もし星見雅に兄上が居たら


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作:89式小銃
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# 03 剣士の初任務


 

 

 

『緊急速報です。十四分街で共生ホロウが突如発生。管制レベル3を突破。ホロウ調査協会が緊急対応に当たっており、近隣住民の避難誘導を進めています。十四分街に近づかないようお願い致します。近隣住民は指示に従って避難して下さい。繰り返します―』

 

それは突然の事だった。

 

翌日の夜明け前、十四分街にあるホワイトスター学会ビルの隣に突如として共生ホロウが発生。現在はある程度落ち着いてきてはいるが、いつエーテル活性が高まって暴走するか分からない。加えて逃げ遅れた少なくない市民が内部に取り残されてしまっている。

 

これを受けて調査協会は戦闘救難室の派遣を決定。鄙が所属する3課も民間人救出と共生ホロウ消滅のため現場へと向かっていた―

 

 

 

 

 

早朝

 

十四分街 共生ホロウ近辺

 

カルロス「あと4分で現場に到着する。各員、装備の最終点検を行うように」

 

ヒラノ・サクラ・鄙「了解」

 

移送車輌の中で揺れていた四人は、自身が使用する装備の最終点検を行っていく。

 

鄙「(来て早々初の任務か…これからはこいつの出番も増えてくるだろうな)」

 

手にしていた絹織物で作られた刀袋を開け、中から自身の得物を取り出す。

 

ヒラノ「黒い刀…それが藤木さんの武器ですか?」

 

鄙「そうです。斬れない物はない最強の刀です」

 

柄の頭から鞘の鐺まで深淵のような漆黒色の刀―名を『骸狩り』と言い、骨董品で超安値で売られていたのを購入したものである。

店長の古物商が話すには、旧文明の時代より更に大昔に作られた由緒ある高名な武術家の武士が使用していた刀らしく、その斬れ味は如何なる刀剣を凌駕するという。

 

傍から聞くと嘘っぽく感じる話だが、護身用に武器が欲しく何より値段が破格に安かったため、鄙は興味本位で購入し今に至るまで使用している。

 

サクラ「なんだか、雅様の刀みたいでカッコいいですね!少し触ってみても良いですか?」

 

鄙「すいませんサクラさん。この刀はかなり危険ですので触らせる訳には…」

 

()()()()()()()()を他人に触らせては、どんなことが起こるか分からない。

 

カルロス「サクラ隊員、任務中だ。私語は慎むように」

 

サクラ「むぅ…はーい…」

 

叱られてしまった彼女は、フグのように頬を膨らます。

 

カルロス「情報によれば、ホロウ内部には大勢の民間人が取り残されているようだ。ホロウ侵入後、救出活動中の部隊をエーテリアスから護衛するのが今回我々の目的だ。今のところ高危険度エーテリアス出現の情報は無いが、決して油断しないよう。そして安全活動推奨時間は必ず厳守するように」

 

ヒラノ「了解です」

 

鄙「了解しました」

 

カルロスが言い終わると同時に、車輌が速度を落としゆったりと停止する。どうやら目的地に到着したようだ。

 

ガチャ

 

車輌の後部ドアを開け飛び降りると、今回のターゲットである十四分街の共生ホロウが視界いっぱいに広がる。

 

カラフルなノイズを帯びた、三角の模様揺らめく黒塗りの外観はいつ見ても不気味に感じられる。

 

鄙「(もうこんなに大きくなっているのか…)」

 

発生から僅か数時間で、同ホロウは中型の分類になる大きさまで成長してしまっている。エーテリアスの数も相当なものだろう。一刻も早く事態を収束させなければ…

 

カルロス「これよりホロウ内部へと侵入する。行き帰りの案内はこのボンプが行ってくれるため、絶対に離れないよう」

 

「ンナ!!(よろしくお願いします!!)」

 

ピョンピョンと飛び跳ねる愛らしい調査員ボンプ。

 

調査協会の者がホロウに入る時、必ずキャロットデータを持つボンプを同行させるよう義務づけられている。

 

ホロウ内部の空間は頻繁に変化しており、たとえ何度も出入りする調査員でも迷走することは少なくない。そのため最適な進行及び脱出ルートを算出できるよう、一定時間内における変化パターンを書き込んだキャロットデータは必要不可欠である。

 

カルロス「全員、準備は良いな?」

 

サクラ「オッケーですよ〜」

 

ヒラノ「大丈夫です」

 

鄙「自分も問題ありません」

 

「ンナナ!!(僕も大丈夫です!!)」

 

カルロス「よし…現在時刻、7時46分30秒。これより任務を開始する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ホロウ内のとある場所に多くのエーテリアスが集中していた。

 

黒と緑色の、結晶でできた人型のボディ。頭の部分にブラックホールのようなコアを浮かべるそれらの視線の先には、逃げ遅れた市民をエーテリアスから必死に守る治安官達の姿。

 

「エーテリアス共め!!くたばりやがれッ!!」

 

ダダダダッ

 

「止めろ!!弾が残り少ない!!闇雲に撃つんじゃない!!」

 

先日入ったばかりの新人治安官から何年も勤務している大ベテラン治安官と、それぞれ様々な経歴を持つ彼らは市民を守るべく奮闘を続けているが、何体倒しても集団でやって来るエーテリアスに苦戦しており銃の弾薬もほぼ底を尽きかけていた。

 

「弾が無い!!誰か弾は無いか!?」

 

「こっちも弾切れだ!!」

 

「え、エーテリアスが来るぞ!!援護してくれッ!!」

 

Graaaaaaaaaaa!!!!

