中空積み
　　　　　　　　　　市川市生涯学習センター：山下設計/中空積み
　　　　　　　　　　法務省旧本館/旧司法省(1985明治28/エンデ・ベックマン)復元
　　　　　　　　　　：村松貞次郎・堀内正昭＋建設省営繕部＊耐力壁　　
1995 平成7 　 信濃町煉瓦館：内藤設計＋清水建設/中空積み　　　                     ●阪神・淡路大地震
1996 平成8 　 北海道農業試験場：道開発局営繕部/パネル型枠打込み
　　　　　　　　　　かずさアカデミアホール：坂倉建築研究所/添え積み
　　　　　　　　　　八竜神の家：嶋田宮城設計室/中空積み
　　　　　　　　　　南千束の家：鹿島建設/中空積み
　　　　　　　　　　横浜赤レンガ倉庫(1911明治44・1913/妻木頼黄)：建築研究教会＊保存改修
　　　　　　　　　　→2002平成14 改修・再生(商業・文化施設)：新居千秋
1997 平成9  　高知工科大学：日建設計/中空積み
　　　　　　　　　　風の丘葬祭場：槇総合計画中空積み
　　　　　　　　　　日本聖公会川口基督教会(1920大正9/ウィルソン)：一粒社ヴォーリス＊耐震補強
　　　　　　　　　　ニコライ堂大改修(1891明治24)＊耐震化
　　　　　　　　　　洲本市立図書館(1916大正5)保存再生：鬼頭梓＊耐震補強
1998 平成10  東京芸術大学奏樂堂：岡田新一/添え積み
　　　　　　　　　　ツインリンクもてぎ：日本設計/Ｓ造中空積み
1999 平成11　稲城市立若葉台小学校・第六中学校：一色建築設計
　　　　　　　　　　聖イグナチオ教会・主聖堂：坂倉建築研究所
　　　　　　　　　　南山町の家：計画工房/中空積み
　　　　　　　　　　立教学院諸聖徒礼拝堂(1920大正9)改修：日建設計＊免震化
2000 平成12　京都大学総合博物館：宗本順三・京都大学施設部＋山下設計
2001 平成13　海/フィルター：隈研吾建築都市設計 
　　　　　　　　　　下関市地方卸売市場唐戸市場：池原義郎/中空積み
　　　　　　　　　　東北公益文科大学：日本設計/中空積み
2002 平成14　大阪市中央公会堂(1918大正7/岡田信一郎＋辰野・片岡)保存再生
　　　　　　　　　　：市営繕部・坂倉建築研究所・平田建築設計＊免震化
2003 平成15　南麻布の家：福井英晴建築設計/中空積み
2004 平成16　カトリック神戸中央教会(再生)・社会活動奉仕センター：村上晶子アトリエ/Ｓ造中空積み
　　　　　　　　　　マブチモーター新社屋：日本ＩＢＭ＋日本設計/Ｓ造中空積み
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　                ●新潟県中越沖地震
2007 平成19　神戸学院大学ポートアイランドキャンパス：日建設計/中空積み
　　　　　　　　　　旧海軍赤レンガ倉庫(1902明治35)修復再生/＊耐力壁
2008 平成20　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　                ●宮城内陸沖地震
2009 平成21　三菱一号館(1894明治24)復元：三菱地所設計＊：煉瓦造復元
2012 平成24　東京駅舎 ３階・ドーム復元(1914大正3)＊免震化

◎この資料は、彰国社ディテール141号1999/JULYに発刊「現代煉瓦の魅　力ー表情と構法」
　 執筆：大宇根弘司・藤江通昌・吉川盛一・矢尾板靖衛　　　を再調査・加筆しました。