「(暇だ…)」
遠くで聞こえる大量のサイレン音やヘリの音とは裏腹に、我々特捜班が配置されたエリアでは一人も組員が来ないまま時間が過ぎていた。
「班長!赤牙組のシルバーヘッドはまだ捕まっていないようです!それと突入前に赤牙組の拠点で戦闘音らしきものがを聞いたとの報告が。」
「セス君はそのまま他の班と連絡を維持してください。我々は変わらずここで待機を。」
「朱鳶先輩…流石に自分達も捜索に加わったほうがいいんじゃ?戦闘音が聞こえたってことは我々治安局以外に、赤牙組とドンパチやってる敵対組織だかなんだかがいるってことですし。」
「ユリ坊よ、我等がここを動けば赤牙組は手を叩いて喜びここから逃げるであろう。それに今赤牙組に手を出すということは狙いは一つ。研究所から盗んだという金庫であろう。」
「なら赤牙組とその正体不明の奴らはまだドンパチやってると?」
「と、考えるのが今のところ妥当であるな。」
車のボンネットに座りながら白湯を飲む先輩をちらっと見た後、携帯に目を向ける。
「(インターノットは情報広まるのが早いな…赤牙組のヘッドがまだ捕まってないこともでてやがる…。ん…?)」
「朱鳶先輩…こr」
『全班に告ぐ、十四番街にて共生ホロウ発生。現在捜索中の治安局員は最低員を残しつつ、民間人の避難誘導に当たれ。』
「このタイミングで…!青衣先輩と私はホロウ内での逃げ遅れた民間人の避難誘導を!」
「ならセスをホロウ外での避難誘導に割り振りましょう。赤牙組が来た場合、自分が近くの第十四機捜班と一緒に対処します。」
「了解しました。セスくんもユーリくんも無茶はしないように。各員行動開始!」
走り去る三人の背を見送り、近くの壁に背を預ける。まさかこのタイミングで共生ホロウだなんて…運が悪いとしかいいようがない。
「(このホロウも中々規模が大きいな…もう管制レベル3か…ホロウ調査協会との連携は取れているのか?)」
『十四番街中央の高層ビルにて赤牙組を発見。はシルバーヘッドを目撃したという情報もあり、注意されたし。』
『フクロウ3フクロウ4を中央ビル付近を捜索せよ、ルミナ第六機捜班はホロウ外のビル出入り口を固めよ。』
いよいよ赤牙組も包囲されてきたな…このままスムーズに終わるといいが…。
『こちらフクロウ4、高層ビル上部で発光のようなものを確認。至急向かいます!』
『長官、こちらフクロウ4、正体不明の発光地点に到着、赤牙組と思われる組員を発見。繰り返します、赤牙組を発見。指示をお願いします。』
よし!後は頭だけ取っちまえば金庫の場所も残党もどうとでもなる!
『赤牙組の【規制音】を発見したぁ!?さっさと最大口径をお見舞いしろ!正 義 実 行 だぁー!!!!!』
あ?誰だコイツ????まさかブリンガーについていってたマスコミか?!
『フクロウ4、攻撃命令を確認。』
無線で止めようとするも、無線のスイッチを押した瞬間には高層ビルから大きな爆発音と破片がホロウへと落ちていくのが見える。
やりやがったあの馬鹿フクロウ…!ブリンガーの親父もなんでさっさと押さえねぇんだよ…!
『こちら特捜班!ブリンガー長官!なぜ攻撃を止めなかったのですか!ここでシルバーヘッドが死んでしまったら我々の掃討作戦が無駄になりますよ!』
『その声はユーリ巡査だな…えぇい話は後で聞く!各捜査員は掃討作戦を続けろ!貴様は持ち場で待機だ!!』
『はぁ?!ちょっ…!』
一方的に通信を切られ、無線機を投げそうになるのをこらえベンチに座り込む。
「はぁーーーー………馬鹿フクロウも阿呆ブリンガーも糞メディアもなにやってんだ…」
思えば、正体不明の発光ってのは何だったんだ…?状況から考えると赤牙組を襲った奴らで間違いないだろうが…ミサイルで吹っ飛んだ今確認もできない…!
「(誰か来る…!)」
咄嗟に腰の銃を抜き、セーフティを解除する。暗闇で影しか見えないが、ここの避難経路から外れた道を通るやつなんて赤牙組か他のチンピラくらいだろう。
「止まれ!新エリー都治安局だ!持っているものを下に置いて両手を上げろ!」
ライトを照らし走ってきた人物を確認する。
「うっそ…なんでここにも治安局がいるわけ?!直前までいなかったのに…!」
おいおいマジか…
「なんでも屋の邪兎屋社長、ニコ・デマラだな…ここで何をしている。」
渋々とカバンを置き、両手を挙げこちらを向くと、何処かで見た事あるとでも思ったのか人の顔をジロジロと見てくる。
「んー?どっかであったような…というか私のことよくしってるじゃない。もしかして私のファンだったりして!」
「ホロウレイダーをファンになる治安局員がどこにいる。もう一度聞くぞ?何故ここにいた。」
ホロウレイダーかどうかはしらないが、伝説のプロキシの所に何度も通ってビデオ屋の奥に三人で行くのは何度も目撃している…協会の名簿を確認したがこいつの名前はなかった。となると考えられるのはホロウレイダーしかない。
「…?!な、なんのことかしら、ホロウレイダー?そんな物騒なことするわけないでしょ邪兎屋が。ここに来たのは依頼よ依頼、勿論依頼内容は言えないけどね?」
「この場を切り抜けようなんて考えるなよニコ・デマラ…お前の仲間はどこにいる?邪兎屋がお前を含めて三人なのは確認済みだ。」
「あっそう…なら意味ないか。ビリー!アンビー!今よ!」
「そんな見え透いた嘘に引っかかると思うか…!?」
一瞬、周りに視線を移した瞬間、ニコが鞄を蹴ると煙が一帯を覆う。
「しまっ…げほっ!げほっ!待てニコ・デマラ!」
「じゃあね〜治安局のお兄さん〜。縁があったらうちに依頼してもいいわよ!」
「くそっ!」
煙から抜け出す頃には、ニコの姿は見えず、不甲斐なさにその場にあった空き缶を思わず蹴り上げる。
「こちら特務捜査班ユーリ…張り込みルートにてホロ…便利屋『邪兎屋』の社長、ニコ・デマラを発見。取り調べを行おうとしたところ逃走、取り逃しました…申し訳ありません!」
ここでホロウレイダーであることを治安局に共有しようとした所で、どうやってそれを知ったのか自分が聞かれてパエトーンのことを青衣先輩から隠し通せる自信はない…今はまだ泳がせなきゃならない、あの子達が本当に逮捕するべき存在なのかを。今はとりあえず…
『なにをやっているユーリ・ブラッドレイ巡査!そこを通る奴等は全て取り調べろと言ったはずだぞ…!作戦後、貴様一人で私のもとに来い!』
「…チッ。『了解しましたブリンガー長官。作戦後直ちに向かいます。』」
ブリンガーの小言をどうやって聞き逃すか考えるしかないな…。