早とちりで家凸をしてしまい、パエトーンに自分の正体がバレるという大ポカをやらかして数十分。6号くんが歪んだドアを悲しそうに見ているのを申し訳なく思いながら、リンちゃんが淹れてくれた珈琲を飲む。
軽く説明してくれたH.D.Dシステムについて未だに半信半疑ではあるが、こうパエトーンとしての活動を見ていると信じざるを得ない。
「こいつは…デュラハンか。十四番街共生ホロウ内にデュラハンがいるのか?」
「私もアンビー達から聞いただけだし実際はみてないけど、ホロウ内に落ちた赤牙組のおじさんがエーテリアス化しちゃったのがあれなんだって。」
「そうか奴はシルバーヘッドか…通りで見つからない訳だよ。これで赤牙組の件は全部解決したな…金庫と親分はそこ、赤牙組とドンパチやったのは邪兎屋…はぁ。」
まさかホロウレイダーごときに先を越されていたなんて考えると、頭が痛くなってくる。
「しかし凄いなこれは…ホロウ内との完全リアルタイム通信にボンプとのラグの無い接続…そしてなにより…」
H.D.Dを通して邪兎屋のフォローをするアキラを見る。
「トラブルに見舞われながら一瞬で目的地までの最短ルートをマッピングするそのプロキシとしての能力…流石パエトーンといったところか。」
「えへへ、お兄さんほめすぎだって!」
バシバシと背中を叩かれて少しむせるが、一つもお世辞を言ったつもりはない。
「リン?お喋りするのはいいけどこっちのサポートも忘れないでくれよ?」
「大丈夫だよお兄ちゃん。付近にエーテリアスの反応はないし、ユーリお兄さんからドアの補修費用も貰ったし!」
「悪かったって…というか便利屋三人で大丈夫なのか?デュラハンは危険度がそこそこ高いエーテリアスだぞ?」
「まあ自分なら一人で倒せるが(ドヤッ…)」
超遠距離から一撃で倒したことはあるし嘘はついてない。決して!嘘はついてない。
「大丈夫だよユーリお兄さん。ニコ達ってね…」
画面の中でエーテル弾がデュラハンに命中し、機械人形が同じ箇所に何発も銃弾を撃ち込みとどめの一撃をヘッドホン少女がそこに近接武器をくらわせると、デュラハンは事切れたかのように倒れ消えていく。
「すっごい強いんだよ!」
あのデュラハンを三人でこうも…
「こりゃ一戦交えたら負けるな…」
「だけど問題は…」
「ユーリ、僕達のアカウントはハッカーを倒すために消してしまって今までのキャロットが殆ど全て消えてしまったんだ。つまり邪兎屋の皆を帰還させるにはキャロットを直ぐにでも手に入れる必要がある…わかるだろ?」
「要するに治安局のキャロットを貸せってことだな?答えはノーだ…悪いけどな。」
『あんた人の心とか無いわけ?!』
『そうだそうだ!機械の俺のほうが心あるぜ!』
『落ち着いて二人とも…多分意地悪で言ったわけじゃないと思う。』
「その通り…治安局のキャロットに記されてるホロウ出口は全部監視カメラが付いていて見つからないでの脱出は不可能。それに加えて治安局のキャロットデータでホロウを歩いてみろ、定期巡回ルートに被って今度は治安局との鬼ごっこだぞ。」
「まあそうだろうとは思ってたけどやっぱりか…」
「うーんお兄ちゃんやっぱあれを使うしか…」
「さっき盗み聞きしたからわかるが…本当にその金庫の中にロゼットデータ並のものがあるのか?ロゼットデータだぞ?」
『何でもいいから金庫の中のもの使っていいわよ!私たち帰れないもの!』
『待って…何故そこまでしてくれるの?貴方達はホロウの外にいるのだから見捨てようと思えば見捨てれた筈…何故そこまでして…?何か企みがあるの?』
『ちょ、アンビー…!』
「「変な質問だね」」
「「当然だ(よ!)(ろう?)」」
「(僕)(私)達は(あんた)(君)達のプロキシだよ?」
「連れて行くって約束したんだから、絶対に連れ出してみせるよ!ね、お兄ちゃん!」
「あぁ、リンの言う通りだ。」
やっぱりそうだ…自分の勘は正しかった。
「あと…あまり考えたくはないけど僕達が失敗したら、H.D.Dシステムがインターノットに救援依頼を出してくれる。」
「その時は…」
自信を持ってそう言える…伝説のプロキシ『パエトーン』は敵じゃない…ましてや逮捕するべき相手じゃない!
