気づけば自分は、朱鳶先輩を追って走っていた。何を伝えればいいのかどう行動すればいいのかなんてわからない、ただ自分が今ここで行動しなきゃきっと後悔してしまう…そう思ったら体が走り出していた。
「すいません!朱鳶先輩見ませんでしたか?」
「朱鳶班長?確か屋上に続く階段で見たような?何かあっ…まさか告白?!嘘でしょユーリくんにそんな根性あるわけないと思ってたのに…!」
「何言ってるかわかんないですけどありがとうございます!」
「頑張ってね〜!」
後半の意味はわからなかったが、朱鳶先輩は屋上だ!何度か屋上で物思いにふける朱鳶先輩は見たことがある。
階段を駆け上がり屋上の扉を開ける。朝日に照らされた屋上には、探していた朱鳶先輩の姿が見える。
「ユーリくん…ひゃ?!」
朱鳶先輩の両手を取り真っ直ぐ見つめ自身の思いを伝える。先輩の顔が赤い気もするが今は関係ない!
「朱鳶先輩…さっきはすいませんでした!先輩のことを考えないで自分勝手なことばかり…!上手くは言えないですけど…俺、特捜班に入れた時すごい嬉しかったんです。憧れの先輩と同じ班で働ける!って…でも先輩達の足元にも及ばない自分がいても迷惑なんじゃ?なんて考えてしまってあんなことを…。」
「わ、わかりましたからユーリくん手を…」
逆光で先輩の顔は見えないが言いたいことに変わりはない。
「俺1からやり直します!絶対に異動後に手柄を立てて特捜に戻ってきます!だからどうか…どうか待っててください!」
「もう…困った後輩くんです。」
優しく微笑む朱鳶先輩に手を握り返され、自身の心臓が跳ねたのがわかる。
「私は初めての後輩が貴方でよかったとずっと思っています。悪に挫けず、人を助けただがむしゃらに前に進む…私が大変だった時も貴方が…特捜班の皆がいたから進めたんです。」
「誰かが欠けていいなんてことはありません。私達全員が揃って特捜班ですよ?だから…」
優しく抱きしめられ、頭を二、三回撫でられる。
「私は貴方が戻ってくるのをずっと待っています。貴方ならすぐ戻ってくれると確信していますから。」
「はい…っ!俺絶対に戻ってきます…今度はもっと頼れる自分になって!」
「ふふっ…それは今から楽し…み…?!」
ボンッという音がしたと思うと、指先まで真っ赤になった朱鳶先輩にまるで手本のような背負い投げで床に叩きつけられる。
「いっっっったぁ?!?!朱鳶先輩急に何で投げるんですか?!」
「こ、これくらい防げなくてはまだまだ頼れません!!先戻ります!!!」
「ちょ、先輩?!」
「それと!二人の時は先輩もいりません!」
こちらの返事も聞かずに、早足で去っていく先輩。
「…柔らかかったな」
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結局その後、引き継ぎ作業やなんやで忙しく朱鳶先輩と話す機会がなくいよいよ異動の日となってしまった。特捜班の皆やルミナ分署で一緒に働いた同僚たちが軽い送別会を開いてくれたのは嬉しいことだ。
「ユーリ先輩!俺先輩が帰ってくるまで先輩の分まで頑張ります!!」
「セス〜…お前は本当にいい後輩だなぁ〜!戻ったらまたバディ組んでくれよ!」
「戻れればであるが、セス坊が昇進したらいよいよユリ坊が一番の下っ端であるなぁ?」
「青衣先輩なーんでそんな酷いこというんですか!自分だって帰ってくるまでに警部…いや巡査部長にはなってますよ!」
「そこは警部のままにせんか全く…まあよい、さっさと戻ってこいユリ坊よ。」
やれやれといった顔でこちらを見る青衣先輩を見るのもこれでしばらくお預けか…そう考えると寂しいな。
「勿論ですよ!ところで朱鳶先輩はどうしたんですか?昨日ぶん投げられたあと会ってなくて…」
「おぬし何をしておるのだ…朱鳶は何か用意するものがあると言っておったが…ほれお待ちかねの朱鳶であるぞ。」
こちらに駆け寄ってくる朱鳶先輩、少し距離がある気がするのは気のせいだろうか…?気のせいだよな…?
「ゆ、ユーリくん遅れてすいません…実は役に立つものを渡そうとこれを用意してまして」
「これは…」
くびれというものが見当たらない寸胴ボディに、走れるのか疑問に思うような可愛らしい短足。
「うち(治安局)のボンプですよね?もしかして…」
「ンナ!ンナナ!(まだ新人ですけど精一杯頑張ります!よろしくお願いします先輩!)」
「よろしくルーキー?名前は?」
「ンナンナ!(ヤンです!ヤン巡査!)」
「新人治安局ボンプのヤンくんです。ホロウ内でも何かと役に立ちますからね。」
「ありがとうございます朱鳶先輩!頑張ろうなヤン巡査。」
「ンナ!(立派な治安局ボンプ目指して頑張ります!)」
「わ、私はから以上です!ユーリくんが帰ってくるのを待ってます。」
やっぱり距離が遠いような…もしかしてやっぱまだ怒ってるんじゃ…
「はぁ…何をしておる朱鳶、ユリ坊。夫婦ごっこか?」
「先輩!からかわないでください!私はそんなつもりじゃ…!」
「ユリ坊よ、屈め…そうそれでよい」
「?何かありまし…」
頬に柔らかい感触が伝わる…隣には青衣先輩がいる。…つまりこれは…?!
「青衣先輩?!?!な、何してるんですか他の方々もいる中で!」
「なにユリ坊に少し褒美でもとな?のうユリ坊よ?」
「へ…あ、はい…はい?」
「ほれこう言うておるぞ、問題あるまい。朱鳶とそういう関係でもないのだからの。」
「ですから人前でそういうことをするのは良くないと…!ユーリくんもボーッとしてないでちゃんと止めてください!」
「ご、ごめんなさい…」
自分が悪いのかこれ????