任務翌日、ブリンガー長官オフィス
「ユーリ・ブラッドレイ巡査…貴様は言われたこともできないようだな。私は任務前こう言った筈だ「掃討作戦中は一人もそこから通すな」と。それが貴様…確か邪兎屋と言ったか?それを取り逃すとはどういうことだ!!」
日和見主義に成り下がった、筋肉だけはある男の拳が机に振り下ろされ机のマグカップに注がれた珈琲がわずかに揺れる。
「申し訳ありません長官。ですがそれh」
「言い訳など聞きたくないのだよブラッドレイ巡査!」
この筋肉ダルマ…っ!
「お言葉ですが長官、あの通りは旧住宅街となっており大変入り組んでいて、そもそも特捜班四人だけでは足りませんでした。勿論それが理由にならないのは重々承知ではありますが、せめてそうですね…長官の本部にいた特殊部隊の一つでもこちらに回していただければ捕らえられたかもしれません。」
自分の力を見せるために後ろに部隊待機なんかさせてたのが悪いだろが…せめてあれがこっちにいれば自分も自由に動けたってのに…!
「もういい!貴様を呼んだのは他でもない、特務捜査班配属から今日に至るまで貴様の態度は目に余る!よって貴様は特務捜査班を解任し、黒雁街跡地工業区駐在員に任命する!」
黒雁街跡地といえば、白祇重工やその取引企業を中心とした工業地区だったか…白祇重工といえば治安局いらずの熊さんハウスだろ…!そんな所に配属なったら本当に戻れなくなっちまう…!
「待ってください長官!流石にそれは横暴です!それだけの理由で解任だなんて…!」
「ブラッドレイ巡査…いい加減頭を冷やせ。いいか?朱鳶くんは将来有望な治安局のエースだ。貴様に足を引っ張られて迷惑をかけてると思わないのか?朱鳶くんのためを思えばこの異動を受けるべきだと思うがな。」
「それは…っ!」
「明日までに荷物をまとめて出発しろ、特捜班には貴様から伝えておけ…以上だ。下がれ。」
「ユーリ・ブラッドレイ下がります。失礼しました。」
自分は……朱鳶先輩の助けになりたかった筈だ…。それが迷惑をかけ、ホロウ適正でいらない心配までさせてる始末書
…。特務捜査班は自分がいなくても上手く回るだろう…遠距離要員はいなくなるがあの三人ならなんとかなる。
一度外の空気を吸おうと歩みを進めようと前を向くと、こちらを心配そうに見ている朱鳶先輩を見つける。
「朱鳶…先輩」
「ユーリくん、お疲れ様でした。今回の件は、特捜班の長官である私の判断ミスです。もし今回の件で副総監から何かあったのなら私が取り計らいますから安心してください…!」
あぁ…自分はいつもこの人にこんなことを思わせてたのか…。後輩失格だ。
「副総監からは、特捜班から黒雁街跡地に新しく作られた駐在所に異動だと。」
「なっ…?!明らかに行き過ぎた行為です!大丈夫ですユーリくん…私が必ず撤回させるので待っていてk「大丈夫です!」」
「今回逃した件以外にも自分は散々迷惑をかけてきました。特に今回の件は、先輩に任された任務を果たせないなんて治安局員として一番失格です。これじゃセスの見本にもなりませんしそれに…自分のような遠距離要員がいなくとも三人でも問題はないと確信してますから!」
「これからは心機一転頑張r」
乾いた音が廊下に響く。数秒して自身の頬の痛み、目にうっすらと涙を浮かべこちらを睨む朱鳶先輩の顔が目に入る。
「私は一度もっ…!…失礼します。」
「せ、先輩!」
声を掛ける暇もなく、早足で去っていく朱鳶先輩に掛ける言葉も見つからず数分の間立ち尽くしたあと、明日の異動のためにオフィス周りの片付けを行いに向かう。
一つ一つ無造作に段ボールに詰めていく中で、目に入った写真をふと手にとって眺める。初めて四人で特務捜査班として事件を解決した時に撮った写真だ。無理やりセスと肩をくんでる自分と、後ろでそれを苦笑いで見つめる朱鳶先輩。憧れと共に働ける喜び、死に物狂いで手に入れた特捜班への切符…弟のように思える後輩もできて何もかもが楽しかった場所だ。
「お主は本当にそれで良いのか?」
「青衣…先輩…。どうしてここに…。」
「朱鳶が涙を浮かべながら去っていくのを見て、大方の予想はついておった。ユリ坊よ、お主は確かに天然で阿呆で馬鹿ではあるがそこまで馬鹿であったとは思わなんだ。」
服を掴まれ、ぐいっと青衣先輩の顔面間近まで引っ張られる。機械とは思えない顔、目からは失望の色がちらちらと見え隠れしている。
「我は言ったはずであるぞ。朱鳶を伴侶としたいのであれば直向きに自分なりに努力せよと。」
「よく考えよユリ坊よ、明日の出発までに朱鳶と話すがよい、ユリ坊の本心をな。」
「自分の…本心…」
パッと手を離すとこちらを見向きもせず帰っていく。
自分は……………自分の本心は…………!