『安心して!ここを脱出できたら何があっても店まで助けに行くから!勿論、治安局に捕まっててもね!』
「全く…そんなこと言っても、依頼料はチャラにならないからね!」
金庫の中にあったチップをイアスに埋め込むと、突如イアスが光り痙攣を始めるのと同じ瞬間、アキラが同じく痙攣し気を失ってしまう。
「お兄ちゃん?!しっかりして!お兄ちゃん!」
「アキラ!大丈夫だ脈はある…呼吸もしっかりしてるから気を失ってるだけだ…。ただシステムに接続したままなんだろ?」
「うん…早くシステムと離さないとってあれ?!イアスが勝手に動いてる…!なんで?接続モードは解除してないし…ってうそ…もう出口についたの?!」
『プロキシ!こんなに出口にあっさりと到着できるなんて中のデータは本物だったってことね!』
「ニコ…!お兄ちゃんもさっきのイアスみたいに痙攣して気絶しちゃったの!」
『はぁ?!今医者を連れて向かってあげるから待ってなさい!いいわね!』
その後、邪兎屋が闇医者を連れて来て何とかH.D.Dシステムから引き剥がしたあと色々と自分と問答はあったがリンちゃんの助けもあって納得してもらい、この件について調査するため別れた。
「リンちゃん自分も戻るよ。色々あって今日は説明も難しそうだしね…。」
「アキラが起きたら教えてくれる?さすがに心配だからね…それと俺は今回のことを報告も何もしない。信じるのは難しいだろうけど…俺はパエトーンは逮捕すべきではない人物だと判断した。」
「ユーリお兄さん…ありがとう私達のことを信じてくれて。お兄ちゃんが起きたら絶対連絡するね!あ、それと扉の修理代金ちゃんと払ってよね!」
「う゛っ…わかったわかった…じゃあまた今度。ゆっくり話そう。」
「またねお兄さん!」
ビデオ屋を出て、自分も帰路につく。流石に今日は良い意味でも悪い意味でも色々とありすぎた…帰って休みたい…。
帰路の途中、ゆっくりと立ち止まり手を挙げる。
「何の用だ邪兎屋…。」
後ろの建物の影から出てきた人物は、邪兎屋の中でも一番戦闘能力の高かった彼女…確かアンビー・デマラだったか?だ
「やっぱりいたな…」
「…失敗。素直に出たのは間違っていた。」
「コホン…貴方は治安局の人物…私達や店長達にとって危険な人物なのは変わりない…。それが私達を捕まえないと言っても信じることはできない…違う?」
全く以てそのとおりだ…
「そうだな…信じられないのは仕方がないことだと思う。ただ一つ言えるのは…お前がパエトーンに聞いた何故置いていかずに助けるのかという質問。」
「あれの答えを聞いた時、自分とお前の気持ちは同じだったはずだ。それを踏まえて俺はあの二人に賭ける…あの二人は逃しても問題ないと思っただけだ。…これでいいか?」
「わかった…今日は信じる…。ただ私は貴方を信用したわけじゃない…いつでも見張っているのを忘れないで…」
「はいはいわかったよ…じゃあなアンビー・デマラ。ホロウから生きて帰れたんだ、ゆっくり休めよ〜。」
「変な人…。」
はぁ…先輩の声が聞きたい…早く帰りたい…。
このときはまだ、パエトーンの家に新たな住人?住AI?が増えたことにきづいていないのであった。