 

だが、そんなことエーテリアスには関係ない。ゾンビのように生物や機械に襲い掛かる奴らは獲物が弱体化しているのを見逃すはずもなく、治安官達に襲い掛かかる。

 

ここまでかと全員が最期を悟ったその時、目の前に男性の狐シリオンが突然現れた。

 

上下黒のスーツ姿に右腕に縫われた戦闘救難室3課の紋章、そして手にしている刀――その正体こそ、ドローンにて監視していたサクラからの連絡を受け、時速100km/hの猛スピードで駆け付けてきた鄙であった。

 

鄙「先手必勝ッ!!

 

鍔を親指で弾き、鞘から刀を抜くと刃が現れる。そして刃に赤黒い炎が徐々に纏わりつく。

 

即座に脇構えの姿勢を取ると両腕に力を入れて薙ぎ、強烈な斬撃を放つ。まるで雷のような斬撃はエーテリアスをコアごと細切れにし、20体は居たであろうエーテリアスを一瞬で一掃した。

 

鄙「(…御安霊の安らかならんことをお祈りします)」

 

納刀し、消滅しかかっているエーテリアスへと手を合わせる。

自分が倒した奴らの中には、侵食症状が進んで最終的に奴らへと異化してしまった人が居ただろう。エーテリアスとなれば自我や知性は失われ二度と元の人間には戻れず、そして一滴一片の血肉も残らず遺骸も消滅してしまう。

 

こうして楽にしてやり手を合わせるのが、犠牲となった人達へのせめてもの弔いである。

 

鄙「…戦闘救難室3課の藤木です。皆さん怪我はありませんか?」

 

一呼吸置くと、怪我の安否を治安官へ尋ねる。

 

「え、えぇ…大丈夫です。助けて頂き感謝します」

 

突然のことだったのだろう困惑している様子だが、どうやら無事なようだ。彼らの背後に居る民間人にも目立った怪我や侵食症状も無い。

 

鄙「ここからの救助作業は戦闘救難室が引き継ぎます。治安官の皆さんは、民間人と共にホロウから脱出して下さい。最適な脱出ルートが入ったキャロットデータを渡しておきます」

 

「あ、ありがとう御座います。この先はどうやらエーテル数値が高いようでして、高危険度のエーテリアスが発生している可能性があります。くれぐれも気をつけて下さい」

 

鄙「はい。そちらこそお気をつけて」

 

忠告を受け取った鄙は、脱出する治安官達の姿が見えなくなるまで見送る。

 

「…さてと、任務を再開するとしよう」

 

20体程のエーテリアスを討伐したにも関わらず、ホロウは一向に縮小する気配を見せない。どうやら今回は一筋縄ではいかないようだ。

 

 

 

 

 

 

カツンッ カッ カッ…

 

 

鄙「(…!)」

 

背後にある列車の残骸から物が蹴られ転がる音…即座に戦闘態勢に移る。

 

鄙「戦闘救難室です!!救助に来ました!!

 

大声で呼び掛けるが、反応はなし…

 

これでエーテリアスの可能性は無くなった。逃げ遅れた民間人か、はたまた違法にエーテル資源を取引するため侵入してきたホロウレイダーかの2つに絞られた。

 

後者の可能性もあるため、鞘から少し刀を抜くと慎重に音の発生源へと接近する。自身の足音だけが空間に響き、列車にあと数十cmのところまで近づいたその時――背後から何者かの強い殺気を感じ取る。

 

鄙「!?

 

咄嗟に刀を抜いて振り返り、刀を使って守りの姿勢をとる。

 

ガキィィィンッ!!

 

激しい火花が散り、耳を塞ぎたくなる金属音が周囲に響き渡る。

腐っても星見家の人間である自分の背後をいつの間に取っていたとは…どうやら相手はかなりの強敵のようだ。

 

「…!?藤木先生?どうしてここに?」

 

鄙「…え?」

 

聞き慣れた声に思わず聞き返してしまう。自分の名前の後に先生と付ける人物は1人しか思いつかない。

 

鄙「あ、アンビー?どうして君がここに?

 

 

 

to be Continued…

 

鄙と雅を再開させるなら、どの章?

  • 2章 白祇重工編
  • 2章 間章 治安局編
  • 3章 ヴィクトリア家政編
  • 4章 カリュドーンの子編
  • 5章 対ホロウ6課編
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