離婚した父と母の2人とも親権を持てる? 改正法が1年後までに施行 親子の生活はどう変化?専門家が答える
子どもがいる夫婦が離婚した場合の親権に関する民法が改正され、来年5月までに施行される。現在の民法は父母のどちらかが親権者になる単独親権制度だが、改正民法では父母の双方が親権者となる「共同親権」も選べる。これから離婚する父母だけでなく、すでに離婚した父母も対象だ。共同親権で何が変わって、何が変わらないのか。離婚して親権を持つ女性(長野県在住)と、離婚して親権を持たない男性(同)の現状を追い、それぞれの不安や疑問を専門家に尋ねた。
◆
【親権者であり、子どもと同居する40代女性の疑問】
女性は数年前に離婚し、現在小学生の子どもと暮らしている。婚姻中、元夫が物をたたき付けて壊したり、ドアを殴ったりすることに恐怖を感じてきた。「小さいことがきっかけで怒り、手が付けられなくなった。何をされるか分からないから強くは言えない」。元夫から子どもの前で一度、身体的暴力を振るわれたことが、離婚の決め手となった。
一方、子どもへの身体的暴力や暴言はない。離婚を求めた調停では、調停委員から「子どものことを一生懸命やっている、いいだんなさん」と言われた。DVの物証はほとんどなく、元夫の暴力的な行為などを調停委員に主張しなければならないのは大変な労力だった。
改正民法ではDVの恐れがある場合は単独親権と定められている。しかし、元夫に共同親権を求める調停を起こされたら「DVがあって共同親権が難しいと判断してもらえるか不安。(調停をしていた)あの日々がまた来るのか」と不安に思っている。
共同親権になると、子どもの転居や進学先、預金口座の開設といった重要事項とされる決定には元夫の同意が必要になる(共同行使)。現在は付き合っている男性がおり、将来的には再婚も考えている。女性はこう望んでいる。「元夫にもう生活を荒らされたくない。穏やかに暮らしたい」
◇
【早稲田大の棚村政行名誉教授(家族法)の答え】
■DVは総合的に評価
一度の身体的暴力がたまたまだったのか、相手を心理的に追い詰めるモラルハラスメントも含めてどれくらいの内容や程度が行われているかを聞き、子どもの養育に関わらせるのが適切か、子どもの利益になるのかを判断します。物証が少ないからDVが認められないわけではありません。警察などへの相談票、診断書といった客観的な証拠や資料だけなく、双方の主張を含め、総合的に評価します。
また、共同親権への乱用的な変更申し立てが起こらないよう、改正民法に「親の責務」として父母がお互いの人格を尊重し、協力する義務があると入れました。調停がどう考えてもうまくいきそうになければ、家事事件手続法の規定を使い、早々に打ち切ります。
■共同行使、時間が差し迫っていれば事後承諾でもよい
時間にゆとりがあれば重大なことは共同で決める必要があるけれど、子どもの利益のために相談する時間の余裕がなく、共同行使の部分を単独で決めた場合は、元夫に事後報告して納得してもらえばいいです。単独で親権を行使できる部分は、習い事の決定やアルバイトの許可などが該当します。生活の大概のことは、単独の判断でできるのではないでしょうか。
■再婚相手との養子縁組は同意必要な場合も
15歳未満の子が再婚相手と養子縁組する際には、共同親権の場合、父母の同意が必要になります。意見が一致しない場合は、裁判所に(養子縁組についての)特定親権行使者の指定を求めることができます。また、すでに再婚して養子縁組がされている場合は、養親による虐待などを証明しなければ、実親による共同親権への変更はかなり困難でしょう。
◆
【親権者ではなく、子どもと別居する30代男性の疑問】
男性は10年ほど前、家事や育児をめぐる分担などを理由に離婚した。小学生の子どもは元妻と暮らしており、定期的に「親子交流(面会交流)」で子どもに会っている。単独親権は、親権者に「優位性」があると感じてきた。離婚当初、元妻から「子ども会わせない」と言われたこともある。「今は親権を取った方の意見がかなり強い。共同親権になれば(別居親は)親権があるから会わせてと言いやすくなるのではないか」と思う。
ただ、男性は子どもと会えているため、共同親権を求めるつもりはない。また、共同親権を得ても、習い事や旅行など「日常の行為に当たる」部分は、元妻が単独で決めることになる。「ふらっと子どもに会いに行けるのが理想。日常の行為の部分まで責任を持てるなら、親権を求めたかもしれないが…」。重要事項を決定する親権の共同行使の部分では、もし反対意見を言えば「子どもに無駄に嫌われるだけでメリットがない」とも考える。
◇
【棚村名誉教授の答え】
■「子どもに会える」と共同親権は別
子どもと会えるかどうかは親子交流の問題で、共同親権とは別の制度です。まったく無関係ではありませんが、共同親権になれば親子交流がうまくいくわけではありません。ですが、改正民法では親の責務として、養育に関する協力義務が規定されています。正当な理由なく、(同居親が)親子交流を拒むことは適切でありません。交流が困難な場合は、子どもの利益にならない理由や事情を丁寧に説明する必要があります。
■「子どもと日常的に関わる」は海外でも少数派
海外では離婚した夫婦の多くは、母親が子どもと同居、父親は子どもと別居で暮らしています。別居親は、その名の通り子どもと別に暮らしながら、子どもに関する重要な事項に共同親権者として関わっています。離婚した父母の双方と子どもがまとまった期間暮らすには、子どもが父母の住まいを行き来する必要がでてきます。これは、同じような生活環境を用意しなければならないのに加え、子どもがスケジュール的に大変です。離婚した父母が近くに住み、コミュニケーションがうまく取れていればできますが、そのような事例はドイツで5%、アメリカで30%ほどです。
◆
【記者のひと言】
共同親権は賛成派と反対派の溝が深く、このまま改正民法が施行されたらどうなってしまうのだろうと心配している。県内の当事者もさまざまな疑問を抱いており、その声を棚村さんに率直に投げかけた。棚村さんの返答は、子どもを中心に考えるという基本であり、そのために父母が協力できる状態にあるのかをしっかり見ていくということだった。父母間の争いが激化しないように「歯止め」もしっかり考えられていると分かった。だが、棚村さんはこう繰り返した。「支援と運用をしっかりしてほしい。それをするのは、政府や自治体、裁判所だ」。一人一人のケースに寄り添い、子どもの利益になるのかを見極めるには、裁判所の対応力強化や、行政の支援体制強化が重要だ。苦しい思いをする当事者がいないか、注視していきたい。
有料会員登録がおススメ!
会員記事が読み放題
気になる記事を保存
新聞紙面(紙面ビューアー)の閲覧
信毎ポイントで商品交換
継続利用で初月無料
※適用条件がございます