駐在員になってはや数日、人間1人ボンプ1匹だけの駐在所は今日も今日とて暇を持て余していた。
「そもそも熊のシリオンがそこら中をうろついてるここに忍び込む馬鹿はいないし…社員同士の喧嘩が起きても白祇重工のアンドー・イワノフ?さんが納めちまう…この数日で逮捕ゼロ!酔っ払い介護のみ!」
机にお茶を持ってきたヤン巡査がまた始まったと言わんばかりの目を向けてくる。
「ンナンナ!ンナナ!(まあそもそもが左遷ですし、このままじゃいつまでたっても帰れませんね。)」
「おい?!そういう事言うなよぉ…自分だって薄々感づいてたんだからさぁ…!」
机にぐでっとあずけヤンの持ってきたお茶を飲む。自分で飲めないのにこいつの淹れるお茶はうまい。
「はぁ〜…暇だ…暇すぎる!やることと言えば毎日の見回りと酔っ払い介護だけ…これじゃ本当にいつ戻れるか…」
「ンナ!ンナンナ!(まあ落ち込んでても仕方ないですし…テレビでもどうですか?)」
テレビをつけると、丁度数日前の赤牙組摘発についてやっている。赤牙組の殆どは逮捕され実質崩壊したものの、リーダーであるシルバーヘッドは依然として捕まっておらずホロウ内で死亡した可能性が高いとのことだ。
「(思えばあの時、邪兎屋のニコは部下を連れていなかった…それに部下の目撃証言はあの夜全くと言っていいほどなかったのは何故だ…?)」
「ンナ?(先輩?先輩〜?)」
仕事用のPCを起動し、治安局管理のデータベースからニコ・デマラの目撃場所を探る。
二日前に(速度違反と信号を無視して)車をすっ飛ばしているのが目撃されている+で後部座席に邪兎屋の面々を確認できた。
「やはりそうだ…車の出てきた場所は十四番街共生ホロウがある場所…つまり二人はホロウ内にいたことになる。シルバーヘッドと同じく落ちたということは奴の場所を知ってるか…殺したか…『ヤヌス区治安局で現在パトロール中の全車両に緊急連絡』ん?」
『ホットラインでの匿名通報、プロキシネーム『パエトーン』の情報提供あり。パトロール中の付近の車両は至急急行せよ。』
「パエトーンの情報提供ねぇ…いよいよパエトーンも終わりか?しかし匿名tパエトーン?!?!?!」
嘘だろ…まさかあの二人が見つかったのか?!どうやって?誰に??いやそんなこと考えてる場合じゃない!
「ヤン巡査、君はここに残るように。自分はパエトーン確保に向かう。」
「ンナ?ンナナ!(一人で行くんですか?僕も行きますよ!)」
「駐在所を空けるわけにはいかないだろ?お前を信頼してるから任せるんだよ。じゃあ頼む!」
ヤンの返事も聞かず、車に乗り込みサイレンをつけてエンジンをかける。アクセルをめいいっぱい踏み込み六分街へと向かう…色々と考えることはあるが今はパエトーンのことだ!
数十分かかったがなんとか六分街に到着する。パトカーの一つもない…もう確保されたのか…?それにしては六分街は至って平穏だ…確保の報告もないのなら自分で確かめるしかない。
「(ここの間取りは完全に把握している…カウンターの裏側が恐らく仕事部屋だとして、入り口は正面か駐車場の二つのみ…逃げようと思えば2階からだって逃げれるなんとも犯罪向けの家だってな。)」
息を整え、K22サプレッサーを持ちゆっくりと入る。18号はこちらを見ると元々丸表示の目を更に丸くし、驚いているのが分かる。
「ンナ?!ンナンナンナナ!!(ユーリさん?!なんでそんな拳銃なんて持って…それに治安局の人だったんですか!)」
「何も言うな18号、データ送信するなら頭を撃ち抜くぞ…いいか?脅しじゃない。」
18号に銃を向けたまま、ゆっくりとSTAFFOnlyと書かれた扉に近づいていく。他の奴らが来る前に自分が彼等から話を聞くしかない…!
治安局になってから一番練習した、扉への渾身の蹴りを放ち鉄の扉を無理やり開ける。足が痛いが我慢だ我慢…!
「N.E.P.Sだ!両手を頭の後ろに組んで膝を付け!!!」
中はソファーにテレビと、見たことないようなPCと機材そしてこちらを見て驚く兄弟達。
「ゆ、ユーリお兄さん?!なんで…調査協会の人だったんじゃ…!」
「嘘をついてたのは謝るが…それは君達もだろうリンちゃん?伝説のプロキシ『パエトーン』…まさかそれが君達だったなんて…気づいた時は驚いたよ。」
「とりあえずここに治安局が向かってきてる。どこかに移動して話を…『通信指令室から各車へ、匿名通報によるパエトーンの所在を調べたところ当該地に容疑者を発見できず。各車はそのまま付近で不審人物の捜索に当たれ。』…え?」
いやパエトーンはここで…え?まさか…やってしまったのか…自分。
「えっとねお兄さん…詳しくは言えないんだけど私達のパエトーンのアカウントが乗っ取られたからそのハッカーをどうにかするためにアカウントを捨てたんだ。その時にホットラインで通報したらからその事だと思うんだけど…。」
「問題は、ユーリがどうして僕達がパエトーンだって知っていたのかってことなんだけど。」
やっちまった…最悪だ…とんだ勘違いだ!
『ちょっとパエトーン?またハッキングされたの?!動き止まっちゃったんだけど!』
「わかった…君達の仕事が終わるまでここで待つからそしたら話させてくれ。」
「わかった…ユーリを信じるよ。だからこの依頼が終わるまでは僕達を信じてくれ。」
「凄いことになっちゃったね…とりあえずユーリお兄さん珈琲…いる?」
砂糖とミルク大量に淹れたのがほしい…今すぐに…!