突然、調査室から戦闘救難室へと異動することになった星見 鄙。
始めは上手くやっていけるのだろうかと不安だったが、筋肉一筋なカルロス課長に、暴力団みたいな容姿のヒラノ、そして雅の大大大ファンであるサクラとかなり個性的な面々であったものの親しく接してくれ、早くも初日から馴染むことができた。
そして、記念すべき初日の勤務時間が終わるとカルロスは3人を集め鄙の歓迎会を提案。ヒラノとサクラの2人は即快諾し、本人の了承前に鄙の歓迎会が急遽決定した。
歓迎会と言うのだからお高い高級居酒屋か高級レストランで行うものかと思っていたが、行き先はなんと自分が住んでいるヤヌス区六分街にあるごく普通のラーメン屋。しかも『滝湯谷・錦鯉』と言う自分もよく訪れる店であった。
カルロス「ゴホンッ…えーこれより藤木隊員の歓迎会を始めたいと思う。改めてようこそ戦闘救難室3課へ。たった3人の寂れた部署で業務もかなり厳しいが、心強い新戦力として期待している。では…乾杯!!」
ヒラノ・サクラ「乾杯!!」
鄙「乾杯!!」
カランッ
四人は一気にジョッキに並々と入ったビールを飲み干す。
カルロス「プハァ~!!クゥ〜!!やっぱり仕事終わりのビールは最高だ!!そして一杯飲んだ後の大将のラーメンがこれまた美味い!!1ヶ月の疲れが一瞬で吹き飛ぶ!!」
大袈裟だな…と内心思うが、まぁビールを飲んだ後のラーメンが美味しいのは同感できる。
サクラ「藤木さん!!藤木さん!!明後日、ルミナスクエアのモールで雅様たち対ホロウ6課のグッズが期間限定で販売されるらしいので、よければ一緒にどうですかっ!?」
鄙「すいませんサクラさん、その日はどうしても外せない用事がありまして…誘って頂きありがとう御座います」
サクラからの誘いを丁重に断る鄙。
ヒラノ「…最初会った時から思っていたんですけど、藤木さんってどことなく対ホロウ6課の星見 雅さんと雰囲気が似ていますよね」
鄙「ングッ…!ゴホッゴホッ…!!そ、そうですか?」
突然の雅と似ている発言に、思わず激しくむせてしまう。
サクラ「あ〜確かに!シリオンの耳に髪と目の色とかそうだけど、雅様の生真面目なところが少し似ているかも?」
鄙「いえいえ…偶然なだけで気のせいですよ…」
確かに幼い頃は、母親と父親から雅によく似ていると言われていた。今はあまり似ていないとは思うが…サクラさんにそこまで言われてしまうと、逆に気になってしょうがない。
鄙「あ…そういえばカルロス課長。戦闘救難室は零号ホロウの探査任務に参加することがあると風の便りで聞いたことがあるのですが、それは本当でしょうか?」
思い出したようにカルロスに尋ねる鄙。
"HIAの戦闘救難室は零号ホロウの調査任務に参加することがある"
この情報はホロウレイダーやプロキシといった違法行為に手を伸ばす者達が群がるインターノットで仕入れ、もしかするとデマの可能性があったので本当なのか確証を得たかった。
カルロス「…あぁ。ごく稀なんだが、探査任務に派遣されることがある。俺達も一度行ったことがあるんだが…正直もう二度と行きたくないと思っている」
そう話す彼の瞳からは、恐怖、後悔、懺悔など様々な思いが伝わってくる。
カルロス「あそこはこの世とあの世の境目だ。内部はもはや重力の概念までもが崩壊し、エーテリアスの危険度も尋常じゃないほど高い。あそこでは数え切れない人数の人間が命を落とした。まさに魔境だ」
鄙「魔境…ですか」
言葉の節々に重みが感じられ、零号ホロウという場所の危険度の高さがうかがい知れる。
サクラ「ちょっとカルロス課長!空気が重いですよ!!せっかくの藤木さんの歓迎会なんですから、楽しくいきましょうよ!!」
カルロス「…あぁ…すまない。では気を取り直してもう一杯いこうとするか」
ヒラノ「ングッ…プハァ〜!!課長ぉ〜!自分はまだいけますよぉ〜!」
鄙「(え?もう4杯目だぞ…?大丈夫なのか?)」
既に泥酔しているヒラノが心配になってくるが、この様子だと本人は寝るまで飲み続けるのが容易に想像でき、結局は止めるのを諦めることにした。
◇ ◇ ◇ 数十分後… ◇ ◇ ◇
カルロス「Zzz…」
ヒラノ「Zzz…Zzz…Zzz…」
サクラ「Zzz…ウヘヘ…ミヤビサマ〜コッチムイテクダシャ〜イ…」
そして予想通り、3人は開催から1時間もしないうちに顔を赤くして机に突っ伏し、寝心地良さそうな寝息を立てていた。
対する鄙は平気な表情でまだ酒を飲んでいる。
鄙「チョップ大将、追加のビールお願いできますか?」
チョップ大将「おう!相変わらず智彦は酒にめっぽう強いな!もしかすると新エリー都で一番酒に強いんじゃないか?」
鄙「はは…そうかもしれませんね」
酒が飲めない父親とは真反対で、自身は常人より酒類に強い体質らしいのか酔ったことが一度もない。度数の高い酒でも水のように飲んでしまい、飲み会の都度に周りの人をドン引きさせるのが恒例であった。
鄙「(さてと…結局この3人をどう帰すか…車は修理中で、バスも運行が終わっているからな…)」
腕を組んで思索するが、中々方法が浮かばず悩みあぐねる。
「あっ!智彦さ〜ん!!」
すると、自分を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえてきた。
横にふり向くとよく知る男女2人の姿があり、滝湯谷・錦鯉の隣にあるビデオ屋「Random Play」の店長『アキラ』と彼の妹であり従業員でもある『リン』であった。
リン「智彦さん久しぶり〜!最近お店に全く来なかったから心配しちゃったよ〜」
鄙「お、久しぶりだなリンにアキラ。最近はかなり忙しかったから店に寄る時間が無かったからな。でも元気そうでなによりだ。2人もラーメンを食べに?」
アキラ「えぇ。夢中になって映画を見ていると、こんな時間になってしまっていて」
鄙「確かに映画を見ていたらつい時間を忘れてしまうからな。まぁ時間を忘れるほど良い出来の作品だということだ」
同じ映画好きとして、アキラに共感できることは多い。
アキラ「ところで…藤木さんの隣で寝息を立てているその方達は?」
鄙「ん?あぁ、実は今日で自分は元の部署から戦闘救難室へ配属になったんだ。この3人はそこの課長と同僚だ」
リン「えーっ!?智彦さん、戦闘救難室の配属になったの!?」
鄙「えっと…そんなに驚くことなのか…?」
大きな声を出して驚くリンを不思議に思ってしまう。
何故こうもオーバーリアクションなのだろうか?家族のように親しく接してくれるリンとアキラの二人だが、何か大きな隠し事をしている気がしてならない。
グゥゥゥゥ
リン「あ…あははは…///お恥ずかしいかぎりで…///」
大きな腹虫が鳴ってしまった恥ずかしさに、顔を赤らめるリン。いったい何作の映画を見たのか相当お腹が減っているようだ。
どうやら、星見家の財力パワーを使う時が来たらしい。
鄙「チョップ大将、自分の奢りでリンとアキラに黒鉢豚骨ラーメンをお願いします」
チョップ大将「あいよ!黒鉢豚骨ラーメンだな!!」
注目を受けたチョップ大将は、早速ラーメン作りに取り掛かる。
アキラ「あの…藤木さん?」
鄙「気にしないでくれ。二人はいつも良い映画を紹介してくれるからな。今日ばかりはお礼をさせてほしい」
リン「だってさお兄ちゃん!ありがたく智彦さんのご好意を受け取ろうよ!」
キラキラとした目つきで兄を見つめるリン。
アキラ「仕方ないな…ではご馳走になります藤木さん」
鄙「あぁ。他に食べたい物があったら遠慮なく言ってくれ」
リン「おぉ〜!さっすが智彦さん太っ腹〜!じゃあー」
アキラ「リン、あまり多く注文したら藤木さんに迷惑だから控えるようにね」
リン「もう〜分かってるって!」
仲睦まじい兄妹のやり取りを見ていると、雅と共に母親が買ってきてくれたメロンをお腹一杯に食べた昔の出来事が思い出される。
鄙「(メロン…食べたくなってきたな)」
物事が全て終わり雅と再開したら、昔のようにまた一緒にメロンを食べようかなと考える鄙であった。
to be Continued